第11話 深夜の見舞い
大分県別府自衛隊病院。
世間では、ゴールデンウィークの真っ最中だった。
田舎に帰る人や、彼氏もしくは彼女とどうすごそうか。
友達と、どこに遊びに行こうか等々と悩んでいるだろう。
しかし、瀬川 龍巳には無縁の事だ。
何故ならば、瀬川は全身打撲。
あばら骨が、3本折れここ自衛隊病院に入院中だからである。
自衛隊病院とは、看護士から医者に至るまで全て自衛官である。
勿論、入院患者は一般人なんかいない。
患者は、自衛官だ。
「・・・。明日が、ゴールデンウィーク最後か。」
瀬川は、窓の風景を見た。
余計に、侘しくなってしまったから止めた。
思えば、地竜にLAMを命中させたまでは良かった。
が、後から全身に痛みが走りそのまま気絶してしまった。
気が付くと、病院のベットの上だったのだ。
ご丁寧に、四人部屋で瀬川一人だ。
(別に、寂しくなんか無いぞ。)
と、思ってたりしていた。
テレビを見ても、同じ様な番組だ。
自衛隊の演習場から、未知の生物が現れたとか。
自衛隊の行動について、肯定したり批判したり。
そして、今の別府市内の復興状況等が連日報道されている。
いい加減、飽きた。
「あー、あーあー。」
意味も無く、声を出す。
「・・・・・・・・。」
やっぱり、誰も答えない。
(むなしい、泣きそうだ。)
瀬川は、別の事を考えるようにした。
ずっと、気になっている事だった。
地竜に、追われていた時の事だ。
あの時、カーブを曲がり切れずに転倒した。
普通なら、死んでもおかしくない重傷を負う。
しかし、瀬川は全身打撲し肋骨を3本骨折しただけだ。
あの時、地面に身体が打ちつかれる瞬間に突然風が吹き勢いを殺してくれた。
お陰で、瀬川は入院したものの重傷までにはならなかった。
「あの風・・・自然に吹いたのか?」
瀬川は、寝て天井を見上げた。
(余りにも、不自然だったな。)
あそこのカーブは、あんな強い風が吹く場所じゃない。
そもそも、吹いたとしても人間一人を浮かせる程では無い。
瀬川は、目を閉じた。
もしかしたら、シエラなら知っているかもしれない。
それに、是非とも会いたかった。
瀬川が目を閉じた頃、その病室を見詰める人影があった。
「ふぅ〜ん、ここにセガワ タツミがいるのね。」
人影は、ブロンドの外人女性だった。
女性は、ロングスカートで白いパーカーを着ていた。
さらに、耳まで隠しているニット帽子を被っている。
遠くからでも、わかるモデル体型。
そんな女性が、数百メートル離れているビルの上から病室を見ていた。
「兵士は、・・・入口にたったあれだけ。警備は、薄そうね。」
女性は、目を凝らして言った。
普通なら、絶対に見えない距離だ。
「ありがとう!風の精霊さん!」
女性が、独り言をいうと風が答えるように吹いた。
そして、女性は大きめの鞄を持って非常階段に歩いていった。
日が沈み、辺りは暗くなった。
病室も、消灯時間なので電気は切ってある。
瀬川は、眼を閉じ寝る準備は万全だった。
が、昼間に死ぬ程寝っているのだ寝れる訳がない。
「・・・駄目だ。寝れない。どうしよう?」
瀬川は、ベットを出て便所に向かった。
「明日で、退院か。よし、戻ったら2・3日代休でも取るか。」
(にしても、誰か見舞いに来いよ!)
瀬川は、ようをたし自分の病室のドアを開けた。
「・・・・・。え?」
ドアを開けたら、信じられない光景が。
それは、窓から病室に入って来ようとしているニット帽子を被った外人の女性だった。
「アッ、コンニチワ!」
女性は、笑顔で挨拶した。
「・・・・この、時間帯ならこんばんわだ!」
(いや、違う!)
問題は、挨拶の使い分けでは無い。
(この、外人誰だ?てか、ここ4階何だけど?)
瀬川は、そんな事を思い固まっていた。
女性は、瀬川の視線を気にせず窓から病室に入って来た。
「セガワ タツミ?デェスゥカ?アナタガ。」
女性は、カタコトで話し掛けてきた。
「そ・・そうだ・・・ケド。」
女性は、瀬川の言葉を聞き少し考え理解した表情をした。
[やっぱり!貴方が、セガワ タツミで間違いないのね!]
女性は、瀬川の両手を掴み笑顔で言った。
が、女性が使った言葉が解らなかった。
自慢では無いが、瀬川は決して頭がいい方ではない。
しかし、女性の言葉は英語でも中語ですら無いのは解った。
[どう?身体の調子は?風の精霊を使って、助けてあげたけど。]
意味の解らない女性は、解らない言語を使い瀬川の上半身を触った。
よく見たら、綺麗な人だ。
「ちょっ・・・ちょっと、待て!?」
瀬川は、女性と距離を開けた。
「あ、あんた、誰?何で、俺の名前知ってんの?てか、ここは自衛隊の敷地内だぞ!どうやって、入って来たんだよ?」
瀬川の問いに、女性は解らない顔をした。
「ワカラナイ、コトバ。ハヤイ、シャベッテ、ユックリ。」
(何なんだ?この人?)
瀬川に、外人の知り合いはいない。
まして、深夜に4階の窓から来る人物なんかもっと知らない。
[ん?誰か、来る!]
女性は、眼を細め言った。
[ソレデワ、イキマス。ワタシ。ココ、キタノハアナタノ、ブジ、カクニン、スルタメ。ダカラ。マタ、アイマショウ。]
女性は、言い終わると窓から飛び降りた。
「おぉい!!ここ、4階だぞ!!!」
瀬川は、あわてて窓に駆け寄った。
下を見たら、女性は平気な顔をして笑顔で手を振り走って去っていた。
「・・・・。」
「瀬川士長!こんな、深夜に何を大声だしているんですか!?消灯後は、静かにしなさい!」
女性が去った後、巡回中の看護士がドアを開けて窓辺で固まっていた瀬川に怒鳴った。
「す、・・・・すいません。」
瀬川は、謝った。
謝るしかなかった。
まさか、この病室に謎の外人が窓から入って来た。
また、窓から飛び降りて去っていた。
なんて、信じてもらえないからだ。
瀬川は、ベットに横になり眼を閉じた。
意外にも、すぐに寝れた。
たぶん、先程のやり取りで疲れたからだろう。
とりあえず、忘れる事にした。
(いや、きっとあれは夢だ。夢にちがいない。)
「・・・・なんか、リアルだったな。」
ぼっそりと、呟く。
その声は、室内に響き渡った。