第27話 一瞬の出会い 1
修正
自衛隊には、上番と下番の報告を長にしなければならない。
第1区警戒地域の場合、長は連隊長 大上 利幸1等陸佐である。
4中隊長である長谷川3佐と2中隊長の田所2佐が報告する形になる。
二人の後ろには、中隊の各小隊長が整列している。
「2中隊長 田所2佐は、警戒勤務に関する件異常無く申し送り下番します。」
「4中隊長 長谷川3佐は、警戒勤務の件異常無く申し受け上番します。」
「かしらー、右。」
「かしらー、左。」
二人の号令で各小隊長達は、頭を動かした。
「「なおれ。」」
「下番中隊は、お疲れさん。24時間という、長い時間でいつまた敵が現れるか解らない緊迫した状況の中で厳正な勤務してくれた。帰隊し、次に備え休むように。」
大上は、2中隊に労いの言葉を贈った。
「4中隊は、明日の1200までの関警戒を怠る事無く頼む。」
その後、敬礼により解散となった。
「なぁ、おい。長谷川よぉ。」
田所は、自分の中隊に戻ろうとしていた長谷川に声をかけた。
「はい?何ですか?田所2佐。」
長谷川は、振り返った。
「いやな。ちょっと、世間話をな。」
「世間話、ですか?」
田所は、ニヤニヤしながら言葉を続ける。
「最近、お前の所の陸士が結構活躍してるじゃねーか。確か、名前は・・・。」
「・・・・それって、瀬川の事ですか?」
長谷川は、頭をかきながら言った。
「おお!そうだよ!瀬川 龍巳だったな!なかなか、優秀な隊員だな。」
今、瀬川は九州管内の隊員達の間で少し有名になっていた。
オオトカゲ(グランドラゴン)を連隊KP[kill point]まで捨て身で誘導し重傷に追いやった。
本当は、逃げまっくたあげく連隊に良いように誘導され先走してLAMを使用しただけ。
ドデカイ狼の際は、いち早く幻覚ガスに気付き行方不明の隊員を発見。
単独で、狼を撃破。
本当は、ワケわからん外人に協力してもらい半べそだったが。
長谷川は、若干苦笑いをした。
「アイツは、そんな大層な隊員じゃないんですがね。」
「ハハハハ!な〜に、謙遜してんだよ。」
田所は、笑いながら長谷川の背中を叩いた。
「そう言えば、聞いたか?」
「何をですか?」
「ほら、瀬川が吹き飛ばしたトカゲの腕だよ。」
「ああ、あれが何か?」
グランドラゴンの片腕は、回収され専門の研究機関に送られた。
しかし、日本だけが未知のサンプルを独占するのは間違いだ。
各国に圧力を掛けられ、ほとんどを米・中・露・英に引き渡した。
どの国も、少しでも異世界の情報が欲しいのだ。
「ほら、あれって引き渡す条件に研究結果だけは日本に報告する義務を付けたろ?その結果が、二日前に来たんだ。」
田所は、得意気に言った。
本来なら、田所のような一介の自衛官に情報は入って来る筈がない。
だが、この男は親戚が国会にいるのだ。
よって、田所の話しは信憑性がある。
「それで、何が解ったんですか?」
「ああ、あのトカゲの鱗はどうも次世代の装甲並みの硬さって事は解ったらしい。」
「という事は、配備されている5.56の小銃処かブローニングM2重機関銃ですらあれには効かないですね。」
「そうだな。有効と言えば、プロームがあるパンツァーファウスト。」
「01ATM(軽対戦車誘導弾)なら、どうですか?」
「確かに、そいつも良いが1〜2門だけなら足止めにしかならないな。最低でも、5門なら倒せるだろうが。」
それを聞き、長谷川は警戒地域の武器配備の再検討を考えだした。
「では、高射特の35mm2連装高射機関砲 や75式自走155mmりゅう弾砲ならどうです?」
「お前な、ここを地図から消すつもりか?」
田所は、呆れながら言った。
「まさか、そんなつもりも権限も無いですよ。ただ、どうなるかですよ。」
「まぁ、配備は別として確実に殺れるだろうな。」
田所は、少し考え言った。
「おおっと、もうこんな時間か。」
腕時計を見た田所は、そう言って長谷川を呼び止めた事を謝った。
