表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/74

第17話 三銃士

「・・・・瀬川。ふざけてるか?」


警戒から、戻って来た瀬川に対して双葉は呆れた声で言った。


「いいえ。ふ、ふざけてません。」


呼吸音をたてながら瀬川は、恐縮し言った。


「ほぉ〜、ふざけて無いか。撤収命令がでとるのに、何で"防護マスク"着けとる?」


双葉の目が、座っている。


「いや〜。これには、深い事情が有りまして。」

「深い事情?何だ?状況ガスか?」


瀬川は、慌てた。


ラムが言ていった、"呪い"は幻覚剤つまり毒ガスだ。


ならば、手持ちで防げるのは、どう考えても防護マスクだけだ。


(早く、結果でろー!)


「ん?」


その時、瀬川の視界が歪んだ。


「!?」


瀬川の前に、広がった光景。


今まで、光景とは明らかに違う。


そこには、デカイ狼の遺体があった。


「おい!瀬川!聞いてるのか?早く、マスクを取れ!」

「・・けて・・さい。」

「あ?なんやっと?」

「防護マスクを着けて下さい!」


双葉は、瀬川の勢いに負け防護マスクを着けた。


「おい、瀬川。」

「双葉2曹、しばらくあそこを見ていて下さい。」

「たく、何なん・・・?」


瀬川は、遺体を指差して言った。


最初、双葉は解らなかったが次第に顔色が変わる。


「!?」


どうやら、双葉にも視認できたらしい。


3小隊の面々は、二人を不思議そうに見ている。


「・・・、瀬川。何故、お前が"コレ"を知っていたかは後で聴くからな。」

「解りました。」


双葉の行動は、速かった。


すぐに、この場にいる全員にマスクを着けさせ小隊長である橋本に進言。


橋本は、すぐに警戒につかせると同時に部隊へと報告した。


「スッゲー、本当に死んでんのか?」


湯川は、呆けた顔で言った。


レオウルフは、全身を銃弾で撃たれ穴だらけになっていた。


たぶん、浅野だろう。


橋本は、各小隊長達を呼んだ。


この場にいる全員が、防護マスクを被ているので異様な集団に見える。


「・・・・。この様子なら浅野が、生きている可能性が高まりました。」

「ああ。では、我々1小隊でこの地域を警戒に当たろう。」

「すいません。お願いします。尾崎3尉。」


橋本は、尾崎と呼んだ小柄な男性に頭を下げた。


尾崎は、第4中隊第1小隊の小隊長である。


2士から、叩き上げで幹部になった男だった。


小隊長としても、幹部としても自身が溢れる人間であった。


尾崎は、オウと答え行った。


「橋本3尉、正式に中隊長から許可が出た。私達は、対戦車小隊と合流し未確認生物を捜索する。」


尾崎の横にいる男性が、進言した。


「はい、ありがとうございました。山岡2尉。」


山岡と呼ばれた男性は、返事もせずに行った。


山岡は、幹部候補生から2小隊隊長になった男でいわいるエリートだ。


「さて、俺達はこのまま浅野を探すか。」


橋本は、後ろにいた双葉と成田に言った。


「残りは、二匹か。」


瀬川は、呟いた。


『全中隊に、通達!いたぞ!現在、旧県道を南に移動中!繰り返す!』


無線機から、未確認生物の情報があがった。


「・・・旧県道か・・・よし、ここからなら中山道で待ち伏せできるな。」


橋本は、地図を広げ冷静に言った。


「浅野には、悪いが仕方がない。双葉2曹の分隊は、そのまま浅野の捜索。成田1曹の方は、俺と中山道で対戦と2小隊と共に迎え撃つ。山田、さっきいた2小隊と連絡しろ。」


橋本は、傍らにいる山田と呼んだ陸士長に言った。


「了解しました。」


山田は、車両無線機を使う為に小隊長車両に走った。


山田は、3小隊の通信手なのですぐに慣れた手つきで無線機を操作し山岡と連絡を取った。


(早く、マスクを取りたいもんだな。)


