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第21話 騎士の妻

「フフ。シエラたら。」


シルビーは、バルコニーにいるシエラとハリルを見て呟く。


妹が、どうやらグラスを割ったらしい。


あの子らしいと言えば、あの子らしい。


「シルビー。覗き見か?」


すると、一人の騎士がやれやれと言うように声をかけた。


黒い短髪で、ハンサムだが右目が傷でふさがっている。


しかし、それが相まって彼が歴戦の勇士である事がわかる。


「あら?バルカスさま。ご挨拶は、もうお済みになったんですか?」

「いや。まだだが、自分の妻が楽しそうに見つめているのが気になってな。アレは、・・・シエラ君か。」


バルカスと呼ばれた騎士興味げに見た。


「今日のあの子、素敵でしょう?」

「確かに、最初は驚いたが綺麗だ。隣にいるのは?」

「オリベル・ド・ハリル侯爵です。」

「おお!彼か!なるほど、似合いの二人だ。それに、ハリル侯爵は我が"白狼騎士団"の第1隊騎士隊長だからな。信頼できる男だ。


バルカスは、自慢気に腕を組む。


ハリルの所属する"白狼騎士団"の団長は、このバルカスなのだ。


彼の実力を、バルカスは十分に理解していた。


「・・・そうですね。でも・・・。」


シルビーは、少し残念な顔をした。


「ム?どうした?シルビー?」

「あの子には、もう心に決めた人がいるのです。」

「心に決めた人?」


初耳だった。


「それは、誰だ?俺の知っている奴か?」


夫の問いにシルビーは、微笑んだ。


「フフ。私も話しでしか聞いていません。ただ、遠い遠い方だと言う事しか。」

「そうか・・・名前ぐらいは、聞いてないのか?」

「"セガワ タツミ"です。」


シルビーは、バルカスの問い何故か自慢気に答えた。




突然の告白だった。


月明かりの下、シエラは頭の中が真っ白になった。


(婚約?誰が?え?僕に?)


目の前のハリルは、真剣な表情で返答を待っている。


ハリルは、良い人だ。


今日、初めて会ったが解る。


誠実で、優しい人。


このまま、彼の申し出を受けたら自分は幸せになるだろう。


(でも、僕には・・・。)


シエラは、深呼吸をして心を落ち着かせた。


「・・・・ごめんなさい!そ、その、ハリルが嫌だからじゃあ無いんです!ぼ、僕には、もう好きな人が・・!」

「・・・・"セガワ タツミ"・・・。」


ハリルは、シエラの言葉を遮る様に言った。


「え?」

「貴女の、思い人は"セガワ タツミ"という男・・・ですね。」


何故、ハリルがタツミの名をと思ったがすぐに理由がわかった。


「先ほど、貴女と姫君の話しを聞いていました。」


ハリルは、イタズラが成功した子どもの様に微笑んだ。


「夢の世界で会う、異世界の人間。興味深い話しだ。」


ハリルは、シエラの両手を優しく握った。


「ハリル?」

「しかし、私も貴女に対する思いは強い。今は、身を引きますが諦める訳ではありません。」


そして、シエラにウィンクした。


それは、求婚を続けるという意味だ。


「さあ、そろそろ会場に戻りましょう。」

「は、はい。」


ハリルは、シエラの手を引き会場に戻った。




「・・・何!?餓狩鬼だと!?」


レオリオ王は、若い騎士から報告を受けた。


「国王様!直ちに、避難するべきです!」


横にいる小太りの大臣が、小さい声で言った。


「・・・いや、余を狙っているとは限らん。」

「ですが!城中の兵を集めましょう!」

「狼狽えるでない。皆が、気付く。」


レオリオは、表情を変えなかった。


「今、餓狩鬼の存在を知られれば無用な混乱が起こる。それに、城の兵を集めたとしても間に合わんだろう。」


レオリオは、眼を閉じ考えた。


やがて、考えがまとまり口を開いた。


「白狼騎士団長を呼べ。」


しばらくして、焦りの表情を浮かべバルカスが来た。


「陛下!事情は、聞きました!」

「落ち着くのだ。バルカス。」


レオリオは、諭られない様に右手を振っている。


「よいか。まず、城内の皆の安否を確認せよ。その次に、バルカス。今いる白狼騎士達をもって、会場内の警戒をせよ。単独で、行動させるな。」


レオリオは、集まった武官や大臣に言った。


「今、警備にあたっている白鳳凰騎士達が餓狩鬼を討伐するまで誰一人としても犠牲をだすな。」


レオリオの命令に、全員は無言で頷いた。


「あら?あなた、何だったの?」


シルビーは、呼び出しから戻って来たバルカスに尋ねた。


「ああ、たいした事では無いよ。ただ、陛下が警備を私の騎士団に変わるよう言われただけだ。何でも、白鳳凰騎士達に休憩されせるかららしい。・・・なあに、すぐ終わる簡単な命令さ。」


バルカスは、申し訳なさそう頭を掻いた。


シルビーは、そんな夫を真っ直ぐな眼で見た。


「・・・そう。わかりました。でも、怪我をしないように十分気を付けて下さい。私は、大丈夫ですから。」


シルビーは、バルカスの手を握り言った。


(やれやれ、やはりバレたか。)


自分の妻が、シルビーで良かったと思った。


見抜かれたとしても、深く事情は聞かずこうして自分の身を心配してくれる。


「ああ、わかってる。じゃあ、行ってくる。」


夫の背中を見つめながら、シルビーは小さな声で祈った。


夫との会話で、この城に何か危険な者が浸入して来たのだろう。


しかし、責任有る騎士の妻として深く聞く気も無い。


ただ、愛する夫の無事を信じるだけ。


武官を夫にした時から、どんな事になったとしても武官の妻として振る舞う覚悟があるからだ。


「・・・さて、シェリルを探してシエラと合流しましょう。」


シルビーは、二人の姉妹を思った。


次女のシェリルは、知れたら大騒ぎしてしまう。


三女のシエラは、・・・・・戦いに参加。


「長女も、大変ね。」


溜息が、出た。


やれやれと思い、シルビーは妹達を探しだした。




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