第14話 捜索
警戒地域へと続く国道を、自衛隊の車両が列を成して走っていた。
瀬川は、前回の分隊編成でLAVの後部座席で真剣な顔をしていた。
この国道は、多くの一般の車が通勤の為に使われている。
今は、封鎖されている。
ただ、走っているのは自衛隊車両だけだった。
「くそ!渋滞じゃあねーか!」
双葉は、イライラしながら言った。
「たく!これだから、連隊は頭が悪いとか言われんだよ!」
双葉は、呟きながらドアガラスを殴った。
「しょうがないですよ。この前の任務から、まだ1週間もたっていませんから。」
ハンドルを握る木元が、たしなめる。
「そうッスよ。これから、どうすかって時にコレっすからね。瀬川士長も、思いますよね?」
「・・・・うん?何?」
瀬川は、憂鬱な気分で言った。
いきなり話を振られては困る。
携帯でゲームの攻略を見ていたので三人の会話を聴いていなかったからだった。
「・・・瀬川士長。ちゃんと、人の話を聞きましょ。」
湯川は、呆れた表情で言った。
瀬川は、溜め息をついた。
今日は、木曜日だ。
何ともしても、今日か明日中に未確認生物を駆除しなければならない。
なぜなら、瀬川は土日に働きたくないからだ。
土日は、1日中ゲームをしたりDVDを観たりそして寝る。
こうして、鋭気を養う。
「・・・双葉2曹。とっとと、倒しに行きましょう!」
「おお!気合いが入ってるな!瀬川!」
双葉は、瀬川のやる気を聞き機嫌が直った。
双葉は、熱血なところがあり気合いがある人間が好きな人物だった。
ちなみに、中隊一の愛妻家だったりする。
そんな会話をするうちに、LAVは警戒地域へと侵入した。
「よし。木元、4中隊の担当地区に進め。」
「・・・了解。確か、ウグイスの森でしたね?」
双葉が頷くのを見て、木元はハンドルを切った。
瀬川は、LAVの窓を開けた。
(・・・ん?)
気のせいか、甘い匂いがした。
それが、何なのか解らないのですぐに別の事を考え始めた。
(たかが一匹だから、大丈夫だよな。すぐに、終わるよな。)
瀬川は、外の景色を見て思った。
が、予想外に駆除どころか発見すらできないでいった。
現地に着きすぐに下車し、捜索を開始し既に六時間が経過していた。
木の上に、爪の跡や食い散らかした牛の死骸等の痕跡はあった。
それは、他の担当地区の小隊や他中隊でも同じ報告があった。
「いないスッね〜。もう、疲れたッスよ〜!」
「もう、警戒地域から離れたんですかね?」
瀬川と湯川は、疲れながら言った。
辺りは、既に暗くなっている。
同じような場所を、横隊になりながら何回も行ったり来たりしている。
「いや、未確認生物が警戒地域を出た報告が無かった。それに、出る事は不可能だ。」
双葉は、暗視装置を着けながら言った。
今、警戒地域の周辺は完全武装した2個連隊により囲んでいる。
未確認生物が、一歩出たら舜殺されるだろう。
逃がしたら、すぐに追撃できよう別部隊が待機している。
しかし、逃げたという報告は無い。
「瀬川、湯川、お前らもV-8を着けろ。」
木元は、瀬川達に片眼タイプの暗視装置を渡した。
「1分隊と2時間交代で、警戒に着く。最初は、木元と瀬川が警戒に付け。場所は、三差路に警戒ポストを作れ。湯川、2100まで俺と仮眠だ。」
「「「了解!」」」
瀬川達は、敬礼し行動に移った。
三差路警戒ポスト
右膝ぐらいまで穴を掘り、回りを持ってきた芝を植え偽装を施した。
「・・・。あの〜、木元3曹。」
「・・・ん?なんか?」
あまりに、無言だったので耐えかね話し掛けた。
「木元3曹って、彼女いるんですか?」
「いるよ。付き合って、今年で5年になる。」
「5年ですか!長いですね!」
瀬川は、驚いた。
まさか、5年とは思わなかったからだ。
「・・・瀬川、大声だすな。警戒中やぞ。」
木元は、瀬川を指導した。
流石に、大きい声だったなと思い反省した。
「すいません。」
ここは、素直に謝った。
「・・・ところで、5年も付き合ってるならやっぱり・・・。」
瀬川は、話題を変えた。
「・・・そうだな。・・・来年には結婚するつもりだ。」
木元は、サラッと言った。
(結婚かぁ。)
瀬川は、木元を羨ましいと思った。
木元は、この世界で好きな人と出逢い。
5年という時間を掛け、愛を育み夫婦となる。
自分は、どうだろうか。
木元より、13年間・・・・・好きな人を見つけて両想いになれたのに。
会えるのが、夢の中だけだ。
最近、シエラの存在を確信したが現実に会う方法が解らない。
(違う!方法なら、ある!)