橋本は、そう思いながらLAVに乗った。


橋本に限らず、警戒地域で活動している隊員も全員同じ気持ちだった。


「木元、瀬川、湯川。装備を整えろ。浅野の捜索に行くぞ。」


「「「了解」」」


瀬川達は、浅野の捜索を再開した。


「浅野ー!」

「返事しろ!浅野!」


大声で名前を呼ぶ。


浅野は、今はたぶん幻覚ガスにより自分達を認識できない状態だろう。


それでも、瀬川達は声を出した。


「どうだ?そっちは、見つかったか?」

「いえ、痕跡もありません。」


双葉は、周りを見回しながら考えた。


このままでは、ラチが開かない。


どうにか、事態を好転できないか。


その時、遠くから銃声が聞こえて来た。


あちらは、始まったか。



橋本は、2小隊と合流し対戦車小隊の待っている中山道三叉路に着いた。


「オオ!やっと、来たか二人とも!」


三叉路で出迎えた、男は明るく言った。


勿論、防護マスクは装着済みである。


「まったく、ちょっとは緊張感を持って下さい。原2尉。」


山岡に、原と呼ばれた男性は言わば4中隊のムードメーカーだ。


尾崎とは、同期の仲である。


「持ってるよ。でも、余裕も必要だろ?」


原は、胸を張って答えた。


山岡は、呆れた顔をした。


「さすが、原2尉ですね。」


橋本は、原をフォローした。


「来ました!前方、600。未確認生物です!」


警戒していた2小隊の隊員が叫んだ。


2小隊と橋本率いる3小隊1分隊の面々に緊張が走る。


「全員!おち。」

「ヨシヤー!ドンピシャ!」

「今夜の状況は?」

「勿論!隊員クラブに予約を入れてますよ!原小隊長!」

「ちゃんと、御座席か!?」


親指を立てて笑顔で答える、対戦車隊員。


「上出来だ!構え!」


山岡の言葉を、遮りこの場で緊張感も欠片も無い会話をする対戦車小隊の面々。


(((こんな時に、いつの間に宴会の予約を!?)))


