第54話 異世界
モンスターの種類の引き出しがあまり無い事に自分でも驚きました。
そこは、何処までも広がる大地。
無論、コンクリート等で塗装された道路は無い。
それどころか、ビルや民家すら視界には入って来ない。
道は、有るがあくまでらしき風な道だ。
何せ、整備されておらず人が通っている痕跡のみで判断するしかない。
隣町までは、数千キロの距離等は普通だ。
まして、首都に行くとなれば平気で4日長くて1週間掛かる。
人々は、徒歩又は荷馬車で目的地へと移動する。
それが、この世界の交通方法の常識である。
そんな道のど真ん中に、奇妙な2つの物体が有った。
一つは、大型の荷馬車。
荷馬車にしては、大きすぎる。
もうひとつは、鉄の馬車。
全てを鋼鉄で覆われ、ドアまで着いている。
両方とも、見て取れる様に2〜3頭の馬でも引いて行くのは難しい。
せめて、一台に6頭もしくはムーヴ(牛の様な家畜)が3頭必要だろう。
しかし、どちらも高額だ。
平民では、手がでない。
よって、こんな奇妙な乗り物は暇な貴族か大商人のどちらかだろう。
が、肝心の引く動物が居ない。
すると、鉄の馬車のドアが開いた。
「くっ、くっあああ〜」
緑のまだら服、目の下に隈が目立つ。
瀬川 龍巳は、LAVから降りると背伸びをして周りを見回した。
「・・・異世界・・・ついに、ついに来たぞ!」
瀬川は、事故により跳ばされた。
それこそ、なんの準備も突然の出来事だった。
見知らぬ、土地にいきなり置いていかれた人はどうなるだろう。
不安になったり、途方になるだろう。
泣き出す人も、居るかもしれない。
瀬川も、その心は少しある。
だが、それ以上に強い気持ちが彼を奮い立たせていた。
自分は、ライトノベルに出てくる主人公ではない。
別に、可愛い娘に召喚された勇者でも無い。
事故で、来てしまっただけで魔王と戦ってと頼まれても義理は無い。
ましてや、ハーレムなんて言葉もない。
では、強い気持ちとは。
勿論、シエラだ。
夢の中の幼なじみであり、恋人。
その彼女が、この世界に居るのだ。
(あと、少しで会えるな。シエラ)
瀬川は、空を見上げた。
「お兄チャン、おはよ」
すると、後ろから金髪の少女が瀬川に抱き付いた。
ピンクのジャンパーに、黒のスカート。
何処の外国人子役か、と思うほど可愛い少女だ。
「ああ、おはよアーちゃん」
瀬川は、少女の頭を撫でた。
「エヘヘ」
「う、う、帰りたい。営内の自分のベットで寝たい」
「おはようございます。瀬川士長」
大型トラックから、瀬川と同じ格好をした二人組が来た。
1等陸士
湯川 晃
浅野 健介
陸士長
瀬川 龍巳
この世界出身
アリエル レオ オルテ
以上の四名が、今居るパーティーメンバーだ。
「夜間警戒、お疲れさまです」
「おう。お前ら、疲れはとれたか?」
「まだ、ダリぃっす」
跳ばされた直後、動けなくなるほど疲労感が有った。
瀬川も軽くなったが、まだダルさが残る。
「それで、瀬川士長。この後、どうしますか?」
「え?」
そう、現在の最上級者は陸士長である瀬川だ。
彼の判断で、行動が決まる。
「そ、そうだな」
「瀬川士長!マジで、頼んまスッヨ!」
つくづく、湯川に信用されていないなと改めて思ってしまった。
「そうだなぁ〜」
瀬川は、現状について考えてみる。
1、突発的に見知らぬ世界に来てしまった。
2、この世界で生き延び何とか帰還を目指さなければならない。
3、てか、帰れる保証が無い。
4、そもそも、生き延びれるのか?
(・・・そうだよな。こんな、化け物がわんさか居るよ様な世界で・・・)
脳裏に、オーガ・スライム・キメラ等。
兎に角、考える限りRPGのモンスターを出す。
ここで、装備品を思い出す。
1、5.56ミリ弾 約9500発(機関銃リンク含む)
2、89式小銃×3、 5.56ミリ機関銃×1
3、軽対戦車弾 LAM×5、 01式赤外線対戦車誘導弾×6
(ん?何とか・・・なる・・か?)
