第44話 脱出
シエラは、半年前に瀬川から熱く語られた事を思い出したのだ。
確か、"てれびげーむ"と言う物で"ばいお○ざーど"を買ったというものだ。
内容は、死者が甦り生者を襲って来る町を脱出するだのと言っていた。
その死者が、ゾンビと言う名前だった。
「さて、これからどうしましょう?下は、ゾンビ。そして、・・・」
「村だと思っていら急に、廃村になった。・・・でしょ?ボク、頭がおかしくなりそうだよ」
シエラは、窓を見た。
「・・・こ、これは!?」
外の風景を見た瞬間、シエラは驚愕した。
村全体に、薄く紅い光で描かれた魔法陣が組上がっていたのだ。
しかも、その魔法陣を見た事が有ったのだ。
「"反魂の儀式"」
「なんですって!?」
レイナは、その言葉を聞き驚いて外を見た。
数日前、王国の真ん中で地竜"グランドラゴン"を甦そうとした地竜教の秘術。
グラン ドラゴニードが、シエラの前で展開した魔法陣だった。
「そ、そんな、バカな」
「それじゃ、このゾンビ達は儀式で甦った人間ですの!?」
シエラは、まるで胃を誰かに握られているような感じになった。
本来、竜を甦す為の魔法を人間で試した。
その結果が、ゾンビである。
「誰が・・・誰が、こんな事を!?」
(まさか、地竜教の残党?)
「・・・シエラ」
レイナは、シエラを呼んだ。
「地竜教の残党だけでは、なさそうですわよ」
レイナは、何かに気付いた様だった。
「どういう事?」
「これだけ大掛かりな魔法陣をわたくし達が、今まで気付かなかった」
レイナは、落ち着きながら言った。
「おかしいと思わなくて?」
「た、確かに」
「そして、この廃村。・・・これは、仮説ですがこの村には"竜の秘術"が"二つ"使われたのでわなくて?」
「二つ?」
レイナは、どんどん冷静になっていく。
「3年前に、アークから聞いたのを思い出しましたわ」
「アークから?」
レイナは、肯定し話しを続けた。
「アークの第1隊が、バレシア地方で竜教を追い詰めた話し有りましたわね」
「う、うん。確か・・・"幻竜教"だったね」
シエラは、徐々に思い出して来た。
竜教の中で最も秘匿性が高く、教団の尻尾さえ掴めないのが"幻竜教"だ。
それを、アーク率いる白鳳凰騎士団第1隊"イーリス"があっと一歩で壊滅まで追い込んだ。
しかし、一息というところで逃してしまった。
「アークは、教団が隠れ蓑にしている廃村を攻撃したんだよね」
「ええ。でも、結果は逃げられ・・・。それどころか、イーリスの騎士数名が行方不明になった」
シエラも、知っている。
後日、アークは消えた部下を捜して見付けた。
だが、見付けた騎士達は何かに怯え廃人になっていたらしい。
「でも、レイナ。なんで、その話を?」
「アークがわたくしに愚痴を言っていましたの。報告書の中で、一部が信用されなかったと」
当初、レイナも信じられず聞き流していた。
「内容は、こう。自分達は、幻竜教の治めていた"村"に襲撃をした。そして、教団の騎士と戦った」
シエラは、疑問に思った。
「村だって?廃村だったんじゃ?」
「戦いは、イーリスの優勢だったらしいですわ。ですが、突然村の風景がまるで"霧が晴れるように変貌"したそうですわ。」
気付けば、倒した敵の姿も無くアークは混乱したそうだ。
彼は、何らかの魔法だと思った。
だが、幻を扱う魔法は存在しない。
王宮魔導士にも、相談した。が、やはり曖昧な現象を起こすのは無理だと判明した。
そして、正規に報告書を書いて渡したが信じてもらえず書き直した。
シエラは、その話を聞いて気付いた。
「それって、もしかして竜の」
「ええ。しかも、先程の現象とそっくり」
「そんな、だれがこんな大掛かりな」
シエラは、視線を感じ外を見た。
その時だ。
小高い丘に、一人の男の姿があった。
遠くからでも、その男は全身を赤のローブに身を包んでいるのが解る。
シエラは、その男が何者か気付いた。
「・・・"バーガント"」
「なんですって!」
小さい声で、呟いた。
それは、ただの直感だったが何故かシエラには解ったのだ。
王女を誘拐し、エルフの里を襲わせたエルフ。
そして、今この現状を作りだしたのは奴一人によるものだと。
「・・・お前は、何がしたいんだ?バーガント」
シエラは、苛立ちながら言った。
馬車は、猛スピードで走っている。
ロニキスは、手綱を強く握り締めていた。
(一刻でも、早くあの村から遠ざからないと)
「さあ!早く、走るんだ」
ロニキスは、声を振り絞って言った。
計画とは、少し違うが上手く逃げ出す事ができた。
だが、ロニキスの心は浮かない。
逃げ出す?違う、あの二人は自分達を逃がしてくれたのだ。
身の危険を感じていながら、自分達の安全を第一に考え。
ロニキスは、今の考えを振り払う様に頭を降った。
(違う!違う違う違う!人間を、信用するな)
そう、言い聞かせるがどうしてもシエラとレイナの顔が離れない。
「・・・ロニキスお兄ちゃん」
後ろから、パルが声を掛けた。
「どうした?何か、あったか?」
ロニキスは、馬車を止めて振り返った。
(乱暴な運転だったから、怪我をさせてしまったか?)
