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第47話 異世界"動物"保護法 2

(・・・ん?)


何気に時計を見る。


8時半。


「・・・やっっっべ!」



戦車の展示物。


よく、TK横と呼ばれ集合場所に使われる。


そこに、本部、2中、3中そして4中の高杉がいる。


各中隊ごと、横隊に並んでいる。


各隊、2名差し出されその数は8名。


いや、一人足りない。


「あ・の・ばか!」


高杉は、苛つきながら携帯を握り絞めた。


何度、携帯に電話しても出ない。


「4中隊の一人は、まだ来ないのかな?」


本部の1曹が、時計を見て言った。


「すいません。すぐに、来ます」


高杉は、ごまかし笑いをした。


「すーいーまーせーーーん!」


そこに、ダッシュで瀬川が駆けつけって来た。


「お前!何してんだよ!」

「はぁ、はぁ、ご、ゴメン!」


瀬川は、肩を揺らしながら言った。


「ゴメンじゃね!だから、お前は後輩にバカにされるんだよ!」

「うっぐ!」


心に、突き刺さる。


「さて、揃った事だし行きますか」


二人のやり取りを、無視して本部の1曹高柳は呆れながら言った。


駐屯地から、数台の車両が列を成し出発する。


正門の前には、多くの報道陣が口々に例の法案について言っている。


それを、高杉は驚きながら見ていた。


こんなに、注目されるのは始めてなのだ。


高杉意外の、各隊員も困惑している。


車両が、信号で停車する度にインタビューを求められる。


その時の対応は、「全て広報班にお願いします」と教育された文句を言う。


ちなみに、瀬川は完全に落ち込んでそれどころでは無かった。


目的地近くに着いたのは、30分も遅れてしまった。




警戒地区、元は自衛隊の演習で用いる演習場だった。


前は、金網のフェイスで一般人の立ち入ら無い様にしていた。


だが、今では高さ約100メートルの壁が聳え立っている。


鋼鉄制で、内側に電流が流れる構造だ。


これは、政府が文部科学省に急遽開発させた品物だ。


専用大型車で、搬送でき簡単に設置する事が可能となっている。


だが、試験はおろか制作時間が短期だった為に強度等は期待できない。


それでも、無いよりはマシだ。


その壁づたいに、4台の自衛隊車両が走っている。


前方から、小型・大型2台・LAVといった順だ。


「どうせ、俺は役に立たない奴ですよ。そりゃ、後輩にバカにされますよ」


瀬川は、LAVの助手席で窓を見ながら呟いていた。


まだ、引きずっているのだ。


回りには、暗いオーラが出ている。


「俺なんか、どうせ・・・」

「・・・。お前、いい加減に気持ち入れ替えろよ」


我慢できなくなったのか、高杉はウンザリし言った。


ずっと、瀬川のダークワールドに付き合っているのだ。


最初は、我慢していたが限界だ。


このままでは、任務に支障が来してしまう。


「くよくよすんなよ。言い過ぎたって、な?今度、合コンを設定してやるから・・・な?」


このままでは、任務に支障が来してしまう。


「・・・いい」

「んだよ!お前さぁ〜、ん?」


高杉は、速度を緩めた。


どうやら、先頭車が第1ゲートに着いたようだ。


瀬川たちは、身分証明書と運行指令書を準備した。


第1ゲート


ゆっくりと、扉が解放していく。


先頭車から、順に表歩哨の隊員達によるチェックを受け入って行く。


勿論、瀬川と高杉も同じ様に入った。


「相変わらず、ここはそんなに変わって無いな」


瀬川は、回りを見ながら言った。


そこは、今までと同じ風景があった。


戦闘訓練場に、射場とすぐ手前に宿舎。


ただ、違うのは遠くまで続く壁。


そして、奥に見えるのは建造途中のドームだ。


それさえ無ければ、今まで通りの場所である。


「・・・、ここだけだからな。奥に行けば行くほど、丸っきり違う景色になってる」


高杉は、寂しそうに眺めた。


今まで、親しんで来た演習場が無くなっていくのだ。


不思議と哀愁が漂って来る。


車両は、指定された場所まで来た。


すぐに、瀬川は降りて誘導する。


「オーライ、オーライ!オー・・・ん?あれは?」


瀬川が気付いた先には、黒のセダンが有った。


どう見ても、この場とは不釣り合いだ。


「おい、瀬川。どうした?」


高杉は、車から身を乗り出して言った。


「あ、ああ。いや、何でも無い。あ、スットプ!」


別に、気にするもんでも無いと頭を切り変えた。


そして、一行は車両の前に並んだ。


「では、これより武器・弾薬の回収及び痲酔銃の配布作業に第2区画に前進します」


高柳1曹は、事後の行動を説明しだした。


「じ後、第1警戒地区で担当中隊の武器を・・・」

「・・・なぁ、瀬川」

「なんだよ?」

「やっぱ、切れてんだろうな〜?」

「・・・ああ。双葉2曹か〜。ん〜、今ごろ文句言ってんだろうな」


瀬川は、引きった顔で言った。




第2警戒区画


「はぁあ〜?これも・・・ですか?」


わざとらしく、双葉は言ってみせた。


5日前に、回収するリスト見ていたがそれでも納得できなかったのだ。


「双葉2曹。すまないが、ここはぐっと我慢してくれ」


橋本は、双葉をたしなめる。


だが、その表情は彼も同じ気持ちだと感じられる。


何故、主力武器の半分も撤収しなければならないのか?

生存率を下げてまで、捕獲する意味があるのか?


