第38話 楽しい水族館1
快晴の空、雲1つ無い。
まさに、絶好の行楽日和だ。
アリエルとの約束を、15日達ったこの日。
遂に、果たす時が来た。
「ヨッシャー!気合い入れて、行くぞ!」
瀬川は、叫んだ。
「・・・・なら、一人で行けよ。バカ。」
「うぉぉい!龍也〜。んな事を、言うなよ〜。一緒に、兄弟水入らずで行こうよ〜。」
瀬川は、龍也の足にしがみついた。
「お前。・・・足が、欲しいんだけなんだろ?」
「そうだ!でなきゃ、こんなボロ車に乗るわけ無いだろ?」
「・・・・そこは、素直なんだな。」
(確かに、オンボロだが。)
龍也は、呆れてしまった。
龍也の車は、赤い軽自動車だ。
価格は、30万の中古で即決で購入した。
本人的に、別に走れば良いので見た目なんか気にしていない。
「当たり前だ!さあ!行くぞ!運転しろ!」
龍也は、やれやれと言って車に乗りキーを回した。
今回、瀬川はアリエルと水族館に行く事になっている。
瀬川が、上に申告していたのだ。
10日に渡り内閣と国会が議論され、実現するに至った。
この事に、瀬川は知るよしも無かったが。
龍也の車は、駐屯地を出発し自衛隊病院に向け走り出した。
10分後、龍也は妙な事に気付いた。
「なぁ、龍巳。」
「ん?」
「先から、後ろの車がつけてないか?」
龍也は、警戒しだした。
兄弟だから、瀬川にある程度の情報を聞いている。
さらに、公安や警務隊などからあらゆる事態の対処法を教育された。
全ては、この日の為に。
(まさか、外国の工作員か?)
龍也は、可能性が高い想定を考える。。
兄 龍巳は、異世界との接触点。
拉致られる理由は、十分ある。
「ああ。あれ?警察の護衛。覆面パトカーってやつ?」
「・・・はぁ?」
「え?いや、ほら。やっぱり、警護が必要だからって・・・。言って無かった?」
龍也は、瀬川の説明に脱力した。
(何が、工作員だ。)
自分が、恥ずかしくなる。
「お、ま、え、な〜。そう言うのは、前もって言え!ウスラバカ!」
「ああ!うるせぇ!細かい事は、いいんだよ!」
車の中で、兄弟ケンカが勃発した。
「・・・あいつら、なにしてんだ?」
「・・・ケンカスッかね?」
二人を警護している警官が、呆れて見ていた。
瀬川達は、自衛隊病院に到着した。
警護の車を、外に待たせ二人はアリエルが待つ部屋に行った。
「お兄チャン!」
「おぉ!ア〜ちゃん!待たせたな!」
瀬川は、アリエルを抱っこした。
「ゼンゼン!!」
「そうか〜?」
瀬川は、アリエルを下ろした。
「おっ!可愛い服だね!」
瀬川は、改めてアリエルを見た。
アリエルの格好は、ピンクのジャケットにヒラヒラのスカート。
ハ○ーキティのリュックまで、装備してある。
まさに、今風の女の子だ。
「へぇー。龍巳、その子が例の。」
龍也は、瀬川に聞いた。
すると、アリエルは龍也を見つめている。
「・・・なんだ?」
「タツヤ『お兄ちゃんでしょ!』」
アリエルは、キラキラした眼で龍也を見た。
「龍巳、この子に俺の事を言ってるのか?」
「いや、居るってことぐらいだけど・・・名前は言って無いぞ。」
「じゃあ、名前を何で知っているんだ?」
瀬川は、さあと答えた。
「おーす!龍巳、龍也〜、元気にしてた?」
その時、病室の入口に陽気な男が入って来た。
「・・・・。」
「・・・すいません。関係者以外の方は・・・。」
「・・・泣くぞ?」
大柴は、半泣きになった。
「嘘だよ。健治、どうしたんだよ?」
「お前らの、身辺警護だよ。ん?」
アリエルが、大柴の袖を掴んで引っ張った。
『お兄ちゃんも、知ってるよ!ドジ「ケイカン ノ オオシバ ケンジ」でしょ!』
「あれ?何で、俺の事を?」
『シエラお姉ちゃんから聞いたの!』
「・・・シエラ?・・・龍巳、何言ってんの?この子?」
「ああ、気にするなよ。」
「まったく、言葉が解らないな。この先、大丈夫か?」
瀬川達は、小声で話した。
『3人とも、何話してるの?』
アリエルの質問に、瀬川と龍也は笑って誤魔化した。
「ほら!何でも良いから、行こうぜ!今日1日だけなんだからさ!」
大柴が、急かしたので三人は龍也の車に乗った。
運転 瀬川 龍也に助手席に大柴 健治。
後部座席には、瀬川 龍巳とアリエルが乗っている。
病院から出る時は、ご丁寧に看護士らが見送ってくれた。
アリエルは、別府の街並みに興味津々で眺めている。
『タツミお兄ちゃん!あれは、何?』
アリエルは、小高い山の上にある建物を指差した。
(元老院の建物?スッゴく立派!きっと、偉い人のお家なんだわ!)
