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第73話 挑発

エルフの子供達や、白狼騎士団の治療士のお陰で負傷者の手当てが落ち着きだした頃に異変に気付いた。


「何でしょう?この騒ぎは?」


ロニキスが、頭を傾げその方向を見た。


「解らないな、敵が来たとは違うみたいだ」

「カシュー先生。ちょっと、オイラ聞いてくるよ」

「レックス君、頼んだよ」


レックスが、小走りで走って行った。


「皆、少し休憩しよう」

「カシュー先生、これ!」

「ん?ああ、ナタ君ありがとう」


ナタから、水を貰い一口飲んだ。


エルフの子供達は、砦からここまでずっと手伝って貰っていた。

村が、焼き払われ親兄弟が殺され精神的にもダメージが有るのにも関わらず。


「ロニキス君、君達はこれが終わればもう大丈夫だから暫く眠りなさい。まともに、睡眠を取ってないだいろう?」

「ありがとうございます。でも、先生も同じでしょう?」

「私は、大丈夫だよ」

「でも・・・」

「おーーい!!大変だ!」


ロニキスの言葉を邪魔しながら、レックスが戻ってきた。


「大変だ!」

「落ち着いて、何が大変なんだ?」


ロニキスは、レックスをなだめた。


「今、変な連中がオルテの姫様を人質にして檻の中の緑の二人を解放してお偉いさん会わせろってに要求してるんだって!」

「緑の二人?」


そう言えば、竜を倒した緑の服を着た二人を拘束していると聞いていた。

実は、気になっていたのだ。


どうやってら竜を殺せたのか、もしかすると自分がしている武器を使ったのではないだろか


心臓が期待で、胸を打つ。


「シエラ姉ちゃんが、対応してる!」

「シエラさんが!?」


ロニキスは、驚いて言った。


「今、何処に?」

「この先だよ。たぶん、もう先頭に行ってる」


レックスの話しを聞き、ロニキスは走り出した。


「ロニキス君!」


ロニキスの後を、追った。


そして、ロニキスに追い付いた時にハリルが剣先を瀬川に向けていた。


考えるより先に、動いていた。

自分でも、驚く位の声だったと思う。


「彼等は、自衛官だ!」


そして、瀬川の隣に行きハリルと向かい合った。


『陸士長、安心してくれ。私が、彼を説得しよう』


カシューこと河州 英明は、瀬川の肩を掴み込み上げる感情を抑えて言った。


何年振りの母国語だろう。


『え?日本語?』


瀬川は、戸惑いシエラは驚きの表情をしている。


「ハリル騎士長、私は、彼等と同郷だ。彼等の身分は私が証明する。だから、このまま解放してくれないか?」

「お言葉ですが、カシュー殿。貴方の同郷だと言え、それだけで理由にはならない。そもそも、ジエイカンとは?」


河州は、少し考え口を開いた。


「故郷を守る兵士だ。それ以上は、言えない」


ハリルは、納得がいかない表情だった。


「ハリル騎士長、どうしても知りたいならレオリオ オルテ国王に聞いて貰いたい!」


河州は、王の名を出した。


ハリルは、ある噂を思い出した。

かつて、三国から攻められ存亡の危機に追いやられた戦争が有った。

だが、レオリオ オルテ国王によって国は守られた。

その時、王と共に゛三人゛の人物が中心に居たと言われている。

難局を乗り越えた王は、その三人の存在を何故か隠したとされている。


目の前に要る田舎町から来た治療士、彼ははその三人の一人だと気付いた。


「・・・解りました」


そう言うと、瀬川に向けていた剣先をゆっくりと下ろした。

瀬川達は、安堵の溜め息をついた。


「ですが、条件が有ります」

「条件?」

「ええ、マルス皇子の亡命の条件である敵の騎士団の説得にこの者も共に行く事です」


ハリルは、瀬川を指差した。


『ええ!?』

「本来なら、皇子御一人と見張りの者ですが彼を護衛として着いて行くのが条件です」

『ちょっと!』

「その間、残りの二人は預からして貰おう」


そう言うと、瀬川の眼を見た。

わざと、ゆっくりとした口調だった。


「ハリル騎士長!」

「ハリル!」

『待ってくれ!』


河州とシエラの抗議を、瀬川は止めた。

そして、静かにハリルを見た。


(・・・コイツ、気に入らねぇな)


瀬川は、ハリルに対して苛立ちを感じた。


「ワカッリマシタ。わたし、イキマス」


皮肉を言いたいが会話がやっとのレベルなので、精一杯の睨みで答える。

その瞬間、浅野と湯川にまた槍が向けられた。


「タツミ、むちゃくちゃだよ!落ち着いて、よく考えて!」


シエラは、瀬川の右手を掴んだ。


「言っておくが、逃げたならば捕虜の二人は保証しかねるが?」


それを見ていたハリルは、更に瀬川を挑発した。


『上等じゃあ!ボケェ!』

『『ちょっ!』』


抗議する浅野と湯川を無視し、瀬川はハリルを睨む。


「それじゃ、ボクが見張り役としてタツミ達に着いて行く!」

「駄目だ。君は、残って警護の指揮をとってくれ」


ハリルは、健全なすぐに動けるシエラが居なくなるとまずいと付け加えた。


「ここには、負傷者がたくさん居るんだ。解ってくれ」

「で、でも!」

「ならば、わたくしが行きますわよ?」


その時、赤い髪を靡かせたレイナが颯爽と歩いて来た。


「レイナ!?荷馬車にいたんじゃ?」

「やっと、動ける様になったのだから肩慣らしには丁度良くてよ」


レイナは、そう言うと瀬川を見て笑った。


(・・・やっべ・・・勢いで変な流れになっちまった)


瀬川が気付いた時には、もう手遅れだった。










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