第6話 逃走と撃退
修正しました。
男達は、地図を広げ話し合っていた。
部屋は、重苦しい空気が漂っている。
「連隊長、そろそろ攻撃開始時刻です。」
佐官が、中央にいる男性に告げた。
連隊長 大上 利幸は、深呼吸した。
「・・・。まさか、俺が別府の・・・日本の街に攻撃命令を下すとはな。」
大上は、自嘲気味に笑った。
しかも、内閣総理大臣の許可無く実行するのだ。
厳罰、良くて依願退職できればいい方だろう。
「よし、攻撃を開」
その時、無線が入った。
『未確認の生物は、移動した!繰り返す、未確認の生物は、移動した!』
「何!?」
最悪の想像をした。
未確認生物が、避難所に行き住民を襲う。
その光景が、浮かんだ。
が、次の報告で事態は急に変わった。
『現在、生物は石垣方面に向け前進中である。なお、生物は一名の4中隊の隊員を追っているもようである。』
(いったい、どういう状況でそうなっているんだ?しかし、今はどうでもいい!好機だ!この道筋ならば、奴を演習場内まで誘い込める!)
「追いかけられている隊員には、悪いが・・・・・・・街中を攻撃するよりかはマシか。」
それに、上手くすれば対戦車火器も使えると考えた。
そして、連隊長 大上は命令変更を下した。
どのくらい、時間が経ったのだろう。
一時間、二時間だろうか。
瀬川は、腕時計を見たがまだ走り出して10分も経っていなかった。
「時間が遅く感じるな。」
後ろ見たが、グランドラゴンはいない。
(諦めたか?)
瀬川は、安堵の溜め息をついた。
その瞬間、前方の家屋が爆発したように崩れ中からグランドラゴンが現れた。
「うぉ!?」
瀬川を殺す為に、建物を破壊してグランドラゴンは回り込んでいた。
地竜は、首を右に傾け顎を開き瀬川に襲いかかった。
最早、ハンドルを切ろうが避けきれない。
(あ、ダメだ。死んだ。)
走馬灯が、頭を過る。
(シエラ。)
その時、後方からヘリの音と共にけたたましい銃声が鳴り響いた。
それは、2機の自衛隊の対戦車火器を積んだ戦闘ヘリ[コブラ]の機銃による攻撃だった。
ギャャャヤヤヤヤ。
奇声を上げ、地竜は前のめりに倒れた。
この隙に瀬川は、紙一重で地竜の左側に避けて後ろに出た。
地竜は、すぐに体勢を戻し振り返り瀬川を追う。
コブラの攻撃を、瀬川によるものと勘違いしたのかさらに凶悪化していた。
『4中隊 瀬川士長。』
1機のコブラが、拡声器により瀬川を呼んだ。
「あれは、4飛の・・・・助かった。」
これで、グランドラゴンとの鬼ごっこが終わると安心した。
が、コブラから伝えられた内容は終わるどころか瀬川の考えの斜め上をいっていた。
『瀬川士長。そのまま、演習場内まで逃走せよ。繰り返す。・・・』
(え?何て?)
後半、意味が解らなくなっていた。
(今でも、いろんな意味で限界近いのにこのまま逃走しろと?)
瀬川が今いる地点から、演習場まで50分はかかる。
瀬川は、自分が囮にされている事がわかった。
「マジかよ。」
瀬川は、溜め息を着いた。
前方で低空飛行をしながらコブラが瀬川を誘導する。
(チクショ!こうなったら、やけくそだ!)
