第7話 作戦
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エターロは貿易都市だが王国の端にある為、侵略されてしまえば敵がなだれ込んでしまう重要な都市もである。
その為に、周囲を強固な城壁で護られている。
その城壁に、シエラがいた。
シエラは、目の前の光景が信じられ無かった。
むせ変えるような、血の臭い。
月夜に照らせられ、現れた地竜の姿。
全ての竜は、魔法を無力化しどんな攻撃も通さない鱗を持っている。
その鱗が、剥がれ落ち皮膚が剥き出し・・・いや、焼け焦げてそこから大量の血を出している。
しかも、様々な生命を潰しただの肉塊に変えてきた右腕さえも無かった。
魔法騎士のシエラは、地竜 グランドラゴンをここまで追い詰めるような魔法に心当たりが無い。
上級の魔法使いであるレナでさえ、知らないだろう。
「・・・これは、夢・・・・なの・・・か?」
シエラの横で、同じ様に驚愕し呆けているバチスが呟いた。
「バチス・・・、夢じゃなそうだよ。」
バチスの呟きに、シエラは答えた。
地竜に上級位の竜に、あれほどの傷を負わすなんて神話か子どもに話す物語だけだ。
「どうしますか?」
「奴を、倒す。」
即答だった。
「隊長。いくら瀕死でも、相手は竜ですよ。」
バチスは、シエラを説得する。
そう、死に立たされた者ほど何をしてくるか解らない。
しかも、相手はグランドラゴンだ。
慎重すぎるに越した事は無い。
「自然に死ぬのを待ちましょう。」
「あいつが、すぐに死ぬなら僕も賛成だ。でも、それでいいの?」
シエラは、真っ直ぐにバチスを見た。
バチスは、すぐに彼女の言いたい事が解った。
シエラ達は、過去に数回上級位の竜に襲われた村や町に救援に行った事がある。
そこにあったものは、破壊された建物に死骸の山だった。
壊れた建物の破片等が原因で、死んだ者ならまだマシだ。
竜に喰われ、腕しか残っていない者もあった。
その腕を抱え、泣く子ども。
その光景を、見ていることしかできなかった第4隊。
自分達が、何もできない無力感を感じた。
空の彼方から、竜の雄叫びが聴こえる。
「僕は、あの時の声が忘れられない。・・・・・・・今、この世界に生きる人々の敵が倒せるんだ。奴が、絶対的な存在じゃない事を証明できる。人の・・・僕達の手で。」
シエラの言葉、実はバチスも心の中で感じていた。
(やはり、隊長には・・・・彼女には適わないな・・・。)
バチスは、溜め息を着き微笑んだ。
「どうやら、グランドラゴンを倒したいのは隊長だけでは無い様ですな。」
城壁下を見ると、避難誘導を終えた騎士達が手に武器を持って命令を待っていた。
全員の目は、恐怖どころか戦意に満ちていた。
「隊長、倒しましょう。グランドラゴンを!」
バチスは、シエラの命令を待った。
シエラは、目を閉じて大きく深呼吸した。
そして、バチス達の方を向いた。
「今まで、竜とは恐怖の対象だった。何故なら、強いからだ。でも、竜が最強なんて誰が決めた?天災なんて誰が決めた?