アリエルは、その建物を見て領主が住んでいると考えた。
「ああ。アレは、杉のいパレスってホテルだ。」
瀬川は、専門家から渡された辞典モドキを見ながら答えた。
この辞典は、アリエルから聞き出した単語を解明して書かれている。
中には、他にも文章の構成等が推理されいる。
瀬川は、言葉を解明しながら答えアリエルに日本語を教える。
最近、この作業を繰り返し慣れてしまった。
「スギノイ?ほ、てる?」
彼女は、ホテルと言うのが解らないらしい。
「旅先で泊まる施設だ。」
龍也が、捕捉し瀬川が伝えた。
「ワカッタ!『宿屋ってことだね!』
「ん?ああ、たぶんそうだよ。」
瀬川は、すぐメモをした。
「ホテルは、・・・・っと。でぇ、発音は・・。」
勿論、こうやって辞典は更新されていく。
『あれが、宿なんだー!』ハジメテ、アリエル、見マシタ!オオキイ、スッゴく!ジャア、アレハ何でスカ?」
アリエルは、新しい建物を質問した。
「へぇー。日本語を喋れるのか。」
「まあな。これなら、すぐに日常会話ができる。下手したら、健治より上手いぞ。」
実際、アリエルの学習能力は学者すら驚いている。
昨日、教えた言葉を翌日には理解して話しているのだ。
「・・・しかし、こうして見るとなんか普通の外国の子供にしか見えないよな。」
大柴は、振り返ってアリエルを見た。
「この子が、異世界のお姫様なんだからびっくりするよなー。ほら、飴食べる?」
『食べていいの?』
アリエルは、大柴からオレンジ味の飴を貰った。
「ほら、アーちゃん。こんな時は、何て言う?」
「ケンジ、アリガトウ!」
「何で、俺だけ呼び捨て?」
大柴は、情けない表情になった。
「そう言えば、二人に聞きたいんだけど?」
「なんだ?」
「ん?」
瀬川は、取り合えず連隊の動きを聞く事にした。
「ああ、あれからな"ホール"から2種類出てきた。」
龍也が、言うには瀬川が離れている間にどれも間隔を空けて出現したらしい。
まずは、体長が8メートルある大蛇。
一匹だけだったが、頭が4つあったそうだ。
これは、その時に上番していた1中隊が撃破した。
なんでも、小銃・MG・キャリバーで蜂の巣。
トドメは、携帯式対戦車弾で跡形も無く吹き飛ばした。
その5日後には、怪鳥の集団が現れた。
大きい鳥だったが、頭が人間の女性と言う見た目だ。
3中隊が、全て迎撃した。
ただ、怪鳥が歌を歌ったせいで数人の隊員が眠らせられた。
数分で、無事に起きた。
龍也がいる狙撃班が、大活躍したらしい。
蛇も鳥も、一時間かけずに自衛隊が余裕で圧勝していた。
「まぁ、鳥は見た目が人間に近かったからやりずらかったな。」
龍也は、思い出したのか苦い顔をした。
「大変だったんだな。」
瀬川は、あと一週間で通常中隊勤務に戻れる。
アリエルとの面会は、課業外になる。
「んで、タツミ。俺に、聞きたい事は?」
大柴が、身を乗り出して訊いた。
「ん〜。ほら、お前の上司だっけ?確か、難波って刑事。その人は、何してんの?」
「難波さんなら、一足早くうみたまごにいるよ。気合い入ってるよ〜あの人。」
大柴は、頭を掻きながら言った。
「まぁ〜、最近は俺ら風当たりが厳しいからな〜。」
大柴は、瀬川にぼやいた。
テレビや新聞などで、自衛隊の活躍が報道されている。
その中で、警察は何をしているのか?
