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第35話 提案

「・・・だいぶん、機嫌が良くなったな。」

「ええ。それに、彼のお陰で"単語"を聞きだせました。」


大型のテレビの前に、瀬川達を見ている集団がいた。


その中に、長谷川3佐と橋本3尉の姿があった。


「しかし、ほんとに知っていたとは。」


長谷川は、二人の会話を思い出した。


アリエルの会話から、瀬川から聞いた名前が出てきた。


それに、気になるは少女の名前だ。


「・・・アリエル レオ オルテ・・・か。」

「中隊長、あの子はもしかしたら。」


橋本の言葉に、長谷川は頷いた。


"オルテ"、それは瀬川から問いただした異世界の国の名だ。


それが、アリエルの名字に入っていたのだ。


「・・・国のトップ、もしくはその縁者と・・・なりますね。」


二人は、回りに聞こえないように話している。


周りは、議論の真っ最中なので配慮したのだ。


「フム、ラテン語に近いニュアンスだな。」

「確かに、だが発音はどちらかと言うとウラルトゥ語よりだ。」


数人の言語学者は、思い思いに発言した。


ファリスク語、古代ギリシア語、サンスクリットなど長谷川達知らない単語も出た。


「・・・結構、色々な種類があるんだな。」


橋本は、感じた事を呟いた。


「・・・諸君。注目!」


すると、一人の男性が立ち上がった。


その男性は、自衛隊の制服を身に纏っている。


階級は、陸将だ。


長谷川と橋本は、一気に緊張した。


ここには、学者の他に幕僚長と外務省の職員3名が出席していたのだ。


一人は、陸将の隣に座りその後ろに二人が控えている。


「今の会話を聞き、少女の使う言葉を解明できますか?」


眼鏡を掛けた外務省職員が、学者達を見回し言った。


「今の段階では、正直何とも言えません。ですが、こうして会話をしていれば。」


一人の学者が、汗を拭きながら答えた。


「我々、政府としては早急に解明して貰いたい。」


職員は、椅子に座り直し言った。


「それにより、異世界の生物を聞き出し対策を練る。いつまでも、情報が無く戦うのにも限界が来てしまう。」


これに、幕僚長は重要性を訴える。


「付け加えるなら、"ホール"が安定し向こうとの行き来が可能になれば交流も考えています。」


控えていた職員が、政府の方針を言った。


「これにより、異世界での日本の交渉権が確保できるどころか未開の地の資源確保さえ可能になる。」


彼等は、外交を視野に現在の段階から情報を集める為に来ている。


ゆくゆく、彼方と行き来できる様になればこの三人が外交官となる。


この背景には、資源の乏しい日本にとって大半を輸入に頼っている。


もし、輸入が止まってしまえばすぐに景気が傾く。


情勢的に、そんな事になれば他国にも影響がでるのでそんな事態はあまりないが。


それでも、無いとは言えない。


特に、中国が怪しい。


それに、最近では立場も弱い。


この現状を、打破する為に政府は異世界に眼を着けているのだ。


異世界の国と、友好的な交易ができないか?


手付かずの資源を、発見し使えないか?


秘密裏に国会で、決定した議題だった。


この議題が、行われたのは長谷川が報告した翌日である。


そして、決まったのが当面は少女からの情報収集。


現在、少女は重要機密事項としていた。


国連は勿論のこと、同盟国アメリカにすら漏らしてはいない。


「外務大臣、あの"被験者"に関しては今後どの様にするおつもりですか?できれば、被験者の脳や精神を実験的に調べたいのですが。」


別の科学者が、訊ねた。


「・・・ちっ。」


橋本は、苦虫を潰したような表情になった。


"被験者"つまり、異世界の人間と直接コンタクトできる瀬川を指す。


コイツら、俺の部下をモルモットとしか見てないのか?


橋本は、科学者を睨んだ。


しかし、科学者は気付かずに続ける。


「私に、被験者を任せて欲しい。私達の実験設備に、政府からの助成金が降りればからなず解明できるでしょう。」


この言葉に、他の科学者が猛反論した。


「抜け駆けするな!」

「是非、私共にお任せください!24時間の監視に、薬による実験・・・。」

「いやいや、信用できない!ここは、厳正に決めるべきだ!」

「待って下さい!!」


討論の最中、我慢できなくなったのか長谷川が机を叩き叫んだ。


室内は、静まりかえった。


「瀬川士長には、通常の勤務があります。それに、近々陸曹候補生選抜試験も控えている大事な時期なんです!今、実験やらでそれを逃したら隊員の人生に関わってきます!」


長谷川も、橋本と同じ考えだった。


何かと理由をつけ、瀬川を守ろうとしていた。


「いいですか?これは、これは世紀のいや歴史上において世界が変わる出来事なんですよ?」


学者は、バカにする様に見た。


「それを、たかだが通常勤務?出世の試験がある?くだらない。外務大臣、被験者を隔離研究すべきです。」

「貴様!ふざけるな!アイツは、俺の部下だ!」


ついに、橋本がキレた。


「曹候試験は、あいつにとって最後なんだよ!研究するなら、隔離せず両立すべきだろう!」

「そんな、悠長はできませんよ。貴方も、ご存知でしょう?あの"2名"の被験者は、国会機密になっていても各国にバレるのは時間の問題。もって、1年。下手をすると、半年。」


