第2話 異変
ここまで、読んでありがとうございます。
「なぁ、瀬川。お前、彼女おるん?」
演習が終わり、1日が経っていた。
この日は、演習で使っていた資材を整備している。
「いきなり、何言ってんだ?いないに決まってるだろ。何だよ?突然。」
「いや。お前ってさ、浮いた話し無いじゃん。」
瀬川達は、泥だらけのバラキュー(偽装網)を水道をフルに使い洗っている。
「いやいや、そう言う高杉だって彼女どころか浮いた話も無いだろ。」
高杉と呼ばれた男性は、ニヤリと笑って瀬川の肩に腕を回した。
高杉明は、色黒でいかにもサーフィンしている様な筋肉質な男だ。
しかも、瀬川の同期なのだが陸曹候補生試験に一回で合格し3等陸曹になった。
つまり、陸士長である瀬川より階級が一つ高いのだ。
「そうだ。うん。そうだな。だが!そんな、俺達に朗報だ!」
高杉は、瀬川の耳元で囁く様に言った。
「来週の金曜に、4対4で合コンしよう!」
ガッツポーズをし、 目をキラキラ輝かせる高杉。
「しかも、看護師だぜー!ナース!いい響きだ!勿論、参加するよな?」
「マジで!看護師!もちろ・・・。」
その時、瀬川の脳裏にシエラの笑顔が浮かんだ。
「ゴメン。高杉。・・・・やっぱ、俺いいわ。」
シエラは、瀬川の夢の中の存在。
つまり、脳内彼女。
だから、気にする必要など無い。
それは、瀬川にも解ってる。
このままじゃあ、結婚どころか彼女すらできない。
どこかで、吹っ切らないといけないと考えている。
しかし、心のどこかでシエラの存在を確信しているところがある。
「お前、マジで言ってるのか?女だよ!しかも、ナースだぞ?」
信じられない様に、高杉が耳元で叫んだ。
おかげで、耳がキーンとする。
「うるせぇよ。いいだろ?俺にも、用事てのがあるんだよ。」
話しは、以上。という風に瀬川は、バラキューをまた洗い始めた。
深夜2時
美しい夜景。
そこには、一台の車しかない。
「なぁ〜。ナオミ〜、いいだろ?」
運転席に座る男性が、助手席の女性に詰め寄る。
「えぇ〜。誰か、来ちゃたら恥ずかしい〜よ〜。」
とか言うが、まんざらではない女性。
「大丈夫だって!こんな所、誰も来るわけねぇーよ。」
二人がいる所は、演習場の中だった。
綺麗な、夜景が見られると言って勝手に入ったのだ。
「たっくんの、エッチ。」
二人は、事に及ぼうとした。
「ちょっと、待って!」 「何だよ?良いとこなのに。」
突然、おわずけをくらい男性は不機嫌になった。
「何か、聞こえない?」 「はぁ?何も聞こえねーよ。」
男性は、早く続きがしたい。
「やっぱり、何か聞こえるよ!」
「解ったよ。ちょっと、待ってろよ。」
男性は、そう言うと車から降りた。
「たっくん!帰ろうよ!」
「大丈夫だって。何もいねーよ。」
周辺を見回し、車に戻ろうとした。
グシャ。
突然、怪奇音と共に男性の姿が消えた。
消えたというより、男性の真上から何か覆い被さったのだ。
「え?た・・っくん?」
女性は、何が起こったのか解らず男性が消えた場所を見つめた。
そこには、大きな物体な有った。
よく見れば、それは巨大で太い丸太の様な物体だった。
その下から、液体が滲み出てきている。
「何?・・・これ?」
女性は、水溜まりになった液体を見た。
「・・・・・ヒッ!!」
女性は、気付いてしまった。
それが、水溜まりではない事に。
・・・血液、血だまりだった。
男性は、潰れていたのだ。
呆然とした。
何が、起こったのか解らない。
その時、女性の携帯が鳴った。
女性の、お気に入りの曲だ。
それが、きっかけだった。
理解は、していない。
だが、今目の前に有るのは絶対的な・・・恐怖。
「イヤーーー!」
