第32話 告白
少女は、一端駐屯地の医務室へと連れて行かれた。
今は、疲労感もありぐっすりと眠っている。
近くには、看護陸曹が待機している。
瀬川と言うと、駐屯地の居室に隔離されていた。
緊張感が、襲って来る。
ドアの外には、2名の自衛官が監視している。
あれから二日間、中隊長を始め色んな質問をされた。
名前、生年月日、出身地、経歴などだ。
どうも、自分を本物かどうか確めているらしい。
(何で、こうなる?)
瀬川は、考えこんだ。
(あの子は、いったい何者だ)?
考えるほど、解らない。
(シエラの知り合い?その可能性が、あったか!)
(なるほど、だったら辻褄が合う。)
瀬川は、合点がいった顔になった。
だが、確認したくてもこの二日は夢にシエラが出なかった。
例え、それが解ったところで状況が変化しない。
いや、方法は一つある。
それは、"夢"の事を包み隠さず話す事だ。
しかし、信じてくれるかどうかだ。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい。」
「おう。失礼するぞ。」
入って来たのは、調査団の中尾だった。
「貴方は、確か・・・中尾・・・さん?」
中尾は、中隊長 長谷川3佐と 小隊長 橋本3尉。
そして、連隊長 大上1佐と共に入って来た。
「!?」
瀬川は、慌てて立って不動の姿勢をとった。
「まぁ、緊張するな。座れや。」
中尾は、椅子に座った。
(あんたに、緊張してんじゃない!)
瀬川は、取り合えず座った。
冷や汗が、出てしまう。
「さ・て。おい、坊主。いい知らせだ。」
中尾は、書類をテーブルの上に置いた。
それは、瀬川の経歴の書類だった。
「今のところは、ほぼ潔白が証明された」
「ほぼ?」
瀬川は、困惑した。
「ああ。お前さんの経歴は、警察が細かく調べた。その結果、異世界スパイ説が無くなった。」
(い、異世界スパイだぁ?)
「勿論、友人の巡査にも訊いた。」
(巡査・・・健二か!?)
大柴なら、瀬川を事を悪く言う筈がない。
「あとは、DNA検査の結果を待つだけだが。」
中尾は、そこまで言って少し黙った。
「お前さんの、隠している事を聴きたいんだが。」
中尾は、ニヤリと笑い瀬川を見た。
「瀬川。正直に、言うんだ。大丈夫、決して悪い様には俺達がさせない。」
瀬川に、長谷川は勇気づける様に言った。
元より、正直に言うつもりだった瀬川は深呼吸をした。
「・・・実は、俺。子供の頃からある"夢"を見てるんです。」
「・・・夢?」
瀬川は、話し出した。
夢に現れる、女性の事。
女性から、聞いた異世界の国。
魔法の事。
国を守る騎士団。
そして、竜教団。
凶暴な、生物。
シエラから、聞いた事全てを中尾達に話した。
まるで、ファンタジーな話しだった。
悪くて、中ニ病な内容なのは自分でも解る。
大上達も、半信半疑に聞いていた。
「フーム。じゃあ、お前さんはその嬢ちゃんとどんな関係だ?」
話を聞き終わり中尾が、第一声に聞いた。
「え?シエラとの・・・ですか?」
瀬川は、顔を赤くした。
それを、見た中尾はなるほどと嫌な笑顔になった。
それ以上、深く聞かなっかったが明らかにバレた。
「で、あのチッビ子は?」
「解りません。たぶん、シエラの知り合いか遠い親戚か何かだと思います。」
実際、シエラは銀髪だから前者の方だろう。
「よし。解った。」
中尾は、大上を見た。
「瀬川士長、明日から普通通り勤務だ。ただし、今話した事は誰にも言うな。」
大上は、そう言ったがどうせ話しても誰も信じないだろう。
むしろ、中尾達が信じたかどうかも怪しい。
「まぁ、良かったな。だが、明日からお前さんを色々と調べるから覚悟しろよ。」
「げっ!」
自分が、実験台に縛られ回りにドリルやら変な器具にかかる事を想像した。
「安心しろ。お前さんが、思っとる様な事はせん。」
「そ、そうですよね。」
瀬川は、安心してため息をついた。
中尾は、そんな瀬川を見て満足し大上達と居室を後にした。
「・・・"オルテ王国"、"白鳳凰騎士団"そして・・・シエラ ローズと言う人物・・・。」
橋本は、歩きながら呟いた。
「普通は、信じられんな。まさに、中2病だ。」
「そうだな。だが、あの女性は瀬川の名前を呼んだ。それに、"例の少女"の件もある。」
長谷川の言葉に、橋本は頷く。
「"例の少女"・・・あの子は、どうしてこの世界に来たのでしょうか?」
「まぁ、おおかた"事故"だろうな。」
橋本の疑問に、中尾は口を開いた。
「あんたらから、聞いた感じでは偶然に"ホール"が開きその時に吸い込まれたんだろう。なにぶん、アッチは何処に開くか予測ができんからな。」
「・・・言わば、"異世界の迷い子"・・・と言うわけですね。」
中尾の仮説に、橋本は納得しながら言った。
「さて、これからどうする・・・か。」
「やはり、方面隊に報告しましょう。」
大上は、長谷川の提案を最初から考えていた。
(ああ、方面に報告したら更に上まで行くだろうな。)
上とは、幕僚、防衛大臣・・・そして・・・内閣総理大臣だ。
ただでさえ、ホールの件で政府は対応に追われているのに。
更に、異世界から迷子が来たのだ。
国会が、混乱する事は目に見えている大上だった。
(それに付け加え、瀬川士長の件も・・・か。)
大上は、政治家達が信じてくれるか不安になってしまった。
中尾は、そんな大上を見てまぁ頑張れと肩を叩いた。
大上は、ますます肩を落とし溜め息をついた。




