第26話 反魂の儀式
辺りは、薄く紅い光で照らされている。
その光は、シエラ達の下つまり地面が光っている。
それは、幾何学な魔法陣の形をしていた。
(これは、何だ?)
シエラは、魔法陣を見るが専門では無いので解らない。
それよりも、まず姉達だ。
「シルビー姉さん!シェリル姉さん!大丈夫?」
「ええ。大丈夫よ。」
「何なの?何が、どうなってるの?」
シェリルの言葉に、シエラは戸惑った。
自分達が、置かれた状況は正直解らない。
ただ、危険な状況なのは解る。
今までの経験からの、直感だ。
「あら?なら、私が答えましょう。」
ドームの奥から、女性が現れた。
「貴女は!?」
シエラは、驚いた。
その女性は、バルコニーで会ったアリエル王女の侍女だった。
侍女は、不敵な笑みを浮かべシエラ達に近付く。
「止まりなさい!」
すると、シルビーがシエラの持っていた剣を取って侍女を威嚇した。
「あら?どうなされたのです?」
侍女は、シルビーに言った。
「貴女は・・・・、何者?」
「わたくしは、王女アリエル レオ オルテ様の専属侍女です。」
シルビーの問いに侍女は、笑顔で答えた。
「・・・名を、言いなさい。」
その声は、いつもの穏和なシルビーでは無かった。
二人の会話聞きシェリルは、シエラを守る様に抱き締めた。
「名・・・ですか?」
「早く、答えなさい!!」
シルビーは、冷静にまた怒気を含んだ声で言った。
侍女は、やれやれと言うように口を開いた。
「セナ "グラン ドラゴニード"で御座います。」
「「「!?」」」
その名を聞き、シルビー達は驚愕した。
なぜなら、姓に竜を意味する者は邪竜教団の最高位である教皇。
つまり、教団のトップにして教団内の最強を意味するからだ。
(バカな!王女の侍女が教皇だって!)
何時でも、アリエル王女や国王に妃を殺せる立場に教皇自らがいたのだ。
掴みかかりたいが、身体に力が入らない。
「くっ!」
シエラは、教皇 セナを睨み付けるしかない自分に苛立った。
「あら。怖いわ。やっはり、手負いの獣は。」
セナは、からかいながら笑った。
「・・グラン ドラゴニード。私達を解放し、大人しく投降しなさい。」
「そ、そうよ!もう、外には白鳳凰騎士団と白狼騎士団が包囲してる筈よ!」
シルビーの言葉にシェリルは、勇気を振り絞り言った。
「フフ。残念ながら、今の所はわたくしの計画通りですから投降は致しません。あと、わたくしの事は気軽にセナとお呼び下さい。」
言っている言葉は、丁寧だがその目は冷たく見下している。
「・・・・では、セナさん。私達を閉じ込めて何の価値があるの?」
シルビーは、冷静を保ちながら言った。
少しでも、セナから情報を聞き出し脱出の糸口を掴みたいシルビーだった。
「・・・"価値"?フフ、勿論!貴女方には、大切な役目を用意しています。」
セナは、微笑んで言った。
「・・・シルビー姉さん。その剣を、貸して!」
シェリルは、シルビーに小さい声で言った。
「姉さんがこのまま、あの女の注意を引いて!その間に、私がその剣で!」
シェリルの考えは、相手は一人の丸腰の女性。
対して、此方は剣を持っている。
傷と疲労で動けないシエラを守る為に、自分がセナを打つというものだった。
「駄目だよ!シェリル姉さん!」
シエラは、シェリルの提案を止めた。
「貴女は、黙ってなさい!」
「、黙らないよ!アイツは、"竜"の名を冠する教皇だよ。」
セナが、弱い筈が無い。
事実、床の魔法陣はかなり強靭な力を放っている。
その事から、あのセナは最高級の魔力を持つ魔法使いだという事がわかる。
「そうね、シエラの言う通りよ。シェリル。あの女は私達を殺そうと思えば、指一つを動かせばできるわ。」
シルビーは、シエラの発言を肯定した。
「だから、僕が戦うから姉さん達は!」
「そんな、身体で何言ってるのよ!」
シェリルは、無謀な妹を抱き締め言った。
「そうやって、無茶しないでよ。今度こそ、死んじゃうわ!」
「そうよ。シエラ。貴女は、少しでも走れる体力を回復させなさい。」
シルビーは、振り返らずに言った。
「でも!」
「良い?無茶せず、三人で切り抜けるのよ。」
シルビーは、剣をセナに向けて言った。
「アラアラ?そんな物を私に向けて、何をするつもり?」
セナは、シルビーをバカにする様に言った。
「だ、駄目だ!シルビー姉さん!」
