第8話 勝利
2000人突破しました!
ありがとうございます!
月夜の城壁の上に弓兵が、矢の先端を油の入った壷に着けた。
弓兵は、その矢を自分の目の前に持っていく。
「火の精霊よ。火元を我が指に。」
弓兵の指先に、小さな火が灯った。
そして、油を着けた矢に火を近づけた。
火矢の完成だ。
城壁に火矢を構えた弓兵は、シエラの第4隊だけではない。
エターロに在中している自警団の弓兵もいる。
バチスが、レイベス侯爵を説得し借りたのだ。
エターロの弓兵達は、皆恐怖で脚が震えている。
「そんなに、ビビるなよ。」
第4隊の弓兵が、背中を強く叩き励ました。
「あ・・あんたら、恐くないのか?」
「そりゃ、こぇーさぁ。」
「じゃあ、どうしてそんなに余裕があるんだ?」
エターロの弓兵が、不思議そうに質問した。
「ん〜、そりゃ〜なぁ。」
男性弓兵が、頭を掻いた。
すると、代わりに女性弓兵が答えた。
「簡単だよ。何ったって、アタシ達には"勝利に導く戦乙女"のシエラ隊長がついてるからさ!」
女性弓兵が、満面の笑顔で答えた。
「そうそう、そういう事だ。」
その後、話しを終えた弓兵達は真剣な表情で目の前の地竜を睨み矢を構えた。
彼らは、ひたすら作戦の合図を待つ。
一人は、生唾を呑み込んだ。
冷や汗を拭く者もいる。
弓兵達の緊張は、最高潮に達していた。
その時、白旗が降られた。
弓兵達は、一斉に矢を掴んでいた右手を放した。
無数の火矢が、放物線を描き地竜に跳んでいく。
火矢は、地竜に当たる。
ほとんどは、鱗に当たり弾かれたがそれでも怯ませる事はできた。
「行くぞ!私に続け!」
怯んだ地竜を見て、バチス率いる騎馬がエターロの城門から一気に半円を画くように右側から突撃していく。
綱を離し、両手で大剣を構えたバチスは地竜の首筋を狙い剣を降った。
首は、切れなかったがそれでも地竜は殴られた衝撃ぐらいには効いている。
バチスに続いて騎馬達は、槍をグランドラゴンに突き刺していく。
が、ほとんどは鱗部分に当たり弾かれる。
「傷口だ!背中の傷口を狙え!」
バチスの一喝を受け、地竜の背中に向け槍を投げた。
槍は、見事に鱗が剥がれた傷口を襲った。
地竜は、苦しみ暴れだした。
しかし、バチス達は距離を開けていた。
これが、満身創痍のグランドラゴンで無ければ追い付かれ皆殺しにされていただろう。
城壁の弓兵達は、地竜と騎馬達の距離を確認するとすかさず第2火矢を放った。
(地竜が、怯んだ。)
「よし!今だ!」
バチスが声をあげ、合図した。
地竜の首と左手に目掛け、騎馬が鎖を投げた。
「引け!全力で、引け!」
首と左手に絡んだ鎖を、引き始める騎士達。
しかし、グランドラゴンは抵抗する。
傷を負っていても竜。
その力は、流石に強かった。
吹き飛ばされ無いようにするのが、やっとだった。
「突撃!奴をひっくり返せ!」
そこに、右側から六人が大きな丸太を持って疾走して来た。
元々、この丸太は、城門の扉を壊す為の物。
それを、グランドラゴンの右腹に打ち付けた。
鎖で左側に引っ張られている事もあり、グランドラゴンは仰向けに倒れた。
「隊長!チャンスです!!」
シエラは、バチスの声を聴くなり地竜 グランドラゴンに走り出した。
(速く、もっと、速く。)
自分が、速くグランドラゴンにとどめを刺せばそれだけ部下の危険が無くなる。
それだけを、考え走っていた。
「危ない!!!」
「!?」
グランドラゴンは、尾の一撃をシエラに向けて振った。
仰向けに倒れ、瀕死だろうが竜の尾の攻撃に人間が耐えられる筈がない。
吹き飛ばされた時には、全身の骨が砕け即死だろう。
バチスは、鎖を持ちながら顔面が蒼白になった。
シエラの後方から地竜 グランドラゴンの尾が彼女に当たる寸前。
シエラは、身を低くしスライディングし尾を避けた。
だが、前方に出た尾は直ぐさま第二撃を放った。
「風の精霊、吹き荒れ我を飛ばせ!」
滑りながらシエラは、風の魔法を唱えた。
風がシエラを包んだと同時に、下から暴風が起こった。
暴風に乗り、シエラは大きく跳躍した。
お陰で、二撃目の尾を回避できた。
回避劇を見ていたバチスは、安心して力が抜けた。
「うわぁぁ!?バ・・バチス副隊長!ちゃんと引っ張って下さいよー!隊長が、あれぐらいで死ぬ訳無いでしょ!」
部下の騎士が、おもわず叫ぶ。
その声で、バチスは我に返った。
「・・・、す・・すまん。」
取り乱した事を反省し、改めて鎖を掴んだ。
シエラはというと、魔法で跳躍しグランドラゴンの腹に着地していた。
「どこ?どこだ?」
シエラは、辺りを見回し必死に致命傷部位を探した。
「あった!」
右腕から腹部まで、吹き飛ばされ黒焦げの肉が露出している。
特に、脇の部位が酷かった。
その脇の奥に、脈を打っている物体。
−−−心臓だ。
シエラは、剣を抜き近寄ろうとした。
が、地竜が暴れているせいで近寄れない。
しがみつくのがやっとだ。
「くっ!うわぁ!」
シエラは、力を振り絞り耐える。
しかし、なおも地竜 グランドラゴンはシエラを振り払おうともがく。
「くそ!一瞬でいい!誰か、動きを止めて!」
シエラは、懇願し地竜の心臓を睨み付ける。
その時、突風が吹いた。
その風が原因で近くの森から、数枚の緑の葉がシエラの後ろに舞っている。
!?
地竜 グランドラゴンの、動きが止まった。
奴等だ!奴等が来た!自分の右腕、右目。
そして、誇りさえ奪っていた緑の人間達が殺しに来た!
グランドラゴンは、シエラの後ろに異世界にいた緑の戦士達(自衛隊)の幻影が見え恐怖を思い出した。
獲物だと、思って追いかけた人間がいる。
「?・・・今だ!?」
その隙を、シエラが逃す筈がない。
グランドラゴンが我に返る頃、シエラの剣が心臓に刺さった後だった。
地竜 グランドラゴンが最後に見た光景は、シエラとその後ろにいる獲物と思って追いかけていた瀬川 龍巳の姿だった。
どうしても、主人公をちらっと出したかった。
やっぱり、ちょっと強引だったかな?