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第63話 会いたかった2

「シエラ!ならば、私が残る!君達が、脱出してくれ!」


ハリルの言葉は、懇願に近かった。


「それこそ、駄目だよ。今、オルテに必要な人はハリル・・・貴方の様な人だ」


シエラは、ただ死ぬつもりは無かった。


「ぼくは、"竜伐の騎士"だよ?敵を、止めるには十分な筈さ」


シエラは、グランドラゴンを討伐した事によりその存在が他国に知れ渡っていた。

それに付け加え、国で大々的に表彰されたせいもありその噂が拡大してしまっていた。


猛烈な勢いで迫ってくるグランドラゴンを単騎で、迎え撃ち壮絶な死闘の末に勝利した。

騎士は、魔法を打ち消す竜に剣を掲げ右腕を最初に斬り落とし最後に心の臓を刺し止めを指した。


シエラが聞いた時、全力で否定した。


たが、その噂もありアラナ公国などは今回の戦いを静観しているだけなのだ。


しかし、それも時間の問題だろう。

エルフの里をオルテ王国が蹂躙したという大義名分が作られ帝国が国境の砦を落としたならば公国も参加してくるだろう。


「いや!それは、君だ!シエラ、どうしたら解ってくれるんだ?」


ハリルの言葉にシエラは、しめたと言うように笑った。

レイナは、呆れながら傍観している。

次に、何を言うつもりかだいたい理解しているのだ。


「そうだね~。じゃあ、この砦に居る人達を"全員"連れて逃がすならぼくも脱出するよ」


ハリルは、その言葉に呆然とした。


「シエラ・・・・、不可能だ」

「不可能じゃないよ。ぼくが、囮になる隙に逃がしてくれれば良い」

「まったく、相変わらず無茶な事を言うですわね。ハリル様、ビスト将軍の性格なら多分ですが望みは有ると思いますわ」


レイナが、シエラの提案を援護した。


「あの男は、名声と殺戮にしか興味が無い様ですし。それに、森で逃がしたわたくしも加われば必ず周りを見らずに囮に掛かりますわ。大丈夫、撤退が成功したならばわたくし達もすぐに離脱しますわ」

「し、しかし・・・」

「この石頭娘が、譲ると?」

「い、石頭って、ぼくの事?」


ハリルは、言い合いを始めた二人を見て不思議と成功するのではと思い始めた。

しばらく、考え込みハリルは決断した。



「おら!もたもたすんな!」

「大丈夫か?生きてここから、出るぞ」

「おーい!誰か、来てくれ!こいつを、馬車に乗せるぞー」


優先的に、負傷者や非戦闘員を馬車に乗せて行く。

動ける者は、砦から使えそうな荷車等をかき集めそれを即席の馬車に作り変えていく。


シエラ達は、そんな中を歩きながら様子を見ていた。


「ねぇ、レイナ」

「何ですの?」

「レイナまで、危険な囮にならなくてもいいんだよ。ぼく、一人でも」


シエラは、レイナの体調が心配だった。


「気にしないでくれます?貴女に、心配されるほど柔では無くてよ。・・・それより、志願者の方は?」

「・・・うん。今のところ、ここの警備隊が志願してくれてる」


報告を聞いて、レイナは悪く無い人数だと思った。


「あっ!お姉ちゃん!」


すると、ロニキスとアイリだった。

二人は、今まで水魔法で怪我人の治療をしていた。


「ロニキス君、アイリちゃん、大丈夫?他の子達は?」


駆け寄って来た二人に、シエラは方膝を着いて迎えた。

アイリが、シエラに抱き着いた。


「はい。カシュウさんが、休む様に言ってくれましたから大丈夫です」

「あのね、レックス達ならね。今、怪我をしたヒトの看病してるよ」


アイリが、元気な声で報告してくれた。


「そっか、ごめんね。君達を安全な場所に連れて行こうと思ったのに、逆にこんな危ない所に来てしまって」

「そんな!?気にしないで下さい!元々、僕らはしたさん達に助けて貰いましたから!」


ロニキスは、慌てて言った。


「それより、聞きました。お二人とも、全員を逃がす為に囮になるって!」


ロニキスとアイリは、二人を見た。

シエラは、困った様にレイナを見て助けを求めた。

しかし、レイナは我関せずとそっぽを向いた。


(れ、レイナ~)