みんな、声には出さないが不安が広がっていた。


「・・・まったく、上からの命令とは言え呆れますね」


そこに、大柄な体格をした成田が来た。


「小隊長。第2分隊の返納武器の準備が、終わりました」

「ご苦労様、成田1曹」


橋本は、成田の敬礼に答礼で返した。


そして、双葉を見た。


「ハァ〜。第1分隊も、とっくに終了してます」


双葉は、ため息混じりで言った。


例え、納得できない命令でも素早く確実に実行するのが自衛官だ。


「よし。山田」

「はい」


橋本は、横にる小隊通信手の山田から受信機を受け取った。


「マルマル、マルマル、マルサン、送レ」

『こちら、マルマル。送レ』


暫くして、無線機から返答が来た。


橋本は、作業が終了した事を中隊本部に報告した。


「あーあ。なんか、めんどくさいスッね〜」

「しょうがねーよ。これが、上の提案だからな」


その光景を見ながら、タバコを吸っている二人組がいた。


湯川と浅野だ。


一連の作業を終え、休憩をしている。


二人の肩には、一等陸士の階級が付けられていた。


「浅野さん、身体の方は大丈夫なんスッか?」

「ああ、ありがとう湯川。大丈夫だよ。あと、そろそろ敬語は止めてよ。同期だろ?」

「できないッス。だって、浅野さん歳上じゃないッスか〜」


湯川は、軽い性格だがそこら辺は律儀な奴だった。


浅野は、湯川より一つ歳が上だった。


「よぉ」


「「お疲れ様です」」


すると、三人の陸士長がタバコを吸いに来た。


右の太っているのが、早川。


真ん中の細目のが、小西。


そして、見るからにイケメンなのが安本だ。


早川、小西、安本、山田、浅野、湯川。


ここに、瀬川がいれば第3小隊陸士がそろう。


ちなみに、瀬川がこの中で先任陸士である。


理由は、期が一番上だからだ。


「何々?お前ら、先輩より先に休憩ってどういうこと?」


早川が、わざとらしく絡んで来た。


「すんませーん」


湯川は、ダルそうに答えた。


正直、湯川はあまり早川好きじゃない。


絡みが、ウザイからである。


「かぁ〜、俺が一士の頃はなぁ」

「お〜い、早川。あまり後輩を弄るなよ」


安本が、早川を制止した。


「そう言えば、弾薬交換に瀬川士長が来るんだったけ?」


タバコに火を付けて、思い出した様に小西が言った。


「瀬川士長がですか?」


浅野は、少し驚いて言った。


「ん?知らなかったのか?」


安本は、浅野の反応を見て言った。


「へぇー。あの人、特別勤務から戻って来るんだ」


早川は、あんまり興味が無かったが言った。


「まぁ、瀬川士長が戻るとしてもあんまり変わらないでしょ」


むしろ、何かやらかして怒られるだろっと早川は付け加えた。


「瀬川士長スッからね〜」


湯川も、乗ってきた。


「・・・ちよっと、待って下さい」


それを、聞いて浅野は不服そうに言った。


