第45話 バーガントの悲願
「このガラクタは、なんですのよ?」
「さあ?ボクにも、さっぱりここに来る前にラムさんが無理矢理乗せたんです」
ラムは、二人を無視してそれを転がす。
しかし、重いので中々動かせないようだ。
「何してんのよ!手伝って!」
ラムに、怒鳴られシエラ達は渋々協力する。
その間、ゾンビ達がゆっくりと近付いて来ていた。
それは、重い響きと共に地面に落ちた。
「よし!次は、これから離れるわよ!」
ラムは、ロニキスに指示した。
「わ、解りました」
馬車が、走り出した。
「貴女、いい加減に説明してちょうだい!あれは、何?どうするつもり!?」
レイナは、ラムに怒鳴った。
「も〜う。うるさいわね〜。あんな、化け物をほっとけるわけないでしょ。だから、アレで"一網打尽"にするのよ」
ラムは、得意気に答えた。
「アレで?」
「そう。あの"フハツダン"って言うのでね」
ラムは、弓を構えた。
自衛隊の演出場では時々、特科が射撃をする。
勿論、安全を考慮している。
砲弾弾着地域は、立ち入り禁止になっている区域だ。
そこに、特科は榴弾を落とす。
殆どは、爆発するのだがたまに不発するものある。
ほんとんど、ほっといて射撃を続け誘爆させる。
たまに、不発弾処理の資格を有する隊員達が動く。
ラムは、そんな一つをあろうことか持ち帰ったのだ。
「さぁ、そろそろちょうど良い距離ね。風の精霊が言うには、結構な音がするらしいから耳を塞いでた方が良いわよ?」
「?」
ラムの言葉の意味が解らないまま、一同は耳を塞いた。
「・・・フゥ」
ラムは、一呼吸置き矢を放った。
放たれた矢は、風の魔法で強化され不発弾に命中した。
通常、少しでの衝撃では爆発しない。
しかし、不発弾はいつ爆発してもおかくない品物である。
それを、揺れる馬車で運んだり無造作に地面に落としたり。
爆発物処理班が、見ていたら泡を吹いてしまう扱いだ。
不発弾は、一瞬の間を空き爆発した。
「キャああ!?」
「ウゥゥ!?」
「ロニキス君!?」
その破壊力は、今まで体験した事が無いシエラ達にとって驚愕でしかない。
ゾンビ達は、破片効果や熱で全てまとめて爆砕。
衝撃破により、馬がひっくり返った。
それにより、馬車が転倒してしまった。
投げ出されそうになったロニキスを、シエラは掴んで引き寄せた。
それから、シエラの意識が途切れた。
どのくらい経っただろう。
シエラは、眼を開けた。
目の前に、黒い煙が見えた。
周囲に、ゾンビの姿が無い。
(・・・助かったの?)
シエラは、自分が少しだけ気絶していたのを理解した。
「イッ痛、た、た、た、もぉ〜。予想以上の威力だったわね〜」
ラムは、頭を押さえ言った。
「い、今のは、炎の魔法ですの?」
レイナも、痛そうに言った。
シエラだげが、今のが魔法とは思わなかった。
普通の炎魔法は、どんなに高等魔法でも燃え広がるだけだ。
あれは、燃えたと言うより一瞬に破壊した。
あれは、あきらかに"この世界"の物ではない。
「ん、んん〜」
腕の中にいるロニキスが、意識を取り戻した。
「ロニキス君!」
シエラは、一気に考えが吹き飛びロニキスを心配した。
「し、シエラ・・・さん?」
「良かった〜。怪我は、無い?」
ロニキスは、首を縦に上下し答えた。
シエラは、安心した。
「・・・フフ。これで、君を抱き締めるのは二度目だね。他の子達は?」
「危ないから、村のはずれに・・・」
ロニキスは、少し顔を赤くし答えた。
その答えを聞き、シエラは安堵の溜め息をついた。
その時、風が吹いてラムの表情が変わった。
「・・・・!?・・・そう、やっぱりこの原因は"アイツ"だったのね」
ラムは、独り言の様に呟いた。
「どうしましたの?」
レイナは、不信に思いラムに話し掛けた。
「何でも無いわ。・・・・ゴメン。わたし、用事があるからここで失礼するわ」
ラムは、馬車から降りた。
「この子、貰ってくわ。じゃあ、縁が合ったらまた会いましょう」