シエラは、声を振り絞るように言った。
「フフ。焦らないで欲しいわ。貴女方は、我が"主"の"大切な贄"なのだから。」
セナは、嘲笑いながら言った。
セナが、言う主はグランドラゴンの事だとシエラは気付いた。
「どういう意味だ!?地竜は、もう居ない筈だ!」
シエラは、身を起こして言った。
「僕が、確かにこの手で倒したんだ!」
シエラの言葉を聞き、セナは右手を上げ指を鳴らした。
「うっ!?」
「ああ!?」
「くっ!?シェリル姉さん!シルビー姉さん!」
セナが、指を鳴らすと同時にシエラ達はまるで身体を強く押さえつけられる様に床に倒れた。
「確かに、我が主は貴女に打ち倒された。だから、私のような敬虔な信者が地竜様を冥府より呼び戻すのよ。」
セナが語る言葉は、何処か自分に酔っている様だった。
「ば、バカじゃない!どうやって、死んだ竜を甦すって言うのよ!」
シェリルは、必死に魔術に抵抗しながら強気に言った。
「周りを、ご覧なさい。この陣は復活の為に作った陣よ。」
セナは、両手を広げ言った。
「この陣は、地竜教の秘術。反魂の儀式の為に、3日かけて張った物よ。」
セナは、得意げに言った。
この複雑で高度な術式を完成させるには、最低でも半月はかかる。
それを、セナはたった3日で秘密裏に完成させたのだ。
シエラは、目の前の女性が間違いなく"教皇"なのだと再認識した。
「この魔法の発動条件は、たった三つ。三人の若き娘を贄として捧げ。千人の血肉を与えた餓狩鬼を陣の中で贄の一人に殺させる。そうすれば、地竜様の肉体が復活する。」
シエラは、セナの言葉を聞くと先程倒した餓狩鬼を見た。
が、そこにある筈の死体が無かった。
「な!?」
シエラは、困惑の表情を浮かべた。
それを見て、セナは高笑いをした。
「アハハハハ!もう、遅い!」
セナは、懐から宝石を出した。
「それは!?」
シエラが驚いた宝石は、知っている物だった。
グランドラゴンの遺体から剥ぎ取り献上した地竜の"竜玉石"だった。
セナは、竜玉石をシエラ達の前に投げた。
すると、石は空中に制止した。
その時、竜玉石の回りに紅い霧状のものが集まりだした。
やがて、"それ"は形を作りだしあのグランドラゴンの形状になった。
だが、皮膚と骨が剥き出しになった不完全なものだった。
「あ、ああ。」
「う、嘘よ。」
「そんな。」
それでも三人は、一気に恐怖心にかられた。
それを見て、セナは愉快そうに話しを続ける。
「そして、最後の条件は不完全な主に三人の贄の血肉を捧げれば"反魂の儀式"は成功するの!」
セナは、シエラ達を見て声を上げ言った。
不完全なグランドラゴンは、その巨体をゆっくりシエラ達に向かわせて行くとこ行く。
(僕のせいだ!僕のせいで、姉さん達を巻き込んだんだ。)
シエラは、恐怖心と魔術に戦いながら立とうとした。
だが、身体が動かない。
「ごめんなさい。僕のせいで。」
シエラは、情けない自分を責めながら言った。
「こら!情けない声を出さないでよ!それに、こうなったのはシエラのせいじゃないわ!」
シェリルは、弱音を言ったシエラの右手を握った。
「そうよ。シエラ。諦めないで!きっと、助けが来るわ。信じましょう!」
シルビーも、シエラを励ますと左手を握った。
姉達の強い言葉を聞き、シエラは弱音を言った自分が恥ずかしくなり同時に勇気が出てきた。
「二人とも・・うん。ゴメン。僕、もう諦めないよ!」
シエラは、二人の手を握り締めグランドラゴンを睨んだ。
「アハハハハ!もう、無理よ!諦めて、我が主に一瞬の出会いを感謝して死になさい!」
グランドラゴンは、近付いて来る。
その距離は、もはやすぐそこだった。
いや、風がシエラ達の後ろで"集まって"いるのだ。
(こ、今度は何!?)
そして、治まったと思ったら目も眩む光を放った。
「うわぁ!?」
シエラは、セナがまた何か魔法を使用したと思った。
(タツミ!助けて!)
シエラは、両目をつぶりタツミを思った。
だが、セナは魔法を使っていなかった。
「な、何!?」
セナもまた、想定外だったのか両手で顔を隠し驚愕している。
光は、やがて弱くなるとシエラの後ろから外の空気が漂って来た。
(バルカス義兄さんだ!助かった!)
シエラは、後ろを見た。
きっと、そこにはルノーやバルカスといった武装した騎士達がいると思っていた。
しかし、そこにいったのは騎士達では無かった。




