第22話 乱入
修正
獲物まで、あと少し。
餓狩鬼達は、不気味に唸る。
それは、まるで悦んでいるかの様だった。
餓狩鬼は、天井を這いずり歩を進めようとした。
その瞬間ーー
高速で何かが、一匹の餓狩鬼の背中に突き刺さった。
呻き声をあげ、餓狩鬼は床に落ち絶命した。
それは、長い槍だった。
残り餓狩鬼は、警戒の声をあげる。
ルノーが、走って絶命した餓狩鬼から槍を引き抜く。
それを、瞬時に別の餓狩鬼へと投げる。
槍は、吸い込まれる様に頭部に命中した。
ーー敵が、来た。
天井を這いずっていた餓狩鬼は、場所を柱に移りルノーに飛び掛かる。
鋭い爪が、ルノーを襲う。
だが、ルノーの後ろからマヤが驚異の跳躍力で餓狩鬼の背中に乗った。
「ニャア!」
重みで、床に落ちた餓狩鬼を二刀のタガーにより切り刻んだ。
その隙に、ルノーが槍に向かい走る。
残り二匹が、一斉に攻撃を仕掛けた。
「甘い!!」
ルノーは、槍を取り構えた。
瞬殺だった。
繰り出された槍は、頭部、喉、心臓等の急所を捉えた。
しかも、二匹同時だった。
ルノーは、正直に言うと強い。
もしかすると、シエラよりも上回る槍術使いだ。
ただ、平民出というだけで多くの貴族から下に見られてしまう。
「うぅぅうう〜。キッモーーー!マヤマヤ〜!」
ルノーは、マヤに抱きついた。
「キモ!キモいよ!キモキモだよ〜!吐くよ〜。オェェ!わたし、やっぱりコイツら生理的に受け付けないよ〜!」
「ああ〜、そうですニャ〜。気持ち悪いですニャ〜。」
マヤは、あやす様にルノーの頭を撫でた。
「でも、ルノー隊長。一気に、餓狩鬼四匹はさすがですニャ!」
「・・・・そんな事、無い。」
ルノーは、瞬時に無表情になった。
マヤは、長い付き合いだ。
それが、ルノーの照れ隠しなのはわかっている。
「でも、これで五匹ですニャ。もう、いないんじゃないでしょうか?」
「う〜ん。そうかな?確かに、こんなのがまだいるとは限らないけど〜。」
ルノーは、悩んだ。
餓狩鬼は、5〜6匹の群れで行動する。
何故か、嫌な予感がするのだ。
「・・・杞憂なら・・・良い・・・んだけど。」
ルノーの独り言が、闇に響いた。
「良い感じ、じゃない♪」
シェリルは、シエラとハリルを見て言った。
「やっぱり、私の見立ては間違ってなかったのよ。」
シェリルは、上機嫌で言った。
「本当に、君は妹想いな姉だね。」
シェリルに、穏和な表情をした男性が話しかけた。
「フフ。だって、シエラにはちゃんと幸せになって欲しいんだもの。解るでしょ?レイ。」
レイと呼ばれた男性は、茶髪の髪で眼鏡わ掛けている。
「フム。確かに、僕も思うよ。何て言ったて、シエラちゃんは義理妹だからね。」
レイは、シエラを見ながら言った。
「そうでしょ!?何時までも、空想の人物に構ってられないのよ!?」
「確か・・・"セガワ タツミ"だったね?いや、なかなか面白い話しだよね?今度、詳しく聞いて小説の題材にしよう。」
「貴方まで、何言ってるのよ!」
シェリルは、夫を睨みながら怒鳴った。
「ご、ゴメン!でも、そうそう無いよ?この世界とは、文明が異なる異世界の青年と恋に落ちるなんて。小説のネタに、できるよ。最近、ネタが浮かばず困ってたんだ。」
レイは、慌てて言った。
シェリルの夫のレイは、小説作家である。
主に、恋愛ものが多いが時々は英雄ものも書いている。
レイの作品は、なかなか人気がある。
書籍自体、高価な品である為。
主に、貴族や大手商人の子息・淑女等の裕福層だ。
だが、今はスランプになっていた。
