第49話 リザードマン 2
普通のワニではない。
二足歩行するワニだ。
よく見れば、前足(手)には銛や盾などで武装した姿が見られる。
(・・・知性が有るのか?)
長谷川は、ワニ?を見ながら思案した。
東では、無いが。
知性、それも人間に近いならば彼等?を保護しなければならない。
しかし、ワニ達は周りを見たり仲間内でケンカしだしたりしている。
(ああ、有ってもゴリラ並みか)
すると、後ろからフラッシュの嵐。
「んな!?」
「な、なんだ?」
隊員達は、集中が後ろにいってしまった。
後ろにいたのは、報道陣だった。
「な、何をやってるんですか!?」
安全係の隊員が、止めるよう言った。
「見てくだい!?今、私の前に!?」
「これこそ・・・」
「今、まさに!?」
アナウンサーが、勝手な事を言っている。
カメラマンは、無我夢中にフラッシュをたく。
「くっ!?おい!止めさせろ!」
「は、はい!」
慌てて、安全係に増援を送る。
「や、止めて下さい!」
隊員の一声に、記者達ははぁ〜?何、言ってんだよ?
テメエら、ここ来る前に税金分働いて来いよ。
一瞬チラミされたが、十分伝わった。
安全係は、暗い気分になりただラインに近付け無いように撤した。
「うわぁ。マジで、大変だ・・・なあ!?」
「うわぁ!?」
「ヒィィ!?」
瀬川が、素直な感想を呟いた瞬間だった。
1番奥のワニが叫んだと思ったら、瀬川と安本の間に突然太く長い何かが突き刺さった。
「こ、これって」
「槍・・・いや、これ銛ぽいな」
瀬川は、積み上げた土嚢を見ながら言った。
「銛って、瀬川士長。だ、誰の銛なんですか?」
早川は、腰を抜かしたのか尻餅を付きながら言った。
「・・・そりゃ、お前。あのワニのだろう?」
瀬川は、顔を前方に向けた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「おい、おい、おい!?あんな、距離からかよ!」
瀬川の言葉が、2小隊の中からした。
「マルマル!マル二!ワニから、攻撃を受けた!」
橋本は、焦って無線の受話器を落としそうになった。
敵との距離は、安全を見積もって200メートルだ。
これは、あくまでここまでならと言う勘でしかなかった。
「対象は、攻撃可能である!繰り返す!対象は、攻撃可能である!」
橋本は、ワニを睨んだ。
それを聞いた長谷川は、山田から無線を取った。
「マルサン、こちらマルマル。直接、確認した。やむおえん、実弾発砲を許可す・・・」
「待ちなさい!長谷川3佐!私が、許可しません!」
遮ったのは、東だった。
「東議員!?何してんるんですか!?危険です!戻って下さい!」
長谷川は、慌てて言った。
東は、記者達と避難区域に行かずに残っている。
只でさえ、迷惑なのにいきなり指揮所に来られるのは想定していなかった。
「危険は、承知しています。ですが、やぱり私の予想道理ね」
東は、わざとらしく溜め息をついた。
「よ、予想・・・?」
「ええ。少し位、想定外の事が起きたぐらいですぐに命を奪うのを危惧していたの」
「少し位と言いますが、隊員の命が掛かっているんです!」
これには、川平が反発した。
「確かに、そうね。でも、あの銛を投げられ前に痲酔で眠らせてれ・・・」
その時、前方から悲鳴じみた声が聞こえた。
ワニが、銛を2本投げたのだ。
2本とも、1小隊の場所に刺さっている。
1本は、掩体に刺さり2本目はそれを越えていた。
「くっ!マルヒト!被害を報告しろ!」
長谷川は、叫んで見た。
数人、倒れている。
最悪の事態を、考えた。
だが、すぐに倒れていた隊員が動き出す。
『マルマル。こちら、マルヒト。人員・武器、異常無し!』
それを、聞き長谷川は安堵の溜め息をついた。
「問題無いようね。長谷川3佐、残りの銛が跳んで来る前に保護して頂戴」
「し、しかし、・・・」
長谷川が、言葉を濁した時だった。
『マルマル、マルニ』
2小隊、山岡だ。
「マルニ、送れ」
『痲酔弾、発砲許可ヲ求ム』
東は、長谷川の後ろで腕を組み睨んでいる。
(・・・仕方がない。これも、国の命令か)
「発砲を許可する。奴等が、残りを投げる前にささっと、眠らせろ」
勿論、lineを越えたら即射殺しろと付け加えた。
瀬川は、怪我が無いか小銃に破損は無いかをチェックした。
少し、肘から血が出ている程度で問題無いようだ。
小銃も、傷ひとつ無い。
闘える。
「よし。お前ら、大丈夫か?」
「問題なし」
「な、なんとか」
安本と浅野も、同じ様に確認して瀬川の問いに答えた。
「こ、腰が!?」
「あ〜、双葉2曹。早川士長が、腰を抜けてる他異常無しです」
瀬川は、現状を分隊長である双葉に報告した。
「解った。すぐに、構えろ!」
瀬川達は、よろめきながら元の位置に戻った。
一番、奥のワニが吼えた。
その直後に、2投目を投げられた。
「おいおい、2本同時かよ!?」
「このまま、いけば・・・2小隊か」
小西と安本が、放物線を描きながら跳んでいる銛を見て言った。
「うわぁ!あぶっ!」
銛が、刺さり土煙が上がっている。
「2小隊、大丈夫かよ〜」
瀬川は、心配しながら様子を見た。
「他の小隊を心配する暇があったら、よそ見をするな!」
双葉から、激が跳んだ。
瀬川は、素早く2小隊を見た。
どうやら、全員無事な様だ。
(良かった。にしても、射撃許可はまだかよ?)
