第48話 リザードマン 1
瀬川は、第2警戒区画の待機所に向かっていた。
待機所と言っても、プレハブ小屋が4棟が並んでいるだけだ。
「タツミおにいゃーん!」
「ん?グゥフ!?」
警戒心無く、歩いていたら誰かが瀬川にタックルいや飛び付いて来た。
子供だろうか、ちょうど瀬川の未曾有ちに頭がクリーンヒットしていた。
「ぐ、ググ。あ、アーちゃん?」
瀬川は、苦しみに耐えながら抱き着いてきた少女を見た。
綺麗な長い金髪、蒼い瞳。
そう、異世界から来たアリエルだ。
「何でいんの?」
瀬川は、戸惑いっつ言った。
アリエルは、その身の上から厳重監視の元に別府病院から出られない筈だ。
「わしが、連れてきた」
すると、瀬川の背後から男性の声がした。
振り向くと、初老の男性がニヤニヤしながら立っている。
「あ、中尾教授」
国際調査団の中に、居なかった"クロス・ワールド"の第1発見者中尾 忠昭だ。
中尾は、久しぶりだなと言った。
「何してるんですか?"ホール"の研究は?他の人達、もう第1警戒区画にいますよ?てか、何で、アーちゃんが?」
「まったく、質問をもう少し考えて絞らんか」
瀬川は、中尾の小言にスイマセンでしたと答えた。
「わしの"ホール"の研究は、だいたい終わっておる。後は、連中が勝手にする。それに、わしはメディアが好かん」
中尾は、憎々しげに言いはなった。
過去にさんざん報道によって叩かれた。
それ以来、記者などメディアを嫌いになっていた。
「それに、今は違う研究をしている。勿論、異世界に"コンタクト"を取る為のな」
(・・・コンタクト・・・か)
瀬川は、シエラを思った。
(あと、少しであいつと会えるかも)
動機が、激しくなるのを感じた。
それは、歓喜と期待だった。
「何を、ニヤニヤしとる?」
「ヘェ?あ、いや別に・・・」
どうやら、顔にででいたらしい。
「それで、何でアーちゃ・・・アリエルが?」
「アノネ、私が頼んダの」
アリエルが、不安そうな顔で瀬川を見た。
「お兄ちゃんに、会いたかったの。メイワク?」
(ああ、面会の数減らされたからな)
瀬川は、アリエルが寂しかったのに気付いた。
「・・・、んな事ねぇーよ。俺も、アーちゃんに会いたかったよ〜」
瀬川の兄性本能が、マックスになってしまった。
アリエルは瀬川との面会以来、看護師や学者と会話をするようになっていた。
しかも、積極的に質問や更に文字等を学習していた。
そのお陰で、急速に日本語をマスターしつつある。
最早、日常会話をできるレベルにまで達していた。
言語学者も、アリエルの学習能力に驚きを隠せなかったらしい。
「ヨォ!龍巳」
「あれ?健治。どうして、お前がここに?難波刑事まで?」
大柴が、右手を上げて近付いて来た。
その後ろに、難波の姿もある。
難波は、やっと松葉づえから解放され確りした足取りだ。
「勿論、護衛だよ」
大柴は、明るい口調で言った。
「中尾教授が、その子を連れていくと聞かないからな。上から、俺と大柴が護衛に着くことになったんだよ」
難波が、説明を簡単に捕捉した。
「ふん!あんな病室に、居たんじゃストレスが賜るわい!」
どうやら、中尾が無理を言って連れ出したらしい。
「だいたい、幼い子をなぁ!」
「教授、仕方がないでしょう。この子の存在は、国家機密ですよ?場所だって、もうすぐ良い環境の部屋に移動するんですし」
難波は、やれやれと言った。
「いや本当、まいちゃうよ。今、結構公安が裏で動いてん中で連れてきちゃうんだよ。この人。ほんと、無茶苦茶だよ」
中尾達の会話中、大柴が声を潜め瀬川に愚痴った。
「こら!聴こえとるぞ!若造!」
大柴は、ウヒャと奇声をあげた。
「あ、そろそろ時間が」
瀬川は、時計を見た。
休憩の時間が、終りに近付く。
せっかく、アリエルと会えたのに残念だと瀬川は顔をしかめた。
だが、中尾は気にするなと笑った。
「さっき、お前さんの現場の長に話しは着けた」
(マジで?)