「まったく、いい?貴方は、才能があるの!だから、焦らずに自分の力で書くのよ。」
シェリルは、レイの手を取り言った。
「・・・シェリル。」
「それまで、いつもどうり私が貴方を支えてあげる。」
元々、シェリルはレイのファンだった。
彼女が、猛烈アタックのすえレイと交際し結婚した。
レイが落ち込んだ時や小説の期限で追い込まれた時は傍にいて励ましていた。
「あらあら、お邪魔だったかしら?」
「し、シルビー姉さん!?」
「お、義姉さん!?」
いつのまにか、シルビーが話しかけた。
二人は、手を離し顔を真っ赤にさせシルビーを見た。
「相変わらず、二人とも奥手ね。」
シルビーは、微笑なが言った。
「な、何よ!姉さんには、関係ないでしょ!」
「フフ。夜の営みも、まだ何でしょ。」
「なっ!?ゲッホ!ゲッホ!ゲッホ!」
シルビーの一言にレイは、咳こんだ。
「レイ!だ、大丈夫?もう!それこそ、姉さんには関係ないわよ!」
シェリルは、夫の背中を擦りながら言った。
それを、面白そうにシルビーは眺めた。
「だいたい、バルカス義兄さんはどうしたのよ?」
シェリルは、早々に話を変えた。
「バルカス様なら、先ほど警備命令を出されて行ったわ。」
「ゲッホ!お、義兄さんが・・・ですか?」
レイは、落ち着いてきたのかシルビーに聞いた。
「今日から、義兄さんは休暇日では?」
「ええ、何でも国王様のご命令なんだとか。」
今いる白狼騎士団で、会場内の警備を任せられたと付け加えて言った。
「ふぅ〜ん。騎士団長も大変ね。」
シェリルは、半分同情して言った。
「そうね。だから、私一人じゃあ寂しいから貴女達を探してたの。一緒にいて、いいかしら?」
「ええ〜。でも・・。」
「ええ。僕たちは、構いませんよ。」
シェリルが言い終わる前にレイが、快諾した。
シェリル的には、レイと二人でいたいがレイはそうゆう所が鈍感だった。
シェリルは、レイを睨んだ。
(え?別に、良いじゃないか?)
レイは、そんな表情を浮かべた。
「・・・もう。鈍感。」
シェリルは、小さい声で言った。
「それじゃ、シエラ達と合流しましょ。」
「え?あの子とも??」
シェリルは、姉を見て言った。
「ええ。そうよ?」
シルビーは、悪気なく言った。
「でも、あの子。今、良いとこなのよ!こんなチャンス、滅多に無いのよ!」
シェリルは、シルビーに言った。
「あれ?シルビー姉さんにシェリル姉さん。」
が、シェリルの願いとは裏腹にいつのまにか二人がやって来た。
「あら、シエラ!ちょうど、良かったわ!」
シルビーは、笑顔でシエラに言った。
こうなってしまったら、仕方ないとシェリルは溜め息をついた。
王 レオリオは、会場を見回した。
まだ、異変に気付いている者はいないようだ。
こんな時に、焦っていては不安が広がる。
何事も無い様な顔を装った。
いったい、誰が餓狩鬼などを差し向けて来たのか。
予想は、すぐにできた。
地竜教だ。
餓狩鬼の群れを使い、邪魔者を葬る。
地竜教の常套手段だ。
しかし、この様な目立つ日に差し向ける理由が解らない。
既に、五匹を撃破した知らせを受けている。
「・・・何か、別の目的がある・・・のか?」
レオリオ王は、呟いた。
一瞬、"ある禁じられた儀式"が頭を過った。
「お父様!」
その時、アリエルがレオリオに飛び付いた。
「ああ!王女様!いけません!はしたないですよ!」
アリエルの侍女が、慌ててたしなめる。
「良い。気にするな。」
レオリオは、娘の頭を撫でながら言った。
