表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/74

第36話 遭遇

シエラは、久しぶりに"そこ"にいた。


青い空が広がっている。


空気は、清々く草木は生い茂っている。


だが、シエラの気分は沈んでいる。


暫く、歩いて行くと会いたかった人がいる。


その姿を見てシエラは、走った。


「タツミ!」


その人の名前を、呼んだ。


「よお。シエラ。」


瀬川は、片手を上げて言った。


「久しぶりだな。かな?」


瀬川は、頭を掻いた。


「久しぶり・・・だよ。」


シエラは、瀬川の元に来ると抱き締めた。


「この前は、驚いたな〜。まさか、会えるとはな。」

「・・・うん。一瞬・・・だったけどね。けど、嬉しかった。」

「俺もだ。あれから、・・・心配・・・してたんだぞ?」

「ゴメン。でも、僕は大丈夫だよ。」

「最近、寝て無かっただろう?」

「・・・ゴメン。大変だったんだ。」


シエラは、瀬川の質問に落ち着いて答える。


「そっか、・・・無理・・・すんなよな。」

「・・・・ゴメン。」

(俺も、人の事は言えないけどな。)


それに、先程から元気が無いと感じた。


「あっ!そうそう。今な、こっちにシエラの知り合い来てるぞ?」

「・・・そっか。・・・・・え!?」


シエラは、瀬川から離れ驚いて瀬川の顔を見た。


「アリエルちゃん。シエラの友達だろ?」


瀬川の口から、まさかの名前が出てきた。


「ほ、本当にアリエル様なの!?」

「ん?さま?いや、白いドレスで金髪の子だけど?」


間違いなく、アリエルの特長だった。


「あ、アリエル様は元気なの!?安全?ちゃんと、ご飯食べてる?」

「お、落ち着けよ。大丈夫だよ。今、あの子は俺らで保護してるから!」


瀬川は、シエラを宥めた。


「だから、安心しろ。アリエルちゃんは、お前の友達かなんかだろう?」

「・・・タツミ。」

「ん?」

「アリエル様は、オルテの第一王女なんだよ?」

「・・・・へ?」


シエラの言葉に、瀬川は抜けた声を出した。


シエラは、深い溜め息をついた。


「タツミ。アリエル様を普通の女の子だと思っていたんでしょ?」

「・・・・。」


身分が高いのは、予想できていた。


まさか、お姫様だったとは思わなかった。


「はぁ〜。タツミらしいと言えば、タツミらしいね。・・・でも、ホント安心したよ。」


アリエルが、大切な人の側にいる事を知りシエラは力抜けた。


「・・・やっぱ、大騒ぎしてるんだな。」

「当たり前だよ〜。」

「てか、何でそんなお姫様がこっちの世界にいるんだよ?」


シエラは、瀬川に説明しだした。


舞踏会で、起きた地竜教の陰謀。


エルフによる、王女失踪。


オルテの現状。


そして、レイナと"静寂の森"に向かっている事。


「なるほどな。めんどくさい事に、なってんな。」

「まぁね。でも、いったい何故エルフはアリエル様をそっちに飛ばしたんだろう?」


シエラは、考えこんだ。


最初から、王女を誘拐するならわざわざ見せ付ける様な事はしない。


だからと言って、殺害が目的なら迅速に殺せばいい。


しかし、あのエルフはそれをやらずにただアリエルを投げただけた。


まるで、違う世界にアリエルを送る様にだ。


「・・・そのエルフを、捕まえれば解っんじゃないか?」


瀬川は、何気なく言った。


「うん。そうだね。まず、捕まえないとね。」


シエラは、改めて王女捜索から犯人確保を目標に置いた。


「フフフ。」

「どうしたんだよ?」


シエラが、笑いだした。


王女の安否を確認でき、緊張が一気に解けたのだ。


「なんだか、不思議だなって思って。」

「不思議?」

「だって、一生懸命アリエル様を捜してまさか異世界にいるなんて。それに、タツミ。」

「ん?」

「あの時、ぼくのドレス姿みたでしょ?」


シエラは、意地悪そうに言った。


「ああ。でも、一瞬だから解んなかった。」


瀬川も、笑った。


「正直に、言いなよ。どうだったのさ?」


シエラは、瀬川に迫った。


「に、似合わなかった・・・かな?」


そういえば、ちょっと血だらけだったのを思い出した。


(うっうっ、タツミに見られるんだったら上手くかわせばよかった。)


