第23話 質問
何時間、経つだろうか。
時間の感覚がいやに遅く感じる。
ここ元演習場、"特別警戒地域"で警備に上番して瀬川はLAV(軽装甲機動車)の中から空を眺めていた。
「・・・まだ、10時かよ。」
瀬川は、腕時計を見て呟いた。
デジタル時計は、上番し一時間しか進んでいない。
グランドラゴンの一件から政府は、特別警戒地域を厳戒体勢を引いた。
駐屯地などの警戒は、通常中隊から6名だが規模が違う。
何が来ても、すぐに対応できるよう。
外と中に、一個中隊を配備警戒するということになったのだ。
これに対し41連隊は、各中隊でローテーションで対応した。
また、他県の16連隊と40連隊は来週から増強として組み込まれる事が決定してある。
この背景にはーー
漫画やゲーム等を、参考にしようと幹部自衛官が店に群がったり。
政府が、映画監督や漫画家・ゲームクリエイターを集め意見交換も行われた。
その結果で、出された結論だった
「瀬川士長。あの集団って、"例"のやつですよね?」
ガナーハッチに、座っていた浅野が話し掛けてきた。
レオウルフによって、またもや病院送りにされた瀬川。
今回は、軽い打撲だけなので日帰りで退院できたのだった。
浅野は、極度の疲労で衰弱していただけで一日だけ入院し回復した。
本人の希望で、現場復帰したのだ。
話は戻して、瀬川は前方の外国人の集団を見た。
「ん?ああ。確か、国際なんたら・・・。」
「・・・"国際協同調査隊"だ。」
瀬川に助け船を出したのは、ドライバーの木元だった。
「日本に出現した生物を、研究、解明する為に各国の学者が協同で調査に来ているんだよ。」
木元は、二人に説明した。
今、日本つまり別府市は各国から注目されている。
未知の生物だけでも、珍しのにその生物は異世界からだと言うではないか。
そこで、米、中、英、露などの国が日本に調査団を派遣した。
ちなみに、調査団の警護などの費用は日本が負担している。
「何で、日本が負担しなくちゃならないんですか?」
浅野は、憤慨しながら言った。
「そんなもん、簡単な話しだ。政府が弱腰やから、つけ入れられるんだよ。」
これに答えたのは、双葉だった。
彼は、今週家族と旅行を計画していた。
しかし、この体勢に移行したせいで中止になった。
そのせいで、今双葉は相当機嫌が悪い。
政府が悪いだの、今の連隊はだのと言い出す始末だ。
(勘弁してくれよ。)
その時、調査団の一人が瀬川達に近付いて来た。
「おい、瀬川とか言う小僧はいるか?」
どうやら、日本人だった。
白衣の右胸のネームに"東京大学物理学科准教授 中尾 忠昭"と書いている。
「は、はい。自分が瀬川 龍巳ですが。」
瀬川は、LAVから出て中尾に軽く挨拶した。
「ほう?お前さんがか。わしは、調査団の日本代表にして"クロス ワールド"現象の中尾だ。」
中尾は、瀬川に簡単に自己紹介をした。
「はぁ。」
「何だ?その気の抜けたような返事は?」
中尾は、瀬川を睨みながら言った。
「スンマセン。・・・・ん?中尾?」
そう言えば、前にTVで中尾を見た気がした。
(あれは、確か・・・・。)
「あっ!学会から追放された人だ!」
そう、瀬川がまだ中学生だった頃だ。
TVのニュースで中尾が出ていた。
中尾は、平行異世界交差現象説という論文を発表して学会・マスコミから変人と叩かれていた。
瀬川は、その事を思い出した。
その本人が、目の前にいる。
「ほぉ、わしを知っとるのか?」
「い、いえ。前に見たTVで・・・。」
中尾は、ニヤリと笑ってああアレかと言った。
「瀬川士長、誰です?この人?」
浅野の問いに、本人を前にして変人と答える訳にはいかない。
「わしか?わしは、変人だった男だ。」
中尾は、瀬川の変わりに答えた。
中尾は現在、"クロス ワールド"現象において政府から正式に雇われている。
中尾の論文は、正しかったと証明された証拠だ。
事実、中尾は政府の資金援助でいくらでも好き勝手できる。
人手が欲しければ、助手として各方面の最高権威の学者も呼べる。
ちなみに、平行異世界交差現象説論文は業界ではベストセラーになっていた。
「でっ?その学者さんが、ウチの隊員に何の用で?」
双葉は、LAVから降りて中尾に尋ねた。
「なぁに、ただ例の女性の事を聞きたいだけだ。」
「げっ!」
瀬川は、明らかに嫌な顔をした。
中尾が言う女性とは、謎の美女"ラム"の事だ。
瀬川は、警務隊・警察・政府関係者等から同じ様な質問攻めにあったのだ。
内容は、どうやってあの化け物の特性を知った?
回答は、謎の美女外国人に教えて貰いました。
質問、その人は何者だ? 回答、解りません。
質問、何人?
回答、肌の色からイギリス?
質問、わかったじゃあ何語を話していた?
回答、カタコトの日本語を話していたけど・・・・時々意味が解らない言葉を話してました。
いえ、英語では無いです。
質問、話を変えるが化け物に刺さっていた矢はその女性が?
回答、はい。飛ばしました。
その後、モンタージュを作る為に質問攻め。
"耳"の特徴は、隠しといた。
それを、1日中繰り返す。
軽く、精神が崩壊するかと思ったほどだ。
「安心しろ。お前さんの資料を読んで、だいたいは把握知っとる。」
「じ、じゃあ、何ですか?」
瀬川は、恐る恐る訊いた。
すると、中尾は瀬川の首に腕を回し自分の顔に近付け小声で言った。
「お前さん、質問の内容に"何か"言わ無かっただろ?」
「!?」
瀬川は、驚いた。
確かに、耳の事は言っていない。
「化け物に刺さった矢を、ワシなりに調べた。あの鉱石、どんな鉱物にも当て嵌まらんかった。つまり、"この世界"には無い鉱石だったてっ訳だ。」
中尾は、横目で瀬川を見て続けった。
「わしは、アッチの世界には原住民・・・・知的生命体がいると考えとる。」
中尾は、お前さんはどう思うと言う様に瀬川を見た。
「お、おれ・・・自分には、正直解りません。た、たっだ・・。」
「何だ?」
「頭がおかしいとか、思われるかもしれないけど・・・ラム・・・その女性の耳・・・人間じゃ有り得ないほど長くって尖っていました。まるで、エル・・。」
(エルフ、みたいだと思う。)
瀬川は、次の言葉を言えなかった。
だが、中尾はそれだけを聞きニヤリと笑った。
「・・・・そうか。エルフか。」
中尾は、瀬川を解放した。
「そうか、そうか。いや、悪かったな!厳正な勤務中に、迷惑をかけた。」
中尾は、笑いながら調査団に戻って行った。
「・・・瀬川。お前、何訊かれたんだ?」
木元は、瀬川に言った。
「・・・・謎の女は、美女かと訊かれました。」
(エルフかどうかなんて、言えねぇ!)
「「「はぁ?」」」
それを、聞いて双葉、木元、浅野は一斉に言った。