「し、しかし・・・。」
「なに、こうして飛び付くのも今のうちだけだ。」
レオリオは、侍女に微笑みながら言った。
「アリエルよ。楽しいか?」
「はい!先まで、シエラお姉ちゃんと話してたの!」
「ローズとか?どの様な、話しをしたのだ?」
「それは、秘密です!」
「余にもか?」
レオリオは、娘との会話を楽しんだ。
その光景は、王としてでは無く一人の父親だった。
「さぁ、アリエル。今日は、もう遅い。帰りなさい。」
「ええ〜!アリエルは、まだ帰りたくないです!」
駄々っを、コネるアリエル。
それを、見ている侍女はハラハラしていた。
レオリオは、バルカスを見た。
バルカスは、すぐに騎士団から二名を護衛として選んだ。
「アリエルよ。父を困らせないでおくれ。」
「うぅぅ。解りました。父上。」
まだ、納得できない顔をしているがアリエルは頷いた。
頬を、膨らませてはいるが。
「ささ。姫様、行きましょう。」
アリエルは、侍女と二人の騎士に連れられて会場を出ていった。
レオリオは、娘が出て行くまで見守り右手で顔を隠し溜め息をついた。
「殿下、安心なさって下さい。あの二人は、我が白狼騎士団の中でも屈指に入る者達です。」
バルカスは、レオリオを安心させようと言った。
しかし、レオリオの溜め息は不安からくるものでは無かった。
「つくづく、余は勝手な人間だな。リューナ。」
レオリオは、隣に座っている妃に皮肉を言った。
解決するまで、会場内から誰も出さないと決めていた。
だが、自分の娘だけは安全な場所へと行かせたのだ。
「殿下。仕方がありません。アリエルは、大切な"娘"なのですから。」
リューナは、アリエルがまだ産まれて間もない頃に隣国から嫁いで来た。
二人に、血の繋がりは無い。
アリエルの実母は、彼女を産んで死んでしまった。
しかし、リューナはまるでアリエルを実子の様に接している。
「すまぬ。本来は、お前も避難させたいのだが。」
「お気に召さらずに。私は、殿下のお側にいます。」
リューナは、笑って言った。
シエラは、姉たちと合流し正直ほっとしていた。
なぜなら、ハリルといるのが気まずいからだ。
突然の告白だったが、嬉しかったのは事実だった。
(でも、僕はやっぱりタツミが好きなんだ。)
ハリルは、時よりシエラを見て微笑む。
(やっぱり、気まずいよ〜。)
その時、何処からか奇妙な気配を感じた。
(何だ?)
シエラは、回りを見回した。
「ちょっと、聞いてるの?シエラ!何よ?上なんか見上げて?」
シルビーは、シエラに言った。
「・・・・!?危ない!」
シエラは、シルビーを突き飛ばした。
「キャア!?」
シルビーは、小さな悲鳴をあげ倒れた。
「何するの?・・・!?」
シルビーは、文句を言おうとした。
が、天井から"それ"は自分達を目掛け降って来た。
いや、襲い掛かって来たのだ。
「くっ!」
凶爪が、シエラの頭部を襲う。
シエラは、上半身をずらし紙一重でかわした。
だが、爪はシエラの肩をかすめた。
白いドレスの肩が、鮮血で紅く染まる。
シエラが、突き飛ばさなかったらシルビーは"それ"の下敷きになり潰されていただろう。
「シエラ!?」
「シエラちゃん!?」
姉たちが、叫ぶ。
"それ"は、爪に着いた血を舐めた。
そして、味あう。
やっと、"獲物"を狩れる。
待ちに待った、この瞬間が来た。
"それ"は、シエラを見て低く唸った。
まるで、笑っているように。
「・・・"餓狩鬼"!」
シエラは、肩を抑え喉から絞る様に"それ"の名を言った。