「わしの案内人という、立場だ。さぁ、行くぞ」
中尾は、第1警戒区画に歩き出した。
「え?ちょっと!?」
さすがに、すぐに戻るのは恥ずかしいのだ。
が、中尾はそんな事は知らんと言うようにどんどん進む。
「お兄ちゃん、行こ!」
アリエルは、瀬川の腕を引っ張った。
その後ろに、難波と大柴が続く。
「どうすんですかね?」
大柴は、難波に尋ねた。
「東議員に、文句を言うと意気込んでいるからな。問題が、起きなかければいいが」
二人は、一抹の不安を抱えつつ後を追った。
東 康子は、上機嫌に記者の質問に答えていく。
「ええ、勿論です。保護する事により、世界中の研究者によりその生態系等の研究も可能になります!」
「東議員。一部の関係者からは、捕獲は危険すぎると言う声も有りますが?」
「捕獲では無く、"保護"ですわ」
東は、やんわりと記者の発言を訂正した。
「確かに、各方面では危惧の声が上がっています。むしろ、大多数でしょう」
東は、マイナスを面を告げる。
「当然でしょうね。それだけ、異世界からの化け・・・生物は危険性が高いという事ですから」
「ええ。勿論、危険性も十分に理解していますわ」
記者達は、驚いた。
何せ、否定されると思っていたからだ。
「ですが、だからと言って駆除するのは間違いです。ですから、自衛隊には保護を最優先とし武器による駆除は隊員の"生命に危険がある場合のみ"ですわ」
東は、丁寧に言った。
「ふざけんなよ〜!あ・の・あまぁ〜!」
「だから、落ち着け!双葉!」
双葉を羽交い締めにしながら、橋本が言った。
女だろうが、今の双葉は殴る様な気がしたからだ。
「小隊長!放して下さい!」
橋本を振り払おうと、力を入れる。
「一言!一言、言わないといけないんですよ!ってぇ、てめえら!」
双葉を成田率いる陸士ッズが、橋本に加わった。
「止めろ。絶対に手が出る」
成田は、双葉を説得する。
「成田1曹!あんた、解ってんでしょ!あの議員が、言った事を!」
双葉の言葉に、成田は苦虫を潰した表情になった。
今の発言は、つまり化け物が隊員に襲い掛かり負傷又は死亡した場合。
それのみにしか、銃を使用できない。
使用したとしても、急所を避け足や肩を狙わなければならない。
41連に、下された命令にはこれをオブラートに包んでいた。
「どんな命でも、こちらの都合で一方的に刈り取るのは私が赦しません」
東は、どや顔で言った。
一斉に、カメラのフラッシュが東を包む。
双葉を抑えている第3小隊の面々は、これ以上に余計な事を言うなと思った。
「・・・」
(双葉2曹、相変わらずだな)
その光景を、瀬川は見ていた。
「ふん!な〜にが、こちらの都合で刈り取るだ!」
双葉の怒りを代弁する様に、大きな声がした。
記者達は、一斉に振り返り声の主を見た。
「誰だ?」
「バカ!中尾教授だ!」
「え?"クロス・ワールド現象"の牽引の?」
記者達は、中尾に群がった。
「中尾教授、先程の発言は東議員に対してですか?」
皆、先程の発言に特ダネを期待しからだ。
「教授は、保護法に何かご不満でも?」
次から次へと、質問しだす。
だが、中尾はそれを無視し東の前まで歩いていった。
「あまり、彼方の化け物を舐めない事だ」
「・・・、動物です」
中尾の不敵な笑みに、東は凛とした表情で答えた。
そして、東は哀れみを含んだ溜め息を着いた。
「残念ですわ。中尾教授。牽引とは言え、貴方も無慈悲な人間だったなんて」
「無慈悲?いやいや、生きたまま捕獲して生態系の研究は賛成さね」
捕獲という言葉に、東は眉をひそめた。
「ただな、まだ早いんだよ。危険性ってのが、解らん」
だから、死人が出る前に駆除する必要があると付け加えた。
二人の間に、険悪なムードが漂う。
瀬川は、アリエルと手を繋ぎ固唾を呑んで見ていた。
中尾が、口を開こうとした時だった。
区域内に、突然アラームが響き渡った。
記者達は、何事かと周りを見た。
しかし、自衛隊員達や調査団には緊張が走った。
そうこれこそ、異世界の穴が開く警告音なのだ。
すぐに、調査団は安全区域に走って行く。
隊員達は、自分の迎撃位置に着く。
記者達は、誘導員から事情を説明を受けて現状を理解する。
「さぁ、こちらです」
誘導員が、彼らを安全区域に連れて行こうとした。
だが、滅多に掛かれない機会。
異世界の化け物を、捉える機会。
「・・・おい!金芝、カメラの位置はここだ!」
「はい!」
「うちは、アッチだ!」
各テレビ局のクルーは、誘導員を無視し勝手にカメラポジションを決める。
「ち、ちょっと!」
誘導員が、止めに入る。
「まだか!カメラは?」
「避難して下さい!」
誘導員は、必死に任務を遂行しようと記者の肩を掴む。
だが、「わかった、わかったからほっといてくれ」 と振り払われてしまう始末だ。
その時、東が前に出た。
「皆さん。」
誘導員は、フォローしてくれると期待した。
だが。
「それ以上は、危険が有りますからそこで撮って下さい」
「「え!?」」