「じゃな。また、何か解ったら報告してやるよ。」
「はい、ありがとうごさいます。」
長谷川は、田所に敬礼をして答えた。
その時、だった。
突然、風が吹き荒れたと思いきや爆音が響いた。
「な、なんだ!?」
「雷が、落ちたか!?」
しかし、空は晴天である。
雷が落ちる筈が、ない。
「敵襲―ー!!」
その声は、第1区からだった。
二人は、慌てて声の元に走り出した。
時間は、少し遡り4中隊が2中隊に物品や対処法等を申し受けしている時だった。
「この・・・ばかが!」
「す、すいません!」
怒気を含んだ大声で、瀬川が怒鳴られていた。
「本当、お前わかってんのか?申し受け中に、LAVの中で居眠りしやがって。」
瀬川は、後悔していた。
(昨夜、消灯過ぎて深夜までゲームをするんじゃなかった。)
ちなみに、バイオハザードの新作を一気にひとシナリオクリアしていた。
そのせいで、寝息をたてていた所を双葉に見つかり逆鱗に触れたのである。
「もういい!早く、申し受けに行ってこい!」
「はい!!!」
瀬川は、脱兎の如く駆け出した。
すぐに2中隊の隊員から現在までの警備状況や"ホール"の出現予測地点を聞いた。
「結構、近いですね。」
「はい。たぶん、敵が現れたらここの監視場一帯が最前線で対処しますからね。」
2中隊の隊員は、そう言うと"ホール"の場所を見た。
"ホール"との距離は、約200mありその間隔で半円を描く様に監視場が作られている。
「最前線・・・かぁ。嫌な響きですね。」
「大丈夫ですよ。何も出やしませんよ。実際、昨日なんて暇だったんですから。」
瀬川は、別の意味で嫌な顔をした。
警戒任務は、その特性上夜通しで勤務しなければならない。
1個の監視場に、各小隊が配置して十分過ぎるほど仮眠を取れる。
だが、今日は日曜だ。
本来なら、自分の居室のベットの上でゲームや漫画・小説を楽しみながら1日を好きな番組で締める瀬川にとっては苦痛でしかない。
「よお〜。瀬川、真面目にやってるか〜?」
そこに、4中隊きっての黒光り3曹 高杉 信也が意地悪そうな顔でやって来た。
「んだよ?何か、用かよ?」
「別に、用は無いけどよ〜。お前、また双葉2曹に怒られたって〜?」
高杉の言葉に、瀬川はウンザリした。
「厳正な勤務中に居眠りはなぁ〜。」
「・・・、それを言いに来たのかよ。」
高杉は、急に真剣な表情になった。
その場に、長い沈黙が漂う。
瀬川は、何事かと緊張した。
2中隊の隊員も、強張った表情になった。
高杉は、その重い口をゆっくり開いた。
「・・・、今度の週末・・・合コン行かない?」
脱力感。
「お、お前なぁ〜、そんな事を誘う為にわざわざここに来たのかよ!」
「そんな事・・・違うな!むしろ、重要な案件だ!」
高杉は、右手を握りながら豪語した。
「なぁ〜、頼むよ〜!人数が二人足りないんだよ〜。」
両手を、合掌して懇願しながら言った。
「あっ!君も参加する?ええ〜と、加賀見士長?」
高杉は、2中隊の隊員も誘いだした。
「え?良いんですか?」
2中隊の隊員、加賀見も乗る気だ。
「勿論!よし、一人確保!」
高杉は、ガッポーズをとった。
そして、瀬川を獲物を捕らえるように見た。
「・・・行かない。哀しげな眼に変えても、行く気がしない。」
「ええ〜。行こうぜ!付き合い悪いぞー!」
高杉は、瀬川の腕を掴み言った。
瀬川は、鬱陶しそうにその腕を振り払おうとしている。
だが、高杉は無類の筋トレマニアだ。
腕立て伏せを2分で100回前後までこなす猛者である。
簡単には、振り払えない。
「しつこいぞ!いい加減、離せよ!」
「行くなら、離すぞ。」 「お前、だいたいこの間の看護士との合コンはどうしたんだよ?」
「ああ。楽しかったぞ。だが、メアドをゲットできなかった。」
高杉は、真剣な表情で言った。
瀬川は、看護士との合コンが簡単に想像できた。
飲んだら、脱ぐ。
高杉は、酒が入ると悪癖がある。
