普通さん→地味さん→地味賛(今ここ)→JIMI様→JIMI神様
先に言っておきます。この作品は寝たいだけシリーズとは何の関連もありません。
それっぽいキャラが居ても別人ですし、別の外史のキャラクターは私の中では別キャラカウントです。
さらに言ってしまえば現況になることの多い例のあの人は出てきませんし、ついでに寝たいだけシリーズを読んでいないと楽しめないなんて事もありません。全く別の作品ですからね。
……こうやって書いておかないとまたぞろ五月蝿いのが後から後から沸いてくるので書かせていただきました。気分を害した方は申し訳ありません。
では、始まります。
P.S タイトルは誤字や誤変換ではありません。
ある日のこと。私は自分に与えられた部屋でぼんやりと考え事をしていた。
公孫家の分家の産まれとしてそれなりに期待された私は、有名な盧殖先生の私塾に通っている。私はそこで努力を続けてきたつもりだし、それを示すだけの成績も取ってきている。
努力をすれば努力しただけの結果が私に還ってくる。盧殖先生にも誉められたし、私塾ではそれなりに付き合いのある相手もできた。
……だけど、私は自分が優れているとは思えない。それと言うのも、私の上には常に誰かが居たからだ。
武術を習えばそれなりに強くはなれた。けれどそれはそれなり止まりで、超一流には届かない。
軍略や政治について学べばそれなりの事はできるようになったが、私より上手く軍を動かしたり私より良い政治をするものが沢山居た。
計算する速度もそれなり。力もそれなり。発想もそれなり。できることはどれもこれもそれなり止まり。それどころか、私と言う存在自体がそれなり止まり。
政治家としてもそれなり。文官としてもそれなり。将軍としてもそれなり。人間としてもそれなり。……女としてもそれなり。
どれだけ頑張っても、それこそ知恵熱を出すほど考えた政策も、才ある誰かがポンと出した策には届かない。
血反吐を吐くほど身体を鍛えても、才ある誰かの一刀で地べたを這いつくばる事になる。
毎晩遅くまで軍略書を読み解こうとも、盤上演習ではなにもさせてもらえない。
そんな私の事を、人は『普通』と言う。
あらゆる事に才が極端に無いわけではなく、逆に多量にあるわけでもない。
努力している分凡人よりはできるが、その道の専門家や天才には敵わない。
なにもかもが平均で、何も普通より秀でておらず、何も普通より劣っていない。
そんな私を見て、まさに『普通』だと誰もが言う。私自身ですらそれを認めざるを得ない程だ。
そして私は、普通だと言われながらも……普通だと自覚しながらも、何か一つだけでも優秀だと言われるものが欲しかった。だから勉強も頑張ったし、武術の鍛練も軍略や兵法の暗記もした。
人間として大きくなろうとして色々なものを見て回ろうとしたし、見た目を少しだけでも良くしようと髪や肌の手入れにも気を付けた。
けれど、私の側にはそれらの努力を軽々と越えていく者が多すぎた。
才能では初めから敵わない。努力しても届かない。いつまでもそいつらは私の遥か先に居るのに、それを誇るでもなく周りを引っ張り続けていた。
その才能を羨んだし、その在り方に嫉妬もした。いつもいつも私達にはできないことを軽々とやってのけて、それでも私達を置いていこうとしないその行動を恨んだことすらあった。
だけど恨んだところで何も変わらない。私は恨むのをやめて、自分を磨くことに時間を費やした。
……けれど、そんな風に常に張り詰めていればいつかは限界が来る。私はそんな限界など知ったことかと振り払い続けていたが、そんな無茶がいつまでも続くようなことはあり得ない。
私は倒れ、高熱を出した……らしい。当時の事はよく覚えていない。覚えているのはその時に、見慣れない場所で誰かに会っていたと言うことだけだ。
私は熱を出している間、何日も眠り続けたらしい。口元に食べ物や水を出されればちゃんと食べていたそうなんだが、そんなことも覚えていない。
ただ、夢の中での夢のような出会いは、私の中にしっかりと刻み込まれている。その事だけは確かだ。
相手の顔や姿は覚えていない。ただ、どこかで聞いたような落ち着いた声で私に語りかけていたことは覚えている。
