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第40話 警官の意地と剣

「アーちゃん、大丈夫か?」


瀬川は、アリエルの手を繋ぎ走っていた。


「ハァハァ、・・・ウン。」


アリエルは、息を切らせながら言った。


自衛官である瀬川の体力は、そもそも一般人とは違う。


勿論、龍也や警官の大柴も息切れしていない。


アリエルの事を考えて走っているが、子供には辛い。


「頑張れ!あと少しで、出口に着く!」


瀬川は、励ました。


それに、対しアリエルは笑顔で答えた。


(クソ!無理してやがる!)


瀬川は、アリエルを抱き抱え再度走り出した。


「キャー!」

「な、なんだ?あれ?」

「こっちに、来るぞ!?」


瀬川達が、エントランスに着いた時だった。


そこには、一般人が悲鳴を上げ出口に殺到している。


「なんだ!?げっ!」


大柴は、周りを見た。


壁や天井に、ググールが張り付いていた。


「ちっ!まだ、居たのか!」


龍也は、忌々しそうに言った。


(警官隊は?機動隊は?


大柴は、視線を出入口に向けた。


何とか、入ろうと努力をしている。


だが、殺到した客のせいで館内に入れない状況だった。


ググールは、その間にも瀬川達に迫っている。


瀬川は、周りを見回す。


すると、従業員用のドアが目に入った。


「オイ!此方だ!」


ドアを開けて、龍也達を誘導し。


ググールは、今のところ客に手を出していない。


むしろ、何かを探してるようだった。


先程、襲われてエントランスに着いたら奴等が近づいて来た。


(だぶん、俺らを狙ってやがる!)


