プロローグ① 流れと言うか掴み的な?2
と、キィン! と不協和音が体育館内に響いた。生徒皆が顔を一瞬顰めてからすぐに笑みを浮かべ、うぉぉぉぉぉ、と地響きするかのように盛大な声がみんなの口から漏れる。
ついに、ついに始まるのだ。今週の辱めが。そして友達との会話でも昼食時の弁当や学食でもない、週で一番面白いことが今から始まるのだ。胸が高鳴った。過去に何度か辱めを受けたことがあったがその時はホントに地獄だった。例えるならば水着を忘れてパンツ一枚で水泳の授業を受けるような……違うか。
とにもかくにも、見ているときは面白くて仕方がない。周りを見れば皆似たような顔をしている。恐らく俺と同じようにもし自分があの立場にあったら、と考えているのだろう。
しかし、今はそんなのどうでもいい。今はお客さんなのだ。辱めを受けるゲストじゃない。
『おっしゃ、てめぇぇええぇぇぇぇぇぇらぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!』
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
少し汚い言葉が体育館内に響き渡り、マイクで呼ばれた皆のボルテージが上がっていく。
『声がちぃせぇぇぇぇぇっ! もっと叫びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
生徒会長、椎名聖が叫ぶマイクでの声がさらに大きくなり、皆のボルテージがマックスまで上がっていく。彼女は舞台上に現れることなく、舞台裏で声だけを張る。舞台下の異様な盛り上がりとは反対に舞台上は一気に静まり返り、緊張感に包まれた。蓮の髪どこかいつものツンツン具合がない。
『おっしゃ~、準備は良いかやろうどもぉぉぉぉぉぉぉっ! 今日の辱めを受ける者は計三二人だ! 覚悟は良いか~っ!?』
マイクで出された声は思わず耳を覆いたくなるほどうるさかった。横で琥穏が軽く耳を押さえている。亜流は楽しみにしてたとはいえ、顔を顰めながら一度舌打ちをし、柊は小さく「うるさいわね」とぼやく。二人の負の感情は見なかった事にしよう。夢は夢で笑っていたがバカだからそれはそれで怖い。
そして始まった辱め。会長が各個人に対して最も効果のある辱めを言っていく。その一つ一つが面白くて舞台下では盛大な笑いが起きている。もちろん俺も亜流も普段謎に包まれた柊でさえ微笑を浮かべている。
教師も一緒になって楽しんでいた。
すでに辱めを受けたものは皆のテンションとは対象的にその場に崩れたり基本恥ずかしさで顔を隠したり女の子は軽く泣いている者さえいた。
そしてついに蓮の時がやってきた。同時に体育館内が熱い熱気に包まれる。ははは、相変わらずだな。蓮は辱めの常連であり、その毎回が面白い辱めのため生徒の間で支持を集めている。
『次は……何だ、またお前か神間蓮……ぷっ、今日の辱めもまたきついぞ? ……だーはははは』
椎名会長の豪快な笑いと共に蓮は俯いていた顔を上げた。
……何するんだあいつ……。なぜか決意した風な顔であり、一歩前に出てから、
「はっ、会長、俺もいつまでもヘコたれてちゃいねぇですよ! 新神間蓮です! さぁ来い!」
『ふっ、良いのか?』
「もちろんです!」
『幼女好き歴=年齢!』
「がはぁぁぁぁぁっ!?」
完璧なカウンターだった。まさかお前、幼女好きだったのか……。思わず唸っちまったぜ……。
今までの経験から蓮は耐えられると思ったのだろう。サッカーで空振りしたシーンの映像、授業中涎を垂らして寝ている映像とまだ何とかなった。しかしながら、たった今ピッと高い音がして舞台上のスクリーンに映された映像では、
『えりかちゃん、ハァハァ。ぐふふふ』
街を歩くランドセルを背負った少女に対し明らか異質の眼差しを送っている。口の端から少し涎を垂らし、だらしのない様はどこからどう見ても最近の蓮だ。
「神間……キモッ」
亜流は顔を顰め、うぇぇと舌を出しながら言う。亜流、その気持ちは俺も同感だ。