内容は巫山戯た事だったり有用なことだったりと様々だったが、共通していたのはそれらの行為でそいつを嫌いになることはなかったと言うこと。そしてそいつの言葉はどれもこれも私を成長させることを意識していたように思えることばかりだった。
それ以来、私は少しだけ気を緩めることにした。いつまでも張り詰めていると視野が狭くなり、効率が悪くなるらしいからだ。
もちろん緩みすぎもよくないらしいが、張り詰めすぎるのも同じくらいによくはない。
故に私は力を入れるべき所では全力で入れ、抜くべき所では抜くようにした。結果として私は更に普通になったわけだが……それについてはまた今度にしよう。それについて話すにはあの人の事をもっと詳しく語らなければならないし、私は残念ながらまだそれほどあの人に近づいているわけではない。
あの日以来、時折私の夢に出てくるあの人は、私が成長していく度にその姿をはっきりとさせていく。初めのうちは自己紹介されてもその名前を聞き取ることができなかったし、声もまるで洞穴の中で響いているような男か女かもわからないような声だったが、今ではなんとなくどんな声をしているのか聞き取れるようになってきた。
あの人は多分女性で、私よりもだいぶ背が高い。あの人いわく普通にできることしかできず、自称は普通で普通な普通の存在なんだそうだ。
あまりにも普通すぎるせいで逆に地味になり、『燈籠の怪ジーミー』と呼ばれたこともあるくらいに地味で、秦の始皇帝に謁見した時に普通に武器を装備したまま入って堂々と立ち振る舞って始皇帝の額に『漢』って筆で書いてそのまま堂々と出ていっても気付かれなかったほどに地味だったとか。
……いくらなんでも冗談だろうと思ったんだけど、実際に嘘をつく理由も考えつかなかったので一応信じることにした。信じても信じなくてもいいと言われたら、やっぱり信じたくなるのは騙されやすいってことかな?
まあ、騙されたとしても別にこの事で誰かが被害を受けるわけでもなく、むしろそれを皮切りに話を広げる事もできるようになるのだからいいとすることにした。
『それじゃあまた今度な』
あの人がそう言うと、ゆっくりと何もない世界が揺らいで私の体が浮いていくような感覚が私を襲い、寝台の中で目が覚める。いつもあの人と話をした日は寝覚めが良い。
ぐぅっと身体を伸ばして固まった筋を解し、いつもの日課の素振りのために模造剣を取って私塾の庭に出ていく。
さあ、今日も普通の一日を頑張ろう。最近なぜかちょっと他人に認識されづらくなったような気がするが、きっと気のせいだ。
☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆
気のせいじゃなかった、と言えばいいんだろうか。私はどうやらあの人の言う普通になっているようだ。どこが普通なのか小一時間問い詰めたが、のらりくらりと交わされて気付けば納得させられていた。まあ、あの人だから仕方ない、と。
そして『普通(笑)』になった私は私塾内部で孤立し始めた。付き合いの浅い奴は私の事を見ても誰だかわからないようだったし、ある程度深い付き合いをしていた奴も私に声をかけてくることが極端に減った。
先生すらも私の事をあまり認識しないようになり、気付けば私の評価は『普通』から『地味』へと変わっていた。
しかし私はあの人から学んだことを活かして色々と好成績を叩き出していった。その成績を出してすら地味さには更に磨きがかかっていったのだがその辺りは置いておく事にして、そのお陰で完全に忘れ去られるような事にはならなかったことは幸いだったのだろう。
そして私は『地味』でありながらそれなりに優秀だということで、私塾を卒業してから幽州の一都市を任せられるようになった。
……と言っても実のところそれなりの金は飛んでいったがな。出世を望んでいた訳じゃないが、そうしないと出世どころか無実の罪を着せられて犯罪者扱いのまま処刑される。本当に中央は腐っているな。
そんな腐った中でよくまあ一年以上賄賂を出さずに波風一つ立たせずに暫く過ごしていられたと思うが、地味でよかったと思える日が来るとは思ってなかった。
