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第19話 舞踏会


シエラは、馬車の中にいた。


(今頃、タツミはどうしてるんだろ?)


正直、居心地が悪かった。


原因は、目の前の人物だ。


そう、オリベル・ド・ハリル侯爵だ。


彼は、黙ってシエラを見ている。


時より、目が合うと人懐こい笑みを返す。


これが、普通の貴婦人なら魅とれるか一生懸命自分をアピールするのだろう。


しかし、シエラは気まずかった。


(何か、話さなくちゃ。)


「あ、あの!オリベル侯爵殿!」


声が、裏返ってしまった。


シエラは、恥ずかしく赤面してしまった。


「何ですか?シエラ嬢。あと、私の事はどうかハリルと呼んでください。」


ハリルは、微笑みながら言った。


「嬢は、いりません。・・・ハリルど。」

「殿は、いりませんよ。シエラ。」


ハリルは、人差し指をシエラの唇に当てた。


この場に、瀬川がいたら殺意でこの男に精密射撃をしているだろう。


「解りました。ハリル、どうして僕のエスコート役を?やはり、父上が無理矢理頼んですか?その・・・ご迷惑だったんじゃ?」


シエラは、申し訳無く思った。


「いいえ。むしろ、お話しを貰った時は光栄と思いました。」


ハリルは、更に続ける。


「貴女の話しは、前々から伺っていましたから。戦場において、部下を一人も死なせずに勝利する"勝利に導く戦乙女"シエラ ローズ。最近では、地竜 グランドラゴンを討ち取った貴女に一人の武官として興味を持っていました。」