これには、誘導員や聞いていた瀬川も驚いた。
「東議員!?」
「あら?構わないじゃない?動物が出て来ても、ここまで来させなければいいじゃない」
東にとって、今から来るのはライオンか熊みたいな"こちらの猛獣程度"の認識なのだ。
ならば、直接報道陣に保護する場面を撮られた方が良い。
そうすれば、自分自身と保護法の絶好なアピールになる。
「健治!アーちゃんを頼む!」
「任せろ!龍巳は?」
「俺は、小隊に戻る」
瀬川は、3小隊の配置位置に走って行った。
瀬川は、武器の回収交換に来たといってもフル装備になっている。
これは、万が一に加勢できる様に連隊で決まっていた。
「お兄ちゃん!気を付けて!」
大柴に手を繋がれたアリエルは、心配そうに言った。
瀬川は、右手を上げて答えた。
「さぁ、教授も」
難波が、先導して走りだした。
「小隊長!」
「瀬川か?よし、よく来た」
橋本は、すぐに瀬川を掌握し2分隊に入れた。
「瀬川ぁ!腕は、鈍ってないないな?」
双葉は、瀬川に89式小銃を渡そうとした。
「待ちなさい!」
東が、大声で叫んだ。
「何を、考えてるの!?保護よ!保護なさい!」
自衛官達が、痲酔銃ではなく小銃を構えるのを見て金切り声で叫んだ。
「チィ」
あからさまに、隊員が舌打ちをする。
「しかし、東議員。我々は、まだ痲酔銃による捕獲訓練を実施していません」
中隊長 長谷川3佐は、すぐに法案を実施するのは無理だと発言する。
「痲酔を装填して、撃つ事はできるのでしょう?」
「ええ、確かにできます。教育は、しましたから」
「なら、それで十分。実行してちょうだい。あと、後ろの物騒な物は使わないで」
東は、後方にあるブローニングM2重機関銃と01ATM3門を指差した。
「いい?これは、異世界動物保護責任者としての命令よ!」
長谷川は、彼女の命令と言う言葉に溜め息を着きたくなった。
自衛官は、職務上では上からの命令には絶対だ。
どれだけ、無茶な物でも遂行しなければならない。
立場的に、東がこの中での一番の権力者だ。
「・・・解りました。ですが、危険は避けたい。よって、KL(kill line)を設けます。動物が、lineを過ぎれば我々はこれを排除します。でなければ、隊員どころか貴女まで危ない」
長谷川は、東を睨み付ける様に提案した。
「・・・解ったわ。ただし、lineは、ギリギリの距離よ。あくまで、保護が目的なのを忘れないで」
東は、気に入らないが渋々同意した。
「・・・了解しました」
長谷川の行動は、速かった。
"ホール"出現地点から、100メートルを捕獲エリアと定めた。
4中隊の狙撃班が、改造しスコープを付けた猟銃で狙う。
勿論、300メートル離れた位置からだ。
一応、200の地点に同じ猟銃を持った1・2小隊が待機してある。
3・迫・対戦小隊は、化け物が100のライン(kill line)を越えた場合の迎撃する。
彼等も、200で待機だ。
瀬川達、3小隊はラインの一番左にいた。
「・・・ふぅ」
瀬川は、緊張を解こうと深呼吸した。
来ると解っていても、慣れないものだった。
一体、どんな化け物が出てくるのだろう。
瀬川は、親指を切り換えレバーに掛ける。
これで、すぐに安全装置を解き射撃できる。
額から、汗が出てくるが今の瀬川には気にならない。
それは、全員に言えた事だった。
今までなら、十分すぎる火器で余裕で勝てた。
だが、半数の武器が取り上げられ玩具の様な銃だ。
「・・・くそぉ!無茶苦茶な命令出しやがって!」
誰かが、悪態を着く。
無言。
皆、同じ気持ちだ。
その時だった、風が吹いて来た。
それは、中央に集まっている。
ここは、ドームの中なのにだ。
本来なら、おかしい。
だが、隊員達は当たり前の様に中央を睨む。
次第に、風が強くなる。
「・・・来るぞ!」
2小隊長 山岡2尉が、眼鏡をかけ直し言った。
「構え・・。」
「シャー!来やがれ!剥製にして、わが小隊部屋のオブジェにしてやれ」
山岡の言葉を遮り、隣にいた対戦車小隊の原2尉が大声を出した。
「・・・原2尉。命令は、捕獲ですよ」
遮られて、イラっとした山岡は原をたしなめた。
「1・2分隊。痲酔弾、装填。構え!」
原は、2小隊の隊員達に向け言った。
「必ず、捕獲エリアで仕留めろ」
2小隊 隊員達は、了解と弾を装填した。
「・・・各小隊、ゴーグルを装着させろ」
長谷川は、伝令に言った。
出現する際、閃光が発生するからだ。
眼を保護する為、グラサンタイプのゴーグルを隊員達に携行させている。
伝令 山田士長は、すぐに無線を使い流した。
「・・・何事も、なければいいが」
「中隊長、大丈夫です。我々には、十分経験があります」
最選任上級曹長 川平曹長が勇気付ける。
その時だった。
突然突風が吹いたと思ったらまるで閃光弾の様な光と共に爆発音が鳴った。
「来たか!?」
長谷川が、前方を睨んだ。
「・・・・五匹?いや、6・・7・・8。八匹だ!?」
ゴーグルを見透し、現れたのは異形のワニだった。