本人的に、日頃鍛え上げた肉体を見せたいのだろう。
別に脱ぐのは、上半身だけならいいのだ。
高杉は、酔った勢いで下までやってしまった事が度々ある。
これが、原因で今だに彼女ができない。
むしろ、今日まで逮捕されなかったのが奇跡に近い。
瀬川は、哀れむ様に高杉の両肩を掴んだ。
「・・・高杉。諦めろ。今度こそ、逮捕されて起訴されるぞ。」
その事を知らない加賀見士長は、困惑しながら二人を見ている。
高杉は、瀬川の胸ぐらを掴んだ。
「ウッセエー!いいだろ!別に!」
瀬川も、負けじと高杉の顔を押して振り払おうとする。
「良くねぇ!どうせ、また営内に引きこもるんだろが!」
「それの、どこが悪い!」
「不健全なんだよ!いいか、今俺達の同期で彼女がいないのは俺とお前だけだぞ!」
高杉は、熱く語りだした。
「もう、何人か結婚したあげくに子どもまでいるんだぞ!それに、比べ俺らはどうだ?」
高杉は、腕を離し後ろを向いた。
瀬川は、それを呆れて見るしかない。
「今年で、25だぞ!25!気付いたら、三十路になるまで彼女がいないかもしれねぇ。そして、営内で毎日点呼に出てるかもな!」
高杉は、悔しそうにあのリア充どもがと呟いた。
「あの〜、何なら自分が探しましょうか?」
二人の会話を聞いていた加賀見が、恐る恐る提案した。
「マジでか!!加賀見士長!」
高杉は、加賀見の両手を掴んだ。
「は、はい。大丈夫だと思いますよ。」
それを聞いた高杉は、不敵な笑みを浮かべ瀬川を見た。
「ふ・ふ・ふ。これで、お前はよう済みだよ。瀬川。」
「そ、そうか。良かったな。」
瀬川は、顔を引き吊りながら言った。
『ニヨン、マルニ。』
ポスト内にある無線機から、小隊長 橋本の声が聞こえる。
あわてて、瀬川は受信機のスイッチを押した。
「こちら、ニヨン。マルニ 送れ。」
『ニヨン 申し受けは、完了カ?送れ。』
「ニヨン 申し受け完了」
『マルニ 了。』
そう言うと、橋本は無線を終了させた。
瀬川は、ため息をついた。
(これから、ダルい24時間勤務かぁ。)
「ところで、瀬川。」
高杉は、腕を組み言った。
後ろでは、加賀見が帰隊する為に荷物をまとめている。
「なんだよ?てか、早く戻れよ。」
瀬川は、催促した。
高杉は、空を指差した。
「なんか、"空"が妙じゃないか?」
「あ。ホントだ。」
加賀見も、手を止めて空を見上げた。
「んん?」
確かに、何か変だった。
雲は普通、風に流されるものだ。
しかし、目の前の雲は何故か警戒区の真上を中心に"集まって来ている"。
ありえない。
「・・・?」
瀬川は、ある事に気付いた。
"風"だ。
周りを見たら、木々が円を描く様に揺れているのが解る。
つまり、風が第1区の中央に向け吹いているのだ。
「おいおい、何かヤバくねか?」
高杉は、無理矢理笑みを作って言った。
「各ポストも、気付いているらしいな。」
瀬川は、他のポストを見た。
ポストは、約20m間隔で設けられている。
その後ろに、それぞれ仮眠所がありそこで各小隊が待機している。
1時間ごとに、歩哨を交代する予定になっていた。
それが今、異変に気付いたのかポストから仮眠所から隊員達が外に出て空を見上げている。
「ん?あれは?」
瀬川は、第1区の中央からこちらに走って来る集団に気がついた。
数人の隊員に先導されやって来るのは、どうやら中尾率いる調査団のようだ。
しかも、近付くにつれその表情が皆必死だった。
「どうした?」
すると、双葉と木元が様子を見にきた。
「双葉2曹!あれって、確か外国の調査団隊ですよね?」
瀬川は、走っている調査団を指差した。
双葉は、すぐに望遠鏡で確認した。
「何か、叫んでるな?」
「・・・やく!・・・戦、しろ!」
中尾が叫んでいるようだが、聞こえない。
「・・・・お前ら、弾込めしろ。」
双葉は、だいたい予測がついた。
そして、中尾達の声が聞こえる距離に来ると予測が的中した。
「早く!応戦の準備をしろ!もうすぐ、来るぞ!」
来る?
