表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイン_ウオーカー  作者: サブロー
クローズドβテスト
5/6

『OK。内藤さんね、よろしく。』

ごうっと、白い風が噴き、世界が変わる。


「いやああああああああ!」

「おい、説明しろよ!責任者はどこだ!」

「ひいい。」

「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!」

「うるせえっていってんだ、てめえ殺すぞ!」


「………」

開けた草原は、大人達の背中で、隠された。


見たこともないような密度の人ごみの中に、僕は立っている。


「やろうってのかてめえ。」

「す、すけてる…。」

「もう、家に返してよおおおお。」


「な、なんだよこれ…。」

怒りと罵り。

耳が痛くなるような多重に響く感情が、世界に渦巻いている。


「…当然と言えば、当然の反応ですがね。」

いつのまにか肩に止まったクレアが、耳元で囁く。

「むしろ私は、勇者様の冷静さに、少々驚いていますよ。」


「健一はどこなんだい?えっ?健一よお…。」

「おおおおおお。」


大人たちが、わめいている。

不満を、不安を、怒りを撒き散らして…、


「………行こう。」

「はい?なんです?」


こんなところには、いたくない。

頭が、おかしくなりそうだ。


「すいません。通してください。」

人ごみを、かいくぐる。


だが、

終わりはなく、人。


そして、そうやって人をかき分けていて、気づいたことがある。

全員が同じ服、世界史の授業で見たことのある中世ヨーロッパの衣装を着ていること。

そして、おっさん、おばさんがあまりいないことである。

男は、ほとんどは20代か大学生、よく見ると僕と同い年くらいの奴も結構いる。

女子は、ほとんどが高校生か大学生くらい。


でもなぜか、僕にはこの人ごみが、『大人達の群れ』に見えて、しょうがなかった。


「くそっ…。」

そして、終わらない人ごみ。

こういうときに背が低いと、不利だ。

自分がどっちに向かっているか、わからない。


「勇者様。そのまままっすぐで抜けられます。」

上空に上がって、見てきてくれたのだろう。

クレアが、頭の上から教えてくれる。


「サンキュー。そういえば、他の人には、NAは付いていないの?」

これも気づいた点だが、クレアのような存在が、他に見当たらない。


「いますよ。ただNAは、各自の勇者様にしか見えない仕様になっています。」

「なるほ…」


ドン


人を避けるのに失敗し、ぶつかってしまった。


「おっと…。」

「あっ、すいません!」

「いや、気にされるほどでもない。」

ぶつかってしまったのは、色黒の男性だった。

全体的にシャープな印象で、混血なのか、瞳が青い。


「…この人ごみの、出口を探していますか?」

「えっ?…はい。」


「………。」

少し考えるそぶりを見せて、

「ここをこの方向にまっすぐ行けば伐採の後…、まあ座れる場所があります。そこで休まれるといい。」

「あっ、はい…。」

「ん?あなたは…」


「おおい、烏羽あ。早くこいよー。」

「あーそう、急くな、吉田。今行く。すみません、私は、これで。」

「あっ、はい…。」

色黒の男性が、呼ばれた方向にすいすいと人をかき分けて向かっていく。

その先に、はげ頭が少し見えた。


「なんだか、不思議な人でしたね。」

「うん…。」

混乱する周りとは違う、なにか明確なものに向かっている足取りだった。


「まあとにかく、教えてもらった場所に行ってみよう。」

「そうですね。」



◇◆◇



人ごみを抜けると、目の前に森が出現した。


「さっきまで、こんなものはなかったけど。」

「今いる場所は、『プライベートルーム』とは違う場所ですから。」

「………。」

しれっとそう言われても、困る。


「あそこで休めそうですよ。」

見れば、木が根元から切られていて、座るのにちょうどよさそうな切り株が生えている一角がある。


「ふう…、やれやれ。」

切り株の周りには、同じように避難してきたのか、人がちらほらと座っている。


「つまりここは…」

「城が…」

「あせっても………、見極めて…」


ほとんどが数人のグループを形成し、なにやらひそひそと話している。


「………」

「………」

一瞬、ひそひそ話をしていた人たちの視線が、新たにやってきた僕に向けられるが…


「……だな。」

「だめ……。」

すぐに視線を、はずされる。


「………。」

なんだが、むかつく反応である。

ちびだからか?