この時だけ、餓狩鬼を呪った事は無い。


「そ、そんな事ねぇよ!綺麗だった!」


実際に、瀬川はシエラのドレス姿を記憶していた。


もっと、近くで見たかったのが本音だった。


「ホントに?」


シエラは、瀬川を見て言った。


「マジだよ。」


瀬川は、断言した。


「ホントかな〜?」


シエラは、笑いながら言った。


「あ〜、そういうリアクションとんだ。な!」


瀬川は、シエラを羽交い締めにした。


「キャハハハハ!待って!ゴメン!タツミ〜!こしょぶったいよ〜!」

「うら!うら!」

「もう、怒った!お返し!」

「うぉ!ブッハハハ!待て!卑怯だ!」


近接戦なら、騎士であるシエラの方が有利だ。


二人のふざけあいは、瀬川の劣勢に終わった。


「はぁ〜、疲れた〜。」

「たく。これ、寝てる意味無いな。」

「ホントだよ〜。」


二人は、大の字に寝た。


「・・・タツミ。アリエル様の事をお願いね。」


シエラは、上半身を上げ瀬川を見つめた。


「ああ。任せろ。シエラも、犯人捜しを頑張れよ。」

「うん!絶対、捕まえるよ!」


シエラは、拳を固めて言った。


瀬川は、シエラの決意に満足し笑った。







スッキリとした、朝だ。


今、シエラ達は"静寂の森"に向かうためにクラウス地方にある宿にいた。


クラウス地方から、ラーズ地方に移動しそれから森があるアルテマ地方へ向かう。


約15日は、掛かる道のりだがこのルートが最短なのだ。


シエラは、上機嫌で馬に荷物をくくりつけている。


時おり、鼻唄を歌っている。


「・・・・。」

「ふふ〜ん。ふふふ〜。」

「・・・・。」


そんな、シエラをレイナが黙って見ている。


「ふふふん〜。ふふふ・・・フフ!」


にやけて、しまった。


「・・・シエラ ローズ。」

「なに?レイナ?」


レイナは、溜め息をついた。


「・・・・貴女、変!ですわ!」

「な、何!?突然?」


シエラは、驚いて言った。


「昨日まで、あれだけ張りつめていた人間が1日で上機嫌になりますの?」

「え、え〜と。ほら!張りつめてたら、物事は上手く運べ無いって言うじゃない?だから、前向きに明るく考えようと・・・。」

「・・・では昨夜、わたくしのよこで大笑いしてましたわよね?アレは、何ですの?」


レイナは、変人を見るかの様に見た。


「うぐ!?」

「しかも、寝言でタツミと連呼してましたわ。」


シエラは、顔が赤くなった。


確かに、異常だ。


「・・・正直に、言いますわ。貴女、オルテにお戻りになってくれるかしら?」


レイナは、シエラを睨んで言った。


「いくら、昔からの好敵手と言っても頭がおかしい者と行けば足手まといですわ!」


レイナは、容赦無い言葉を続ける。


「いいこと?いい加減、幻想の男性を想うのはおよしになりなさい!まったく、アリエル様の生死がかかっていると言うのに。」


シエラは、レイナの言葉で浮わついた自分が恥ずかしくなった。


確かに、瀬川に会えて嬉しかった事実だ。


が、その結果で本来の任務が疎かになってしまいそうだった。


シエラは、反省した。


だが、レイナにはこれだけは伝えたい。


「・・・ゴメン。レイナ。ぼくが、悪かったよ。今度から、気を付けるよ。でも、レイナ。」

「何ですの?」

「アリエル様は、無事だよ。」


シエラは、レイナを真っ直ぐに見て言った。


「何故?言い切れますの?」


レイナが、睨んだ。


「ん〜、こればっかりは勘だけどね。」


瀬川の世界で、保護されているとは言えない。


シエラは、勘で言いくるめた。


レイナは、また溜め息をついた。


「何が、勘ですの。まったく、ボッサとしていると置いて行きますわよ。」


レイナは、馬に跨がった。