市民の安全をちゃんと、守れる力があるのか?
などの声が上がり、警官達も避難誘導しかできない自分達にイラついていた。
そんな時、水族館の警護を自衛隊の警務隊がやると聞き付けた。
難波を始めとする、大分県警や別府署の警官達が志願したのだ。
勿論、警務隊は猛反発。
だが、これに警視総監も出てきて国会にまで抗議した。
「身辺警護なら、SPがいる我々の方が得意です。それに、自衛隊と違い警察は護衛経験が豊富!SATも待機中です!」
これに対し、自衛隊側は統合幕僚長が出陣。
「いや!この件は、ウチでやります!警察は、治安を守らないといけない筈です!大丈夫、特殊作戦群をもはや現地で出動させ下見もバッチリです!」
自慢気に、内閣総理大臣に言った。
「汚ないぞ!」
「やったもん勝ちだ!」
これを、三日間続け最終的に両方に考案書を提出。
優れた方に、任せる事になった。
その結果、特殊作戦群はとんぼ返りになった。
勿論、瀬川達は知るよしも無い。
「まぁ、"警察の意地"ってやつだね。安心しなよ。今日、1日は安全に護衛するからさ。」
大柴は、親指を立て笑顔で言った。
その笑顔で、瀬川は一抹の不安を覚えた。
国会議事堂
「今ごろ、楽しんでいる頃かな?」
中年の男性が、笑いながら言った。
「そうですね。ところで、滝川総理。この、資料なんですが。」
滝川は、高官から資料を受け取った。
「フゥム、これが瀬川 龍巳君が提出した異世界の情勢・・・ですか。」
滝川の言葉に、高官が頷く。
「・・・あんまり、良いとは言い難いですね。」
資料の内容は、オルテ王国が置かれている状況だ。
2カ国が、王国に対し侵攻する可能性が高い事を表していた。
「はい。このまま、こちらが接触すれば我が国が巻き込まれかねません。」
「・・・まだ、コンタクトをとるべきでは無い・・・と?」
滝川の質問に、高官はその通りと答えた。
「最悪、接触を断念し”ホール”自体を消滅させる案に移るしか有りませんね。」
巻き込まれる位なら、閉じた方が良い。
少女には、悪いが他国しかも異世界の事情に日本が関与する必要など無い。
しかし、できれば資源が欲しい。
「・・・・山重防衛大臣。これは、私の個人的な質問ですが。」
「はい。」
「もし、仮にですが戦争に巻き込まれた場合。自衛隊の戦力で、なんとかなるでしょうか?」
防衛大臣 山重は、少し考えて発言する。
「そうですな。あちらの世界に、勝つなら圧倒できると思います。」
山重は、理由を言いだした。
「まず、あちらの戦い方が中世の様な戦いだと予測できます。少数の部隊でも、勝利できるでしょう。ただ、魔法と言う特殊能力には気を付けないといけませんが。」
山重は、情報資料を見て言った。
「そう・・・ですか。次に、話しは変わりますが。」
滝川は、その場にいる全員を見た。
「そもそも何故、瀬川君はあちらの世界と繋がるのです?」
「それは、まだ調査中です。ですが、ヒトの睡眠は脳波と眼球運動のパターンで分類されています。成人は、ステージI〜REMの間を睡眠中反復し、周期は90分程度です。」
高官が、説明しだし滝川は苦い顔をした。
「レム睡眠は、身体が眠っているのに脳が活動している状態です。 夢を見るのはレム睡眠中であることが多く、この期間に覚醒した場合、夢の内容を覚えていることが多いのです。瀬川君は、・・・。」
「あ〜、高井君。簡単で、お願いします。」
高井は、咳をした。