「・・・。行くか?アッチに(異世界)・・・。」
瀬川は、小さく自分に言った。
(アッチの化け物が、来たんだ。)
つまり、逆もできる筈だった。
暗い道を、見詰めてバカな発想だと思った。
確実に行けるか、解らない。
もしかしたら、別の世界に飛ばされる可能性がある。
行けたとしても、シエラに会う前に化け物に襲われて死ぬかもしれない。
そうなったら、本末転倒だ。
「?何か言ったか?」
「いえ・・・独り言ですよ。・・・ただの・・・・ね。」
木元の問いに、呟く様に言った。
そして、瀬川は夜空を見上げた。
虚しい気分になった。
(会いてえ。)
その気持ちが、瀬川を苦しめた。
その時、木元の無線機に通信が入った。
『警戒!警戒!こちら、1分隊長!送れ!』
「こちら、警戒。送れ。」
木元は、ブレストスイッチを押し返答した。
『そこに、浅野2士はいるか!?送れ!』
「ここには、いないが。どうしたのか?送れ。」
明らかに、無線の声は焦っていた。
『浅野が・・・、いなくなった!』
「「!?」」
朝になった。
夜を徹して行方不明隊員を捜索した。
途中、仮眠時間を与えられたが心配で眠れ無かった。
結果は、今だに見つからない。
最悪の状況だった。
もしかしたら、未確認生物に・・・。
「了解。」
橋本は、深刻な顔で無線機の受信機を降ろした。
「・・・今、2小隊と1小隊がこちらに向かって来ている。」
橋本は、1分隊長の1曹の大柄の男性と2分隊長の双葉に話した。
「それが、合流しだい警戒員と捜索員を交代させ3小隊の隊員を4時間の仮眠をさせる。」
橋本は、冷静に言った。
「了解しました。」
「了。」
双葉達は、各人の時計を見て命令を伝えに行こうとした。
「それと、成田1曹。」 「はい?」
成田と呼ばれた1曹の男性は、橋本に呼び止められた。
「悪いが、1分隊の隊員を使い朝飯を配ってくれ。」
橋本の指示に頷くと、成田はすぐに取りかかった。
1分隊のLAVに、まとめて置いてある戦闘糧食を分隊員の士長に配らせに行かせた。
その際は、決して一人にさせず成田がバティになり動いた。
行方不明隊員は、昨日の夜中に一人で小便に行ったところ帰って来なくなった。
誰もが、ただ迷子になっているだけと思いたかった。
「浅野は、まだ見つからないんですか?」
瀬川は、配られた戦闘糧食の封を開け双葉に聞いた。
「・・・最悪の事態を、覚悟しとけよ。」
双葉は、瀬川の問いに全員に向け答えた。
湯川は、生唾を飲んだ。
顔が、青ざめている。
無理も無い。
浅野は、湯川の同期だ。
瀬川は、そう思った時。
「・・・・?」
まただ、また違和感を感じた。
「お前ら、今は少しでも仮眠しろ。もたんぞ。」
双葉の言葉に瀬川達は、頷いて戦闘糧食を急いで口の中に入れた。
そして、食べ終わり違和感を感じながらLAVの中に入り眼を閉じた。
すぐに、眠気が襲っ来た。
いびきが、聴こえる。
どうやら、湯川はもう寝ているようだ。
昨日の夜は、ひたすら捜索していたのが原因だろう。
皆、疲労で限界だった。
瀬川は、寝る前に煙草の火を付けた。
「・・・・浅野。どこいんだよ?」
瀬川は、吐いた煙を見詰めて言った。
腕時計を見ると、10時35分だった。
そして、煙草を吸い終わるとそのまま夢の世界に落ちていく。
(真っ昼間だから、シエラに会えないだろうな。)
シエラなら、何か解るかも知れない。
その考えが、脳裏をよぎた。
最早、意識が薄れていく。
(あ〜、駄目だ。)
瀬川は、深い眠りに落ちた。