と言っても最近は自分に才能がないこととか『普通『なこととか地味なこととか『普通(失笑)』で『普通(嘲笑)』な『普通(呵々大笑)』の人間であることとかそんなことは気にしないことにしている。気にしたところで私が私である事に違いは無いわけだし、『普通』であることがあの人と同じであるのだったらそれもいいかと思っている。
残念なことはあの人にはもう全てを捧げてでも付いていきたい相手がいて、しかもその相手に受け入れてもらっていると言うところだけれど……まあ、私のこの思いは憧れであって恋では無いと思うので良いことにする。
それに私は女で相手も(多分)女。本当にあの人が女かどうかは見ていないからわからないけれど多分女。女同士で好き合うのが悪いとは言わないが、非生産的だとは思うわけで。
『まあ、お前さんが私を好きなのはわかるけど、私も非生産的だと思うぞ』
「やっぱりそうだよなぁ……」
『『普通』に考えてそうだろ』
「ああ……そうだよなぁ……『普通』に考えて非生産的だよなぁ……」
悪いとは思っていない辺り、私とあの人はやっぱりよく似ているようだ。
『そうそう、太守の仕事頑張れよー。今のお前なら『普通』にできるだろうけど、なんか聞きたいことがあったら遠慮せず聞きな』
「ありがとう、黒」
『いいってことよ』
私とあの人は笑い合う。私が呼んだ黒って言うのはあだ名みたいなもので、本名を言われても聞き取れない私にあの人が偽名だと念押しした上で教えてくれた。
私があの人の名前を聞き取れないのはなんでも私の存在の格が足りていないかららしく、私がこれから適当に頑張っていれば聞き取れるようになってくるものらしい。
その日のために私は今日も執務室で筆を走らせ、この町を守るために兵を集めて警備隊(あの人から習った)を組織し、町の区画整備を行い、その中で自分自身も鍛える日々を送る。
当面の目的は少なくとも私が治めるこの場所とその周辺の治安改善と、あの人の本名を教えてもらうこと。最近はまた物騒な世の中になってきたので治安改善はなかなか大変だが、何かをしなければ結果は出ないのでやれることはやっておく。
一度失敗したらその失敗を繰り返さないようにすれば、いつかは早々のことでは失敗しなくなる。また、伝記や歴史書なんかを見てその失敗も擬似的に糧とすれば余計に失敗の数は減るはず。
特に大きな失敗ほど書には大きく詳しく残されているので、そのお陰……と言っていいのか悪いのか微妙なところだが、大きく失敗しそうならする前にある程度被害予想と対策が思い付くようになり、そのお陰で大きな失敗は無いままに小さな功績をいくつも積み上げていくことができている。
まあ、とは言っても私はまだまだ字を貰いたての十代中盤の若僧だ。本当に自分のやりたいことをやれるようになるにはまだ時間がかかることだろう。
いつになればあの人の名前を聞き、姿を見ることができるのか。今の私にはわかる筈もないことだが、いつの日か絶対にあの人に追い付いて見せよう。『普通』で『普通』な『普通』の私でも、普通には普通なりの意地がある。むしろ普通であるがこそ、私と同じように普通でありすぎるあの人に追い付きたいと……普通でありながら普通の枠を作り替える荒業をして可能性を広げたあの人に追い付きたいとそう思う。
普通でありながら普通から外れるには、自分にとっての普通の枠を一度壊して無理矢理広げる必要がある。私は普通にしかなれないから、まずは今の私にとって普通にできることを極める。それから普通の枠を広げて新しく普通になったことを極めて、また普通じゃなかった場所を私にとっての普通で侵食する。
すると普通じゃなかったことはいつの間にか普通になっていて、そして私はどんどんと地味になっていく……と。
ある程度付き合いがあれば相手も名前を聞けば思い出してくれるし、姿を見れば少し記憶を刺激されるくらいのことはある。
だが、このまま成長を続けてどんどんと地味になっていったら……きっと私はどこにいても誰にも気づかれなくなってしまうような気がする。
それを防ぐには私がちゃんと地味さを調整できるようにしなければならないんだが、それは結構難しそうだ。またあの人に話を聞いて頑張らないとな。他ならぬ自分自身のために。
☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆ミ☆彡☆
ねんがんの ひっさつわざを てにいれたぞ!!