竜だから、仕方ない?違う!今、目の前の地竜は深い傷を負っている。原因は、解らないけど誰が追い込んだんだ。奴等は、絶対的な存在じゃない!今の好機を、逃したくない。この時を持って僕達が、始めて竜を倒す偉業を掴むんだ!」
シエラは、剣を抜くと空に掲げた。
騎士達は、その行為に反応したのか同じように剣を空に掲げ雄叫びを挙げた。
「全員、僕に着いて来て!!」
シエラが、高らかに言った。
「さぁ、お前達!ボッさとするな!隊長の命令が、下ったんだ!速く、討伐の準備をするんだ!」
バチスが、激を飛ばして騎士達に細かい命令を下していく。
「隊長、すぐにでも出撃ができる様にします。」
「バチス、本当にありがとう。貴方がいてくれて助かるよ。」
「な、何を言ってるんですか!?たいしたことなんて、無いですよ!私なんて。」
シエラの礼に、顔を紅くしてバチスは照れながら答えた。
バチスは、準備の為に城壁を降りていく。
「・・・・。いったい、誰がやったんだろう?」
シエラは、また傷だらけの地竜を見た。
(武器かな?でも、そんな強力な武器なんて知らないなぁ。そんな武器があれば、耳に入って来なければおかしい。)
シエラは、グランドラゴンを追い詰めた誰かを戦いの後に探して会ってみたいと思った。
竜の右腕を、もぎ取った騎士に。
「・・・・案外、タツミだったりして。」
そんな訳無いのにと、思い笑みが出た。
「タツミだったら、・・・いいなぁ。」
シエラは、小声で呟いた。
もし、現実の世界にタツミがいたら自分はどうするだろう。
会えたら、まず話したい。
王国を案内して一緒に食事を楽しみたい。
それから、第4隊の仲間達に紹介してついでにあの嫌味なレイナにも紹介するだろう。
それだけじゃない、姉上達に母上に父上にも。
「・・・、なに考えてるんだろう。」
シエラは、馬鹿馬鹿しい妄想だなと思い笑った。
今は、あの地竜を倒さなければいけない。
先ほどまでの恐怖と、驚愕が消えていた。
変わりに、勝つという信念が生まれていた。
両手で、頬を数回叩いて気持ちを切り替えた。
「よし!行くぞ!」
シエラの足取りは、軽かった。
「隊長、準備ができました。」
下に降りたシエラに、バチスが報告した。
そこには、槍と弓を装備した騎士達がいた。
「まず、油を着けた火矢で地竜を攻撃。その後、騎馬にて攪乱します。その隙を付き、数名で左手に集中して叩きます。」
バチスの作戦を真剣に聴くシエラは、口を開いた。
「バチス、遠くからだから自信が無いけどグランドラゴンの右目が潰れていた。」
「本当ですか!?それならば、騎馬をこの位置から右側面から攻撃させましょう。」
バチスは、置いてある地図を指さし言った。
「そして、倒れたら右腕が有った部位に突撃し動きを封じます。奴の動きからして、たぶん身体の何処かに致命傷を負っている筈です。そこに、誰かがとどめを刺せば。しかし・・・・・。」
バチスは、言葉を濁した。
「こればかりは、グランドラゴンの懐に入らないと解らないんだね。」
シエラが、変わりに言った
瀕死とは言え、竜に接近するだけでも危険なのに懐に入るのが一番危険だった。
「そうです。たぶん、右胸辺りだと思いますが。この人数を考えると、探してとどめを刺すのは一人。残りは、地竜を抑えなければいけません。」
沈黙が、辺りを包んだ。
もし、致命傷が無ければ確実にその一人は死ぬだろう。
右腕を突撃する者達の方が、まだ生き残る可能性が高い。
沈黙を破ったのは、シエラだった。
「その役は、僕がする。」
「た・・隊長!いけません!それならば、私がします。」
シエラの発言に、バチスが声を上げて言った。
「いえ、アタシにやらせて下さい。」
「お・・俺がやりますよ。」
「バカか?お前にできる訳がない!俺がやる。」
「男は、引っ込んでな!女の方が、度胸が有るんだよ!」
いや、俺が 私が 。
バチスが、言った後に騎士達は我先に立候補しだした。
「みんな、大丈夫だよ。僕は、小柄だしすばしっこさには自信があるから。一番、僕が適任なんだ。」
騎士達の声を際切り、シエラは笑顔で言った。
「だからと言って、隊長を行かせる訳にはいきません!」
バチスは、説得しようと試みる。
「ほら、バチスは攪乱させる騎馬の指揮をしないといけないだろ?僕がするより、騎馬戦ならバチスの方が上だし。」
「しかし、隊長の身になにかあれば・・・。」
「死ぬつもりは、無いから心配無いよ。」
第4隊の騎士達は、シエラは自分が決めた事は引かない頑固なところがあると知っていた。
こうなったシエラは、絶対に考えを曲げない。
それから、バチスはしばらく説得したが結局は。
「ハァハァ、わ・・わかり・・ました。ただし!少しでも、危険と感じたら迷わずに引いて下さい!」
戦う前に、疲労してしまったバチスは息を切らせて言った。
「わかったよ。本当に、大丈夫だから心配しないでよ。」
ケロッと、シエラは答えた。
貴女の"大丈夫・心配無い"が、一番信用できないんだが。
バチスは、喉の所まで出かけた言葉を呑み込んだ。
シエラは、本当に仲間の為に無茶をする。
今回だって、一番危険な役をかってでる。
危険と思っても、絶対に引かないだろう。
それが、バチスを一層に心配させた。
(本当に、大丈夫だろうか?)
「さぁ、白鳳凰騎士団第4隊"フォーグス"!出撃だぁー!」
シエラの掛け声に、騎士達は全員が動きだした。
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