第70話 動き出す者
お久しぶりです‼
瀬川は、小学校の音楽の授業で習ったドナドナと言う歌を何となく思い出していた。
あの歌は確か、羊が売りに出される為に荷馬車に乗せられ生まれ育った牧場を見つめながら去って行く歌詞だったような。
当時の瀬川には、まったく興味が無かった。
だが、今は何故かそのサビの部分が頭をリピートしている。
ドナドナ、ドナ~ドナドナ、ドナドナ
(ああ、あれってこんな気分なんだな~)
荷馬車、もとい檻を乗せた馬車でこれまた牛の様な生物に引っ張られているLAVを見つめながらその檻の中に居た。
横には、湯川が檻を掴み抗議している。
「オーイ!ちょつと、これは無いでしょ!聞いてんの!?」
日本語で話している時点で、意味がない。
騎士ポイ連中が、不思議そうに観察しているだけだ。
「・・・まるで、動物園の見せ物だな」
「瀬川士長!?気付いたんすっか?」
湯川は、鉄格子から手を離し降り返った。
「お陰様で、状況が解らないんだけど?」
「いや、自分もいまいちなんすっ!」
湯川は、経緯について話し始めた。
瀬川が、銀髪の美人 シエラ に首を締め付けられ泡を拭いた後に突然に鎧を着た集団に囲まれたらしい。
リーダーらしい、イケメンが何か言って睨んできた。
そして、槍や剣を突き付けられ強引に檻の中に入れられた・・・・らしい。
美人が、抗議していたが湯川は聞き取る前に連行され今に至る。
「どうするすっか?」
「んー、考えても仕方がないなー。何か有ったら、あーちゃんの事を話せば良いと思うけど・・・」
「けど?」
「誘拐犯と、間違われるパッターンだろうなぁ」
行方不明の一国の姫を、連れているのだ上手く話さなければ誤解されそうだった。
「んー、何とかシエラが取り持ってくれればお互い助かるんだろうな」
瀬川は、小さな声で呟いた。
「それは、そうと湯川。小銃は取られたのか?」
「はい、取られたスッ!けど、これ」
湯川は、ニヤリと笑い瀬川に細く小さい棒を見せた。
「でかしたぞ!良く、゛撃針゛を抜いたな!」
瀬川もそれを見て、笑った。
後は、上手くアリエルさえ返せば恩人になり有利な条件で保護を求められる。
だが、瀬川の頭の中は全くのノープランだった。
すべて、シエラに任せるしか無かった。
シエラは、激しく怒っていた。
手綱を握り締め、先頭に追い付く。
「ハリル!」
「やぁ、シエラ」
ハリルは、何食わない笑みで答える。
「すぐに、二人を解放して!」
ハリルを睨んで言った。
「・・・駄目だ」
「どうして!」
「まず、彼等は敵なのか味方なのか」
「味方に決まってるよ!だって、風竜を倒したのはタツ・・・あの二人なんだよ!」
シエラは、ハリルの前に出て止まった。
「例え、彼等が何らかの方法でラーウィン・ドラゴンを倒したとしても正体不明の輩を歓迎できない。いつ、その方法で私達に被害が出るか」
「出る訳が無い!」
「それに、あの二人の内の一人を締め落としたのは君だろ?」
シエラは、黙り込んだ。
「ムキになりすぎだよ。それに、彼等は此方の言葉があまり理解してないらしい。部下の報告では、意味不明な言葉を叫んでいると」
さらに、ハリルは続ける。
「檻に入れたのは、用心の為だよ。エターロに着いたら詳しく調査し身元が解り次第きちんとした待遇をするつもりだ。それまで、待っていてくれ」
「ハリル!」
話しは終わりと言う様に、ハリルはシエラの横を通り過ぎた。
ハリルは、自分がイラついているのが解った。
理由は、解らない。
そこに、部下が追い付いて来た。
「ハリル様」
「解っている。それで、結果は?」
「はい、結論から言いますとただの鉄の固まりでした」
報告し、ハリルにそれを渡した。
「フム。これが、武器?魔法の杖・・・では無さそうだ」
よく見ると、細かい部品を組んでいるのは解る。
「魔力を込めても全く反応もしませんでした。ただ、この短剣が先に付けれることでしょうか?」
そう言うと、部下は没収した短剣を差し出した。
その通りに、装着した。
「槍?にしては、小さすぎる・・・。暗殺用にしても、目立つ」
構えてみても、形状から違和感を感じた。
「鉄の荷馬車にしても、我々では何とも・・・」
ますます、怪しく見えて来たが今は負傷者も居る。
取り調べは、貿易都市゛エターロ゛に着いた時にするしかない。
「負傷者達の様子は?」
「現在、治療士達が全力を持って処置しております。お陰で、死者は出ておりません。しかし、治療士がほぼ不眠不休ですのでそれも限界かと」
「エルフの子供達は、どうしている?」
「アースから来た治療士の手伝いをしております」
「・・・確か、カシュウと言っていたか。良し、その子らと半数を休ませろ」
ハリルは、指示を出した。
援軍は、たぶんエターロで落ち合うだろう。
風竜教団の動向も、気になるが急ぐしか無かった。
浅野は、食い入るように眼鏡を覗き込んでいた。
見事に、化物を倒せたと思っていたらそこに武装集団が瀬川達を取り囲んでしまったのだ。
(一難去ってまた一難か。しかも、瀬川士長は気絶してるのか?)
最悪、後方に停めてある大型車両で奇襲して二人を救出するか悩んだ。
その時、近くから明らかなエンジン音が聞こえて来た。
「な、なんだ!?いったい、誰が?」
浅野は、起き上がり道端に出た。
『おっ?やっと、見付けたな。やぁ、アサノ探したよ』
「マルスさん!?運転してきたんですか!!」
運転席から、顔を出したのはマルスだった。
笑顔のマルスに、何か力が抜ける様だった。
『アサノさん、タツミお兄ちゃんは?』
「え、え~と、『ツカマッタ』
『ほう、捕まったか。それで?どうするつもりだ?』
訳され、浅野は苦い表情になった。
『フーム、そうか。そうか』
マルスは、ニヤリと笑った。
その顔は、まるでモデルの様だった。
「・・・・」
浅野の古傷が、疼く。
『ここは、任せてくれないか?』
マルスは、大型車から降りると運転を変わるように促した。
(竜を一撃で、倒したのは嬉しい誤算だった。だが、セガワとユガワが捕まったのは予想通り。・・・これで、舞台は整ったな)
浅野に、エターロに行く様に言った。
『さぁ、オルテの姫。案内をお願いする。ついに、国に帰れるよ』
浅野は、アクセルを踏み大丈夫なのかと不安に思いつつ車両を走らせた。
長期的に、更新していきます