その場に、緊張が走った。
『迎撃準備!!2中、4中関係無く備えろ!』
無線機から、流れて来た声に瀬川は我に返った。
「行くぞ!」
双葉の号令で、瀬川達は小銃を持ちポストの外に出た。
そこには、ちょうど同じ様に各中隊の隊員達が走って銃を前方に指向していた。
対戦車火器や、重機関銃などまるで自衛隊の模擬戦を行っている様だった。
「来たか?双葉2曹!」
双葉に話し掛けたのは、我等が小隊長である橋本3尉だった。
橋本の近くには、2小隊の面々が緊張しながら銃を構えていた。
辺りは、静まり返った。
「いえ、まだですが。可能性は、高いです。中隊長は?」
双葉は、橋本に問い掛ける。
「今、伝令を報告に行かせている。」
橋本は、前方を睨み付けた。
「・・・いいか?先制攻撃だ。化け物が、こっちらに来る前に一気にかたずけるぞ!」
橋本の命令に、瀬川達は口答で伝達しあう。
現在の最上級者は、3等陸尉である橋本に委ねられた。
瀬川は、ゆっくりと交捍を引いて弾を込めた。
照門から照星を覗き、人指し指を引き金に掛けた。
1分 2分 3分と、時間が過ぎて行く。
「・・・・、気のせい・・・だったのか?」
瀬川は、呟いた。
「馬鹿者!しっかり、警戒せんか!」
後方で、中尾が怒鳴った。
「教授!もっと、下がってください!」
警護の隊員が、中尾を引っ張った。
中尾達は、2小隊のすぐ後ろに避難していた。
もっと、後方で避難するのだが中尾が頑として拒否した。
「ふん!こんな、機会滅多に無いからな!」
だっ、そうだ。
「異世界の"何か"は、絶対に来る!もう、兆候があったのだからな!」
中尾は、確信を持って言った。
(ほんとかよ。)
隊員達は、緊張感が薄れ半分半信半疑になった。
その時、突然突風が吹いたと思ったらまるで閃光弾の様な光と共に爆発音が鳴った。
「うぉ!」
「ぐわぁ!」
一瞬の光に、ほとんどの隊員が眼を背けた。
「う、うぅぅぅ。」
瀬川は、少しつづ眼が回復していった。
「き、来た・・・のか?・・・!?」
瀬川が、視認した光景はありえないものだった。
何もない空間だった所が、まるで割れたガラスの様に崩れていく。
その向こうには、異様な化け物がいた。
オオトカゲ(グランドラゴン)の一種だろうか。
しかし、生きているのか怪しい。
骨が剥き出しになって、皮膚が無く筋肉の繊維しかない。
右腕が、無いです。
辛うじて、三本の手足で立つている状態だ。
(・・・動いた!?)