「瀬川士長を悪く言うのは、止めて下さい」


浅野の発言に、早川はきょとんとした。


「ああ、確か浅野は前にあの人に助けられたけ?」


小西が、浅野を見て言った。


「はい」


あれ以来、浅野は瀬川を尊敬している。


「ん〜。考えれば、瀬川士長って始めの化け物から結構活躍してるな」


安本は、考えながら言った。


オオトカゲに、化け物狼。


瀬川は、どちらも単独で貢献していた。


「・・・なんで、表彰されないんだろうな?」


命令違反を差し引いても、功労賞ぐらいはなる筈だ。


なのに、変わりにボイラーやらの特別勤務に回された。


勿論、表向きの話だ。


(何か、理由が有るのか?)


安本は、眉を潜めた。


本人がいれば、訊けるかもしれない。


「おお、こんな所に、いたのか」

「あ、瀬川士長」


瀬川が、笑みを浮かべ近寄ってきた。


「皆、久しぶりやな」

「誰ッスか?えっ?何中隊の人ッスか?」

「泣くぞ?湯川?」


湯川のボケに、素早く反応した。


「冗談ッスよ〜」

「お疲れ様でーす」

「ウッース」

「瀬川士長」


それぞれ、瀬川に挨拶を交わす。


「なんか、差し入れ持って来てないんですか?できれば、甘いやつ!」

「早川、お前いつも食いもんばっかりだな?少しは、痩せろよ」


早川の肉脇腹を、強引に引っ張る。


「イッタタタタ!ちょっ、イッタイ!」


抵抗するが、瀬川は離さない。


「変わらないですね」


安本は、タバコの煙を吐きながら笑った。


「たり前だろ?人間、2〜3ヶ月で変わらねーよ」


瀬川は、早川の肉を離した。


「瀬川士長、いつ中隊に戻って来るんですか?」

「ん〜。まだ、解らんね〜。早く、中隊に復帰したいなぁ」


瀬川は、浅野の質問に頭を掻きながら答えた。


「まぁ、戻っても瀬川士長ができることはあまり無いでしょうけど」

「おい、小西」


小西の発言に、安本が注意した。


安本は、両手を上げ事実だろうと言い返した。


「気にしないで下さい。小西の余計な一言は、いつもの事でしょう?」

「ん?あ、ああ。気にして・・・無いよ」


後半の瀬川の声は、低かった。


((ああ、気にしてるな。))


その場にいる全員が、瀬川の心情に気付いた。


と、その時だった。


「クゥラアアー!瀬川!来たなら、とっと小隊長に報告に来んかー!」


双葉の怒鳴り声で、瀬川は身が縮んだ。


下手したら、オークやドラゴンなどより恐怖を感じてしまった。


「ス、ス、ス、スイマセン!」


瀬川は、全力走って行った。


それを、見つめる陸士達。


あ〜あ、またやちまったよこの人と言った表情だった。


「お前、自分が最先任士長って解とるんか?ああ?」


双葉の説教は、10分に及んだ。


(ああ、絶対に例の条約の鬱憤をぶつけてるな。)


瀬川は、いつもどうり反省した表情で聞き流す。


「だいたいな!」


(早く、終わってくれないかな?)