道路が直線になると、速度をさらに上げた。
風の抵抗を受けないように瀬川は身を低くする。
地竜との距離が空きすぎると、速度を緩め一定の距離を保つ。
その、繰り返しだった。
近すぎるともう一機のコブラが後方から威嚇射撃を地竜に浴びせ距離を開けさせた。
「まだか?まだ着かないのか?」
一分が、長く感じる。
地竜との追いかけっこが、1時間前からだったような気さえしていた。
瀬川は、住宅地を抜け山の方面に来た。
曲がり道が多いい山道を、瀬川は極力スピードを落とさずに曲がって行く。
途中、何回も遠心力でバイクから投げ出されそうになった。
そのたびに、歯を食い縛り必死に車体にしがみついていた。
地竜は時折、回り込んで待ち伏せてくる。
しかし、二機のコブラによる誘導・威嚇射撃により瀬川は事なきを得た。
「よし。あそこを越えれば演習場だ。」
国道に変わり瀬川は、速度を左折できるスピードまで落としていく。
そして、遂に演習場入り口に差し掛かった。
『避けろ!』
突如、コブラの拡声器から大声が響いた。
「え?うわぁ!」
地竜は、一気にスピードを上げ左の急斜面を登り瀬川より先に演習場内に入った。
そのまま、回り込み瀬川が入る筈の演習場入り口から襲ってきた。
コブラは、威嚇射撃をしたが間に合わなかった。
瀬川はすぐに、左折を中止しそのまま国道を直線した。
「クソ、どうすんだよ?どこ行けば、いいんだよ?」
瀬川は、状況を呪うように吐き捨てた。
瀬川に避けられた地竜は、追いかけて来る。
「ヤバ!ワァァアアア。」
判断が、遅れた。
カーブに差し掛かった時、曲がりきれずに転倒してしまったのだ。
瀬川は、バイクから投げ出され道路に叩き付けられた。
「ぐは!あ・・ああ・・。」
奇跡的に、骨折はしていない。
あのスピードなら、骨折どころか死んでもおかしくなかった筈なのに。
だが、全身に激痛がはしり一時呼吸ができなかった。
(い、生きて・・・る?)
地竜が、ゆっくり近づく。
目の前に来た時、その表情は笑っている様だった。
地竜は、追い詰め動けない獲物を喰うために口を開けた。
その口が、牙が瀬川に迫り来る。
嫌に遅く感じられた。
(身体が、動かない。これが、俺の最後か。)
瀬川は、まるで他人事のように感じられた。
(ごめんな・・・シエラ・・・。)
最愛の人の笑顔が頭をよぎる。
(だめだ、まだだ!
まだ俺はこんなところで死ぬわけにはー!)
上空のコブラが、動いている。
『チッ!弾切れかよ!コブラ2!そちらから、援護射撃可能か!?』
『こちら、コブラ2!駄目だ!近すぎる!隊員を巻き込んでしまう!』
『なら、旋回して奴の前に出ろ!それだったら、問題無いだろう!?』
『言われ無くても、やっているが間に合わ無い!!・・・ん?コブラ1、何か来るぞ?』
最早、牙が瀬川に届こうとしていた。
突如、地竜の顔面に鋼鉄の車両が体当たりをした。
「これは、WAPC!」
瀬川は、その車両の名を呟いた。
WAPC 96式装輪装甲車はLAVと違い8輪のコンバットタイヤを装備し、後部に隊員の乗り降りができる上下式のハッチがある。
また、LAVのような一般の車的な構造ではなく後部座席は向かい合わせで12人ほど乗せれる装甲輸送車だ。
WAPCから、二人の隊員が出てきてすぐに瀬川を抱え車内に入った。
「大丈夫ですか?意識はありますか?」
一人は、右肩に赤十字の腕章を着けている。
衛生隊員だ。
「しゃぁぁあ!敵、目標を1035、3344の地点に叩き落としたぞ!ついでに、4中隊員も確保した。心置無く弾を落としてくれ!」
(俺は、ついでかよ。)
ガッポーズし無線機に怒鳴り付けて言うもう一人は、どうやら偵察隊の曹長の様である。
『了解。その言葉を待っていた。任せろ。』
無線から、強気な口調な返事が帰ってきた。
このWAPC、本来は演習場の入り口付近で待機していたもので、地竜が場内に入ったら本隊に報告する任務だった。
しかし、失敗とみるや追跡を付与されていた。
瀬川が転倒した時。
偵察隊の鳴尾曹長は、ドライバーに地竜へ体当たりを命令したのだ。
それに対し操縦手は、無理やり障害物を破壊して実施したのだった。
「よくここまで、頑張ったな!」
報告を終えた曹長は、瀬川にねぎらいの言葉を送った。
左胸に高林と書いている。
「高林曹長、敵が動き出します。」
「安心しろ、際は既に投げられている。」
操縦手の報告に高林は、ニヤリと笑い答えた。
地竜は、自分を攻撃した鉄の物体を見た。
いつの間にか、追っていた獲物がいない。
あの中だ。
地竜は、唸りを上げ崖を登り始めた。
食い殺してやる。
と思った瞬間、今まで味わった事の無い衝撃が空から地竜を襲った。
剣での斬撃でも、槍での突撃でも、魔力を帯びた矢でも、投擲機による大岩すらない。
「右に、3修正。上に2修正。ハハハ、良いぞー!」
WAPCから、射撃陸曹がブレスレットスイッチを押し砲弾を誘導する。
余談だが、重迫中隊は未確認生物の殲滅では無く駐屯地の警戒の任務を付与されていた。
俺達も行かせろ。行かせて。行かせて下さい。等の声が上がっていたと言う。
殲滅完了という報告を聞いた隊員達は、もれなく不完全燃焼になった。
だが、新たに大型の未確認生物が現れたではないか。
しかも、ご丁寧に人気がない場所に来る。
(((俺達の出番だ!!)))