これなら、大冒険をしない限りなんとかなりそうだった。
では、どうするか。
ノベルとかならば、異世界で自衛隊は力を見せつけ庇護してもらう。
しかし、あれは一個中隊いや連隊規模での話しだった。
しかも、大抵の主人公は2尉だの幹部だ。
ここに居るのは、士長に1士の下っぱ三名。
良いように、利用されるだけだろう。
最悪、武器を奪取される可能性さえ有る。
「それは、まずいなぁ」
「何、考えてるんスッか?」
湯川が、ウンザリしながらぼやいた。
瀬川は、それを無視し口を開く。
「当初の行動は、まずこの地域を調べよう」
そう、瀬川達は現在地点さえ解らないのだ。
頼みの綱のアリエルだったが、王宮の外に出た事が無いと言う。
「と言うと、現地人と接触・・・ですか?」
「そうだ、浅野。友好的にこの地域住民と触れ合って情報を獲得するんだ」
今は、それしか考えられなかった。
「・・・でも、どうするんスッか?自分ら、言葉を喋られないんスッよ」
「湯川。アーちゃんの・・・アリエルを忘れてないか?」
そう、アリエルは異世界語と日本語ができるのだ。
「それに、少し位なら俺もできる」
瀬川は、単語張を取り出した。
「ああ、確かその子はこの世界の」
「ウン!まかせて!」
アリエルは、胸を張った。
「それで?現在地が、判明したその後は?」
「オルテ王国を目指す」
そこで、王国にアリエルを帰してやれば庇護してくれるだろう。
勿論、自分達が何者かを隠してだ。
「いいか?俺らは、遠い地から来た旅人だ。んで、たまたまアーちゃんを発見・保護して連れて来た」
瀬川は、設定を説明する。
「そして、俺達の生活を保証してもらう」
正直、今のオルテ王国情勢に不安は有るが頼れるのがそこしかないので仕方がない。
本音を言うと、シエラが居るから是が非でも行かなければならない。
「そんなんが、上手くいくんスッか?」
「しょうがないだろ。でないと、野垂れ死ぬ」
「それなら旅人より、狩人でどうでしょう?この格好ですし」
浅野は、自分が来ている迷彩服を見た。
「そうだな。じゃあ、旅をしてる狩人って事で」
すぐに、採用だ。
王国に着くまでに、車両を隠して弓矢を手に入れれば更にそれぽっく見えるだろう。
「残りの問題は、食料と燃料だな」
瀬川は、特に燃料が心配だった。
二台とも、満タンだが2日か3日で空になるだろう。
(ここが、オルテの近くなら良いけどな)
下手すると、大陸さえ違う可能性さえある。
食糧に至っては、乾パンが数袋のみ。
「兎に角、村を探してみるか。湯川、お前はLAVのガナーで周辺を警戒。あと、アーちゃんを頼む。浅野は、俺に着いてこい」
さすがに、アリエルを連れて行くのは危険と判断した。
安全を確保して、改めて通訳を任せた方が良い。
一応、たどたどしくても言葉を理解し喋れると思う。
「現在時刻、1013。1030に出発するから準備しろ。持っていくのは、小銃だけで弾倉はフル。無線機は俺が持つから一時間毎に報告する。帰隊予定は、1500」
「了解しました」
「ウィーッス」
瀬川の命令に、浅野達は返事をした。
「良し、じゃあ別れ」
「「別れます」」
瀬川の敬礼に二人は、答礼して返し準備を始めた。
「アーちゃん、ここで湯川と留守番な」
瀬川は、アリエルの頭を撫でながら笑顔で言った。
「ウン。お兄ちゃん、気を付けてネ」
その後、瀬川と浅野は装備を整え出発した。
別に、目指す方向は無いので適当だ。
道なりに、進む。
数分間、歩くと流石に車両も見えなくなる。
「・・・なんか、ほんとに異世界って感じですね」
浅野が、空を見上げて言った。
空には、普通の鳥が飛んでいるが時折何かそれ以外の生物が居たりする。
「確かにな、何なんだあれは?」
瀬川も確認したが、まるでFFシリーズに出てきそうな飛行型モンスターだ。
(関わらない方が、良いな)
二人は、歩き続けるが通行人やそれどころか建物さえ見つから無い。
周りの景色も、変わらない。
出発して、2時間がたった。
「了解。引き続き、警戒せよ」
『了解』
ブレススイッチを放し、瀬川は道脇に座った。
出発してから、二回目の休憩だ。
「瀬川士長、大分歩きましたね」
「ちょうど、二時間になるな」
「相変わらず、民家処か人にも会いませんね」
浅野は、溜め息を付きながらぼやいた。