まだ、あともう10分は続くと思った。


だが、意外と早く救いの手はやって来た。


「そこの貴方、何を騒いでるの?」


それは、双葉の後ろから聞こえてきた。


女性の声だ。


「まったく、"保護"法が始まると言うのに」

「・・・これは、これは」


双葉が、ウンザリする様に振り向いた。


「大変、お見苦しい所をお見せしまして」


(ん?あっ!この人、テレビに写ていった!確か・・・)


「申し訳御座いません。"東議員"」


不機嫌そうに、声のトーンを低くし言った。


そう、この女性こそ問題極まりない法を作った張本人。


衆議院 東 華子だ。


彼女の後ろには、秘書が二人と横に41連隊長 大上と本部の幹部数名がいた。


勿論、我らが中隊長長谷川3佐と各小隊長の姿もある。


「ところで、作業はどこまで終わってるのかしら?」

「はっ、今の所は約70パーセントは交換が完了しています」


長谷川の説明を受け、東議員は腕時計を見た。


「ふぅ〜ん。70ねぇ。これなら、充分に間に合うわね」


東の呟きに大上が、口を開いた。


「ぎ、議員。やはり、考え直してはどうでしょうか?」

「何がですか?大上連隊長?」


大上は、軽く目眩がした。


(こ、この人は)


「い、いえ。この第1警戒区域に報道陣を入れる件です」

「あら、そんな事?何故、考え直す必要があるの?・・・・いい?これは、世間にとってまたとない宣伝なのよ」


(せ、宣伝?)


その場にいる自衛官達は、戸惑った。


「一つは、自衛隊がちゃんと法案通りしているというアピール」

「アピールですか?」

「ええ、できれば取材中に出て来ないかしら?保護する絵を流したいわ」


大上は、あまりの事に足が崩れそうになった。


「そして、異世界の動物イコール狂暴である"誤解"を解く為よ」


東が言うには、"彼等"は興奮している為に暴れいるだけと語った。


その為に、痲酔や鎮静剤で捕獲し保護施設に移送するらしい。


最早、隊員から乾いた笑いすら出てくる。


「し、しかし、もうすぐ調査団が来る上に報道陣まで入れてしまえばもし何か有った場合」


大上は、一度間を空け意見具申をした。


「現状の我々の装備では、対処が難しいんです」


大上は、不安事項を並べた。


まず、武器の半分を減らされた事により強力な生物にどこまで対処できるか。


痲酔の効果は、どこまで有効なのか。


また、痲酔を撃ち込む専用銃の練度が日が浅いこと。


銃は、猟友会などが使用する猟銃だ。


これでは、連発制が期待できない。


口に出さないが、猟友会にでも依頼した方がマシだ。


「他にも・・・」

「もう、言い訳は結構」


東が大上の言葉を、遮った。


「しかし」

「貴方達、自衛隊は悪まで任務を遂行しなさい。その為に、日頃から鍛えているのでしょう?」


まさに、丸投げだった。


成功すれば、東の株が上がる。


だが、失敗したならば自衛隊の責任と言っている様にしか聞こえない。


「・・・」

「双葉!お、落ち着け!」


双葉が、東に近付こうとした所を成田が後ろから抑えた。


(ああ、爆発寸前だ〜)


瀬川は、しばらく双葉を避けようと決意した。


「そろそろ、時間ね。それでは、後はお願いね」


東は、腕時計を見て周りの反応に気付かずに歩き出した。


「ん?あ、もしかして調査団が来たのか?」


瀬川は、メインゲートから来る集団に気付いた。


それは、調査団の他に報道陣が混ざっていた。


どうやら、調査団にインタビューしながら移動している様だ。


「・・・あれ?中尾のオッサンがいねぇ」


瀬川は、集団の中に中尾が居ない事に気付いた。


「・・・じゃあ、俺は作業に戻ります」


瀬川は、橋本に敬礼するとメインゲートの向こうにある車両に歩き出した。


(なんか、ある意味スッゴい人だったな)


瀬川は、あそこまで自分の意見を通した東に感心してしまった。



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