女性は、車から降り全力で走った。
「いや!いや!イヤー!」
半狂乱になりながらも、全力で走った。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
一時間だろうか、数分間だろうか。
もはや、走れない。
女性は、大きな岩に寄りかかった。
岩と思っていた。
グルルルルゥ。
それは、生暖かく異様な臭いがした。
「・・・お・・お願い・・助けて。・・誰か。」
女性は、助けを求めたがそこには誰一人居ない。
女性は、恐る恐る振り返った。
最後に見た光景は、口だった。
大きく、鋭い牙を持った口だった。
ゆっくり、闇が自分を包みこんでくる。
そして、女性の意識が永遠に無くなった。
『昨日未明、自衛隊の演習場内に男女の変死体が発見されました。』
テレビをつけ、何となくニュースを見ていた瀬川。
「あれ?ここって、この前使ってた所じゃん。」
居室で、歯を磨きながら瀬川はニュースを見て驚いた。
仕事の前に、ニュースを見るのが瀬川の日課である。
『男性の死因は、大きな物体の様な物で押し潰され、圧死し、女性は上半身から上が無くなっており警察は引き続き二人の死因について詳しく捜査するという事です。』
そこまで聞いて、テレビを消した。
「物騒だね〜。」
しょせん、他人事。そう思い、瀬川は歯を磨き終えると迷彩服に着替えた。
警察署
「難波さん!待ってくださいよ〜。」
「大柴、情けね声出すな。」
捜査一課の部屋から出ようとした難波と呼ばれた男性は、ダルそうに答た。
「そんな事言ったて、今回の事件は明らかに事故でしょう?」
大柴と呼ばれた男性は、ため息をついた。
「事故か。確かに、あれは人間が殺ったもんじゃね。」
「そうでしょ?やっぱ、止めましょ?ね?」
変死した男女。
男は、何かに潰され原型が保っていない。
女に関しては、上半身から上が食いちぎられていた。
県警は、これに対し大方の動物ではないかと事故として捜査している。
さらに、地元の猟友会に駆除の依頼をした。
「大柴。お前、あれが普通の動物だと思ってンのか?」
「そりゃ。確かに、現場見たらただ事じゃあ無いスッけど。」
現場には、複数の足跡があった。
が、どれも人間のものではなかった。
足跡は、人に近いが明らかにその大きさだ。
成人男性の二倍。
それが、一匹だけではなかった。15匹、少なくても10匹はいる。
更に、現場には恐竜のような足跡まであるのだ。
これだけでも、異常だというのに問題はその動物がいないのだ。
痕跡があるにも関わらずにだ。
これに対し、難波は嫌な予感がしていた。
刑事の感というものだろうか。
とにかく、このままほおっておく事ができなかった。
(このままでは、終わらない。 動物、怪物の間違いだろ?)
もし、怪物達が市街に出てきたら猟友会どころか県警の機動隊ですら対処できるかわからない。
難波は、早く怪物の正体を掴み警察署長、大分県知事に対し自衛隊による治安出動(この場合、捜索・駆除)を要請しなければ取り返しが付かなくなると考えていた。
「ほら、行くぞ。大柴!」
難波は、大柴の襟首を掴むと嫌がる本人を無視して警察署を後にした。
演習から6日目
すっかり、日が落ちて辺りには街灯やパチンコ屋のネオンが輝きだしている。
瀬川は、あまり外に出ない。
営内で十分だと考えている。
好きな本を読んだり、好きなだけゲームができるし、飽きたら駐屯地内を走ればいい。
本人曰く、俺は、健全な引きこもりだ。
と、主張している。
そんな、瀬川が夜の街に出ていた。
「アノ野郎。完全に遅刻だ。」
腕時計を見ながらポッリと呟く。
(こんな事なら、来るんじゃなかった。帰ろうかな?)