……いやまあ間違ってはないんだがどこかおかしい。具体的には念願って辺りとか。
何故こんなことを突然言い出したかと言うと、きっかけは私の修練の話に遡る。
私の武術の腕は普通だ。少なくとも私の中では普通だ。初めから他人より多少でも優れていたものと言えば、馬の扱いくらいなものだろうと思う。
そんな中でも力を欲した私は、毎晩あの人にお願いして修行をつけてもらい始めたのだ。
あの人の修行は非常に苛烈だった。死ななかったのが不思議でならないと何度も思ったし、もう辞めてしまいたいとすら思ってしまうほどに。
あの人は私以上に普通の領域が広く、私以上に地味になれた。それだけではなく、剣も槍も弓も何もかもがあの人の手にあるだけで恐ろしい物へと在り方を変える。
手に剣を持ち、剣の存在を地味にして一度消し、新しく剣を持ってまたその存在を地味にすることを繰り返す。使う時には地味にするのを辞めればたくさんの武器が手の中に現れ、その手を振るいながら地味にするのを辞めればまるで暗器のようにも扱われる。
また、どんな武器でも同じようなことをしていれば一瞬で別の武器を取り出して間合いを変えることもできるし、自分の存在を地味にして思い切り暗殺紛いの事もできてしまう。
そして斬ったと言う事実を地味にすることで相手の傷を無かったことにしてしまうことや、その傷を少しずつ小分けにして出すことによってまず助からないだろう重症の相手を救うこともできる。
そんな風に私とあの人のとてもよく似た能力の使い方と、能力と武術などの組み合わせを習い、少しずつ習得して行く。
ちなみに私とあの人の能力の根本は殆ど同じものらしい。ただ、あの人と私では年期が違いすぎるがゆえに使い方に精通しているかいないかの差と、あの人の能力は長年使い続けている間に普通に拡大発展していったことでさらに差がついてしまっているそうだ。
またあの人はこの力の正確な在り方を理解し、それに沿って使うことで無駄なく、そもそも何をどうすればどう言う結果になるかを理解してかつ自分の望んだ結果に持っていくにはどう使えばいいのかを理解しているからだと言っていた。
……その結果として私のやるべきことに座学が混じり、凄まじい量の未知の知識を頭に叩き込まれることとなった。後悔はしていないしむしろ嬉しいしさらにやる気も出てきたが、それでもやっぱり頭が痛い。本当に。内側から知識で破裂してしまいそうだ。知識の詰め込みすぎで死んだ例など今まで一度も聞いたことは無いが、あってもおかしくないと一瞬考えてしまった。頭が痛い。
そんなわけで私は短期間で大幅に強くなった。なんか凄まじく非常識な方法で座学を受けたような気がするが、私にとって非常識だと思うようなことでもあの人にとってはやはり『普通』なんだと言うことが確認できた。それはそれでもういいことにしよう。
それにいいこともあった。私が能力を物理法則に干渉できるまで高めたところ、声がかなりはっきり聞こえるようになり、さらに姿の輪郭が薄くぼやけて表情かはまだわからないものの、どのような体型でどんな髪型をしているかくらいはわかるようになった。
……やっぱり、どこかで聞いた覚えのある声だったし、やっぱりどこかで見たことのある姿だったような気がするが、世の中で人が予想できることは起こる可能性がある出来事であり、予想できることも予想できないこともどちらも起こる可能性を秘めているのがこの世界と言うものだそうなので、何が起きても私だけは慌てず騒がず……は無理かもしれないが、受け入れてそれに善なり悪なり良し悪しありの対応を取っていくことにしよう。頭からあり得ないと否定するのは簡単ではあるが、否定するばかりが人生ではない。
そう、たとえあの人の輪郭が私にそっくりで、声も私にそっくりで、身長はちょっと高くて胸も若干大きく、まるで数年後の私を見ているような感覚があったとしても、本当に私の未来の姿の可能性の一つであったら私は一時期未来の私に愛情にも近い感情を送っていたと言う痛々しい黒歴史に気付いてしまい、その場で悶えてしまいたくなろうとも……私は全てを受け入れてその上で進んでいこう。
「伯珪様、次の書類で……伯珪様っ!? 顔色が最悪ですよ伯珪様っ!?」
「……あ、ああ、なんでもない。きにするな。すこししにたくなったもののもくてきをおもいだしてもちなおそうとしてるだけだ……」