指揮所に詰めていた連隊長や幹部達が、命令を出した頃には出撃できる体勢だった。
その速さは、今までの訓練の中で最短だった。
全員、目が燃えていたという。
「ウォオオ、落とせー!」
「装填良し!」
「撃てー!」
「次弾は?」
「遅い!もっと、速く!」
(こいつら、地形を変える気か!?)
大上以下本管幹部達は、重迫中隊にひいていた。
状況を確認する為、砲撃を中止した。
視界が見えない程、砂煙が舞っている。
「いました。」
射撃陸曹が確認した。
その横から、瀬川も確認した。
砂煙のせいで、姿しか確認できなかったが次第にその姿が見えてきた。
「効いています!」
地竜は、背中の自慢の鱗がほとんど吹き飛ばされ血だらけになりながらも生きていた。
「しぶといなぁ。ですが、あと一回です。あと一回で殺れます。」
射撃陸曹が火力要求をしたと同時に、地竜は走り出した。
WAPCにも目もくれずに、ひたすら異常な速さで横を通り抜けた。
(・・・逃げてる?)
「・・・ハッ!目標、逃走。目標、逃走。」
呆然としていたが、高林が我に帰り本部に連絡した。
「駄目だ!次の砲撃を待っていたら逃げられる!」
瀬川は、叫んで車内を見回した。
瀬川の目に止まったのは、対戦車弾 パンツァーファウストだった。
(こいつだ!)
「あっ!待て!」
高林の静止を聴かずに瀬川は、パンツァーファウストを持って飛び出した。
先端のプロームを伸ばし、発射機を取り付けボロボロの地竜を照準した。
「くたばれ!」
瀬川は、掃き捨てるように言って引き金を引いた。
弾頭は、真っ直ぐに地竜の右腕の脇に当たった。
脇には、まだ鱗があったがプロームを伸ばした弾頭は貫通効果がある。
弾頭が地竜に当たると、爆発が起こり右腕から首の一部が吹き飛んだ。
「殺ったか?」
瀬川が勝利を確信した時、急に風が吹いたと思った瞬間に激しい光が襲ってきた。
「な・・・なんだ?」
目が眩んだが、徐々に回復して見たら地竜の姿が無かった。
「何がどうなって、いるんだ?」
その場にいる全員が、狐に騙されたように呆けた表情になっていた。
その後の調査で、全ての未確認生物達は演習場内から現れた事が解った。
[スッっゴーい!魔力も持たない人間が、竜に勝ちゃった!]
瀬川達から、少し離れた森の中から女性の声がする。
女性が使う言葉は、英語でも日本語でもない。
[竜教徒達の好きにさせない為に。それに、この世界が心配で来ちゃたけど心配無いみたいね。]
女性は、背中に弓矢を背負いまるでRPGのゲームに出てきそうな服装だった。
だが、モデルのような身体で出るところは出ている。
まだ、あどけない二十歳になっていないようだ。
顔は、そこら辺のアイドルより整っていてかわいらしい。
彼女の一番の特長は、金髪のロングヘアーから見える長く尖った耳だ。
[にしても、凄い武器だったわ。あの゛助けてあげた゛兵士も、地竜の腕を吹き飛ばすなんて・・・。]
瀬川に興味を持ったようだった。
女性は、目を閉じて呟き始めた。
[この世界の精霊さん、あの兵士の名前を私に教えて。]
暖かい風が、女性の回りに吹いた。
[・・・、セガワ タツミ・・それがあの人の名前なの?・・・え!?名前の中に竜の文字があるの?]
女性は、驚いて目を開けた。
瀬川がいたら、漢字が違うと否定しているだろう。
[そう・・・。中々、面白いわね。名に竜を持つ人間が、地竜を追い込むなんて。]
女性は、クスリと笑った。
突然、女性の耳がピクピクと何かに反応した。
同時に、風が森に吹き込んで来る。
[残念ね。あの現象が起きちゃう。帰らなくちゃ。]
女性は、森の奥に入っていく。
そして、奥から光が放たれた。
[また、今度ここに来れたらタツミって人間と話したいな。その時は、借りも返して貰うわよ。]
女性は、この言葉を残し去っていった。