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ブレイン_ウオーカー  作者: サブロー
クローズドβテスト
6/6

『…不条理だ。』

「歩くとわかるが…、すっごい身体に違和感あるんだが…。」

「奇遇ですね、僕もですよ…。」

僕達は、森を歩いている。


この森を抜けて、北東に数kmいったところに、町はあるらしい。


「まだ朝の9時ごろですので、お昼にはつけると思います。」

というのが、クレアの言。


「いや、なんというか身体が…」


「軽いな。」

「重いです。」


「………。」

あれ?


「僕は全然身体が思うように動かないんですが…。」

「ほう。内藤さんは、いくつなんだ?」

「16歳です。」

「なっ……」

愕然とした表情を、逆月さんが浮かべる。


「16……、そうか…、それは自分の意志でか?」

「そんなわけないでしょう!」

「ああ、すまんすまん。それはそうだわな。ふむ……。」

なにかかわいそうな者を見る目で、見下ろされる。

あんまり、そういう扱いをされるのは好きじゃないんだけど……。


「僕は別に…捨て鉢になんてなってませんよ。」

「ぬっ?」

「シードを溜めれば、リアルに戻れるんでしょう?それなら…、やってやろうじゃないですか。」

「ふむ……。」

なぜか、同情の色合いが濃くなった。


「まっ…、そうだなあ。」

逆月さんの視線が、前方に移る。


「やるからには、負け犬は勘弁だ。」

「ですね。」

「頂点でも目指してみるか?」

「…望むところです。」

「フフフ…。」

不敵な笑みを浮かべる、逆月さん。

こういう顔をすると、体格と相まってひどく頼もしく見える。


「勇者様。話は少しずれますけど…」

「ん?」

「ステータスについて少しお話させていただいてもよろしいでしょうか。」

「うん。お願い。」



◆◇◆



この世界での身体、『仮想存在』のスペックは、以下の6つのステータスで決まる。

上限値は150。


STR パワー。いわゆる攻撃力。どれだけ重い装備をつけられるかにも影響。

AGI 俊敏性。いわゆるすばやさ。足の速さにも影響。

DEX 器用さ。いわゆる命中率。魔法の詠唱速度にも影響。

VIT 生命力。いわゆる打たれ強さ。HP、状態異常の回復に影響。

MAG 魔力。いわゆる魔法攻撃力。魔法耐性に影響。

LUK 運の良さ。効果は公表されていない。


なお、体格や年齢はこのステータスの影響を受けず、本来の姿が適用される。

その為、VIT100でもリアルで病弱な人の見た目はそのままである。


また、レベルが上がるごとにステータスポイントが3振られ、これは自由に割り振ることができる。


「ずいぶんまた、シンプルな作りだね。」

「なにせ、1世紀半も前のゲームが元になっていますので…。また、現在のステータスですが。」

クレアの前方の空中に、光のディスプレイが表示される。

「これが勇者様のステータスです。」



内藤イチヤ LV1 ノービス


STR 1

AGI 1

DEX 1

VIT 1

MAG 1

LUK 1

残ステータスポイント 20


スキル:

なし

残スキルポイント 10


パーソナリティ:

???(???) 習得LV:50 発動:??? 効果:???



「残ステータスポイントは、初期状態で20用意されており、これを自由に振ることができます。」

「むむむ…。逆月さん。」

「なんだ?」

「逆月さんは、もうステータスポイント振りましたか?」

「いや?まだLV上がっていないから0だが。」

「あれ?僕は20あるんですが…。」

「なんだと!初期ステは!?」

「全部1です。」

「1…か。もしかすると…、@ステータスバー。」

ピコッと、光のディスプレイが逆月さんの前にも表示される。

「やはりそうか、合計値はいっしょだ。」

「どういうことです?」

「俺の今のステータスの合計値が26。俺はすでにステータスが振られた状態で、内藤君はステータスが振られていない状態ということだ。」

そういって、ディスプレイを見せてくれる。



逆月 ハイ LV1 ノービス


STR 8

VIT 6

AGI 7

DEX 2

MAG 1

LUK 2

残ステータスポイント 0


スキル:

ヴァンガード(レア) 習得LV:1 発動:特定条件化で発動 効果:ステータス上昇大

残スキルポイント 0


パーソナリティ:

???(???) 習得LV:??? 発動:常動 効果:非公開



「スキルが…。僕にはないのに。」

「ぬう?ちょっと見せてくれ。」

逆月さんが、僕のディスプレイを覗き込んでくる。


「こりゃあ…、あれか。年齢の違いって奴か。未来はまだ決まっていないからとか、そんな奴。開発者め、面白いことをしやがる。」

「えーと…、僕が未成年だからですか?」

「ほんとのところはわからないがな。まあ、選べるってのはいいこった。」

「うーん…。」

なにか釈然としないものを、感じる。

まるで僕が何者でもないような、そんな違和感。


―僕は僕なのに。


「ぬっ、そろそろ森を抜けられそうだぞ。」

いつのまにか立ち木の数がまばらになり、前途が開けていく。


「―――。」

木々の先、そこにあるものが見えてくる。


「おっ…。」

眩しい陽光の下、空でなにかが光っているのが見えた。

目を凝らせば、それは全体的に白く、縁どりは青い。

中央に高い尖塔。


「…城?」

そう、それは中世ヨーロッパの、城だ。

それが空に浮いている。


「おおおお…。すげええええ。なんじゃこりゃあああ。」

逆月さんがダッ、と駆けだしていく。


「すげえ、まじかよ!人間すげえな、おい!」

すごい興奮のしようだ。


「…あまりゲームとか、しない人なのかな。」

一転、僕に驚きはない。


今どきのゲームなら、このくらいのVV(ヴァーチャルビュー)くらい、普通に完備しているものだ。


「―――。」

ふと、そんなことを思いながら、よくわからなくなってくる。


これまで体験したヴァーチャルの世界には必ず、『僕』に戻るというトリガーがあり、リアルの世界に戻ることができた。

だけど、いまの僕にはそのトリガー、『ログアウト』がない。


むしろヴァーチャルに、リアルが支配されてしまっている。


「なんでこんなことをするんだろう…。」

こんなの本末転倒だ。


もし、ヴァーチャルとリアルが乖離(かいり)していたら…


―もし、リアルの身体に別のだれかが繋げられたら…


「―――くそっ。」

寒気がする。


僕には、こんな事をする理由がわからない。

こんな危ないことをする理由がわからない。


「…不条理だ。」

怒りを感じながら、逆月さんの後を追う。


負けたくないと、僕は強く思った。


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