「なんだか凄く駄目な気がいたしますよ!? 衛生兵!衛生兵!伯珪様がまた無理なされようとしています!止めてください!」
……なんか大事になってんなぁ……っと、書き損なうとこだった。やっぱり文官が少ないと仕事が増えて大変だ……と。ちょっとどこかから適当に雇えたりしないかなぁ……。
とりあえずこの町の治安はかなり良くなった。田舎だからあんまり強かったり賢かったりする奴は来ないけど、そこそこ文字が読めたり計算ができたりちょっと戦える奴なら沢山居るから、そいつらにちょっと協力してもらえばいい。
一人で百人前の仕事ができる奴なんて早々いないが、一人で一人前の仕事すらできない奴はそんなに多くない。だから私はそんな普通な奴等を雇って数を使って仕事を終わらせていく事にしよう。
運がいいのか何なのか、普通で普通な普通の私は普通の奴等に好かれることが多い。特に私が治めているこの一帯では、恐らく殆どの人間が私の顔と名前を知っているだろう。それどころか、一部では私に絶対の忠誠を誓う奇特な奴等も居るには居る。そいつらは年齢も性別も様々だが、共通して私が何らかの危機から救っていた者達だ。
例えば侍女長は私がこの町の太守に任じられてすぐに、盗賊から守れなかった村の生き残りの一人。復讐さえできれば何も要らないと言っていたので目の前でその盗賊をほぼ殲滅し、頭領だと思われる奴を生かして捕らえた後、その願いを遂げさせてやったら跪かれた。元は普通の娘だったが、礼儀作法と普通の鍛練を一緒にやっていたらなかなか使えるようになった。
その他に賊や他の太守などの情報を探らせている草の者達は、食いつめた農村で口減らしに捨てられた子供が飢えているところを拾ったり侍女長と同じように盗賊などに殺されそうになっている所を私の軍が救ったりした者達ばかり。子供は今はまだできることは多くないが、その代わりに忠誠心と向上心は折紙付き。日々努力を繰り返し、私に近付こうと頑張ってくれている。
そんな私への忠誠心を唯一の基準として作られた部隊はこっそりと私の私兵として運用しているが、一応ギリギリ合法。
そして、才能がなくとも努力でどこまでも成り上がろうとするのが私の方針なので才能やら何やらは絶対に必要ではなく、無いよりはあった方がいいけど別に無くとも問題ない程度の扱いなので、努力ではなんともならない忠誠心を部隊入りの基準としているわけだ。
さて、必殺技の話だが、実際には凄まじく簡単な上に説明もかなり楽に終わる。何しろその場で剣を上下左右と斜め全方向から一閃ずつと中心に突きを一つ入れるのを同時に行うだけなのだから。
そしてこれだけではただの身体能力任せの剣技であって必殺技ではない。
私はいくつか能力の使い方を習い、それを自分なりに理解して応用した。具体的には、剣そのものを地味にできるなら、剣を振ったという事実を地味にして一旦隠し、必要な時に必要なだけ地味ではなくして一撃の威力を乗算できないかと考えたのだ。
そして実行してみた結果、その技は完成した。名を付けるとしたら……『薄影斬』と言った所だろうな。それまで私が剣を振った数がそのまま私の力になるこの技は、相手がよほどの者でない限りは使用しないことにしてはいるが……私に自信をつけさせるきっかけの技ともなった。
なぜならこの技を実行するには、起きた事実を世界から隠さなければならない。それができたと言うことは、私の能力は対に世界の一端にまで手が届いたと言うことなのだから。
「は、伯珪様!? なぜそのような穏やかな顔をしておられるのですか伯珪様!?」
「ああ、気にするな。ちょっとお前と出会ったときの事を思い出していただけだよ」
私がそう言うと、私の私兵である真影隊の副長は一瞬その頬を朱に染めた。……全く、可愛い奴だよ。
……とまあ、こんな感じで私はこの世界を……この外史とやらを精一杯に生きている。
昔と違って随分腹黒くなってしまったし、昔よりもずっと残酷な行為に躊躇う事もなくなってきたけれど。
私は私のまま、普通で普通な普通のまま、全力で今を歩いている。
これはそんな普通な私が歩む、一般的で、普遍的で、どこにでもあるような、一介の、通常の、並大抵の、通り一遍の、極ありふれた……ただの『普通』の人生のお話だ。