「シエラさん、僕も参加させて下さい!弓には、自信が有ります!」


ロニキスの眼は、本気だった。

だが、連れては行けない囮は正しく生存率が低い。

死ぬつもりは、無いが正直無傷ではないだろう。

自分は、腕や足を無くしても構わないがロニキスの様な子供を傷つけたくはない。


「ロニキス君、駄目だよ。君も、ハリル達と脱出するんだ」

「嫌です!僕も、戦います!」


シエラは、ロニキスを優しく抱き締めた。


「お願いします。足は、引っ張りません」


ロニキスは、母の様な姉の様な温もりを感じ目頭が熱くなるのを感じた。


「・・・君には、脱出の時に皆を守って貰いたいんだ」

「でも・・・」

「大丈夫・・・、ボクもレイナもちゃんと生きて戻って来るよ。それまで、皆を任せたよ」


身体を離し、シエラはロニキスの瞳を真っ直ぐに見つめた。

うつ向いてはいるが、ロニキスはそれ以上何も言わなかった。


「これ、ボクの御守りだよ。ロニキス君が、預かってて」


シエラは、首からペンダントを外すとロニキスの右手にそっと渡した。

ロニキスは、無言で見た。


ペンダントと言うには、余りにも粗末な物だった。

白い紐に、鉛の塊が有るだけだった。


だが、ロニキスは知っていた。

シエラは、それを大事にしていて時折手に持ち眺めていた。

その瞳には、愛しそうだったが中に寂しさが

混じっでいた。


「シエラさん、これって」

「これは、ボクにとって大事な人を証明する物なんだ」


大事な人、瀬川龍巳。

何故か、瀬川とはもう夢の中で二度と会えない様な気がする。


そんな、気持ちを呑み込みシエラは立ち上がった。


「敵襲ーー!」


警戒兵の声が、響き渡った。


「どうやら、本番みたいですわね」

「うん。ロニキス君、皆を頼んだよ」

「・・・はい」


シエラは、満足し心配そうにしているアイリの頭を撫でた。


「お姉ちゃん、気をつけて」

「アイリちゃんもね」


アイリは、首を振りシエラの手を掴んだ。


「・・・゛お空゛から、怖いのが近づいて来るって言ってるの」

「え?」

「すいません!アイリは、最近変な所が有るんです」


ロニキスは、困った様に言った。


「変な所ですって?」

「はい。よく一人言を言って、空を見てるんです」


エルフの里が、無惨に壊滅された光景を見たのだ。

精神的にショックを受けたせいだとレイナは、感じた。


「この子を、よくみてなさい。今は、立ち直らせる余裕は無くてもここを切り抜けったら時間は沢山有りますわ」


レイナの言葉に、ロニキスは頷きアイリの両肩を掴んだ。


「さぁ、行きますわよ」

「うん!」


二人は、気合いを入れ走り出した。

シエラは、アイリが言った言葉が気になった。


(空から、近づく怖い・・・のか)


何処からか、風が吹いた。

その時、アイリが何か呟いた。


・・・゛あの人゛が・・来て・・・くれるよ


シエラには、その声が聞こえなかった。






あと少し、あと少しで、この空腹が満たされる


その姿は、古来から人々の前で恐怖として今もなお語り継がれいる。

大空から舞い降りる天災、出逢えば混乱と死が訪れる。


理不尽な暴力、いや暴力ではなく虐殺。


悪魔の一匹と数えられ、それを崇拝する者達まで居る。


それが、行く先は餌場。

ただ、己の空腹を満たす欲求しかない。


大きな羽を広げたその名は、破壊の悪魔゛風竜ラーウィ・ドラゴン゛





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