シエラは、複雑だった。


確かに、地竜の討伐は名誉な事だ。


「そ、そんな。あれは、皆がいてくれたから!それに・・・。」


箝口令が出されているが、地竜は死にかけ(瀬川達、自衛隊によって)だった。


「元々、地竜は死にかけでした。」


ハリルは、うつ向いているシエラを見つめた。


「・・・最初、私は貴女を剛胆で体格がしっかりしている女性だと思っていました。」


囁くように、ハリルは言った。


「ところが、今日貴女を人目見て美しく謙虚な女性だと認識を改めました。」


実際、今のドレス姿は男女問わず振り向き溜め息を着くだろう。


「そ、そんな!?」


日頃から、キレイだの美しいなど言われた事が無い。


勇ましい、カッコいい等はよく言われるが。


シエラは、顔が赤くなってしまった。


そんなシエラを見て、ハリルは更に微笑んだ。


「ぼく・・・私も、ハリルの活躍を耳にしていました。」


シエラは、耐え切れず話題を変えた。


「たった、30名で1万の軍勢を翻弄した話しや数名で敵地に乗り込んで行ったとか。本当に、尊敬します。」

「いえいえ、あれは急襲が成功しただけです。それに、敵地に潜入も2年間の情報収集のお陰ですよ。」


その後、二人はお互いの戦略や心情を話し合った。


到底、男女の会話では無い。


だが、シエラは打ち解けたのか素になっていた。


「やっぱり、凄いです!僕なんか、・・・あっ。」


いつの間にか、馬車はオルテ城に着いていた。


そこは、堅牢な城壁に囲まれた大陸有数の王国にふさわし城だった。


「さぁ、シエラ。行きましょう。皆が、待ってる。」


ハリルは、馬車から降りシエラに手を差しのべた。


「は、はい。」


ハリルの手を掴み、シエラも馬車から降りた。


「あれ、シエラお姉様じゃない!」

「ウソ!?隣にいるのオリベル卿!?」


王宮に入るにつれて、二人は目立った。


最初は、嫉妬でシエラを睨んでいた者もいた。


が、すぐに諦めた表情になる。


それだけ、二人は美男美女カップルに観られているからだ。


「シエラ、緊張しているんですか?」


ハリルは、横目でシエラを見た。


「い、いえ。僕は・・・その、こういう格好で公式の場に出たのは始めてで・・・慣れて無いんです。」


シエラは、恥ずかしがりながら言った。


「それに、けっこう動きにくくって・・・わぁ!?」

「おっと!」


階段に差し掛かった時、裾を踏んでしまった。


しかし、ハリルが瞬時にシエラの右手を掴むと自分の胸に抱き寄せた。


二人は、抱き合う様な形になった。


瀬川がいたら、軽対戦車弾を使い移動中のハリルを馬車ごと抹殺しようとするだろう。


「す、すいません!」


シエラは、すぐに離れ頭を下げた。


「いいえ。気にしないで下さい。それより、大丈夫ですか?」


ハリルは、心配そうに言った。


「は、はい!何とも、無いです!」

「良かった。着なれないのだから、仕方ないですから。」


ハリルは、気にしない様に言った。


「・・・、シエラ?」


そんな時に、シエラの後ろから女性が声をかけてきた。


「ルノー!君も、来てたんだ!」


シエラは、ルノーと呼んだ女性の方に振り返ると嬉しそうに言った。


ルノーは、片眼を隠すほどの蒼い髪をしている。


無表情だが、誰から見ても美人だとわかる。


しかも、平均男性の伸長より長身でまさにモデルの様な身体付きをしている。


更に、動きやすい白を基調とした鎧を身に纏い腰には白い羽。


左手には、槍を携えている。


「・・・、舞踏会の警備・・・だから。」


ルノーは、小さく答えた。


「そうなんだ!第2隊が、担当してるだ!」


シエラは、ルノーの両手を握り言った。


「シエラ、その方は白鳳凰騎士団の?」

「はい!第2隊騎士長のルノー。僕の友人です!」


シエラは、ハリルの問いに自慢気に答えた。


「なるほど、彼女が初の平民から騎士長になったと言う。これは、失礼。私は、オリベル・ド・ハリルと言います。」


ハリルは、握手を求めた。

が、ルノーはシエラの後ろに隠れた。


「・・・・ルノー・・・です。」


シエラの後ろから、顔を少し出し頭を下げ言った。


「・・・何か、失礼な事でもしましたか?」


ハリルは、困ったように言った。


「ハリル、違うんです。ルノーは、人見知りなんです。」


シエラが、ハリルの問いに答えた。


ルノーは、小さくすいませんと呟く。


ルノーという女性、シエラが言った通り人見知りなのだ。


しかも、極度の。


心を開けるのは、シエラにレイナ。


それに、自分の隊の騎士だけだった。


そんな、彼女のアダ名は"静寂なるサイクロプス"。


図体がでかく、片眼だけ隠れている。


そして、いつも人前で黙っている。


その風貌から、どこと無く似ていので付けられた。


皮肉だ。


「・・・じゃあ・・・私、任務に戻るね。」

「うん!また、後でね!」


ルノーは、会釈し担当地区に戻って行った。


「ふむ。シエラには、なかなか面白いご友人がいるのですね。」