学者は、眼鏡を上げた。


「だから、少しでも時間を稼ぎ日本が優位になる為に隔離する必要性があるのですよ。」


学者は、瀬川とアリエルの写真を橋本に見せた。


橋本は、殴りかかろうと席を立とうとした。


しかし、長谷川が橋本の腕を掴んだ。


「落ち着け。橋本1尉!」


長谷川は、橋本を宥める。


「永山幕僚長。我々は、自衛隊です。上の命令ならば、従います。」


連隊長 大上1佐は、静かに言った。


「しかし、瀬川士長は第41連隊の隊員です。私は、各中隊に"隊員達は家族であれ"と要望事項にさせています。ですから!」


大上は、頭を下げた。


「寛大な処置をお願い致します!」


これには、長谷川と橋本も頭を下げた。


「・・・・・。」


長い沈黙が、続く。


「なぁ。あの小僧を俺に任せてくれないか?」


沈黙を破ったのは、それまで黙っていた中尾だった。


「中尾教授?何を、言ってるんです?貴方は、物理学専門じゃないですか?」


学者は、不信な表情で中尾に訊ねた。


「確かに、そうだ。だが、俺は興味がある事は徹底的にやる方でね。物理学以外でも、それなりに熟知してる。それに、知り合いに優秀な奴がいる。そいつと、共同で調べてやる。」


中尾は、肩を揉みながら言った。


「なぁに、隊長さん方も安心しな。悪いようには、しないからよ。」


中尾は、不敵な笑みで言った。


「・・・では、中尾教授。貴方に、研究の指揮を一任します。」


外務省の職員は、中尾に言った。


すると、周りから野次が出始めた。


「ウルセェ!グチグチ、言ってんじゃね!テメェらみてたいな、人権を無視するやからにあの二人を任せられるか!」


中尾は、机を蹴って怒鳴った。


一瞬にして、抗議の声が止まった。


「文句がある奴は、いつでも来い。」


中尾は、そのまま監視室を出ていた。


長谷川と橋本は、慌てて中尾を追った。


「中尾教授!」

「ああ?」


「先ほどは、スッキリしました。ありがとうございます。」


橋本は、感謝した。


「良いって事よ。俺も、ムカついていたからな。」


中尾は、笑みを浮かべて言った。


「・・・ところで、これから瀬川をどうするんですか?」


長谷川は、心配そうに中尾に言った。


「そうだな。俺の知り合いに、心理学者がいる。そいつに、来てもらって小僧が寝ている間や暇な時に調べるつもりだ。」


中尾が言うには、午前中は通常通り勤務をさせる。


そして、午後から別府病院にて少女とのコミュニケーション。


夜は、駐屯地の医務室で寝ている間の脳波を調べる。


それを聴いて、長谷川達は微妙な表情になった。


(か、隔離されないだげマシか。)


三人は、廊下の角を曲がって待ち合い室に来た。


「あっ!お疲れさまです。面会終わりました。」


そこに、瀬川と中隊長伝令の田中が待っていた。


「瀬川、これから少し大変になるぞ。覚悟しとけ。」


橋本は、瀬川の肩を叩いた。


「え?は、はぁ?」


瀬川は、意味が解らず気の抜けた返事をした。。


それから、瀬川の一日が変わった。


午前中は、倉庫や車両の整備。


午後から、アリエルとの面会。


最後は、医務室のベッドで頭に変な機材を付けられ就寝。


これを、5日間だ。


この間、不思議とシエラに会えなかった。


理由は、たぶん彼女が瀬川と同じタイミングで就寝していないからだろう。


前にも、こんな事がよくあった。


なんでも、任務で夜間行動してたらしい。


シエラの性格だ。


知り合いの少女が、行方不明になったから心配で寝ていないのだろう。


(早く、伝えないとな。・・・にしても。)


今更だが、アリエルの言葉が解らない。


シエラと話す時は、普通に日本語で会話が成立できる。


(・・・夢、だからか?)