オオトカゲは、確かにゆっくりと此方に前進して来ていた。
それは、身体を引きずりながら。
「は、ははは。蜥蜴ゾンビ・・・スッかね。」
湯川は、独り言を呟いた。
『う、撃てぇ!何してる?アイツが、此方に来る前に殺せ!』
無線機から、叫ぶな声が聞こえた。
隊員達は、切り替えレバーを安全装置から単発へと切り替え引き金を引いた。
発砲音が、鳴り響く。
2中と4中合わせ、総勢200名近くの一斉攻撃だ。
弾丸は、蜥蜴ゾンビの肉を削ぎおとし骨を砕いていく。
蜥蜴ゾンビを瞬殺できなくとも、確実に押している。
このまま、いけば命を奪う事は確実にできると隊員達は確信した。
「どうした!?」
「ちっ、出やがったか!?」
そこに、あわてて戻って来た長谷川と田所が到着した。
「現在、敵害生物が出現。2中隊と合同で小銃攻撃を実施しています!」
最選任上級曹長である川平曹長が、二人に説明した。
「どうやら、有効な様だな。完全に、此方が優勢だ。」
田所は、裂目を見て笑った。
「どうしますか?このままでも、十分に勝てますが?」
川平は、長谷川に指示をあおいだ。
「・・・いや。勝利を確実に手にする為には、手を抜かずに圧倒撃滅する事が大切だ。」
長谷川は、一呼吸置いた。
「見た限り、あの化け物がいる場所は洞窟内部あるいはそれに近い場所だ。川平曹長、各小隊に対戦車火器の使用を命令しろ。」
長谷川は、肉片一つ残す気などさらさら無かった。
LAMや01ATMで、攻撃すれば跡形も無くなるだろう。
もし、生きていても洞窟内という特性上から内部が崩れ去り無事では済まない。
「お〜、容赦ねぇ〜な〜。」
田所は、長谷川を茶化した。
川平は、すぐに無線機で長谷川の命令を流した。
発砲音のせいで、巧く伝わったかと心配だった。
が、各小隊のLAM手と01ATM手が蜥蜴ゾンビに指向しだした。
その姿を見た川平は、安心した。
「長谷川中隊長。準備ができました。いつでも、撃てます。」
「良し。射撃かい・・・。」
「ん?・・・ちょっと、待て!?」
長谷川の射撃号令を言い終わる前に、田所があわてて止めた。
「何ですか?」
「バカ!人だ!人がいるぞ!」
田所は、眼鏡を取り出し確認しながら言った。
「・・・イチ、ニイ、サン・・・。いや、ヨンだ!四人いやがる!」
田所の言葉に長谷川も、眼鏡を持って確認した。
「射撃中止!?対戦車火器を、使うな!!」
確認し終えた長谷川は、すぐに中止の合図をだした。
蜥蜴ゾンビのすぐ横に、黒髪の女性。
そして、蜥蜴の手前には三人の銀髪の女性がいたのだ。
このまま、射撃を開始していたらあの四人を巻き込んでしまうところだった。
(何故?あんな所に?民間人が?・・・まさか!異世界人とでも言うのか!?)