瀬川は、ワニを見た。
銛を投げても、当たらないと解ったのか直接こちらに来るつもりだ。
四つん這いになり、走り出した。
何気に、速い。
これでは、五分もすればここに襲い掛かってくるだろう。
あの銛が、あの爪がそしてあの牙がだ。
(まだかよ!もう、充分だろ!)
瀬川は、安全装置を解いた。
と、同時だった。
後方から、4発の渇いた音が鳴り響いた。
それは、狙撃班による攻撃だ。
放たれた痲酔弾は、真っ直ぐに標的を捉える。
(行ったか?)
弾は、4発ともワニに当たった。
頭部や肩などに、命中したが運悪く右目に入った奴もいる。
「よし!」
狙撃班長 大津2曹はスコープを覗きながらガッポーズをした。
撃ち込んだ痲酔は、よくアフリカ象を数分で眠らせるほど強力な物だ。
しかも、改良を加え体内に入ると数秒で麻痺させる効果まで付け加えている。
4匹は、すぐに動かなくなってしまった。
「おぉ!スッゲェ!」
瀬川は、その様子を見て感嘆した。
透かさず、狙撃班は第2段を放つ。
「惜しい!」
瀬川は、舌打ちをした。
残りのワニが、持っていた盾でガードしたのだ。
盾は、木製でちょうど身体がすっぽり隠れる程の大きさだ。
普通なら、弾丸一発で盾ごと射殺できる。
だが、使っているのは痲酔弾だ。
傷を付けるぐらいで、身体に影響は無い。
2小隊が、山岡の命令で発砲し始めた。
(駄目だ!盾で、防御されてやがる!)
瀬川は、引き金に指を入れ深呼吸をした。
盾を構え、二足歩行でじっくりと距離を縮める。
速さより、身の安全を優先したのだ。
(あいつら、学習しやがったんだ)
瀬川は瞬時に判断したワニを見てこれ以上、痲酔は無理だと思った。
”奥のリザードマン”は、痲酔でのたうち回る同胞を見てすぐに盾を構えさせた。
別に、時間など気になどしていない。
ただ、確実に"目的"を果たせば良いだけだ。
”他の”リザードマン達は、産まれた時からそう"調教"されている。
自分達の前にいる、人間種族を殺す。
いや、喰らわせる。
その後で、ゆっくりと捜せば良い。
奴等が使う武器は、盾が有ればどうと言う事は無い。
さぁ、腹ごしらえだ。
先頭のリザードマンが、白線を越えた。
その、瞬間だった。
前から、聴こえて来ていた音が変わった。
一瞬にして、盾に無数の穴が空いたと思ったら先頭にいた同胞が崩れ堕ちた。
「・・・・越えたぞ!良し!撃ち方始め!!」
眼鏡を見ていた橋本が、すぐに命令を発した。
瀬川は、前に立つワニの身体中心部を狙い引き金を引いた。
続いて、湯川、浅野、小西と安本や木元達3曹も射撃した。
それに、釣られ他の前衛小隊も射殺に参加しだしたのだった。
瀬川が、最初に狙ったのは勿論のこと先頭を走るバカなワニだ。
瀬川の初撃は、ワニの手前に外れた。
だが、双葉や木元といった陸曹達は正確な射撃により命中させる。
無残に盾が、破壊され先頭のワニは回避することすらできずに絶命する。
「瀬川!無駄弾、使うな!」
「す、すいません!?」
双葉の罵声に、瀬川は背に汗を流しまた構え発砲した。
今度は、上手く2匹目に当たった。
自信は、無いがたぶん。
なんせ、3個小隊が一斉に射撃しているのだ。
前方は、弾丸の嵐。
自分が、撃った弾など解り難い。
そんな状況でも、4中隊の面々は後ろの4匹に当てなかった。
自衛隊は、定期的に射撃訓練を行う。
その内容は、数百メートル離れている的に当てるものだ。
中央からら外側に向け点数が低くなっている。
その、点数の上下により個人に級が与えられるのだ。
これが、簡単そうで難しい。
しかも、連隊の定める級は1級である。
隊員達は、落ちればまた別の日に射撃し1級を取るまで錬成させられる。
その為、瀬川達の射撃能力はそれかなりにに上手い。
弾幕の中、一体また一体とリザードマンは射殺されていく。
「ち、ちょっと!?」
「はい?」
東は、耳を押さえながら長谷川に声をかけた。
「後ろの!」
「すいません!もう少し、大きな声でお願いします!」
鳴り響く発砲音の中、長谷川は手を耳にしながら聞き返した。
「あんなに、撃って無力化した"子"達に怪我したらどうするのよ!!」
東は、名一杯に怒気を交えて叫んだ。
(あのワニの怪物を、"子達"かよ)
