第4話 邪竜教
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ありがとうございます。
もうすぐ、夜が明ける。
シエラは、サタヤの村で休憩をとった後すぐにバチスと部下達と共にエターロへ向けて馬を走らせていた。
「よし!もうすぐ森を抜けてエターロに着く!」 「隊長!落ち着いて下さい!無茶は禁物ですよ!」
気合いが入っているシエラに、バチスが釘を指す。
「わかってるて。」
シエラは、自分を心配してくれるバチスに笑顔で答えた。
「今日は、やけに余裕ですね。どうしたんです?」
「別に、サタヤで休んで元気になっただけさ♪」
バチスの問いに、イタズラした子どもの様に答えた。
シエラは、昨夜の夢を思い出した。
タツミに、励まされた。 タツミに、抱き締められた。
口づけは、未遂に終わったが。
しかし、それだけでもシエラには十分幸せだった。
だが、その気持ちは一本の矢によって一蹴された。
「くっ!?」
「隊長!」
矢は、明らかにシエラを狙ったものだった。
しかし、紙一重でシエラは矢をかわした。
「僕は、大丈夫だ!」
「誰だ!出てこい、姿を見せろ!」
バチスは、シエラに怪我が無いか確認した後に矢が放たれた方向に怒鳴った。
茂みから、黒のマントを羽織った男達が現れた。
全員、竜の顔を型どった仮面を着けている。
「貴様ら、邪竜教か!?」
全員、竜の顔を型どった仮面を着けている。
「貴様ら、邪竜教か!?」
バチスが、言った邪竜教とは人に仇なす竜を神として敬い崇める信教である。
そもそも、竜とはこの世界では邪悪な存在であり人々の恐怖の対象だ。
中位種でも、国の一つの大軍ですら倒せるかわからない存在であり上位種ではもはや天災と呼ぶしかない。
しかも、すべての竜の鱗には魔法を打ち消す力がある。
教徒達は、そんな圧倒的な竜を神そのものであると信じきっている。
生け贄を捧げる為に竜を、人里まで誘導したり自ら生け贄になる事さえある。
「愚かなる者達よ。我等が神の邪魔は、させんぞ!」
中央の男が、言うなり黒ずくめの男達は一斉に剣を抜いた。
「・・・その言葉!地竜グランドラゴンをエターロに向かわせたのは、お前達か!」
シエラは、忌々しげに言うなり剣を抜いた。
「隊長、あの仮面の形からして言うまでも無く地竜信教徒のようですな。」
バチスは、剣を抜き小声でシエラに言った。
邪竜教は、一つではない。
地竜を主神として奉る地竜教。
火竜を主神として奉る火竜教や氷竜教など同じ竜教でも、神として崇める竜が違うのだ。
竜教同士でも、その違いから殺し合うこともある。
しかし、共通している事がある それは、どの竜教も神に近づく為に人を誘拐し生きたまま人肉を食ってしまうのである。
「神に逆らう愚者に、裁きの牙を!」
高らかに声をあげ、邪教徒達は一斉に襲いかかった。
一人の教徒が、剣を振りかぶりながらシエラに向け突っ込んで来た。
しかし、シエラは剣先を教徒に向け魔力を集中する。
「風の精霊よ。我が声を聞きその風を刃と成して敵を切り刻まん。」
呪文を唱えるなり、突っ込んできた男の周りに風が鎌鼬となり襲いかっかた。
「ぐわぁぁあ!」
男の身体は、一瞬にしてズタズタになった。
「全員!馬上から降りるんだ!」
敵を一人倒し、全員に馬を降りるように指示をした。
森の中で、馬に乗ったままでは不利になると判断したからだ。
騎士達は、シエラの指示を聞き馬から降り白兵戦に臨んだ。
バチスは、大剣を振りかぶり一気に降った。
大剣は、二人の男達の胴を真っ二つにした。
「さぁ!胴体を斬られたい者は前に出ろ!」
バチスは、大声を挙げて挑発した。
にも関わらず敵は、怯みもせずバチスへと剣を構え向かってくる。
バチスは、溜め息をついた。
信者は、死ぬ事を恐れない。
