第28話 一瞬の出会い2
シエラは、目の前の光景が信じられなかった。
突然、草はらの光景が広がったと思ったらそこに緑色の集団がいたのだ。
彼らは半覚醒の地竜を相手に見たことが無い攻撃をしている。
しかも、確実に地竜を追い詰めているではないか。
緑色の人が来て言葉を掛けられたが、言っている意味が解らなかった。
地竜が攻撃してきた後、竜玉を狙えと身振りで伝えた。
いったい、彼らは何者なんだと思った瞬間だった。
奥にいた緑色の人が、兜を上げた。
「・・・た、タツミ。」
シエラは、呟く様に言った。
ずっと、会いたかった人。
いつも、夢の中で愛している人。
その人が今、目の前にいた。
シエラは、立ち上がると放心状態で歩きだそうとした。
「何やってんのよ!」
シエラは、シェリルに腕を掴まれた。
「・・・が・・・いるの。」
シエラは、振り絞りながら言った。
「え?誰が、いるのよ?」
シェリルは、妹の精神が心配になった。
無理もない。
突然、倒した筈の地竜が甦ろうとしている。
その上、謎の集団が現れるという訳が解らない状態なのだから。
シェリル自身も、気が狂いそうになる。
「・・・タツミが、タツミがいるの。」
シエラは、奥で地竜と戦っている兵士の一人を指差した。
「貴女、何言ってんの?」
「・・・アレが、タツミ君なのね?シエラ。」
シルビーは、優しく言った。
「・・・・うん。」
シエラは、頷いた。
(・・・タツミ。)
不思議だった。
先程まで、絶望していたのに今は力が沸いてくる。
「くっ!地竜様!おのれ!いったい、何だと言うの?あいつらは!?」
セナは、狼狽した。
最強の竜が、人間に圧倒されている。
セナにとっては、信じられない光景だ。
セナは、魔法を発動させる為に呪文を唱え出した。
「このまま、黙って主を失ってたまるか!」
セナが、魔法を発動するその時だった。
地竜グランドラゴンの竜玉が、破壊されたのだ。
「ああ!?そんな!?」
2分隊だった。
最初に、当てたのが浅野。
その次に、木元に双葉が続けざまに竜玉に傷を負わせた。
「当たれー!」
瀬川は、切り替えレバーを[タ]から[3]にして発砲した。
単発から3発制限点射になった小銃は、至短時間に3発の弾丸を地竜に浴びる。
2発は、地竜の左目に当たったが3発目玉を完全に破壊した。
地竜は、狂った様に暴れだした。
「ああ!地竜様!」
セナは、両手を口に押さえ叫んだ。
直ぐ様、走って暴れている地竜に駆け寄った。
「深淵の聖霊よ。我が願いを叶えよ。代償は、我。恵みを我が、主。」
セナは、自分の命と引き換えに蘇生の魔法を唱えだした。
地竜の皮膚が、動く。
倒れかけた身体がゆっくりと起き上がる。
そして、精気が蘇っていく。
変わりに、セナの身体が黒ずんでいく。
「地竜様さえ!地竜様さえ、甦れば!」
セナは、狂気の笑みを浮かべた。
再生されていく、竜玉を見てセナは呪文を唱え続ける。
(あと、少し。あと、少しで神が再誕する!)
セナが、確信した時だった。
左腹に、痛みが走った。
「がっは!?」
一瞬、何があったか解らなかった。
しかし、振り向いたら理由が解った。
「き、貴様!?」
「地竜は、甦させない!」
シエラだ。
シエラの両手には、剣が握られていた。
剣先からは、血が滴っていた。
(な、何故?どうやって、あの距離を一瞬で!?)
セナは、シエラがいた場所を見た。
そこには、シルビーとシェリルが互いに片手をつきだしていた。
二人の手からは、僅かに魔力の残気が感じられていた。
(風の魔法!?移動させたのか!?)
セナの身体は、膝から崩れる様に倒れる。
シエラは、ゆっくりと前を見た。
完全にその機能を停めている。
肉が、一気に腐れ落ち骨だけになっていた。
「・・・終わった。」
シエラは、呟く様に言い瀬川を見た。
瀬川も、シエラを見つめていた。
瀬川は、驚いた表情だった。
ようやく、シエラに気付いたのだろう。
口を開け、何回か眼を擦っていた。
「気づくの、遅いよ。・・・バカ。」
シエラは、小さく愚痴をこぼした。
(タツミ、やっと現実に会えたね。ねぇ、このドレス、君に見せたかったんだよ?)