四人は、ドアに入ると目の前の階段を駆け上がった。


「オイ!どこに、繋がっているのか解ってるのか?」


龍也は、後方を警戒しなが言った。


「知るか!適当だよ!バカ!兎に角、上がれ!」


瀬川は、抱き抱えたまま駆け上って行く。


階段を昇ったら、またドアがあった。


ドアを開けて、入るとそこは一本の長い通路だった。


周りには、パイプが連なっており鋼網目の地面の下には水面が見える。


どうやら、ここは水槽の真上らしい。


龍也は、入ってきたドアを閉め取手に落ちていたパイプを挟んだ。


「ハァ、ハァ、ハァ。何なんだ?あの化け物は?」

「ググール・・・だってよ。」

「え、何?ググール?」


四人は、壁にもたれ掛かり一息着いた。


「ああ。先、ア−ちゃんが指差して言ってた。」


瀬川は、アリエルの頭を撫でた。


「・・・っぅー事は、アレは"異界の魔物"って事?」


大柴は、額の汗を拭きながら言った。


「健治!警護は、大丈夫って言ってなかったか?」


龍也は、黒のジヤケットを脱いで抗議した。


「ちょちょ!待ってよ!警備体勢は、ばっちりだったんだよ!」


大柴は、スーツのネクタイを緩めた。


「け、けどさぁ〜。」

「何だ?」

「まさか、化け物が来るなんて思わないしょ?」


大柴が言うには、この警備は対工作員で作られているらしい。


「だからって、あんなもんを見過ごすか?」


瀬川は、疑問に思った。


何故、ググールは厳戒体勢の中で見付からずに入れたのか。


それどころか、どうやってうみたまごに来たのか。


最低でも、五匹以上は居る。


「そんなの、知らないよ!」


大柴は、キレた。


「オニィチャン。・・・・。」

「ん?どうした?」

「ググール、『・・・・!』


アリエルは、何か知っているようだった。


だが、瀬川達に伝達できる程まだ日本語を習得していない。


「兎に角、外の機動隊が来るまでここで隠れていよう。」


大柴は、一呼吸置いて言った。


「ああ。・・・あの二人は、大丈夫か?」


龍也は、クラゲコーナーで足止めをした二人が気になった。


「大丈夫、大丈夫。河堂さんも松山さんも、ウチの中ではツートップの猛者だから。心配無いよ。」


大柴は、落ち着いて言った。


「あ〜あ、早く応援来ないかな〜。・・・ん?水・・・滴?」


大柴の肩に、何か粘っこい何かが落ちてきた。


瀬川達は、ゆっくりと大柴の上を見上げた。


そこには、半透明の"何かが"居た。


まるで、映画のプレデターを思わせる。


そう、・・・その正体は。


「・・・ググール!?」

「避けろ!?龍巳!」


ググールは、瀬川とアリエルに飛び掛かった。


瀬川は、瞬時にアリエルを両腕で掴むと上半身を捻り爪を避けた。


「ぐっ!」


だが、爪は瀬川の右腕をかすめた。


「ウワアアア!」


大柴は、脇のホルダーから拳銃を出して三発発砲した。


「グシャアア!」


弾丸は、ググールの背中に命中し怯んだ。


「ウオオ−!」


その隙に、龍也はググールに体当りをした。


ググールは、仰向きに倒れ動きまくった。


「龍巳!立て!逃げるぞ!」


大柴が、アリエルを抱き抱え龍也が瀬川を引っ張って通路を走った。


瀬川の右腕から、真っ赤な血が出ている。


折角の白い革ジャンが、台無しだ。


「チクショー!イテェ!」


瀬川は、悪態を着いた。


「あいつら、プレデターかっての!」


大柴は、後ろ見ながら言った。


すると、後方で破壊音が聞こえた。


破壊されたドアから、ググールが2匹入ってきた。


これで、化け物は3匹になってしまった。


「げ!?増えた!勘弁してよ!」


大柴は、後ろを確認してうんざりした。


「おい!健治!銃があるなら、足止めしろ!」


龍也は、怒鳴った。


「無茶、言うな!1匹ならまだしも、3匹だぞ!」


大柴は、断固拒否した。


もはや、四人は走り続けるしか無かった。



クラゲコーナー


河堂と松山は、限界に近かった。


いくら、拳銃があるからと言って当たらなければ意味が無い。


しかも、弾ももう無い。


「河堂巡査。ヤバイ・・・ですよね?」


松山は、ググールを睨みながら言った。


「・・・ルセェ。」


河堂は、短切に言った。


二人は、あれから何とか2匹仕留める事ができた。


だが、ラスト1匹で手詰まりになってしまった。


「・・・肉弾戦・・か?」

「え?冗談ですよね!?私、嫌ですよ?勝てる気しませんし、何より触りたくないです!」


松山は、河堂が冗談を言ってると思った。


だが、河堂の眼は本気だった。


「・・・行くぞ。3・・・2・・。」

「え?ちょ!?」


松山に拒否権は、無いようだ。


「・・1!」

「ああ!どうにでも、なれ!」


松山は、女は根性と気合いを入れた。


二人は、ググールに向かって走りだした。


その時、ググールと二人の間に何か投げ込まれた。


それは、白い煙を出して当り一面を白く染めた。


「松山!?催涙ガスだ!」


河堂は、松山としゃがんで口を抑えた。


すぐに、出入口から盾を持った機動隊が突入した。


機動隊は、ググールを囲む。


ググールは、催涙ガスの影響でもがいている。


「おいおい、マジかよ。」

「うぇ〜、気味悪りぃ〜。」


機動隊員の中から、そんな声が出た。


「つべこべ、言うな!構え!」