瀬川は、そんな事を考えベッドに横になった。


そして、その日も会うことは無かった。




『・・・ちゃん・・・お兄ちゃん!』

「・・・ん?」

『お兄ちゃん、ちゃんと聞いてるの?』


瀬川は、アリエルと面会していた。


その途中で、瀬川がついボーとしていた。


「悪い、悪い。んで?この絵は、お父さんとお母さんかな?」


瀬川は、アリエルが描いた絵を見た。


アリエルには、事前にクレヨンとA4の紙を渡してあった。


これは、少しでもアリエルから異世界の情報を取ろうと用意されている。


それに、少女のストレス軽減にも役に立つ。


絵には、お城みたいな背景に五人の人物が描かれている。


『あのね!これは、わたしだよ!』


アリエルは、一番小さく白のドレスを着た女の子を指差した。


そして、交互に自分を指差さす。


これは、すぐに気付いた。


「わかった!アリエルだろ?これ。」


瀬川の言葉を理解したのか、アリエルが笑った。


『それで、え〜と。「コレガ、オトウサン!」』


アリエルが、片言だが日本語で喋った。


「ヘェ〜。どれどれ〜?」


瀬川は、絵を覗いてみた。


アリエルが、父と言う絵。


冠を被ったまるで、絵本に登場する王さまだった。


また、母親だと言う人物も女王の様な格好だった。


・・・まぁ、子供の絵だからな。


瀬川は、次に白い髪の人物を訊ねた。


「シエラオネエチャン!」

「ヘェ〜、って!シエラかよ!」


瀬川は、まじまじと見た。


確かに、なんとなく似てる気がする。


『それで、「コレガ、タツミオニイチャン!」』


シエラの横にいる灰色っぽい人物だそうだ。


描かれた瀬川達は、手を繋ぎ笑っている。


『いつか、タツミお兄ちゃんをシエラお姉ちゃんに会わせたいな〜。』


アリエルは、瀬川を見て言った。


『お姉ちゃんね。ずっと、タツミお兄ちゃんに会いたがっていたんだよ。』


アリエルの言葉が解らない瀬川は、困った表情になった。


アリエルは、早く父と母がいる世界に帰りたいと思っているが。


シエラお姉ちゃんの為に、タツミお兄ちゃん達の言葉をがんばって覚えなくちゃ。


アリエルは、決意していた。


瀬川と意思疎通できるようになり、元の世界に帰る時に瀬川も一緒に来てもらう。


そして、シエラに会わせたいのだ。


『お兄ちゃん。きっと、一緒に来てくれるよね?』

「ん?どうした?」


瀬川は、アリエルの頭を撫でて言った。


ノックの音が聴こえた。


面会終了の合図だ。


「あ〜、アリエル?俺、もう行かないと。」


アリエルは、解った顔をしてもう一枚の紙を瀬川に渡した。


「コレ、アゲル。」

「ん?これは?」


瀬川は、紙を見ようとした。


『だめ!まだ、見ちゃだめだよ。』


アリエルは、焦って邪魔をした。


「うわ。なんだよ?」

「オマモリ。ミタラ、ダメ!」


瀬川は、後で内緒で見ればいいかと思って紙をポケットに入れた。


「解ったよ。ありがとうな!アリエル。」


瀬川は、笑顔で言った。


アリエルも、笑ったがなんだか寂しそうだった。


ん〜。そういえば、アリエルって一度も外に出てないんだよな?


「なぁ、アリエル?」

『なに?お兄ちゃん?』

アリエルは、瀬川に訊ねた。


「今度、"水族館"に連れて行ってやるよ。」

「スイ・・・ゾクカン?」

「ああ。つまり、外だよ。そ・と。」


瀬川は、窓を指差した。


『・・・外?外に連れてってくれるの!』


アリエルは、上手く理解した。


「ああ!外だよ。しかも、水族館だ。いいか?水族館ってのはな色んなお魚がいっっぱいいる施設だ!」


瀬川の説明にアリエルは、頭を傾げる。


「やっぱ、そこまで理解できないかぁ。わかった、百聞は一見にしかずだからな。行けば、わかるよ。」


アリエルには、外に連れって行くしか伝わっていない。


だが、アリエルにはそれで十分だった。

(まぁ良いか。ビックリさせてやろう。)

『約束だよ!約束!』

「約束だ!」


瀬川は、アリエルの前に小指を出した。


『?』

「ほら、小指を出して。」


瀬川は、アリエルの小指を掴むと指切りげんまいをした。


『お兄ちゃん?これ、何なの?』


アリエルは、困惑した表情になった。


「これはな、・・・・。」

瀬川は、指切りを説明しだした。


(あ〜、行くとすれば"うみたまご"だな。許可は、何とかなるかな。)


瀬川は、すぐにアリエルと行く水族館のプランを考えだした。




これが、まさかとんでもない事になろうとは瀬川には予想がつかなかった。


(そうだ!龍也を足として、使ってやろう!)



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