シエラは、高鳴る心臓を押さえながら瀬川に近付いて行く。
瀬川もまた、ゆっくりとシエラに近付いて行く。
二人の距離は、短くなる。
「・・・タツミ。」
シエラは、手を伸ばした。
「・・・シエ。」
瀬川も、手を伸ばした瞬間だった。
突如、急激な光が辺りを包んだ。
「シエラーー!」
眼を閉じる中、瀬川の声が聞こえた。
「タツミーー!」
シエラも、声を出し前へ跳んだ。
しかし、二人の手はお互い掴む事が無かった。
壁があった。
それは、元の壁だった。
「・・・シエラ。」
シルビーは、壁に立ち尽くす妹の肩に手を添えた。
「シルビー姉さん。」
シエラが、言ったと同時だった。
三人の近くの壁が、崩れた。
「タツ・・!」
「良し!崩れたぞ!」
崩れた壁から、完全武装した白狼と白鳳凰騎士団が入って来た。
「「シエラ隊長!」」
まず、聞こえたのが男女の声だった。
その声は、予想外だった。
「レナ!?バチス!?」
シエラは、驚いた。
「ああ、ご無事でしたか!?」
「良かった!待ってください!すぐに、怪我を治療しますから!」
レナとバチスは、三人に近寄ると安堵した。
「・・・大丈夫だよ。それより、何で二人が?君たち、別の任務で王国を離れてたんじゃ?」
シエラの言葉に、反応したのは後ろから来たダイカだった。
「シエラ隊長、御二人はずっと王国内にいたのです。」
ダイカは、方膝を着き言った。
「え?どういう事?」
シエラの疑問に、ダイカは補足する。
「実は、シエラ隊長が地竜教に命を狙われている情報が有りまして。」
「そうです。よって、我らが護衛を団長に進言しました。」
ダイカの言葉を引き継ぐ様にバチスが言った。
「しかし、クロエ団長はこれは"好機"と言い隊長をわざと解雇しずっと我らに見張らせたのです。」
バチスの言葉を聞き、シエラは納得した顔をした。
ああ、なるほど。つまりは、"エサ"にされたわけだ。
クロエ団長らしい、と言えばらしかった。
地竜復活は、予想外だろうがこれで教団はほぼ壊滅状態になった。
それに、教祖を倒せたのもまさに予想外だったろう。
(確か、タツミの世界のことわざで一石二鳥って言うんだったけ?)
シエラは、やれやれと言う表情になった。
「シェリル!!無事かい?」
「シルビー!」
すると、レイとバルカスが慌ててやって来た。
「大丈夫よ。レイ。」
「ああ。シェリル。本当に、大丈夫かい?何処にも、怪我は無いかい?」
レイは、シェリルを心配しながら言った。
「シルビー。良かった。安心したぞ。」
バルカスは、シルビーを抱き締めた。
「ご心配をお掛けしてごめんなさい。」
シルビーは、抱き返した。
「三人とも、無事であったか。」
レオリオが、ルノーとハリルを従えて来た。
「フム。・・・やはり、地竜復活を企ていたか。」
レオリオは、三人の無事を確認すると地竜の死骸を見た。
死骸の回りには、騎士達が警戒しながら囲んでいた。
「シエラ。これは、貴女が倒したのですか?」
ハリルは、感嘆の声を上げた。
「ち、違・・・。!」
否定しようとしたが、シェリルに口を抑えられた。
「はい。私の妹がやりました。」
シルビーは、何食わぬ顔で言った。
「地竜が復活する前に、運よく術者のセナ グラン ドラゴニードを倒せたのです。」
それにより、地竜は中途半端に復活しすぐに崩れ去ったと付け加えた。
「なんと!?グラン ドラゴニードだと!?」
レオリオは、驚いた。
「隊長!?流石ですな!敵の教祖を、倒すとは!」
「シエラ隊長!これで、フォーグスに復帰できますね!」
バチスとレナは、喜びながら言った。
「やはり、我が主の長だ。」「ニャ〜。とんでも無い、人種だね。」
「・・・・凄い。」
ダイカとマヤ、ルノーはシエラの功績を称えた。
「姉さん達!何するんだよ!」
「黙りなさい!」
シルビーの後ろで、シエラとシェリルは声を潜めながら言った。
シルビーの後ろで、シエラとシェリルは声を潜めながら言った。
「いい?本当の事を言って、信じる訳無いじゃない!」
「でも、地竜に勝てたのは僕の力じゃないよ!」
シエラは、反論した。
地竜に勝ってたのは、タツミ達のお陰だ。
自分一人の力では、無い。