対戦以外の、隊員は一気に緊張が解けた。


「流石ですね。原さんは。」


橋本は、素直に関心した。


「ふん!2小隊!あんな、おちゃらけた連仲に遅れをとるな!構え!」


山岡が、吠えた。


「1分隊!構え!これが、終わったら俺のおごりで飲みに行くぞ!」


すかさず、橋本も続いた。


隊員達は、小銃をレオウルフに向け安全装置を解いた。


彼らの目の前から来たのは、まさに狼だった。


勿論、普通の狼では無い。


大きさからして、子牛位の図体。


口には、尖ったでかい牙。


一咬みでも、されれば絶滅するだろう。


いや、一咬みで上半身が無くなるレベルだ。


それが、速い速度で向かって来る。


流石の対戦の面々も、生唾を飲んだ。


「まだだ。まだ、引き付けろ!焦るなよ!」


橋本は、隊員達に言い聞かせる。


その距離は、600から500から400と縮まって来ている。


引き金を持っ手が、震える。


「もう少し。もう少しだ。」


全員、橋本の射撃号令をじっと待つ。


遂に、距離が200メートルに迫った。


「成田1曹!まだですか?」


山田が、しびれを切らして言った。


「落ち着け!小隊長の命令を待つんだ!」


成田は、先走らないように山田に言った。


「・・・清永3曹。班員に命令の徹底をさせろ!」


成田は、副分隊長の清永に言った。


「了解。聞いたな、お前ら小隊長を信じて耐えるんだ!」


清永は、山田をはじめとする隊員に言ったがその声は震えていた。


レオウルフは、100メートルまで迫った。


「今だ!射撃開始!」

「2小隊!撃って!」

「対戦!撃ちまくれ!」


橋本、山岡、原の射撃開始の号令が出された。


と、同時に道をふさぐように横隊に展開した隊員達が引き金を引いた。


無数の弾丸が、レオウルフを襲う。


その場にいる誰もが、勝利を確信した。


しかし、レオウルフは常人では考えられない反射神経で放たれた弾丸をかわしていく。


「な!?」

「マジかよ!?」


山田は、射撃しながら驚愕した。


レオウルフは、少しづつ近付いてくる。


「くっ!?どんな、反射神経してんだ!」

「撃て!撃て!撃て!」

「どうせ、限界が来る!」


しだいに、レオウルフの身体に弾がかすめる。


限界きたのか、レオウルフの身体に弾丸が当たった。


「よし!前進、畳み掛けろ!」


山岡は、そう言って2小隊を射撃しながら前進命令を出した。


「山岡2尉!危険です!」


橋本が、山岡に言った。


「いや、今が好機だ!」


2小隊の隊員達が、撃ちながら進む。


「3小隊!撃ち方、待て!そのまま、2小隊の援護!」

「山岡、無理するなよ!対戦!うちも、同じだ!2小隊の援護しろ!」


レオウルフの身体に、新たに数発の弾丸が命中した。


「いける!いけるぞ!」


山岡が、勝利を確信した。


しかし、橋本は嫌な予感がした。


手負いの獣ほど、何をするか解らない。


この橋本の予感が、当たってしまった。


レオウルフが、咆哮をあげ3メートル跳躍した。


「なに!?」


レオウルフは、一気に2小隊を超え三個小隊の真ん中に着地した。


「撃つな!味方に、当たるぞ!」


原が、叫んだ。


「足だ!足を、狙うんだ!」


橋本が、指示をだしたがそれでも友軍を危険にさらしてしまう。


レオウルフは、2小隊に向け走り出した。


「うわぁぁぁあ!?」


2小隊の隊員にレオウルフが、その巨体をぶっけた。


「東山!?」

「東山士長!」


山岡達、2小隊が叫ぶ。


「あっ、あ、あ。」


東山の目の前には、口を開け鋭い牙を向けたレオウルフがいた。


その場にいる全員が、次の場面 一瞬にして下半身のみになり血だまりが広がる。


それを、想像した。


「ウォォオオオオ!」

「俺の部下は、殺させんぞー!」

「オリャアアアア!」


しかし、誰もが突然の事で動けなかった時だった。


雄叫びをあげ、レオウルフに銃剣突撃を敢行した三人がいた。


橋本、山岡、原である。



ギャン!!


原が、先にレオウルフの右横腹に刺突した。


それを追うように、橋本は喉を刺した。


最後に刺突した山岡は、右太股を。


"別府突撃3銃士"の異名として以後、語り継がれる事となる。


三人の決死の突撃により、レオウルフは東を殺しそこねた。


それどころか、押し倒されてしまった。


「今だ!撃て!」


原の合図と共に、橋本と山岡は小銃の引き金を引いた。


零距離射撃。


それも、身体に銃剣を着剣した小銃が刺さっている。


銃声が、響き渡る。


同時に、レオウルフの断末魔がその場を支配した。


銃声が鳴り止み、静寂が辺りを包んだ。


「ハァ、ハァ、ハァ。や、やっ、殺ったの・・・か?」


橋本は、目の前に横たわるレオウルフの骸を見た。


「ハァ、ああ、ハァ、間違いねぇ。死んでるぜ。」


原が、レオウルフの頭部を蹴って答えた。


さっきまで、生きていたそれはよだれを垂れ流し息を引き取っていた。


「ハァ、ハァ、東山!大丈夫か?」


山岡は、振り返り東山に言った。


「は・・はい。な、なんとか無事です。」


東山は、何とか答えた。


山岡は、確認し緊張感が解けた。


全身から、力が抜けた三人はその場に座り込んだ。


防護マスクを、外せないのは残念だ。


それでも、開放感があった。


「あと、何匹だったけ?」


原が、空を見上げ言った。


「確か、うちの隊員が言った限りには残り1匹ですね。」


橋本が、答えた。


「なぁ、橋本3尉よ。その情報は、確かなのか?確か、情報源は瀬川だったか?」


山岡が、聞いた。


「ええ。今のところ、瀬川の情報には信憑性があります。事実、敵が幻覚ガスを使うと言ってたのが当たりましたからね。」


山岡は、橋本の話を聞くと考えた。


「いったい、瀬川はどこでその情報を手に入れたんだ?」


原は、問いただした。


これには、橋本も答え兼ねる。


(どう話せば、いいか。)


橋本は、考えたすえ瀬川の言った事をそのまま言う事にした。


「それが・・・"謎の美人外国人女性"・・・らしいんですが・・・。」

「「はぁ?」」


自分で、言ってもおかしい。


(何だ?謎の美人外国人女性って?)


山岡と原は、橋本を不思議な目で見てくる。


(クッソ!後で、覚えてろよ!瀬川!)


橋本は、心の中で決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