ハリルは、興味深くルノーを観察した。


突然、会場に厳かな曲が流れた。



会場にいる人々は、膝を付き頭を下げた。


長い階段から、威厳に満ち溢れた男性が降りてくる。


この男性こそ、オルテの王。


レオリオ オルテ国王である。


もともと、資源が豊かで貿易するにも恵まれた位置にあるこの国は幾度も他国に狙われた。


歴代の王は、その度に国土を防衛してきたのだ。


その中でも、三国から攻められ存亡の危機に追いやられた戦争が有った。


しかし、レオリオ王が戴冠しオルテを三国から守りきったのだ。


彼は、常に戦闘に立ち兵の士気を上げ闘い勝った。

その、勇敢さを称え”英傑王”と呼ばれ。


現在は、市政に力を入れ国を納めている。


レオリオ王の後ろには、妃と二人の幼い娘であるアリエル王女が追従している。


「皆、頭をあげ楽にせよ。」


レオリオ王は、玉座に座ると会場を見回し言った。


「白鳳凰騎士団第4隊騎士長シエラ ローズよ。前に出よ。」

「はっ!」


レオリオ王の声と共に、シエラはハリルと一歩前に出て頭を下げた。


「シエラ騎士長。此度の地竜 グランドラゴンの討伐、誠に大義であった。」

「勿体無い、お言葉です。陛下。」


シエラは、凛とした声で答えた。


「古来から、"竜"とは我々生きる者にとって天災であった。竜と冠する化け物が来ればなすすべ無く天に委ねるしかなかった。」


レオリオ王は、天井を見上げ眼を閉じた。


「民話では、竜を退けた英雄のおとぎ話はある。だが、竜を倒した話しは無かった。」


そして、レオリオ王は、眼を開き右手をシエラに向けた。


「しかし、今!おとぎ話では無く、現実に竜を討伐した英雄が余の前にいるではないか!竜は、天災ではない事が証明されたのだ!皆よ![勝利に導く戦乙女]シエラ ローズに祝福を!」


レオリオ王が、言い終わる。


同時に、沸き上がる様に拍手がシエラを包んだ。


そして、シエラに王家の証が刻まれた第1勲章が与えられた。


「・・・ふん!つまらん。」


その光景を見ていた一部の貴族が、悪態をついた。


「全くですな。聴けば、現れた地竜は死にかけだったそうですぞ。」


「何!?それならば、私一人でも討ち取れるではないか!くそ!あの娼婦の手先め!」


その言葉に周りも、同意した。


彼らにとって、白鳳凰騎士団の存在は邪魔だった。


団長が女性である事すら、苛立たしいのだ。


そんな中で、この宴だ。


連中にとって、不愉快過ぎる。


「・・・・・。」


ルノーは、遠くからそんな連中を見ていた。




勲章の授与が終わり、会場には美しい演奏が流れた。


綺麗なドレスを着た淑女をエスコートしながら男性が曲に合わせ踊る。


曲そっちのけで、出された食事を食べる者。


夢中で、談笑している者。


その中で、シエラは緊張を解いてボンヤリしていた。


やはり、何度勲章を授与していても毎回緊張してしまう。


「シエラ姫様。飲み物を持って来ましたよ。」


そこに、ハリルがグラスを2つ両手に持って来た。


「ふふ、ありがとうございます。ハリル・王・子。」


冗談を言い返して、ハリルから渡されたグラスを飲んだ。


「よろしければ、一曲踊りませんか?」


ハリルは、頭を下げ右手をシエラに差し出した。


「え?い、いや、僕は踊った事が無いんです。」


シエラは、今までこのような行事には騎士の制服(男装)を着いたため男性から誘われ無かった。


ちなみに、一部の貴族の女子達からは誘われたがやんわりと断っていた。


「それに、苦手だから・・・。」


シエラは、ハリルの申し出を断ろうとした時・・・・背中に悪寒が走った。


ハリルの後ろに、こちらを見ている2つのカップルがいた。


姉達だ。


シルビーとシェリルは、夫二人を無視してシエラを見ている。


シルビーは、行け!と訴えている。


シェリルの方は、優しく見ている。


「大丈夫ですよ。私に、任せて下さい。」


ハリルは、微笑み言った。


「じ、じゃあ。お願いします。」


断れば、後でシルビーに責められかねない。


ハリルは、手を取り中央へ歩いた。


そして、シエラの腰に手を回した。


「あっ。」


奏者達が曲を引き出す。


シエラが聞いたこともない上品なゆったりした曲。


「……」


「シエラ、テンポが速いです。」

「す、すいません!こう?」


「次はゆっくり過ぎ―――っ痛!?」


「あ……!」


やってしまった。


ハリルの足をヒールで踏んでしまったのだ。


ハリルは、顔を歪ませながらもこっちを見て笑う。


「……うぅ」


「気にしないで下さい。私がゆっくりリードしますから。」


「……はい」


最初は、戸惑っていたシエラだが徐々に慣れていた。


「そう、その調子。」


いつの間にか、周りは二人のダンスに静かにみとれていた。


ふっと、シエラはハリルがタツミだったらと思った。


タツミの手を握り、曲に合わせ踊る。


(タツミは、踊れるかな?)