それなのに、隠して手柄を受けるなど嫌なのだ。
「納得しなさい!ここで、別の世界があるなんて言えば頭が狂ったとしか思われないわよ。」
シェリルは、必死に説得した。
しぶしぶ、浮かない表情でシェリルの言う事に従った。
「しかし、王女を避難させて正解でしたな。」
バルカスは、改めて地竜を見て言った。
「ほんとですねニャ。王女の身に何かあったら、大変でしたね。」
両手を頭に、乗せてマヤが同意した。
「なんにせよ。これで、邪竜教の一角は潰れたのですから喜びましょう。」
レナの言葉に、その場にいる全員が頷いた。
「く、ククク。ゲハァ!ゴホ、ゴホ、あははははは!」
笑い声が、聞こえた。
セナだ。
自分の計画が、失敗し虫の息の状態なのに。
何故か、シエラ達を嘲笑っていた。
「何が、可笑しい!?」
シエラは、嫌な予感がした。
「あはは!ゴホ。そ、そんなに悠長にして・・ゴホ!良いのかしら?」
セナは、ゆっくりと立ち上がる。
騎士達は、槍を構え取り囲む。
瀕死でも、相手は竜の名を冠する者だ。
何をしてくるか、解らない。
騎士達は、緊張した。
「・・・シエラ ローズよ。あやつが、グラン ドラゴニードか?」
レオリオは、落ち着いてセナを見た。
「・・・・はい。」
シエラは、警戒しながら言った。
「はぁ、はぁ、ゴホ!ふ、フフ、悲しいわね?私の顔を、忘れたのかしら?オルテ陛下?ウッ、ゲホォ。」
セナは、顔を上げた。
「き、貴様は!?」
レオリオは、驚愕した。
先刻に、娘のアリエルを避難するように言った侍女だったのだ。
「ば、バカな!?」
レオリオは、我が目を疑った。
王女の付き侍女が、邪竜教の長の筈が無い。
城に、10年以上使えかつ優秀な者が王女の付きになれる。
しかも、細部に渡り身上を調べ信用できる者だけがなれるのだ。
「貴様!アリエルをどうした!?」
レオリオは、声をあらげ言った。
しかし、セナは倒れて笑うだけだった。
「あ、ああ。今ごろ、かわいい姫は餓狩鬼達に・・・食い・・殺され・・・て・・・い・・。」
「ふざけるでない!」
「陛下!!」
激怒の余り、レオリオは詰め寄ろうとしたがバルカスが静止した。
「最早、事切れています。」
「くっ!バルカス、兵を出し城内を隈無く捜すのだ!」
レオリオは、すぐに命令を出した。
「陛下!僕も・・・。」
「よい。お前は、姉達と帰るがいい。無理をするな。」
「僕なら、平気です!それに、此度の襲撃は僕の責任でもあります!」
シエラは、自分が居たからと思い辛いかった。
本来なら、関係無いアリエル王女が巻き込まれたのは自分の責任だと思った。
しかし、レオリオはあくまで無関係と言った。
「・・・シエラ ローズよ。お前は、十分にやった。今、傷を癒せ。」
そう言うと、レオリオはバルカス達を従えて外に出た。
バルカスは、シルビーを見た。
シルビーは、バルカスの眼を見て頷いた。
「シエラ、安心して下さい。姫は、必ず見付けだします。」
ハリルは、シエラの眼を見て言うとレオリオに北の宮を捜索すると言って足早に行った。
「シエラ、行きましょう。」
シルビーは、シエラの肩に手を置き行った。
「でも!」
「シエラ君。ここは、一旦戻ろう。ひとまず、傷の手当てをしなくちゃ。」
レイは、シェリルを抱き抱えながら説得した。
「詳しい事情は、後でバルカス義兄さんに聞こう。」
「・・・・解ったよ。」
シエラは、従うしかなかった。
「ほら、話しは決まったんだから行くわよ。護衛は、貴方達で良いの?」
シェリルは、バチス達を見て質問した。
「勿論。任せていただきたい。」
バチスは、胸を張って言った。
「ダイカよ。お前は、王女の捜索を頼む。四人の護衛は、わたしとレナ殿で行く。」
ダイカは、頭を下げ了承した。
「は、お任せ下さい。」
そう言うと、ダイカは足早にその場を後にした。
「シエラ隊長。ダイカさんなら、きっと王女を見付け出しますよ!」
レナは、シエラを元気付けた。
実際、ダイカは人や物を捜索するのが得意なのだ。
それは、犬族という種族だけあり嗅覚が発達しているからだ。
「・・・うん。」
シエラは、心配した表情でダイカを見送った。
(お願い、ダイカ!)
