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第29話 失踪の王女

ルノーは、マヤを見送り自分も捜索を開始しようとした。


「ルノー殿。」

「ヒャウ!?」


驚いて、変な声を出してしまった。


「・・・オリベル・・・様?」

(イヤー!恥ずかしいぃ!死にたい!死にたい!今の無しー!)


振り返り、無表情を保つ。


「驚かせて、すいません。ただ、少し質問したい事が有りまして。」

「・・・質問?」


ルノーは、首を傾げた。


「ええ・・・。今回の件、シエ・・・いえローズ騎士隊長を囮にし地竜教を一掃する考えですが。」


ハリルは、質問というより確認している様だった。


「発案者のクロエ団長は、何処から彼女が狙われている情報を掴んだか知っていますか?」


確かに、ルノーは囮の件について知っていた。


「・・・いえ。・・・存じません。」


だが、情報の入手法までは知らなかった。


「そうですか。」


ハリルは、腕を組み考えだした。


「あっ。最後に、一つだけ。」

「・・・はい?」


ハリルは、真っ直ぐにルノーを見た。


「”大罪の影”・・・と言う者を知っていますか?」

「・・・大罪?」


ルノーは、首を傾げた。


「・・・ありがとうございました。すいません、時間を裂くような真似をしてしまい。」

「・・・いえ。」


ルノーは、会釈しその場を立ち去った。


「・・・。」


ハリルは、無言でルノーを見送った。


大罪の影、それは噂だった。


影とは、諜報・暗殺を得意とする者だ。


ハリル位の立場になれば、一人か二人は知っている事だ。


影は、国に忠誠を誓った者が死を恐れず任務を全うする。


だが、大罪の影は過去に自分が仕えた国を全て滅亡に追いやったのだ。


彼に、忠誠心など無い。


ただ、気まぐれに国を支えまた滅ぼす。


実際に、存在した人物だが今では処刑されたと聞く。


「・・・まさか・・な。」


ハリルは、考え過ぎだと思い首を降った。


噂では、本当は生きているらしい。


それどころか、オルテの騎士団長の誰かが彼を飼っている。


「・・・レイ グラス ローズか。」


ハリルは、呟いた。


餓狩鬼に、しがみつき振り落とされた人物。


彼のお蔭で、シエラが倒す事ができた。


(・・・タイミングが、できすぎだ。)

