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第62話 会いたかった 1

調子が良いので投稿しました。

どのくらい、経ったのだろう。

いや、実際には三日目が過ぎようとしている。

頭では、理解できるが自身の感覚がまるで一週間以上も戦っている様だった。


初日に、前方から数万の矢が国境の砦を襲いそれに合わせたかのように後方から金獅子騎士団が攻めて来た。

彼等は、狼煙によりタイミングを謀っていたのは明白だった。


普通なら、砦を出て金獅子騎士団を迎え撃つだろうがハリルは籠城を選択した。

だが、元々から配備されていた砦の警備騎士長が決定を無視し部下を率いて出撃。


結果、ハリルのよみどうり罠だった。

敵と接触する間際、前方の金鷹騎士団の放つ矢に風魔法が付与され砦を通り越し警備騎士隊を襲ったのだ。


背後から、数万の矢を受けその大半が犠牲となってしまった。

騎士長も、その攻撃で戦死となり指揮官を失った残りの警備騎士隊は統制が無くなり混乱。

金獅子騎士団は、残兵狩りを行おうとした。


誰もが、全滅と思った時だった。

砦から、馬で駆ける人物がいた。

シエラだ。


シエラは、金獅子騎士団が到着する前に警備騎士隊をまとめ上げた。

負傷者を優先的に、砦に向かわせまだ戦える者だけで殿を務めた。

シエラは、積極的に敵と相対し深追いはせず慎重に戦った。

ハリルが、すぐに救援を送ったせいか敵は不利と悟り一時撤退し難を逃れた。


それから、敵の攻撃は激化した止むことが無い弓矢の雨。

何度も、戦梯子で攻撃を仕掛けて来る金獅子騎士。


その日も、シエラは剣を奮っていた。


「はぁ、はぁ、まだまだ!」


襲って来た剣を、刀身で受け流しよろけた隙に返す刃で首を斬りつけた。

敵が倒れる前に、城壁に掛けられた戦梯子を切り離す。


「はぁ、はぁ、危ない‼」


シエラの目の前で、味方の兵士が敵の斧で頭をかち割れそうになったのを自分の剣を投げた。

剣は、見事に敵の頭部に刺さった。


「大丈夫かい?」


シエラは、助けた兵士に駆け寄り助け起こす。


「あ、ありがとうございま!?」


兵士の反応で、後ろを見た。


(間に合わない!?)


いつの間にか、敵が剣を振り上げシエラの背後へと凶刃を振り落とす瞬間だった。


シエラなら、避ける事ができたがそうなってしまったら助けた兵士が命を落としてしまう。

ふっと、シエラの脳裏に瀬川の顔が浮かぶ。


(ここで、死んだらタツミに会えるかな?)