「つまり、瀬川士長はレム睡眠時に異世界の人間と繋がっていると言うことです。解明は、残念ながらできませんが。」
「まったく、不思議な現象ですね。」
滝川は、ため息をついた。
アメリカ、ロシア、中国、この3カ国が瀬川とアリエルの存在に気付き始めている。
できれば、本格的に気付いて動かれる前にアリエルを元の世界に送りたい。
そして、日本の存在を知らしめ資源を獲得。
貿易を展開させ、不景気を脱したい。
日本の国益の為に。
しかも、極力穏便にだ。
それ全てが、達成できれば総理大臣継続も夢ではない。
「・・・できれば、夢だけでも解明できれば良いのですがね〜。」
滝川は、ぼやくように呟いた。
「失礼します。」
そんな中、一人の男が入って来た。
男は、滝川の元まで来る。
「・・・そうですか。皆さん。どうやら、瀬川君達が目的の水族館に着いたらしいですよ。」
滝川は、場内を見回しながら言った。
「さて、警備態勢は万全だし。まぁ〜、化け物が出ない限り・・・大丈夫でしよ。」
滝川は、気楽に言った。
うみたまご。
大分市の高崎山下にある水族館である。
小さい子どもから、ご年配の方まで楽しめる。
館内は、ちょっとした迷路のような感じでこれまた楽しい。
極めつけは、目の前で繰り広げられるセイウチのショーである。
お姉さんのオシャベリとセイウチのパフォーマンスがピッタリ。
しかもパフォーマンス終了後、セイウチに触ることができる。
水族館のショーでは、当たり前だがやはり楽しい物は楽しいのだ。
その駐車場に、一台の中型トラックが止まっている。
中には、テレビやキーボードといった電子機器が詰まっている。
そこに、四人の男性が真剣な表情で作業をしていた。
灰皿は、タバコで一杯になっている。
「おう。大柴、着いたか。じゃあ、駐車場入ってすぐ右に赤と白の車が有るだろう。」
難波が、一台の監視テレビを見て言った。
「その白の車の横に、停めさせろ。ああ、そうだ。よし、そこだ。じゃあ、予定通りにな。」
難波は、携帯を終った。
そして、マイクで警官達に告げた。
「奴さんが、来たぞ。いいか?SPは、常に目標の近くに維持。所轄は、周囲の警戒を怠るな。機動隊は、すぐ動ける態勢をしてろ。以上。」
難波は、スイッチを変えた。
「あ〜、SATの諸君。何時でも、うみたまごを取り囲める準備を頼む。」
それを言い残し、難波はマイクをOFFにした。
「さぁ。これで来れるなら、来てみやがれ。」
難波は、新しいタバコに火を着けた。
「難波さん、ここ禁煙ですよ。」
「・・・・チッ。」
計器を確認していた若い巡査に、注意されタバコを消す。
うみたまご 東側
「ん?」
施設周辺を巡回中の私服警官が、壁を見た。
「おい。どうした?」
傍らに居た相方が、訪ねた。
「え?あ、いや。先、なんか変なもんが・・・。」「なんだ?まさか、侵入者・・・スパイか!?」
相方が、声を上げた。
「いや。チラっとしか、見えなかったけど一瞬なにか壁に動くものが・・・。」
そう言って、指を指した。
「ああ?何も、居ないぞ?」
「ううん。気のせいか?」
「たっく、しっかりしろ!」
相方は、呆れて無線機を出した。
そして、異常が無い事を難波に伝え次の場所に行った。
「グルルルル。」
"それ"は、壁をつたい動いた。
やっと、獲物を見付けた悦びからかヨダレを垂らした。
"それ"は、複数いる。
それらは、壁をつたい通気孔の網を破壊し中に侵入して行った。