「くっ!」


ハリルは、胸を押さえた。


餓狩鬼の一撃で、胸が痛む。


折れてはいないが、ひびぐらいは入っているだろう。


「ああ、そう言えば彼は”無傷”だったな。」


ハリルは、レイが振り落とされるのを見ていた。


騎士の自分が、負傷しているのに一般のレイは傷一つ無い。


どちらにせよ、彼がただ者ではない事は確信している。






シエラ達一行は、レナが用意した馬車の前にいた。


「ふぅー、今日は色々と大変だったわ。」


シルビーは、腕を伸ばして言った。


「ほんとね。でも、無事に三人とも生きてるから良かったわ。」


シェリルは、妹達を見て言った。


「シェリル姉さん。やっぱり、僕は着替えたらアリエル様を捜すよ。」


シエラは、意を決して言った。


王は、休めと言っていたが自分の娘が失踪したのだ。


冷静を装っていたが、内心では心配でたまらない。


それに、アリエル王女はシエラの理解者でありかけがえのない友だ。


シェリルは、そんな妹の心が解るのかシエラの肩に両手を置いた。


「貴女の気持ちは、解るわ。できれば、わたしも協力したい。」


シェリルの言葉は、子供を諭す様だった。


「でも、今は帰って休むの。みんな、疲れきって足を引っ張るだけ。」

「でも!」

「シエラ。王は、アリエル様を捜して欲しいのよ。その為には、まず体力を回復しなくちゃ。」


解るわねっと、シエラに言い聞かせた。


シエラは、黙って頷いた。


「これは、驚いた。あのシエラ隊長が、素直に言うことを聞くとは。」

「ええ。ほんとですね。」


そのやり取りをを、見ていたバチスとレナが驚いた。


「あ〜。私達って、シェリル姉さんには頭が上がらないのよねえ。」


シルビーは、溜め息をつきながら言った。


「ハハハ。そうなんですか。」


バチスは、シエラの意外な一面を見て笑った。


「バチス、何笑ってるんだよ。」

「いえいえ、ほら隊長。早く馬車に乗って下さい。姉上に、叱られますぞ?」

「もう!子供扱いしないでよ!」


その場にいる全員が、和んだ。


シエラは、不服そうにほっぺを膨らませた。


そして、しぶしぶ馬車に乗り込もうとした。


「ん?あれは?」


シエラは、城壁の上に人の気配を感じた。


「・・・アリエル様!?」


城壁の一番高い屋根に、 アリエルを抱えた全身を黒のローブを着た男性がいた。


「隊長!」


バチスから、剣を借り構えた。


シエラ達は、臨戦大勢をとった。


「貴様!何者だ!」


シエラの問いを、男は完全に無視した。


「・・・地竜教の残党でしょうか?」


レナは、低い声で言った。


「・・・解らん。だが、下手に刺激はしない方がいいですな。」


レナの言葉に、バチスは男を睨みながら答えた。


「レナ。魔法で、奴を何とかできる?」

「ダメです。この距離では、王女まで巻き込む恐れがあります。」


レナは、歯痒く言った。


「シエラ、私達がバルカス様を呼びに行くわ。」

「・・・お願い、シェリル姉さん。」

「いい?無茶な事は、やめなさいよ。」


二人の姉は、ゆっくりと後ずさる。


「・・・ちょっと、シエラくん!?」


その時、固唾を飲んで見ていたレイがある事に気付いた。


「どうしたの?レイ義兄さん?」

「ああ。あの男は、人間種族じゃないようだよ。」


レイは、気付かれない様に視覚の魔法を使い男を観察していたのだ。


「どういう事?」

「いや、あの男は一見ローブを着ていて誰か解らないようだけどある特長が。」

「もう!レイ!何が、言いたいのよ!」


シルビーは、遠回しで言う夫に怒鳴った。


「ご、ゴメン!つまり、"エルフ"だよ。顔のローブの隙間から耳が見えた。あの、尖った耳は"エルフ"のものだよ!」

「"エルフ"?」


シエラは、驚いて言った。


エルフは、一つの部族で厳重な結界で保護された森を作り、普段はその結界から出ることはない。


しかも、人とは違う寿命を持ち、その生は数百年にも及ぶ。


聡明な知識を持ち神秘的な雰囲気を持つ者が多い。


しかし、自尊心が高く閉鎖的な考えもある種族だ。


「何で、エルフがオルテにいるんだ?」


もしかしたら、変わり者かも知れない。


「・・・隊長!?餓狩鬼です!?」


レナが、驚いて叫んだ。


エルフの周りを、五匹の餓狩鬼が囲んでいた。


(まさか、獲物はアリエル様!?)


それならば、もしかしたらあのエルフは王女を守っているのでは。


その時、シエラはエルフと眼が合った。


「・・・!?」


笑った。


まるで、見ていろと言うようだった。


エルフは、アリエルを城壁の外に投げ捨てた。


「キュアアアー!?」

「なぁ!?」

「アリエル様ーー!?」


シェリルが、叫びバチスが言葉をなくした。


餓狩鬼達は、アリエルを追い城壁を跳んでいく。


シエラは、駆け出した。


「そんな、そんな!」

「隊長!?くそ!よくも、王女を!」


バチスも、シエラに続いた。


城壁の外は、高い崖になっておりそこから飛び降りたら確実に死ぬ。


アリエルの生死は、絶望的だ。


「あの高さからでは、・・・・もう。」

「バカな事を言わないで!バチス!」


シエラは、祈った。


「・・・・、もうそろそろ・・・か。」


エルフは、そう呟き空を見た。


雲と風が、真上に集まって来ている。


そして、エルフは下を見た。


「来た。」


エルフは、笑いながら言った。



シエラ達は、城壁の外側に着いた。


二人とも、行きを切らし肩を激しく上下させている。


「はぁ、はぁ、はぁ、アリエル・・・様!」


シエラは、周りを見回した。


しかし、そこにはアリエルの遺体どころか餓狩鬼 の姿さえ無かった。


「はぁ、はぁ、こ、これは、どういう事・・・はぁ、はぁ、でしょうか?」


バチスは、困惑しながら言った。


今日は、満月だ。


月夜の光で、周りはよく見える。


これならば、すぐに見付かる筈である。


だが、痕跡すら無い。


シエラは、城壁を見上げた。


エルフの姿が、無かった。


「・・・・まさか人形を使った、囮だったのでは?」


バチスは、考え込みながら言った。


シエラも、同じ様に考えたがすぐにあれは直観的に本物だと思った。


誘拐された。


「・・・いや、アリエル様だよ。」


シエラは、拳を握った。


「ぼくの・・・ぼくのせいだ!」


シエラは、絞るような声で言った。


「・・・隊長。」


シエラは、自分がアリエルと一緒にいた時を思い出した。


「元々、ぼくがあの時にドラゴニードにアリエル様を・・・・!」

「隊長のせいでは、ありません。仕方が無かったんです。まさか、侍女が教祖とは誰も解りません。」


バチスは、考え過ぎるシエラが心配だった。


「でも、ぼくが奴に引き渡した様なものだ!」


シエラの声は、悲痛のものだった。


(タツミ、お願い!アリエル様を、助けて!)


シエラは、月を見て願った。


瀬川に、願ったとしてもどうしようも無いのは解っていた。


だが、願わざる得なかった。


人は、どうしようも無くなった時に神や仏または親しい人に頼みたくなるものだ。


月光が、シエラを照らし冷たい風が吹いている。


「・・・アリエル様。どうか、無事でいて下さい。」


シエラは、夜の闇に呟いた。



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