全ては、主である神の為に。
死ぬとしても、神の一部として転生できると盲信しているからだ。
だから、どんに残忍になれる。
到底、理解できない思考だ。
(理解したくもないが。)
「地竜神の為に!」
(吐き気がする。)
シエラは、降り下ろされた剣を自分の剣で受け素早く身体を反転するとともに背後をとり敵を切りつけた。
目の前の敵が倒れたと同時に今度は、槍を構えた新手が向かってくる。
それを、右にかわし剣を首に突き立てた。
「何!!くっ」
首に突き刺した瞬間、男は持っていた槍を捨てシエラの剣を掴んだ。
動くけないシエラの後ろから、敵が殺意を向けて剣を振るおうとした。
「隊長!!」
シエラに凶刃が届く前に、バチスが大剣を水平にし敵を突き刺した。
「隊長!御怪我は?」
「ハァハァハァ。・・・僕は、大丈夫。」
バチスは、少しも息を挙げていなかった。
流石は、多くの戦場を生きてきた騎士だ。
余裕さえ感じるバチスをシエラは、心から尊敬と感謝を感じる。
(ほんと、羨ましいよ。)
ちょっぴり、羨ましいのもある。
「ハァハァ・・・み・・皆は?」
周りを見ると、騎士達は負傷した者もいるが死者はなく敵を押していた。
シエラは常々、部下達に敵と闘う時は仲間を守り必ず生き残れと命じてある。
通常、騎士の戦いは数列の横隊になり一対一で戦う。
疲れた者は指揮官の指示で後方で休み、また戦うというローテーションである。
指揮官では、死ぬまで前方に出し続ける最悪な者もいる。
その為、騎士達は生き残る為に日頃から己れの戦技を磨く。
しかし、シエラの隊は後方へ下がる判断は戦っている者の後ろの騎士に任せてある。
さらに、負傷した者は後方で待機している二名をもって救援する。
これにより、第4隊は今まで死んだ者がいない。
今回のような戦いでも、お互いに助け合った結果だ。
「よし!皆!あと、少しだ!」
シエラは、掴んで絶命した敵の手を振りほどくと部下達を激励した。
それに、騎士達は雄叫びを挙げて答える。
それでも邪竜教徒達は、士気が下がらず襲いかかっる。
「まったく、しつこい奴等だ!」
シエラは、悪態を吐いて剣を構え直した。
男が二人、騎士団と邪竜教の戦いをきりたった崖の上から傍観していた。
紅い鎧を着込み、顔を赤い竜の仮面で隠してある。
二人は、邪竜教・・・赤竜教である。
「・・・・。愚かな奴等だ。・・・、自分達の神が我等の実験にされているとも知らずに。」
一人が、冷笑な笑みを浮かべた。
「クルーズ様、そろそろ移動しましょう。もうすぐ、地竜がこちらに戻る頃です。」
傍らにいる男が、頭を下げ言った。
「・・・。そうだな、アレが無事に向こう側から戻れたなら実験は成功だ。」
二人は、戦いを後にし歩きだした。
「まったく、奴等には感謝して貰いたいものだな。未開の地とはいえ、贄が豊肥な場所に送ってやた事を。」
「ええ、その通りです。ですが、成功すれば。」
クルーズと呼ばれた男性は、従者の言葉の続きを言った。
その言葉を残し、クルーズ達は馬に乗り去っていった。
「ち・・・地竜様!!」
最後の一人が天を仰いで、息を引きとった。
「ハァハァハァ、やっと片付いた。」
シエラは、息を切らせながら剣を鞘に納めた。
薄々、今回の事件に竜教が絡んでいると思っていたがまさか襲撃されるとは思わなかったのだ。
「隊長、部下達に戦死者はでていません。」
「そうか。よかった。」
バチスの報告を聞き、安心した。
しかし、地竜教の為に時間が奪われた。
焦りが、シエラを襲った。
「くそ!このままじゃ、エターロに着くのは昼過ぎだ!」
偵察団の話しでは、地竜どもがエターロに着くのは明朝。
すでに、日は昇っていた。
たとえ、行ってもそこには無惨に破壊された街並みだけだろう。
(僕らじゃ、何もできないの?)