シエラは、そう思い笑ってしまった。


曲が、終盤に差し掛かりテンポが早くなる。


「さぁ、そこで回って。」


ハリルの指示どうりにシエラは、動いた。


曲は、静かに終わった。


抱きしめる様な形に、二人のダンスは終わった。


静寂が、辺りを包んだ。


皆、余韻に浸っているのだ。


「シエラ、一礼して。」

「は、はい。」


二人は、観客に向かい軽く頭を下げ礼をした。


その瞬間、溢れんばかりの拍手が鳴った。


「ハリル、少し疲れちゃいました。」

「解りました。バルコニーで待ってて下さい。飲み物を取って来ます。」


ハリルは、そう言うとシエラをバルコニーに連れて行った。


「ふぅぅ〜、ダンスて意外と疲れるんだな〜。」


シエラは、手すりに掴まり言った。


「シエラお姉ちゃん!」

「うわぁ!?」


すると、後ろから子どもの声がした。


振り返るとそこには、金髪をしたかわいらしい女の子がいた。


「アリエル様!?」


シエラは、驚いた。


女の子は、この国の王の一人娘つまり王女様だった。


「シエラお姉ちゃん、上手だったよ!それに、そのドレスも似合ってる!」


アリエルは、シエラに抱き付いた。


「ありがとうございます。アリエル様。」


シエラは、笑顔で言った。


実は、シエラはとある任務の途中でアリエルと仲良くなった。


今では、シエラの事を姉と慕っている。


「"タツミ"お兄ちゃんにも、見せたかったね♪」


アリエルは、眼を輝かせながら言った。


シエラは、唯一アリエルには何でも話す。


もちろん、瀬川の事もだ。


シエラの話を、信じてくれる数少ない人物だ。


「ええ、僕もそう思います。」


シエラは、アリエルの頭を撫でながら言った。


「ねぇ、お姉ちゃん。また、タツミお兄ちゃんのお話を聞かせて!」

「ふふ、いいですよ。何処まで、話しましたっけ?タツミが、警戒中に"うし"と言う群に追いかけられた話し?それとも、訓練中で身を伏せていたら"くるま"に危うく轢かれかけた話しですか?」


どれも、災難な話だ。


アリエルは、首を振った。


「シエラお姉ちゃんは、もうタツミお兄ちゃんとキスしたの?」

「え!?」


アリエルの予想外の質問にシエラは、戸惑ってしまった。


「ねぇ〜、したの?」

「う、う〜。」


シエラは、顔を赤くしうつ向いた。


「・・・し、しました。」


そして、その経緯をアリエルに話した。


それを、アリエルは夢中で聴いていた。


「やっぱり、シエラお姉ちゃんが羨ましいなぁ〜。」

「僕が、ですか?」


話しが、終わるとアリエルが羨ましそうに言った。


「うん。お姉ちゃんには、素敵な恋人がいるんだもん。」

「・・・夢の中に・・・ですけど。」

「でも、お姉ちゃんはお兄ちゃんの事を話す時ってスッっごく楽しそうだよ。私も、タツミお兄ちゃんに会いたいなぁ。」


アリエルが、手すりに座り両足を動かしながら言った。


「きっと、アリエル様もタツミに会えますよ。」

「ホント?シエラお姉ちゃん。」

「ええ。」


二人は、笑いながら顔を合わせた。





「ブッワァ、クション!」

「うわぁ!きったな!ちょっと、瀬川士長〜。」

「わ、悪りぃ。湯川。」

「瀬川。やっと、全快したんだ。無理するなよ。」

「大丈夫です。双葉2曹。」


(また、誰かが噂してんのかぁ?)


瀬川は、そう思いながら装備を点検していた。


(シエラ。今頃、何してんだろ?)


警戒地区の空を見ながら、瀬川はシエラの事を考えた。





自衛隊や騎士団達は、この後に起こる事態を誰も予想できなかった。



会話が、長くなってしまいました。


だいたい、国王等のイメージを書いたつもりです。


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