「よー!悪ぃ!遅くなった!」
「遅ぇよ!何時まで、待たせんだよ。」
瀬川は、走って来た大柴を見て悪態をついた。
「だから、悪いて!謝ってるだろ?仕事の上司がさぁ〜。」
大柴は、両手を合わせて神か仏を拝んでいるように頭を下げた。
「たく。テメェ、じゃあ無かったら帰ってたとこだったぞ。」
二人は、いわゆる昔からの腐れ縁。
つまり、幼なじみと言うやつだ。
大柴が警察に、瀬川が自衛隊に入隊して流石に小学校からの腐れ縁はここまでかと思っていた。
が、勤務地が偶然に同じ大分という事があり、たまにこうして一緒に飲みに行っている。
「まぁまぁ。気を取り替えて飲もうぜ!龍巳!」
二人は、適当な居酒屋に入り生ビールを注文し乾杯した。
「ぷぅは〜。たまらん!この為に生きてるぜ〜。」
「何、言ってんだよ。親父か、お前は?」
「良いじゃん!こっちは、ストレス溜まってるんだよ!だから、飲むよ!今日は!あっ!お姉さーん、生ビール一個追加ね〜!」
すぐに、追加で注文した。
「なぁ、龍巳。」
「ん?」
「まだ、龍也は帰ってないのか?」
大柴は、残念そうに言った。
「ああ、あいつは確か来月に帰って来る予定だからな。」
「久しぶりに、瀬川兄弟を拝めるかと思ったのに〜。」
大柴は、笑い混じりで言った。
「うるせー。」
瀬川は、うんざりした。
「てかさぁ〜、話し変わるんだけど。竜巳は、例の事件知ってる?ほら、お宅らの演習場で起きたヤツ。」
「あぁ〜。あれか?無断で、演習場に入ったカップルが熊か何かに殺されたやつだろ。」
大柴は、追加のビールを半分まで飲んで肯定した。
「それがさぁ、実はどうも普通の動物じゃあ無いみたいなんだよね〜。」
「??どういう事だよ?」
「いやさぁ、俺も現場に行ったんだよ。そしたら、有ったわけよ。足跡が。」
大柴は、自慢げに語りだした。
「まるで、大男だよ。あの足跡は。普通の人間の二倍だよ。二倍!」
右手を出して、薬指と中指を立てて言った。
「しかも、人間の足跡に近いんだな。これが。」
「じゃあ、被害者を襲ったのはキングコングみたいなゴリラて言うのか?」
「まぁ、キングコングて言うより雪男かイェティみたいな感じかな。」
瀬川も、ビールを飲み干し注文した。
「そいつ、まだ見つかって無いんだろ?」
「そいつじゃあ無いんだよね〜。実は、足跡は複数有ったんだよ。つまり、正しくはそいつら。だ。」
大柴は、非公開の事まで語り始めた。
「女の方は、その恐竜に殺られたみたいなんだよ。しかも、一噛みで殺されたらしんだよ。」
「いいのか?そんな話を俺に教えて?」
瀬川は、枝豆を食べながら言った。
どうも、話が聞いたら不味いような内容になって来ていると感じた。
「勿論、だけどここからはオフレコだけど。いやさぁ。ぶちゃけ、消えたんだよ。そいつら。」
「消えた?どういう事だよ?」
大柴が、顔を近づけ囁くように言った。
「足跡は、演習場の中にあった。けど、その足跡は演習場から出ようとしたときに忽然と消えていたんだよ。」
それを言うと、大柴はもとの位置に戻り今度は嫌そうな顔になった。
「不思議だよな?俺達と猟友会が、演習場の隅からすみまで探したんだぜ!」
「でも、見つからないんだな。」
大柴は、首を縦に降って肯定した。
「そう、見つからない。だから、今は検問を張って出た所で猟友会が駆除する方針なんだけどなぁ。」
そこまで言って、大柴はため息をついた。
「ほら、俺の上司ていうか相棒の難波さんがさぁ〜。その方針が気に入らないのか、捜査してんのよ。捜査ていうか、何度も何か手がかりがないか演習場内を歩きで探してんだよ!」
大柴は、方針が決まってからといもの納得がいかない難波に連れられ朝から晩まで毎日、演習場内を歩き回っていた。
「で、何も無いんだろ。手がかり。」
瀬川達自衛隊もまた、場内を一斉捜索したのだった。