「パル?気分でも悪いのか?」
ロニキスは、心配して馬車を止めた。
パルは、心配そうな顔をして何か言いたがっていた。
よく見れば、パル以外の子達も同じ表情をしている。
「皆、どうしたんだ?」
「・・・ねぇ。お姉ちゃん達を・・・、助けに行こうよ」
パルが、皆を代表して言った。
「・・・パル」
「そうだよ!助けに行こ」
「あのお姉ちゃん達は、他の人間種族とは違うよ」
「・・・・アイリ、レックス」
パルが、言ったのを始めとし口々にロニキスを説得し始めた。
「・・・駄目だ」
だが、ロニキスはそんな提案を却下した。
「どうしてさ。ロニキス兄ちゃんも、もう解ってるだろ!」
リンクが、馬車の後ろを指差して怒鳴った。
そこは、ボロボロになっていた。
シエラが一生懸命に鉄格子を外した跡だ。
「良し!皆、これでスッキリしたでしょ?」
シエラは、最後の鉄格子を外した時に笑顔で言っていた。
ロニキスは、その時の笑顔を思い出した。
「赤髪のお姉ちゃんだって、何だかんだ言って私達を気にしてたでしょ?」
ナタが、言った通りだ。
レイナは、ずっと自分達の体調を考え馬車を走らせていた。
「・・・確かに、お前達の言う通りだよ。あの人達は、他の人間種族とは違う」
ロニキスは、認めた。
認めざる、おえなかった。
「じゃあ」
パルは、助けに行くのを期待した。
「・・・でも、駄目だ」
だが、ロニキスからでた答えは違うものだった。
「そんな、どうして?」
正直、ロニキスも助けに行きたい。
だが。
「危険だからさ。」
そう、全員の安全が第一なのだ。
年長者は、ロニキス一人。
だから、責任がある。
「いいか?もし、お前達に何かあったら僕は父さん達に顔向けできない。それに、僕らが助けに行ったところでかえって足を引っ張るだけだ」
ロニキスは、拳を握り締めた。
重苦しい空気が、漂う。
「あら?そこに居るのは、エルフ?珍しいわね。こんな所で、同胞に会えるなんて」
静寂を破ったのは、若い女性の声だった。
「誰だ!?」
ロニキスは、振り返って警戒した。
そこに居たのは、一人のエルフだ。
(いつの間に!?)
今まで、気配を感じなかった。
まるで、突然に現れた様だった。
「しかも、子供だけじゃない。あんた達、どうしたのよ?」
女性は、驚いている。
妙な女性だ。
それが、ロニキスの第一印象だ。
ヒラヒラなマント?のような上着の中に、身体のラインがくっきりわかる服を着ている。
そして、丈夫そうなピチピチな青いズボンを履いている。
腰には、それこそ今まで見たことが無い弓がある。
「里を、抜け出した。・・・・訳じゃなさそうね。何が有ったの?ああ、私はラムって言うの」
女性は、取り合えず名乗った。
「・・・・」
「黙りじゃあ、解んないわよ」
ラムは、眉にシワを寄せて頬を膨らまし言った。
警戒するのは、仕方が無いだろう。
「あっそ。私で、良かったら力になってあげようと思ったのに要らないみたいね」
ラムは、溜め息をつき後ろを向いた。
「まっ、待って下さい」
ロニキスは、慌ててラムを呼び止めた。
怪しが、他に頼りになる人は居ない。
「お、恩人を助けたいんです。お願いします。力を・・・力を貸してください」
ロニキスは、頭を下げて懇願した。
「・・・」
(ダメか?)