祈るしか、できない自分が歯がゆかった。
「ね、ねぇ。シエラ。」
そんな、シエラにシェリルが話し掛けた。
「何?シェリル姉さん。」
シェリルは、周りに気付かれない様に言った。
「・・・貴女の話し、信じるわ。」
「え?」
「仕方ないじゃない!あんな、事が有ったんだから!」
シエラは、少しだけ嬉しくなった。
今まで、アリエル王女しか信じてくれなかった。
なんだか、気恥ずかしいくらいだった。
シェリルは、深く溜め息をついた。
そりゃ、突然景色が変わり現れ地竜を圧倒した謎の軍団。
しかも、その中の一人がシエラの名前を叫んでいた。
「ん?何だい?何の話を、してるんだい?」
妻の反応を見て、レオは興味しんしんで尋ねた。
「もう!何でも、無いわよ!ほら、邪魔にならないうちに早く帰りましょ!」
夫の問い掛けに、そっぽを向き答えた。
「そんな〜、こそこそ話しの内容が気になるじゃないか〜。」
レオは、情けない声を上げた。
そんなやり取りを見ているうちに、その場の緊張感が薄らいだ。
「それでは、行きましょう。皆さんの馬車は、すぐ外に用意してますから。」
レナは、手を合わせて言った。
こうして、一行はその場を後にした。
バルカスは、方膝を付き奥歯を噛みしめていた。
「くっ!お前達、すまない!」
彼の前には、無惨な骸と化した二つの死体があった。
一人は、首の骨を折られていた。
もう一人は、心臓を鋭利な刃物で貫かれている。
この二人は、白狼騎士団の中でも指折りの実力者だった。
また、バルカスからの信頼も厚かったのだ。
「・・・・バルカス殿。」
ルノーは、バルカスの肩に手を置いた。
「・・・ルノー君。すまない。感傷に浸っている場合では、無いな。」
バルカスは、立ち上がった。
「・・・無理も無い・・・です。・・・少し、休憩しますか?」
「いや、大丈夫だ。アリエル様を捜そう。」
バルカスは、マヤを見た。
マヤは、眼を閉じ耳をすませていた。
「・・・・ダメにゃー。全然、姫様の声が聴こえないよ〜。」
マヤは、申し訳なく言った。
キャットピープルであるマヤは、耳が良い。
半径1キロメートルの範囲なら、音を拾える。
「・・・そう・・・。バルカス殿、ご遺体は・・・。」
「ああ。後程、部下に手厚く弔うよう手配しよう。」
バルカスは、早く捜索に戻ろうと言った。
王女を心配しているのは、解る。
だが、それ以上に部下を失った辛さを誤魔化そうとしている。
「ルノー君。別れて捜そう。」
バルカスは、城を出てオルテの南街を捜索すると言った。
「ルノー隊長。今のバルカス様は、少し危ないにゃ。」
マヤは、小さい声でルノーに言った。
「・・・・わかってる。」
白狼騎士団団長バルカス オーェン
彼は、義に厚くまた部下を家族と豪語するほどの人格者だ。
部下が任務により死んだ時などは、哀しみにくれていた。
団長の器では、無いと同じ団長であるクロエに何回も皮肉を言われている。
それでも、バルカスは団長職を辞めない。
家族と共に、国を守り自分の剣を降りたいと思うからだ。
国を守る結果、部下が死ぬのは仕方がない。
だが、今回は違う。
家族を死に追いやったのは、自分だ。
浅はかだったのだ。
もう少し、注意して侍女を見ていれば怪しいと警戒を促す事ができたのに。
バルカスは、遺体に祈りを捧げ数人の部下と南街へ向かった。
「・・・・マヤ。」
「はい。着いて行きます。」
ルノーは、マヤにバルカスを任せた。
「・・・・早く、アリエル様を見付けないと。」
ルノーは、呟く様に言った。