この号令で、盾の隙間から警官達が銃を構えた。


のたうち回るググールには、もはや避ける余裕が無い。


一瞬のうちに、ググールは蜂の巣になった。


「二人とも、大丈夫だったか?」


難破が、河堂達に近づいて言った。


「警部、遅いですよ。給料、上げて下さい。」


河堂は、壁にもたれて言った。


「上に、相談してやる。」


難破は、河堂の言葉に笑ながら答える。


「そう言えば、対象と客達は?」

「客なら、すでに避難させた。大柴達は、どうやら清掃用のエリアに向かったらしい。」

難破は、瀬川達を見た客に聞いた事を告げた。


「何匹か、追っていたそうだ。SATを向かわせ保護する。」


難破は、すぐに自分も追うと言った。


「なら、俺達も行きますよ。」

「え!?私もですか?」

「バカ。大柴が、一人でキバッてるんだぞ?」

「うぅ〜、わかりました。」


松山は、諦めた様に言った。


「難破警部、弾ください。」


難破は、止めても無駄と判断した。


三人は、瀬川達が通った従業員用のドアに走った。


そこには、普通の警察とは違う黒ずくめの集団がいた。


防弾チョッキには、SATとネームが着いている。


彼らの手には、H&K USPと言う拳銃が握られている。


先頭にいる隊員が、難破に敬礼した。


「未確認は、最低でも3匹は侵入していると思われる。未確認は、我々で対処する。」


どうやら、班長らしい。


「わかりました。そちらは、お任せします。」


難破は、軽く頭を下げ言った。


SAT隊員の班長の、指揮で難破達は中へ入った。


中の状況は、難破の想像以上だった。


至る所に、爪の跡が残っており先に行くドアすら破壊されていた。


階段を昇り、辺りを警戒しながら前進する。


ふっと、難破は下を向いた。


「これは?」

「どうした?難破巡査長?」


難破は、右手で床を触った。


そして、SAT班長に見せた。


「・・・血・・・か。」


班長は、眉をひそめ言った。


「ええ。ここで、一度襲われたらしいですね。」

「難破さん。」


河堂が、難破を呼んだ。


「ここにも、血痕らしいのが有ります。」


河堂が指差した先には、見たことが無い緑の液体だった。


「・・・何故、それが血痕だと?」


SATの質問に、河堂は少し考えた。


「いえね。匂いが、血の様に鉄臭いし。あとは、勘・・・って奴ですかね。」


つまりは、ほぼ勘と言う事だ。


その時、難破の携帯が鳴った。


「・・・難破だ。どうした?・・・何?・・・そうか・・・わかった・・・それで・・・ああ。引き続き、頼む。」

「どうしたんですか?」


松山は、気にしながら言った。


「ん?ああ。また、エントランスに出たらしい。」

「ええ!?」

「松山、落ち着け。」


難破は、片手で松山を落ち着かせた。。


「今、機動隊と制服警官が囲んで追い詰めているから問題無い。」


松山は、難破の説明を聞いて安心した。


「・・・しかし、こうも複数体出てくると一体何匹いるのか解らないですね。・・・対処・・・できますかね?」


河堂が言った一言で、その場にいる全員が黙った。


自分達、警察の力では解決できないかもしれない。


「やはり、自衛隊の出動要請しかないのか。」


誰かが、呟いた。


「・・・。」

「・・・。」


沈黙が、包む。


「・・・・今、ヤれることをヤるしかない。」


難破は、力強く言った。


「いいか?今、ここにいるのは俺達だけだ。自衛隊に要請したって今さら時間がかかる。」


難破は、まるで励ますかのように続ける。


「しかも、対象者の一人が負傷している。」


難破の言葉に、力が入る。


「事態は、一刻も争う。なぁ、世間に見せ付けてやろう。俺達、警察の力を!!」


前回の怪物(オークと地竜)事件から、メディアは自衛隊の活躍を大々的に報じていた。


世間は、自衛隊に期待し注目を集めている。


一方、警察の方はと言うとあんまり芳しくない。


最初に、怪物に立ち向かったが歯が立たず。


市民を、避難誘導させただけ。


警護をしていた時でさえ、市民から不安の声が上がった。


「自衛隊は、まだか?」

「あんたらじゃ、頼りない。」

「警察は、安全な場所に居るだけじゃないか!」


現場にいた警官達は、憤りを感じた。


その場に、河堂や松山もいた。


「・・・・やりましょう。」


松山は、覚悟が決まった眼をした。


河堂も、同じだ。


難破は、満足しSAT達を見た。


隊員達も、何を今更と言う眼をしている。


「さぁ、行くぞ!」


難破達は、走りだした。





「はぁ、はぁ、くっ!」


瀬川は、肩を押さえながら走っていた。


「オニィチャン。」


アリエルが、心配そうに見ている。


「大丈夫だ。」


瀬川は、笑った。


「・・・追って来ていない?」


龍也は、後ろを見た。


確かに、先程まで2匹のググールの姿がない。


「諦めたんじゃない?」


大柴は、期待しながら言った。


「・・・いや、それは無いな。」


龍也は、否定した。


「あれだけ、しつこく追って来たんだ。今更、諦める筈は無いだろう?」


龍也は、周りを見た。


天井には、無数のパイプ。


開けた場所に、自分達がいる橋。


下には、水槽。


龍也は、下を覗いた。


(・・・どうやら、サメの水槽だな。)