ラムは、馬車に繋がれた馬の一頭を器用に離し股がった。
「ま、待って!ラムさん、聞きたい事が!」
シエラは、慌てて言った。
だが、ラムはすでに馬を駆けて行った後だった。
(自衛隊の事を・・・タツミの事を聞きたかったのに・・・。)
バーガントは、一人暗い森の中にいた。
「・・・・」
彼は、木の根本に馬を繋いでいる。
その縄を解いて、黙々と出発の準備を進めていく。
「・・・さて、行くとするか」
バーガントは、呟いた。
目的としては、高台から見ていた通りだ。
標的のシエラは、死ななかった。
あと少しで、思わぬ援軍が来たからだ。
また、あの人間・・クルーズが小言を言ってくるだろう。
ハーガントは、鬱陶しく感じた。
"悲願"を達成する為とはいえ、気分が悪くなってしまう。
今、教団内は非常にピリピリしている。
近々、教団の計画の第一段階が成功するからである。
(まぁ、興味は無いが。)
バーガントは、馬に股がろうと手を伸ばした。
その時
バーガントの目の前に、矢が飛んできた。
矢は、彼のギリギリを通り木に刺さった。
「・・・随分、久しぶりだな。・・・ラム」
バーガントは、少し笑いながら言った。
「ええ、そうね。バーガント」
バーガントの後ろから、ラムの声がした。
その声は、先ほどシエラ達としていた様な明るいものではない。
「・・・何十年ぶりだろうな・・・」
バーガントは、振り返ろうとした。
「動かないで!」
矢を引く音が、聴こえた。
「・・・やれやれ、"実の兄"に対して酷いな」
バーガントは、わざとらしく溜め息をついた。
「お生憎様。わたしは、あんたをもう兄とは思って無いわ」
ラムは、冷たく言った。
「バーガント、質問に答えなさい。・・・何を、犠牲にしてあの村の住人を生き返らせたの?」
「よく、ここにいると解ったな。ああ、なるほど。遂に、お前も精霊の声が聴こえる様になったか」
「黙りなさい!早く、わたしの質問に答えて!」
ラムは、怒鳴った。
「簡単だ。たぶん、お前が思っている通りだよ」
バーガントは、つまらない様に言った。
「やっぱり、同胞を犠牲にしたのね!」
予想が、適中しラムは歯を食い縛った。
反魂の儀式には、生け贄が必要と知っていた。
だが、まさか同胞であるエルフを・・・いや・・・バーガントだからこそ予想が当たったのだ。
「ああ、そうだ。全ては、"願い"の為に・・だよ」
「バーガント・・・。だから、父さんや母さん・・・村の人々を・・・殺したの?」
ラムの声は、震えていた。
「・・・・そうだ。全ては、彼女を・・・"由利子"を"この世界"で生き返らせる為にだ!」
バーガントは、振り返って言った。
「どうかしてる」
「・・・、自覚はしているさ」
「彼女は、貴方の"夢の中の存在"なのよ?現実を見てよ」
ラムは、哀しそうに言った。
「フッ。そうだな。だが、"由利子"は確かにいる。居たんだ」
その声が、合図か突然空からグリフォンがラムに襲い掛かった。
「くっ!?」
グリフォンが、前足の爪で切り裂くまえにラムは右に跳んで避けた。
「グリフォン!?」
ラムは、すぐに弓を構え様とした。
しかし、バーガントはそれを許さなかった。
ラムの手首に向け、短剣を投げ付けたのだ。
「キャア!」
短剣は、ラムの手首を刺さりはしなかったが矢を落とすのには十分だった。
グリフォンに股がり振り返った。
「奥の手は、隠すものだな。我が妹、ラムよ。・・・!?その弓、その服・・・まさか・・・"渦"の向こうに行ったのか?」
バーガントは、初めて妹を見た。
「フッ、フハハハ!その世界こそ、"由利子"がいた世界だ!"世界の拮抗"を崩したかいがあったぞ!」
バーガントは、確信を持った様に言った。
「・・・バーガント!」
「ラム。次に会うときは、殺す。いいな、警告はしたぞ」
グリフォンは、翼を広げ大空に羽ばたいた。
「待ちなさい!バーガント!」
ラムは、叫んだ。
その叫びは、虚空に響いた。