「そうなんだよ。それで今日は、難波さんがどこかの偉い学者さん所に一人で行くとか言ってたから休みを貰ったんだよ。」
その後、二人は飲み屋を三軒も回った。
時は昼下がりまで、さかのぼり東大。
ここに、変人がいる。
東京大学理工学部物理学科・第十三研究室そこに、問題の男がいた。
見た目は、中肉中背。初老だろう。
白髪まじりな頭を掻いて黒板に数式を書いている。
「失礼します。初めまして、中尾教授。大分県警の難波と申します。」
そこに、ノックをして難波が入って来た。
「・・・・・・・。」
「教授?」
「・・・・・・。」
無視だ。
中尾は、黙々と黒板に数式を書いてる。
「中尾教授!」
「・・・・・・・・。」
(変人という噂は、聞いていたが。なるほど。確かに、くせがありそうな人物だ。)
中尾 忠昭。
東京大学物理学科准教授。
五年前、平行異世界交差現象説という論文を学会に発表。
異世界というだけでも、白い目で見られるというのに、いつかその世界が交差し合う時行き来ができるという内容だ。
学者達は、それを只の妄想と罵った。
中尾は、学会の恥だという声もあったほど全否定された。
結果、学界から追放まではされなかったが村八分の様な状況まで追い詰められた。
「そんなに、大声をだすな。ちゃんと聞こえている。私に、何の用だ?」
中尾は、横目で難波を見て言うと直ぐに元の作業に戻る。
「すいません。・・・・・実は、大分県で起きた事件について教授に見てもらいたい資料が有るんです。」
難波は、鞄から資料を取り出すと中尾に渡した。
それは、難波が気象や月の動きとにかくあらゆる分野の資料だった。
「・・・・・・これは!!そうか、遂に来たか!」
中尾は、素っ気なく資料を見たが内容を読むなり興奮しだした。
「そうか!そうか!私の仮説は、間違いでは無かった!」
中尾は資料の中の、数枚の写真に事件が起きた時のその日の気象などを注目した。
「なるほど、やはり世界が交差したら磁場と電磁波が一つの位置に集中するのか!」
中尾は、難波の事を忘れて一人で勝手に納得している。
「・・・・教授。やはり、この資料と演習場で起きた事件は関係があると思いますか?」
「その事件は、知っている。結論から言うが、大有りだ。」
難波の問いに、ニヤニヤしながら答える中尾。
「この足跡の写真を見た限り、地球上に存在しない動物。・・・というのは、調べているな。」
「はい、専門家に調べてもらったのですが皆同じ答えでした。」
「当たり前だな。被害者の二人を殺したのは、異世界から来た化け物だからだ。」
難波は、事件を調べるに連れその日に起きた雲の流れが異常ということに気づいた。
当時、雲が一点つまり現場の真上に集まっていたのだ。
まさかと思って、地学者に問合せると磁場と電磁波もまた現場に集まり異常な数値を示していた。
その時に一緒にいた学者が、この現象と同じ論文を見た事があると聞いた。
その論文こそ、中尾の平行異世界交差現象説だった。
難波は、半信半疑でこうして中尾を訪ねていた。
「教授。その化け物達は、見つからないんですがどう思いますか?」
「決まっている。居ないなら、元の世界に帰っているんだろう。」
中尾は、当然のように返答した。
「では、もう安全だと言いたいのですか?」
難波は、困惑しなが言った。
が、中尾からの答えは不吉なものだった。
「いや、奴等はも一度来る。私が調べた結果、近々同じ現象が起きる。」
中尾は、黒板の数式を見て言った。
「こういった動物は、餌が無くなるまで餌場に来るものだ。」
「また、同じ事件が起きると?」
「それだけなら、いいがな。」
難波は、この発言に今度は怪物が市街まで餌・・・・・人間を補食しに来ると悟った。
次の話しは、いよいよ自衛隊が活躍する話しにしようと思います。