ラムは、ゆっくりと振り返った。
その顔は、まんまと引っ掛かったなと言わんばかりの笑みだ。
「最初から、そう言いなさいよ」
ラムは、満足そうに言った。
(・・・ほんとに、信用していいのかな?)
ロニキスは、一抹の不安を覚えた。
「"アッチの世界"から帰って早々、面白い事になったわね」
「?」
ラムの発言に、ロニキスは首を傾げた。
「ああ、気にしないで。さぁ、行くわよ。途中で、状況を簡単に説明して」
ラムは、馬車に乗った。
馬車は、反転し走り出した。
ロニキスの眼には、迷いが無い。
自然と、力が入る。
バーガントは、静かに成り行きを鑑賞している。
「・・・ほぅ。どうやら、気付かれたようだ」
風車小屋に逃げ込んだシエラが、此方を睨んでいる。
バーガントは、別に焦らなかった。
あの二人は、ここで死ぬだろう。
風車小屋が、倒壊するのも時間の問題だ。
「目的は、果たせそうだ。・・・しかし・・・フム」
バーガントは、右手で顎を押さえてゾンビを観察した。
彼が、赤竜教のクルーズから受けた命令はシエラを殺すこと。
それは、達成できる。
だが、彼の本当の目的に関しては小成功と言ったところだ。
「知性が無い。有るのは、食欲か。」
地竜教の秘術を使い、甦した人間。
完璧に生き返るどころか、すぐに肉体は腐り涎を垂らし歩き続ける。
「原因は、肉体に生命を与え過ぎたか?」
小さい器に、大量の物を入れる。
それが、適量ならば問題は無い。
しかし、限界に入れれば器はすぐに壊れる。
「あれだけの、"人数"ではダメか」
バーガントは、大量のゾンビを見ながら嘆息した。
「知性は・・・簡単だな。おそらく、"命"しか入っていないからか。やはり、"魂"までは無理だったか」
そして、バーガントはまぁいいと呟き背中から弓矢を出して構えた。
実験は、まずまずだった。
後は、そろそろ主賓には消えてもらう。
彼の周りに、風が集まる。
次第に、風は矢先に集中する。
「・・・亡者の餌になるがいい。シエラ ローズ」
バーガントは、呟き矢を放った。
大きな揺れが、風車小屋を襲った。
「な、なんなんですの!?」
レイナは、柱に掴まった。
危うく、下に落ちるところだった。
「奴だ!」
シエラは、低い姿勢で揺れを耐えた。
「奴が、ここを狙ってるんだ!」
シエラは、忌々しそうに言った。
「あんな場所から!?」
レイナは、驚いた。
いくら、魔法で強化しようとも正確にこの小屋を狙うのはむずかしい。
できるとすれば、それこそ名の通ったアーチャーかエルフ・・・。
「まさか!?奴が、バーガントですの!?」
小屋は最早、倒壊寸前だ。
もう一撃、あの攻撃をされれば崩れる。
瓦礫の下敷きになるか、ゾンビに喰われるか。
どちらも、良い死に方とは言えない。
「どうすれば」
シエラが、考えるより先にバーガントが最後のとどめを放った。
(ヤバイ!)
シエラは、自身の死を覚悟した。
が、レイナは素早く窓際に移動すると炎の魔法を唱えた。
「万象の理、戦騎なる炎の精霊、汝に、願いを。灼熱たる汝の炎を借り、我が俄然の敵を焼き付くせ!」
先程の様に、炎が焼き尽くす。
焼き尽くしたのは、放たれた矢だ。
「レイナ」
「喜んでる場合じゃ無くてよ!」
レイナの、言った通りだ。
これで、魔力は尽きた。
つまり、打つ手が無くなったのだ。
「こうなったら、下に降りて戦おう」
シエラは、周りを見渡した。
防いだが、小屋は崩れ始めた。
どちらにしても、下に行くなら戦って活路を開くしかない。
「シエラ、これを」
レイナは、シエラに落ちていた物を渡した。
錆びれた桑だ。
「折れた剣よりマシでしょう?」
確かに、リーチが長く今のより有利だ。
「仕方が無いね」
シエラは、嘆息して言った。
「ロニキス君達、大丈夫かな?」
シエラは、心配しながら言った。
「あの子達なら、とっくに安全な場所にいるわよ。それより、自分の心配をしなさい」
レイナは、呆れてため息をついた。
「そうだね。さて、じゃあ。あそこで、高みの見物をしている最低な奴に僕らの足掻きを見せ付けてやろう」
シエラは、皮肉を言った。
「そうですわね。ついでに、捕まえれれば解決でしょうけど」
レイナは、冗談を呟いた。
そして、二人は下にいるゾンビ達に意識を集中した。
知能が無いのなら、何処かに隙がある筈である。
しかし、ゾンビは小屋にギッチリと入って来る。
「レイナ、先の発言だけど・・」
シエラは、申し訳なさそうに言った。
「解ってますわよ
レイナも下で戦うのは、無理だと判断した。
揺れが、始まった。
小屋が、崩壊しだしたのだ。
上から、木屑が落ちる。
「もう、小屋が耐えられない!」
「くっ!こんな所で、死ぬなんて!」
シエラとレイナは、死を覚悟した。
(タツミ!)