「あっ!待ってよ!」


シエラも、慌てて馬に飛び乗った。


そして、二人は宿を後にした。


そのまま、馬を走らせること五時間。


ラーズ地方に続く、峠まで来た。


「ふぅー。この調子なら、日が沈む前に次の村に行けますわね。」

「そうだね。・・・・ん?レイナ!アレ!」


シエラは、崖下を指差した。


その道には、数人の護衛を引き連れた一台の荷馬車がある。


通常、商人が旅をする時には護衛を雇う。


野盗や魔物を警戒の為に、当たり前の事だ。


しかし、二人は違和感を感じた。


「・・・商人では、無いみたいですわね。」

「うん。妙だね。」


理由は、二つだ。


1つは、全員の表情だ。


まるで、ゴロツキだ。


顔で、判断するのは間違っているのだろ。


だが、この連中が纏う空気は堅気の者ではない。


そして、二つ目は荷馬車にかがけられている旗だ。


「・・・アレは・・・・・、オルテの紋章だ!?」


白いハーブの真ん中に、剣の紋章。


その荷馬車が、オルテの物であるとアピールしている。


「おかしい。レイナ、こんな所を通る輸送任務があるなんて聞いてた?」


シエラは、レイナに小声で訪ねた。


「いいえ。あるなら、絶対に報告されてますわ。それに・・・。」

「うん。普通なら、オルテ王国の騎士団が護衛する筈だよね。」


輸送任務などは、王国の正規騎士団が着く。


「ええ。アレは、どう見ても傭兵・・・みたいですわ。」


レイナは、迷った。


このまま、あの一団を無視し先に進むか。


それとも、確認し状況を知るかを。


その時、谷に強風が吹いた。


その風で、荷馬車の幌がめくり上がった。


「・・・あっ!?」


シエラが、荷馬車の中身を一瞬見た。


それは、鉄格子だった。


その中に、鎖で繋がれた子供の姿があった。


「ちっ!バカやろー!ちゃんと、結んどけ!」


護衛の一人が、慌てて幌を直した。


「ハルクよぉ〜。そんなに、気にすんなよなぁ。」


馬の手綱を掴んでいる、やせ形の男が笑いながら言った。


「けっ!コース。テメエ、ちったあ慎重になれよ!」


ハルクと呼ばれた、護衛の男が睨んだ。


「考えすぎだぜ。こんな道、オルテの連中どころかゴブリンすら通らねーよ。」


コースは、呆れながら唾を吐いた。


「ウルセぇ!折角、上手く"商品"を手に入れたんだ!慎重になって、なにが悪いんだ!ああ!」

「たく、声でけよ〜。」


コースは、ウンザリしていた。


「まぁ、"商品"を上手く手に入れた事は確かになぁ。」


下品な笑いを、しながら荷馬車を見た。


「まったく、美味しい仕事だったな。まさか、"オルテの旗"を着けるだけでこいつらの"居場所"を教えてくれるとはな。」

「・・・けどよ。相手は、"赤竜教"だぜ?本当に、このまま信じて良いのか?」


ハルクは、少し不安に言った。


「けっ。デカイ身体のくせに、ビビり過ぎだぜ。」


笑いながら、一行はシエラ達に気付かず通り過ぎて言った。




「・・・レイナ!」

「ええ。どうやら、オルテの名を借りた奴隷狩りの様ですわね。」


レイナは、落ち着いて言った。


「許せない!」


シエラは、立ち上がった。


「待ちなさい!猪突猛進娘!」


レイナが、静止する。


「止めないでよ!レイナ!」

「ホントに、貴女は。いいこと?相手は、見ただけでも六人はいたのよ。頭を、使いなさい。ここからなら、余裕で回り込めますわ。」


レイナは、ニヤリと笑った。


この二人、無視して進む気は一切無かった。


「・・・へぇ〜。何か、策でも有るのかな?レイナ第3隊騎士隊長殿。」


シエラは、わざとらしくレイナに聞いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