自分は、無力だ。
シエラは、うつむいた。
無力感と絶望感が湧き出てきた。
「隊長!行きましょう!」
その時、騎士の一人がシエラに言った。
「そうですよ!きっとまだ、生存者がいますよ!」
「地竜がいれば、俺が倒しますぜ!」
「ば〜か。お前なんか、一瞬で喰われちまうよ!」
騎士達は、口々にいせいのいい言葉を言った。
バチスは、溜め息をついた。
どんな、状況下でもこの騎士隊は希望を捨てない。
バチスは、部下達を誇った。
「・・・隊長。行きましょう。エターロへ。まだ、私たちにできる事がありますよ。」
バチスは、シエラの肩に手を置き言った。
「・・・みんな!・・・・ゴメン。僕が、諦めちゃ駄目だよね!行こう!エターロへ!」
シエラは、そう言うと馬に股がり駆け出した。
騎士達も、シエラに続く。
シエラ達は、混乱していた。
地竜教の襲撃にあったのだからグランドラゴンはエターロを襲う筈である。
半壊した街並み、傷付いた人びと、おびただしい死体を覚悟していた。
が、目の前のエターロはいったて平穏そのものだ。
「・・・どういう事だ?」
「知るか!俺に聞くなよ。」
「まさか、デタラメか?」
「いや。だが、地竜教に襲われたんだし。」
騎士達は、口々に言い合った。
「・・・まさか、奴等はおとりか?」
シエラは、疑問に思った事を素直に言った。
「・・・確かに、こちらに偽の情報を与えエターロに集中させ・・・」
「・・・その隙に、地竜はクロエスに向かわせた。」
バチスの推測にシエラは、言葉を続けた。
それに、バチスは肯定した。
「レナ達が、危ない!すぐにクロエスに行こう!」
「隊長!今からでは、間に合いません!」
バチスの言う通りだ。
ここから、クロエスまで三日間かかる。
「でも、このまま黙ってる事はできないよ!」
「大丈夫です。レナ殿も我等、第4隊の仲間です。それに、彼女は高位の魔法使い。彼女なら、上手くやります。・・・信じましょう!」
シエラは、バチスの言葉に納得した。
納得するしか今はなかったのだ。
自分を含め、騎士達と馬は疲労困憊している。
部下達や、馬を回復させなければならない。
今日は、エターロに泊まり明朝にクロエスに前進するしかないというバチスの提案にシエラは同意した。
「何事ですかな?なぜ、白鳳凰騎士団が我がエターロに?」
シエラ達は、エターロに入り街を治める藩主邸を訪れていた。
シエラを迎えたのは、歳は30歳後半になるだろうという太った男だった。
「申し訳ありません。エターロ藩主 レイベス侯爵殿。実は・・・・。」
そこは、なんとも広く見事な彫刻や家具等が置いてある部屋だった。
シエラは、 レイベスと呼ばれた男性に今までの経緯を話した。
「なんですと!?エターロにグランドラゴンが!」
「はい。ですが、それはどうやら地竜教の偽情報。本物は、クロエスにいる可能が大きいんです。」
シエラの話しを聞き、レイベスは当初驚きはしたものの安心したのか溜め息ををした。
エターロは、貿易都市である。
王国の端にあり、シーケンス公国やサマエル帝国との道等の街道が交わる交通の要衝として栄えた。
その為、エターロは貿易・外交の中心になり王国には欠かせない都市となっていた。
藩主 レイベスは、父親亡き後一人息子の彼がその座に着いて10年以上である。
「そうですか。解りました。今日は、どうかみなさん我が屋敷で休まれて下さい。」
レイベスは、快く宿の提供を申し出た。
「お心遣い、感謝します。」
シエラは、右手を左肩に添え敬礼した。
「隊長、どうですか?」
シエラが、部屋の外に出ると待っていたバチスが話しかけてきた。
「うん。大丈夫。宿を提供してくれるって。」
シエラの言葉を聞き、バチスは安心した。
「でも、まだグランドラゴンがクロエスにいないとは限らない。」
それには、バチスもうなずいた。
警戒するに越したことはない。
「バチス、すぐに今夜の警戒の人員編成を作ってくれ。僕は、数人連れてエターロの周辺を探索してみる。」
「解りました。くれぐれも・・・」
「大丈夫、無茶はしないよ。」
(タツミとの、約束も有るしね。)
そう言って、シエラは数分後に三人の部下を引き連れ屋敷を出ていった。