長谷川は、頭を降った。
今は、そんな事を考える暇は無い。
問題は、あの四人がいる為にATM等が使えない。
注意して見なければ、解らない位置に人がいる。
前衛の隊員達は、まだ気付いていないようだった。
「長谷川!あそこに、一番近い小隊はどごだ?」
田所が、叫ぶ様に言った。
「あそこなら、2小隊が近いです!」
長谷川の変わりに、川平が言った。
「そうか。あそこには、まだ俺の所の1小隊もまだいる筈だな。」
長谷川は、田所の発言を聞き即決した。
「では、二個小隊をもって前進救出させましょう!川平曹長!」
川平は、長谷川の命令を2小隊に流した。
瀬川達、2小隊と2中隊1小隊はひたすら射撃に徹していた。
「残り、何弾倉だ!」
「2弾倉です!」
「ちぃ!単発に切り替えて、節約しろ!」
「まだ、ATMの使用が出ないのか!」
怒涛が飛び交う。
先程、無線機により対戦車火器の命令を中止させられたのだ。
対戦車火器さえ使えれば、この任務が達成できると思った矢先だった。
そのせいで、双葉は気が立っていた。
「何!?本当ですか?」
橋本は、ブレススイッチを押して確認した。
「了解しました。」
すぐに橋本は、動いた。
「馬場3尉!」
2中隊の1小隊長 馬場3尉も無言で頷く。
馬場も、中隊系無線で聞いていたのだ。
「我々が、保護対象に近いので接近します!」
「了解!1小隊をもって、射撃支援を実施します!」
橋本は、双葉と成田に現状を伝えた。
「チィ!そういう事ですか!?」
そして、1小隊の射撃支援が始まった。
「行け行け行け行け!止まるな!」
双葉の掛け声で、瀬川達は姿勢を低くし走った。
2小隊の隊員達は、息を切らせながら保護対象に近付く。
「ハァ、ハァ、ハァ、本当にいる!」
半ば半信半疑だった、浅野が踞っている三人の女性を見た。
位置的に、成田1曹が指揮する1分隊が女性達を保護。
2分隊は、すぐ後ろで援護射撃ができる体勢だ。
蜥蜴ゾンビは、まだこちらに気付いていない。
最初に、駆け付けたのは上林3曹だった。
「大丈夫か!」
上林の言葉に、ショートヘアの女性が反応した。
女性は、頭を上げ上林を見た。
「AnatatahiWa?」
「英語か???」
女性の言葉に、上林は困惑した。
上林3曹は、上級英語課程を受けていた。
度々、米軍との共同訓練で通訳として駆り出される程の教養がある。
(違う!?英語じゃない!)
女性が使った言葉は、上林が知る限りどんな言語のものでも無かった。
「上林3曹!早く保護しろ!」
成田が、激を飛ばした。
「了解!とにかく、君たち早くこちらに来るんだ!」
上林は、腕を差し出した。
その光景を瀬川は、小銃を蜥蜴に指向しながら見ていた。
(・・・あの娘、なんかシエラに似てんな。)
瀬川は、ショートヘアの女性を見て思った。
「・・・ん?」
瀬川は、奥の黒髪女性が女性達を指差しながら何かを蜥蜴に伝えている様子に気付いた。
「・・・下がってください!?」
瀬川が、叫んだ。
「!?」
「上林!下がれ!」
瀬川の言葉に気付いた成田が、叫んだ。
上林と女性の間に、蜥蜴が左腕を上げ振り落としてきたのだ。
「おわぁ!?」
間一髪の所で、上林は転がる様に後ろに下がった。
しかし、これで女性達と距離があいてしまった。
しかも、蜥蜴に気付かれた。
双葉は、射撃号令を出し2分隊は引き金を引いた。
瀬川は、ショートヘアの女性から蜥蜴に神経を集中した。
「ハァ、ハァ・・・生きて・・・いるよ・・な?」
上林は、自分が生きている事を確認して青い顔をした。
「はっ?」
上林は、女性達を見た。
ショートヘアの女性が、蜥蜴の頭を指差しながら何かを言っていた。
(なんだ?何か、伝えたいのか?)
女性は、自分の額を指差し次に蜥蜴の頭を指差している。
蜥蜴の頭を見たら、額に何か光っている物があった。
(なんだ?・・・そうか!)
上林は、成田の方向を向いた。
「成田1曹!額です!額のアレを狙ってください!」
成田は、上林の言葉を聞き蜥蜴を見た。
すぐに、双葉にも伝えられた。
「頭だ!頭の光ってる所を狙え!」
1・2分隊は、共同で額を狙いだした。
既に、中隊の火器威力で蜥蜴の顔はボロボロだった。
「ちぃ!的が小さすぎだろ!」
瀬川は、愚痴をこぼした。
的は、小さいうえに前後左右に動いているのだ。
「くそー!」
瀬川は、鉄帽を見やすくする為に上げた。