剣がシエラに、届く前に何者かが敵の腕を押さえ続け様に短剣を右脇に突き刺した。


声にならない悲鳴を上げ、苦悶の表情を浮かべながら敵は横に倒れ息を引き取った。


シエラは、助けてくれた恩人を見て驚いた。


「レイナ!?」

「まったく、戦闘中に武器を投げて丸腰になる騎士が居てどうするんですの?」


赤い髪を掻き分け、呆れながらレイナは言った。


「だ、ダメじゃないか!毒が抜けたとはいえ、安静にしないと危険だよ!」

「ええ。治療士にも、同じ事を言われましてよ」


レイナは、うんざりしながらレイピアを抜き新手と戦いだした。

その動きは、病人だったとは思えない程に冴えていた。

短剣で、攻撃を受けながらレイピアで敵の急所を突く。


「寝ていても、砦を落とされたらどのみち終わり。ならば、戦って活路を見出だすか戦死する方がマシですわ」


強がりを言うが、その息が上がっている。

明らかに、無理をしているのが解る。

だが、そんなレイナを止めるのは無理だろう。


「くたばれー!オルテの娼婦が!・・・ガッハ!」


敵が、襲い掛かって来たがシエラは剣を握り直し右に避ける様に身体を動かしと同時にその横腹を斬りつけた。


「もう!無茶苦茶、なんだから!」

「貴女に言われたら、それこそ終わりですわね 」


レイナは、皮肉を込め鼻で笑った。


気付くと、敵の数が減っていた。

諦めた訳では、無いこれは次に上空から矢が来る前触れだ。


すぐに、砦に避難するよう指示をだした。

シエラは、負傷した兵に肩を貸し急いだ。

間もなくして、金鷹騎士団による攻撃が始まった。


砦の通路を歩きながら、シエラは様子を見た。

そこには、満身創痍の者達が疲れきった表情で項垂れている。

そして、先ほどの戦いでまた新たな負傷者が加わった。

ここに、無傷な者など居ない。


「レイナ君‼捜しても居ないと思ったら、やはり戦いに出ていたのか!」


レイナは、見付かってしまったと言うような表情になったがすぐに誤魔化す様に笑った。


「あら~、カシュウ先生ではありませんか?わたくしに、構うより傷付いた兵士を診てくれませんこと?ほら、先生の患者が沢山!」

「レイナ!」


シエラが、レイナを注意しようとした。


「シエラ、気にしないでくれ。半分は、彼女が言った通りなんだから」


カシュウは、珍しい灰色の様な服を着用しベルトには四つの同じ色の四角い物入れを付けている。

さらに、頭には鉄の兜を被っていた。


「だが、彼等を手当てしたら君には診察を受けてもらう。私の許可無しに、戦うのは困る。君も、私の患者なんだから」


カシュウの言葉に、レイナは渋々頷いた。


「先生、お身体は大丈夫なんですか?」


シエラは、心配そうに言った。

何故なら、この砦に居る治療士の数が足り無い状況なのだ。

その為、カシュウ達は不眠不休で負傷者を手当てしている。


「ああ、まだ大丈夫だよ。君らが、保護してくれた子達のお陰で大分助かっているよ」


ロニキスとアイリは治癒の魔法を使い、その他の子供らも自分にできる精一杯の事で手伝っている。


「まさか、エルフが協力を申し込んで来るとは思わなかったって皆が驚いていたよ」


カシュウが、優しい表情で笑った。


「良かった。後で、ロニキス君達にお礼を良いに行きます」

「解った、来る事を伝えておくよ」


二人は、カシュウと別れ会議場の中に入った。

そこに、ハリルが様々な報告を受け地図と睨み合っていた。


「やあ、ハリル。東の城壁は、何とか持ちこたえよ」

「シエラ!大丈夫だったかい?怪我は?」

「大丈夫。危ない所を、レイナに助けて貰ったよ」

「お初に、お目にかかりますわ。オリベル様、先日は助けて貰い感謝致します」


レイナが、胸に手を当て軽く頭を下げた。


「そんな、気を使わないで下さい。王国を守護する騎士同士、当たり前の事をしたまでですから」


ハリルは、レイナに頭を上げるように頼んだ。


「それに、私の事はハリルと。親しい者は、そう呼んでます」


ハリルは、人懐こい笑みを浮かべた。


「では、ハリル様。今の状況ですが」

「まぁ、良くはありません。むしろ、目に見えて悪くなっている」


レイナの言葉に、ハリルは真剣な表情に戻った。


「昨夜、帝国側に奇襲を掛けたのですが精々50から80でしょうか。やはり、将軍を討ち取らない限り事態は好転しないでしょう」


時として、悪い事態は発生する。


「更に、密偵からの情報で敵の増援が約5000程。此方に、向かっているそうです」

「5000!」

「シエラ・・・」


ハリルが、何を言いたいのか解る。


「砦を放棄・・・だね?」

「すまない」


ハリルは、申し訳なさそうに言った。


「気にしないで。ハリルは、十分に頑張ったんだ。誰も、責めないよ」


最早、仕方がない事だった。


「シエラ・・・。脱出するには、強行突破するしかない・・・残念だが負傷した者は・・・」

「ぼくは、残るよ」

「シエラ!?」


シエラの言葉に、ハリルは声をあらげた。


「駄目だ!君が、残るなんて!」

「怪我をした人達を、残すのは嫌なんだ」


その決意に、迷いは無かった。


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