シエラは、瀬川の名前を叫びそうになった。
その時だった。
「シエラさん!レイナさん!」
外から、二人を呼ぶ声が聞こえた。
「ロニキス君!?」
外を見れば、ロニキスが馬車で必死に叫んでいた。
「こっちです!早く、跳んで下さい!」
ロニキスは、手を振って言った。
馬車と小屋の距離は、大分開いている。
人間の跳躍で、何とかなる距離では無い。
「なにやってるんだ!早く、逃げるんだ!」
シエラは、叫んだ。
幸い、ゾンビはまだ小屋に集中しロニキスには気づいていない。
「いいから、早く跳んで!」
ロニキスは、必死に言った。
「貴方、バカですの!届く距離では、無くてよ!」
「大丈夫です!信じて下さい!」
ロニキスは、叫びながら言った。
「信じろって、言われても・・・。キャ!」
更に、揺れが大きくなった。
倒れそうになったレイナを、シエラが支えた。
「・・・レイナ。跳ぼう」
シエラは、覚悟を決めた。
「貴女、本気ですの!?」
「どうせ、このままでいたら潰れるだけだよ。ロニキス君を信じよう」
レイナは、溜め息をついた。
「まったく、ローズ家の人間は無謀ばっかりですわね。
「カーチス家だって、結構無茶するじゃないか」
二人は、自然と笑った。
「それに、まだやる事が残ってる。バーガントを捕まえて、アリエル様を見付けないと。それに・・」
「妄想の中の恋人に会う・・・、でしょ?」
レイナは、バカにしたように言った。
図星だが、妄想では無い。
「そろそろ、現実を見なさいよ」
レイナは、意地悪い表情で言った。
「ふん!タツミは、ちゃんといるもん」
シエラは、頬を膨らました。
「なにやってるんですか!早く、小屋が崩れる!」
二人は、ロニキスの言葉で少し反省した。
「行くよ!」
「転落死したら、一生呪いますわよ!」
シエラとレイナは、覚悟を決めて窓から全力で跳んだ。
二人の身体が、宙を舞う。
そして、重力により落下する。
「うっ!」
内臓が、押し上げられている様な感覚だ。
地面が、近付く。
(大丈夫!)
シエラは、ロニキスを信じ身体の力を抜く。
すると、風が二人を包んだ。
二人は、まるで空を飛んでいる様な感じだった。
風が、馬車の近付くに導いて行く。
そして、二人は馬車の目の前に着地した。
「シエラさん!レイナさん!」
ロニキスは、二人を心配した。
「だ、大丈夫だよ」
「今のは、風の魔法ですの?」
二人は、呆気に取られた。
「そうよ。怪我は、無いわね」
馬車からラムが、降りて来た。
「あ、貴女は?」
シエラは、見知らないエルフに訪ねた。
「何者ですの?」
レイナは、当然ラムを警戒している。
「ん〜ん。私は、通りすがりのエルフよ。名前は、ラムよ。よろしく」
「ら、ラムさん!自己紹介は、良いから早くお二人を乗せて下さい!」
ロニキスは、慌てて言った。
風車小屋が、完全に崩れ外にいるゾンビが馬車に近付いてきた。
「大丈夫よ。ちょうど、"自衛隊"の訓練場から役に立ちそうな物を拾って来たのよ」
「はぁ?」
「ジエイタイ?貴女、何を言ってるの?」
レイナとロニキスは、聞き慣れない言葉に戸惑った。
(ジエイタイだって!?
)
シエラだけは、違った。
自衛隊、瀬川が所属する異世界の兵団。
「あ、あの!ラムさん!」
「さぁ、奥に積み込んだ荷物を出すわよ。ほら、あんた達も手伝いなさい」
ラムが、馬車の奥を指差した。
そこに有ったのは、黒く錆び付いた大きな鉄の塊だった。