確かに、少しも人に会う気配さえ無い。
「たく、異世界なんだからモンスターの一匹にも会わないなるとな」
もしかすると、この世界に自分達だけなのではないのかと思ってしまう。
「まぁ、モンスター云々はともかくこれが漫画やノベルならどうなるんでしょうね」
浅野は、何気なく質問してみた。
「ん〜、そこまで詳しく無いけどそろそろイベントが有るんじゃないか?」
「イベントですか?」
浅野は、首を傾げた。
「いいか?大抵、こんな状況になるとな。かわいらしい娘が、モンスターなんかに追われて逃げている場面に遭遇するんだよ」
瀬川は、ライトノベルの展開を話し出した。
「は、はぁ」
「んでだ、それを俺達が救うんだよ」
人差し指を立て、瀬川は冗談半分で言った。
「そしたら、その娘が力を貸して欲しいって言ってそこから壮大な物語が始まんだよ」
魔王を討伐か、国を救うかのどちらかと付け足した。
「そこまで、いけばRPGの世界だな。まぁ、頼まれても無理だけど」
瀬川は、笑いながら言った。
「さて、そろそろ行くか」
重い腰を上げ、背伸びをする。
「せ、瀬川士長」
浅野が、まだ座ったままだった。
疲れが、溜まっているのだろうか。
「浅野、ほら行くぞ」
「いや、あの・・・」
どうも、歯切れ悪い。
しかも、何処か別の方向を見ている。
「どうしたんだ?」
「あれ・・・」
「ん?」
瀬川は、浅野が指差した方向を見た。
「ハハハ、・・・マジかよ」
瀬川は、溜め息を付いた。
まさに、イベントが発生してしまった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
16か17歳位だろうか、栗色の長髪をなびかせ走っている。
整った顔立ちで、まさに美少女と言っても間違いない。
「チッィ!」
少女は、動きにくいスカートを憎々しげに舌打ちをした。
片手剣を持って、襲って来る”それ”に抵抗している。
「ハァ、ハァ、しつこい!」
少女は、”それ”を睨んだ。
牛ほどの体格だった。
二足歩行で、鋭い牙。
一定の距離を取り、隙を見付けては口から火を出して殺そうとする。
それも、7匹だ。
(どこまで、どこまで腐ってしまったんだ!)
少女の心は、けしかけた主を呪った。
少女は、従者やメイド達と一緒だった。
もう少しで、オルテ王国の領地に入る時だ。
突然、餓狩鬼に襲われた。
「マルス様!ここは、私達にお任せ下さい!」
「さあ、此方です!」
護衛の兵士達が戦い始め、少女 マルスは侍女と共に避難した。
戦いは、兵士の勝利と思われた。
だが、”それ”が現れ逆転された。
「な!?”サラマンダ”だと!?」
兵士の一人が、炎玉により燃え上がった。
サラマンダは、竜の中では下位種になる。
冒険者でも、倒す事は可能だ。
だが、普通なら2〜3匹の話だ。
目の前に居るのは、13匹で襲い掛かって来た。
兵士達は、徐々に倒れていく。
「待っていろ!すぐに、加勢する!」
マルスは、片手剣を抜き参戦しようとした。
「駄目です!マルス様!」
しかし、侍女の一人がマルスを止めた。
「離せ!皆、危ない!」
「ここで、マルス様の身に何か有ってはクルビス帝国の未来が閉ざされてしまいます!」
侍女が必死に、マルスを説得する。
「クッ!」
説得が効いたのか、マルスは奥歯を噛み締め侍女と共に走り出した。
兵士の隊長と思わしき人物は、走り去るのを確認した。
(どうかご無事で)
そして、敵に向き直った。
餓狩鬼は、既に全滅していた。
サラマンダに至っては、9匹まで数を減らしている。
だが今、この場で呼吸しているのは彼一人だけだった。
「お前達、すまない」
彼の声には、犠牲になった部下達に謝罪と感謝が混じていた。
「さぁ、来い。貴様らを一匹でも多く道連れにしてやるぞ」
サラマンダは、一斉に彼に向かった。
断末魔の声が聴こえた。
マルスは、その声が何者か理解した。
「もう・・・良い」
助からない。
その言葉が、マルスを支配した。
「マルス様!」
「もう良い。お前だけでも、お逃げ」
「諦めないで下さい!」
侍女は、マルスの両肩を掴み懇願する様に言った。
「いいか?もう、詰みなのだ。私が、死ねばお前は助かるのかもしれない」
「駄目です!マルス様だけが、最後の希望なのです。死ぬならば、私が!」