長谷川は、怒りも呆れも通り越し尊敬してしまった。
東は、この政策によって将来的に強い実権を握る。
後ろ立ては、アメリカ・中国・フランスだ。
そもそも、この3ヵ国が東に異世界動物保護法を命令した様なものだ。
彼女の今後の、政治家人生を全面支援という条件付きで。
その為には、何が何でも捕獲しなければならない。
しかし、長谷川は勿論この事を知らない。
「安心して見てください!ウチの隊員達は、みな無力化している動物には一発も当てていません!」
東は、それを確認し長谷川に振り返った。
「もしも、死なせたりしてみなさい!その時は、クビよ!いいこと!」
(そんな権力、あんたに無いだろう)
長谷川は、頭痛がした。
「おっと、山田!撃ち方止め!」
すぐに、命令は全小隊に下達された。
「撃ち方止め!止めだ!撃つな!」
橋本が、叫ぶように言った。
「チィ!おまえら、止めろ!」
次第に辺りは、静けさを取り戻していった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
8匹中、4匹無力化 4匹射殺。
「・・・了解」
橋本は、無線機を直すと2小隊の面々を見た。
「これより、各小隊2名出し死亡・安全確認をする」
橋本は、告げられた任務を語っていく。
「1・2・3小隊は、後方の無力化した生物。迫・対戦は手前の生物の死亡確認だ。うちからは、木元3曹、土方3曹」
木元と恐持ての男性 土方は、頷いた。
木元達は、隣の小隊の2名とハンドサインをしながら前進した。
その光景を見ながら瀬川は何時でも射撃できる態勢をしていた。
「・・・瀬川士長。妙だと思いませんか?」
「ん?何が?」
瀬川は、浅野の問に応えた。
「いえ、勘違いだと思うんですけど・・・」
浅野は、口を濁した。
「言えよ。気になるだろ?」
「はい。実は、気付いた事が有るんです」
浅野が、喋ろうとした。
「安全が、確保された。お前ら、前に出るぞ」
橋本が、前進命令を出した。
浅野は、また後でと言った。
(何なんだ?まぁ、いっか)
その時、瀬川はそんなに気にする事なく命令に従い前進した。
第2小隊は、一番奥に延びているワニの移送準備に掛かった。
まず、専用の大型車両を誘導しワニの側に着ける。
そして、中から鎖を出し念のため身体に巻き付ける。
後は、ゲージに入れ搬送する。
「よし、瀬川。もういいぞ。本来の任務に、戻れ」
双葉は、進行状況を見てこれ以上の人員は要らないと判断した。
付け加え、浅野と湯川の2名も下げる事にした。
(さて、武器輸送の続きか)
瀬川は、そそくさと第2警戒区の輸送班に合流した。
ちょうど戻った時に、高杉が戻って来た。
彼も、自分の小隊で事に臨んでいたのだ。
「いやー。参ったなぜ!輸送任務から、そのまま戦闘に参加させられるなんてな〜。でも、スッカってしたぜ!」
高杉は、まんざらでもない顔で言った。
「まぁな」
瀬川も、久しぶりに闘って結構興奮していた。
やはり、脳からドーパミンとか出ていたらしい。
瀬川は、ちらっと第1警戒区を見た。
そこには、アリエル達の姿が有った。
(良かった)
大柴ならともかく、難波が居たから大丈夫と思っいた。
「全員、異常は無いですか?」
すると、輸送班の長 高柳1曹が声をかけた。
これには、瀬川達は異常が無い事を伝えた。
「そうですか、ならこのまま駐屯地に帰隊します。ああ、4中隊の二人は私と残って弾薬を補充してから帰隊です」
確かに、先の戦闘でかなり無駄撃ちをしたせいかどうやら心もたないようだ。
今なら、回収した弾薬を返せば時間を節約できるだろう。
自衛隊は、弾の補充さえ手続きやらで時間を喰うのだ。
「LAVと大型に乗った弾薬ならちょうどいいでしょう。瀬川士長、大型の運転を頼みます」
「自分が!ですか!?」
瀬川は、驚いた。
部隊の方で、練成はしているがあんまり上手くない。
なのに、任せられたのは3トン半の大型だ。
瀬川は自教以来、乗っていない。
「なぁに、大丈夫。すぐ、そこだから。それでは、私は調整に行きます」
高柳は、第1警戒区に車両を持って行くように指示し長谷川の元に行った。
こうして、自衛官達は”リザードマン”との戦闘に勝利した。