クロエス近郊
「・・・これは、どういう事でしょう?」
ブロンドの髪を靡かせ、騎士団従事魔術士レナは大きい足跡を見ていた。
ここまで、妨害も無くクロエスまで来れた。
途中で、オークと地竜の足跡を発見した。
「レナ様!やはり足跡は、ここで消えています!」
部下の騎士が、偵察より戻りレナに報告した。
「そんな事は、ありえません!地竜が、飛んだとでも言うのですか?」
レナは、魔術に携わる者としてあり得ない事象等は徹底的に理解しなければ納得がいかない。
しかし、突如にしてオークどころか地竜の足跡が消えていた。
どんな、知識を持っても理解できない。
その事が、レナをイラつかせた。
「まさか、転移魔法?いえ、できる筈がありません!オークどころか地竜までなんて!」
レナは、腕を組み思案しながらぶつぶつ言っている。
その姿は、とても絵になる。
普段でも、華麗でどこかのお姫さまみたいな容姿だ。
しかも、胸が豊富とくる。
騎士団の中でも、人気がある。
ちなみに、シエラも人気はあるがどちらかと言うとレナみたいに美人系では無く可愛い系である。
しかも、何故か同性の女性騎士からモテているのがシエラの悩みだ。
「しかも、転移は高位の魔法。どんな魔法使いでも、2〜3人が限界・・・・・・。」
もう少し、見ていたい気持ちもあったが次の指示を聞かなければいけない。
「・・・・。レナ様、どうしますか?」
騎士は、名残惜しそうに尋ねた。
「え?・・・・すいません。そうですね。取り敢えず、ここに足跡があるのですからこの近くにいるかもしれません。クロエスの住民の避難をしてください。」
騎士達は、レナの命令により動きだした。
レナは、足跡を見てこの使命が終われば必ず解き明かすと誓った。
夜が更け、月が昇るそらをシエラは眺めていた。
「・・・・タツミ。」
(タツミに会いたい。)
城壁にたたずみ、シエラは小声で言った。
不可解な事が多いい、一つはエターロに向かっていたオークの群れと地竜が正反対のクロエス近郊で発見された事。
二つ目は、地竜教に襲われた事。
当初、奴等はおとりだと思ったがエターロの周辺を探索したらオークと地竜の足跡といった痕跡を発見した。
これが、三つ目だ。
しかし、四つ目は足跡が途中で無くなっていた事。
しかも、五つ目は先ほどレナの伝書鳩が来た。
が、その内容で最早頭が痛い。
クロエスにも、同じ痕跡が有ったのだ。
「タツミ〜、もう訳がわかん無いよ〜。」
シエラが、更に独り言を言った。
(どうなってんだよ〜!もう!)
シエラが、更に独り言を言った。
その時、突風が吹き激しい光が辺りを包んだ。
(な、なんだ!?何が、・・・!?)
そして。
グワアアアアアアアア!!
一瞬にして、心臓を掴まれた様な音。
この声を聴いたシエラは、恐怖が身体を縛られた。
すべての、生きる者の敵。
生きる天災。
シエラは、息が思うようにいかない。
かろうじて、身体を音がした方向に向けた。
その方向には、間違いなかった。
上位種地竜 グランドラゴンだった。
「あ、あ、ああ。」
今、発している声は自分の物だろうかとシエラは思った。
震えている。
(た、タツミ。タツミ。タツミ。)
「隊長!」
バチス達が、慌てて城壁に出てきた。
「はっ!バ・・・バチス!ち、地竜だ!すぐに、住民の避難を!急いで!」
バチスの声に、我に帰ったシエラは即座に命令した。
そして、改めてグランドラゴンを見る。
大きな巨体が、ゆっくりと近付いて来る。
ひどい、血の匂いがした。
シエラ達は、生唾を飲み必死に恐怖と戦った。
まだ、暗くてシルエットしか見えない。
「お前達、行くぞ!!」
バチスは、叫ぶと部下を連れ住民の避難の為に向かおうとした。
(あ、あれが、グランドラ・・・ん!?)
「!?!?待って!バチス!様子が、おかしい?」
シエラは、バチスを呼び止めた。
次第に、グランドラゴンの姿が月に照らされていく。
その姿を見て、シエラは恐怖が消え驚愕した。
「どういう事??ぐ、グランドラゴンが・・・。」
シエラは、頭が真っ白になった。
「・・・・・。グランドラゴンが・・・・死にかけ・・・てる?」
なぜ、上位種がここまで追い込まれたかは次の話しで。