真下には、興奮しているホホジロザメ。


理由は、簡単だ。


先から、瀬川の腕から血が水槽の中に落ちてるからだ。


今、命に別状は無いが早く医者に見せないと後々障害が残る可能性がある。


(早く、この場から脱出しないとな。)


龍也は、瀬川を見た。


「何だ?じろじろ、見て?」

「別に、ほら。止血しろ。」


龍也は、足下にある丁度いいゴム紐を取って渡した。


瀬川は、すぐに腕を縛った。


「ん?どうした?アーちゃん?」


アリエルが、ブツブツと言って両手を瀬川の腕にかざした。


「何だ?」

「何々?」

「・・・ん!?」

「「!?」」


三人は、驚いた。


両手から、淡く光ったと思ったら瀬川の怪我が塞がっていく。


まるで、ビデオの逆再生を見ている様だ。


「おいおい、冗談だろ?」

「スッゲー!特殊能力!?」


光は、すぐに消えた。


怪我は、完全にでは無いが少なくとも血は止まっていた。


「・・・お、おい。龍己、腕・・・!」


瀬川は、2・3回腕を動かした。


「お、おう。何か、まだ痛むけどマジで大丈夫だ。」


瀬川は、龍也の質問に答えた。


(・・・まさか、これが"魔法"てやつか?)


瀬川は、シエラから魔法の存在を聞いていた。


しかし、実際に見るまでは半信半疑だった。


すると、急にアリエルが倒れた。


「アーちゃん!?」


大柴は、慌ててアリエルを掴んだ。


「・・・大丈夫みたいだ。気を失ってるだけみたい。」


大柴の言葉に、瀬川は安心した。


その時、だった。


大柴の後ろから、爪が襲ってきた。


「建治!?」

「え?」


大柴が、振り向いた。


(あ・・・コイツら、姿が消せんだった。死んだ・・・俺。)


大柴は、避ける事ができないと諦めた。


爪は、大柴の頭を切り裂く。


筈だった。


ググールの爪が、大柴を捉える直前。


天井から、有り得ない物が落ちて来た。


それは、ググールの腕に突き刺さった。


「・・・へえ?」


大柴は、気の抜けた声を出した。


「龍也!」

「解っている!」


瀬川が、動いた。


瀬川につられて、龍也も駆け出した。


"それ"が、何なのかよく解らないままに。


いや、"それ"が何なのか一応解る。


ただ、どこから?

本物なのか?


二人は、もはやその疑問を抱く前に"それ"を抜いた。


その"2本の剣"を。


瀬川は、"細身の刀身に純白の羽をモチーフにした鍔をした剣"を。


龍也は、"純白の翼をモチーフにした鍔のレイピア"を。


そして、ググールの剥き出しの脳に突き刺した。


最初は、暴れたがすぐに身体が痙攣を起こした。


二人は、更に剣を突き刺す。


刀身は、頭を突き抜けている。


二人の手に、何かを砕いた様な感触がある。


たぶん、ググールの脳髄を破壊したのだろう。


そのまま、倒れやがて動かなくなった。


鼓動も、停止した。


しかし、二人は力を抜かなかった。


剣から、命が無くなるのを感じても。


「・・・・。」

「・・・・。」


いきなり、乾いた音が聞こえた。


その瞬間、二人の間に高速の何かが通った。


しかも、四発。


「!?」

「建治?」


二人は、同時に大柴を見た。


大柴は、震える両手で拳銃を握っていた。


銃口からは、煙が出ている。


二人は、銃口の先を見た。


そこには、もう1匹のググールがゆっくりと下に落ちっていった。


すぐに、水槽に落ちる音が聞こえた。


そして、ググールの遺体に群がるホホジロザメ。


(・・・終わった?)


瀬川の身体から、力が抜けていく。



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