お前ら、僕がちびだからって馬鹿にしてるな?


「ここに退避された方々は、いち早くこの状況を受け入れた人達でしょう。話せば、なにか協力が得られるかもしれませんよ。」

「…しらん。」


身長を馬鹿にする奴に、ろくなやつはいない。

僕はずかずかといくつかのグループの横を通り過ぎ、奥の切り株にドンっと座る。


「………」

「………」


横に、とんでもなくでかい男が座っていた。

どれくらいでかいかと言うと、完全に頭を抱え、うつむいている癖に、僕の座高より高いのである。

多分立ち上がれば、190cmは超えるだろう。


「うわあ。大きな方ですね。」

「そう…だね。」


大男はふさぎこんだまま、ピクリとも動かない。

そこが逆に、不気味だった。


「………」

そっと立ち上がり、離れようとすると…


「おっし!」

バッシンッッツっと、大男がそのでかい掌で自分の膝を叩く。

それと同時に、頭がグワっと上がる。


癖っ毛のある短髪。

卵型の、形のよい頭。

眉は太く、目は大きく、開いた口も、でかい。


「ん…?」

唖然と大男を見ていると、視線があった。


「おお、すまんすまん。驚かせてしまったか。」

顔全体で笑う、そんな笑みを浮かべてくる。


「お詫びに、いいことをお教えしようか。」

「な、なんですか…。」


「俺が、逆月(さかづき) ハイだ。」

「えっ……?」


「お前様は運がいい。いきなり俺と知り合えたんだからな。」

ハハハハハッ、と調子よい笑い声をあげはじめ…、


「あれ?」

僕の、ポカーンとしたリアクションに気づいた。


「ん?まさか、俺のこと知らないってわけじゃ…。」

「えーと、どなた様でしょう…。」


「うわ、マジだ!お前さん、何年生まれ?」

「えーと、2168年生まれです。」

「あーーー!!そういうことか!!」

パンッ、と手をうって納得したご様子。


「えーと、じゃあまあ、そういうことで…。」

「うむ。そういうことで、『城』を、見にいこうか。」

「『城』?」

「ん?イスファーク王国の首都『アイザック』。そこに立つ王城が、プレイヤーの最初の目的地だろ?」

「…どこでそんな情報、聞いたんです?」


「…っふ。」

にんまりと笑みを浮かべ、


「なぜなら俺が…」

「あっ、NAから聞いたのかな。」

「………。」


「…そういえば、伝え忘れていました。」

そういって、クレアがしぼんでいる。


「なかなかお前さん、人の『こし』を折るのに長けてるな。」

少し恨めしそうに、大男。


「いや、そんなつもりは…。」

「謙遜するな、チェストブレイカー。」


「…チェストって、胸のことですよね。」

クレアの指摘は、とりあえず流す。


「えーと、その『城』にいけば、何があるんですか?」

「王様…は、さすがに会えないが、騎士団の詰め所で初期装備とゴールドがもらえるはずだ。おそらくそれがないと…。」

そういって、自分の腹をさすりながら、


「いきなり、のたれ死ぬかもしれん。」

「…『食』ですか。」

「そう、『食』。ちと、腹が減ってきている。」

「それは、えーと、『リアル』で?」

「ハハハッ、マジだよ、マジ。こんなことまで律義に再現して、何がしたいんだかな―、この開発者は。」

「………。」

話がかみ合わなかった。


「そこの大男の言うとおり、勇者様はこの世界で栄養を取る必要があります。」

「とらないと?」

「ステータスが大幅に低下し、最終的には行動できなくなります。栄養は酒場で食事を取ることで回復しますよ。もちろん、ゴールドがいりますが。」

「なるほど…。」


「そういうわけで、もらえるものはさっさともらっておこうじゃないか。あーと、そういえばまだ名前聞いてなかったが…。」

「内藤です。逆月さん。」

「OK。内藤さんね、よろしく。」

ニッと笑いながら、やたらとでかい手を伸ばしてくる。


「………。」

僕は、少し躊躇した後、


「…よろしく。」

その手を握った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