「最後の希望・・・か」
マルスは、自嘲の笑みを浮かべた。
「兄帝王の暴挙を静観し、ただ帝国が魔都になるのに眼を背けていたこの私が希望だと?」
皮肉げに、侍女の手を払笑った。
正直、彼女や死んでいった兵達には悪いが自分に生きる価値は無いと考えた。
「だからこそ、だからこそ、マルス様が正さないといけないんです」
侍女は、眼に涙を溜めながら精一杯の声で言った。
マルスは、眼を背けた。
彼女を見るのが、辛いのだ。
出来れば、死んで楽になりたい。
だが、侍女の悲痛な懇願がマルスに願望を打ち消される。
「・・・解った。解ったから、泣かないでくれ」
マルスは、絞り出す様に言った。
(これも、私に枷られた罰・・・か)
必ず、生きて祖国を救う。
例え、実兄を殺す事になろうと。
どんな手を使っても。
(最悪、兄上と同じように邪教の手を・・・)
「マルス様!?」
「はっ!?ぐっ!」
身体に、衝撃が走った。
侍女が、マルスを押したのだ。
全てが、遅く感じられた。
生・き・て・く・だ・さ・い
自分を救ってくれた女性は、泣きながら笑顔でそう言った。
その瞬間、そこに有ったのは無惨に頭を食いちぎられた亡骸だった。
マルスは、全力で駆け出した。
後方から、複数の咀嚼音が聴こえても振り返らない。
ただ、ひたすら走り続けた。
最早、マルスにあるのは生還するしか死んでいった者を慰める手段しか思い付かなかった。
「ど、どうしますか?瀬川士長」
「どうするかって、お前・・・うわぁ!火、吹きやがった!」
まるで、映画の様な光景が目の前に繰り広げられている。
一人の少女が、五匹の蜥蜴に追いかけられている。
遠くからでも、それらが牛一頭分の大きさだと解る。
「瀬川士長!」
「うるせぇ!解ってるよ!助けるぞ!」
瀬川は、手を降っり大声で叫んだ。
「おオーイ!此方だ!気付けー!」
少女は、瀬川達に気付いた。
しかし、なぜか戸惑っているのか一向に来ない。
「何してんだ、早く来い!」
「あっ!瀬川士長、もしかして言葉が解らないんじゃないですか?」
確かに、浅野が言ったのは解るがニュアンスで理解する筈だ。
「くっそ!しゃあない、行くぞ!」
二人は、走り射程距離まで摘める事にした。
「ハァ、ハァ、チィ!コケやがった」
瀬川は、舌打ちした。
少女は、転倒したまま動かない。
「浅野!」
「はい!!」
二人は、小銃を構えた。
瀬川は、立姿のまま安全装置を外す。
浅野は、肩膝を着きしゃがみ姿勢だ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、スゥー、ハァ〜」
深呼吸をし、落ち着かせ照門を通し照星を敵に照準する。
(落ち着け、落ち着けよ)
照準が、ブレる。
蜥蜴が、少女に接近してきた。
射距離、250メートル。
引き金に、指を入れる。
今、この指に人の命が掛かっている。
瀬川は、ゆっくりと引き金を引いた。
薬室の中で、撃鉄が落ち撃針が弾丸の薬莢に刺激を与えた。
弾丸は、銃口から放たれ真っ直ぐに蜥蜴に跳んでいく。
(やった!)
だが、弾は少女を襲っている奴ではなくその後ろの蜥蜴に当たった。
(ヤッベ!)
失敗したと、思った。
その直後、目標の敵の頭が吹き飛んだ。
成功したのは、浅野だ。
二匹の蜥蜴は、地面に沈んだ。
「シャアアア」
残りの蜥蜴達が、瀬川達に目標を変えたのか少女を無視して襲って来た。
「浅野、撃って!全弾、撃ち尽くして良いから全滅させるぞ!」
「了解!」
二人は、少女の安全を意識し撃つ。
「リロード!」
弾倉を地面に落とし、新しい弾倉を入れる。
「危な!」
時折、火弾を吐いてくるが狙いが悪いのか手前に着弾した。
お返しとばかり、5.56ミリ弾を撃つ。
狙って射撃しているが、動いている生物だ。
なかなか、当たらない。
それでも、二人は弾幕を切らせないようにお互いカバーした。
「前方300!二匹、来ました!」
「めんどくえ!あと、弾倉いくつだ!」
「2つです!」
腕が、吹き飛び胸元に当たったりと蜥蜴が次々に倒れていく。
全てを倒したのは、弾倉が一つになったころだった。
このあとは、どうやって前の話しと繋げるか・・・。
あと、展開が思い付かない・・・
何か、このあとのストーリーで良い案は無いでしょうか?




