第64話 会いたかった3
ビストは、俄然の目標に向け馬を掛ける。
国境の砦に、最後の一撃を加えるのは自分に他ならないと信じているからだ。
最早、金鷹騎士団による援護も必要ない。
ダースの悔しがる表情が、眼に浮かんでしまいビストは笑みをこぼした。
砦を蹂躙し、敵を全て処刑する。
血肉しか、残らないだろう。
女達は、犯しその横で男達は首を縄で吊り上げる。
それが、済んだら女も同様の末路・・・。
いや、奴隷として売り部下達に小遣いを稼がせても良い。
ビストは、唇を舐めた。
(まぁ、良い。全ては、この闘いの後にじっくり決めれば良いだけだ)
勝利まで、すぐそこだと考えた。
「む?」
その時だった。
砦の城門が、開き此方に向けて50にも充たない兵が歩を進めて来た。
(ふん、最後の悪あがきか・・・ん?あの女は)
その先頭に、見覚えがある女が居た。
静寂の森で逃がした、赤髪の騎士だった。
「ほう。生きていたか・・・」
銀髪の女の隣で、先頭に立っている。
ビストは、赤髪の女と銀髪の女を見た。
彼は、オルテ王国の噂を思い出した。
シエラは、右手を上げ止まれの合図を出した。
金獅子騎士団も、自分達の前で停止した。
「さぁ、貴女の口先の出番ですわよ」
「口先って、もう!変な言い方は、やめてよ」
文句を言いながら、シエラは中央を睨んだ。
そこには、周りより身体が大きく重鎧を着込んだ男が不敵にたたずんでいた。
その右手には、恐ろしくデカイ大槍が握られている。
間違いなく、金獅子騎士団バルト将軍だった。
シエラは、深呼吸し一歩前に出る。
これが、上手くいくか自分次第だとやはり緊張してしまう。
「そこに、居るのは!鮮血のビスト将軍とお見受けする!」
腹の底から、声を出し剣をビストに向けた。
「いかにも!我が、ビストよ!」
ビストは、威圧的にシエラの問いに答えた。
「ボクは、シエラ・ローズ!貴殿と決闘を望む!」
シエラは、剣を抜き剣先をビストに向けた。
ここで、ビストが乗って来なければハリル達が脱出する隙ができない。
「・・・ほう、貴様が」
ビストは、シエラを舐め回すように観察した。
(ローズ・・・この女が、エターロにおいて竜を討伐した騎士か・・・・くだらん)
完全に、囮だと理解した。
勿論、シエラ達もそれは百も承知だ。
「鮮血のビスト!わたくしをお忘れ?」
「ふん。わざわざ、殺されに来るとはな」
「ご冗談、森ではさんざんお世話になりましたわね。ローズより、わたくしと戦いなさい!その醜い顔を、綺麗に切り刻んであげますわよ!」
レイナが、ビストに向け啖呵を切った。
シエラとレイナの額に、汗が浮かぶ。
(まぁ、良い弄ぶとするか)
ここで、竜伐の騎士を討てば噂を鵜呑みにし静観しているアラナ公国が動く。
(やれやれ、あの臆病者達がわざわざ大義名分をくれてやったと言うのに)
ビストは、公国の状況を思い出し嘆息する。
「良いだろ。その申し出を受けてやろう」
(良し!乗った!)
「貴様ら、二人で掛かって来るがいい」
シエラ達にとって、またとない提案だった。
「二言は、無いですわね?」
レイナが、聞き返す。
「ふん、無論。だが!」
ビストが、睨み付けた。
「貴様らが、負けたならば我の兵が貴様らの同胞を根絶やしにするぞ!いいか、そうなった場合は捕虜など捕らん虐殺だ!」
その言葉を聞き、警備兵達が狼狽えた。
ビストは、この場に居る警備兵達の士気を見抜いていた。
「大丈夫」
シエラは、兵達に笑顔で安心するように言った。
全員、不安な表情で二人を見た。
「今のうちに、逃がす者を動かせばいい。さあ、来い。我を楽しませろ娼婦ども!貴様らの亡骸を逃げた者の前に晒せてやろう」
ビストは、馬から降り大槍を構える。
「ほんと、噂通り最悪な奴だね」
「噂以上の間違いでなくて?」
二人は、ゆっくりとビストに近づく。
その距離は、大槍の間合いの1歩手前で止まった。
シエラは、両手で剣を構えレイナもショートソードとレイピアを構え臨戦態勢に入った。
「良いこと?時間を稼ぐだけですわよ。しかも、できるだけ長く」
「解ってる」
「何をごちゃごちゃと、来ないならば此方から行くぞ!」
ビストは、強烈な一閃を放った。
大槍は、勢いよく二人へ目掛け襲い掛かる。
「くっ!」
その速度は、普通の騎士が放つものより格段に速い。
二人は、左右に別れ避けた。
レイナは、紙一重だったがシエラは1歩遅く剣で槍を受け流すしか無かった。
(お、重い!)
その一撃で、剣が折れてしまいそうになる。
シエラは、そのままバランスを崩しビストの足下に倒れた。
「ハア!」
レイナが、すかさずビストにレイピアで突く。
頭を、後ろに傾け回避したがレイナは右手に持ったショートソードで再び斬りかかる。
だが、ビストは直前に左手でレイナの首を掴む。
「カッハ!」
「甘いわ!」
そのまま、前方へ投げ捨てた。
首を折るのは、簡単だがそれではすぐに終わってしまう。
ビストは、二人を苦しめ苦悶の表情が見たいのだ。
女を暴力により、虐げる。
それが、ビストの快楽なのだから。
「おっと」
シエラが、片手で剣を振るうも鉄甲で受け止められた。
剣で受け流した際、腕が痺れ威力が落ちていた。
「それで、終わりか?」
ビストは、シエラを踏みつけようとした。
受けたら、確実にあばら骨が折れてしまう。
シエラは、横に転がり避け立ち上がろうとした。
すると、ビストは大槍を横に降りシエラを狙って来た。
「うわぁ!」
シエラは、立つのを止め後ろに倒れた。
そして、再び立ち上がり距離を取る。
「逃がさん!」
ビストは、大槍を連続で繰り出す。
シエラは、避け続ける。
時折、剣で受け流すがその度に刀身が悲鳴を挙げる。
一撃でも、貰ってしまったら即死に繋がる。
(レイナは?)
レイナを心配するが、見る余裕が無い。
「フフ、どうした?我は、貴様に会いたかったのだぞ?くだらん噂話を、打ち砕きたくてな!」
ビストは、下品に笑い挑発する。
(くっ!隙さえ有れば!)
防戦一方をシエラは、歯痒く思った時だった。
「万象の理、あらぶる炎の精霊、我が敵を燃やせ!」
突然、火球がビストの背後を襲った。
「むう!」
ビストが、一瞬怯んだ。
「ハアァ!」
シエラは、渾身の力を込め剣を振るう。
刀身は、ビストの横腹を捉えた。
「グッハ!」
方膝を付いたビストに、魔法を放ったレイナが背中を斬りつける。
「ぐあ!」
(とどめだ!)
シエラは、剣を降り下ろす。




