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ブレイン_ウオーカー  作者: サブロー
クローズドβテスト
4/6

『勇者様、ですね?』

クラスに、季節外れの転校生がやってきた。

艶やかなロングの黒髪と、挑むようなきれいな瞳が印象的な、とびっきりの美少女。


クラス中、いや学校中の好奇を集めた彼女には、実は誰にも話せない秘密がある。

そしてその秘密を、僕だけが知っている。


―そんな、妄想にしかならないシチュエーションが、現実になった。


もちろん、そんなチャンスを逃す気は、僕にはなかった。


秘密の共有をいいことに、世間知らずの彼女のプライベートにほいほい立ち入り、

いくつかのイベントをこなして、見事に彼女のハートをゲット。


その結果、僕は彼女の本当のお仕事―レジスタンス活動に流れで参加することになり、

その初日に―、治安維持隊に捕まった。


そして、

「ここは、どこなんだよ…。」

僕―内藤イチヤは気づくと、みたこともない場所に立っていた。


「草…原…?」

膝下ほどの草がずっと続く、広い広い場所。


「えーと…」

おかしい。

記憶がつながらない。


確か僕は捕まって、真っ白な大人に何か装置を頭に付けられて、数値が足りなくて…。

『おめでとう。君は、テストプレイヤーとして選ばれた。』


「そうだ!その後…」

いきなりこの場面に、飛んだのだ。


なんだ?テストプレイヤー?これはなにかのテストなのか?

わけがわからない。

くそ、なんでこんなことに…


「勇者様、ですね?」

「!?」


突然、女性の声が落ちてくる。


「…え?」

見上げるとそこに、『妖精』がいた。


大きさは手のひらほど。

透明な四枚羽を背中に生やした、白いワンピースを着た金髪の少女が、

頭上からゆっくりと降りてきて…、目の高さで止まった。


「驚ろかせてしまい、申し訳ありません。わたくし、勇者様のナビゲーションを務めさせていただきます、NAのクレアと申します。」

そういって、ホバーリングしながら、優雅に一礼する。


「おっ、おお?どっ、どうやって飛んでるんだ、君?」

「ホホ。私が『飛べるもの』とされているからですよ、勇者様。」

少女は、すこし誇らしげにほほ笑む。


いや、少女じゃなくて…、NA - ナビゲーションアンドロイドだったっけ。

ああ、いや。そんなのはどうでもよくて…、もうなにがなんだが…


「勇者様は、混乱されていらっしゃいますね。」

かわいく首をかしげて、少女。


「君の、その呼び方のせいでも、あるんだけどね。」

少しいらつきを覚えて、語感が荒れる。


「これは、すいません。そうお呼びするようにロックがかかっておりますので、呼び方は変えられないのです。勇者様。」

「悪趣味だな、君のマスターは。」

「クレアとお呼びください、勇者様。『君』と呼ばれますと、なにやらこそばゆいです。」

「むっ。それはなんか不公平じゃない?。僕はそのままなのに。」

「ク・レ・アで、お願いします。」

「むう…、いや、これもなんかずれてるし…。そうじゃなくて!」

「クレアと呼んでいただければ、勇者様の疑問にお答えできますが?」


「…クレア。」

「はい。」

「クレア、クレア。情報くれあ。」

「…最後の御冗談が大変心外ですが、妥協させていただきます。」

「よし。じゃあまず、ここはどこ?」

「ここは、『アマツ』社が作成した仮想世界、イスファークです。」

「仮想…世界?」

「はい。電子上に構築された世界。そこに創られた『仮想存在』が、勇者様の今の体です。」

「えっ…。」

「そこに、勇者様のリアルの知覚が繋がれてる為、『仮想存在』が感じたものを、ご自分の体験と認識されているのです。いわば、ゲーム内のキャラクターと一体になっているわけです。」

「じゃあ、本当の僕の体は?」

「リアルで眠っていらっしゃる…というか、知覚が仮想世界の情報で強制的に上書きされているだけなので、『起きているが、なにもできない』状態です。」


「……なんで僕が、そんなところに?」

「…言葉を選んでも勇者様の為になりませんので、直載に申しあげますが、勇者様はつまり『実験体』です。」

「………。」

「この仮想世界は、まだ完成に至っていません。そしてそこに至る為には、まだ『テスト』が必要なのです。」

「………。」


『おめでとう。君は、テストプレイヤーとして選ばれた。』


そういう…、ことかよ。


「僕は、」

脳裏に、銃口。

ひくりと、おもわず顔が歪む。


「処刑を逃れる代わりに、その、実験体にされたのか。」

確認も、説明もなく―。


「いえ、それは正確ではありません。」

「なにがだよ…。」

「まだ、刑は逃れておりません。」

「…っは?」

「残念ながら、このテストに参加しただけでは、勇者様の刑『公開処刑』は、免除されません。」

「じゃあ…」

「出口がないと思われるのは早計です。要は、勇者様がこのテストで『成果』を出せるかどうかで、刑を逃れられるかどうかが、決まるのです。」

「………。」

「ではこれより、勇者様の救済ルール『エンジェルシードシステム』に関して、説明させていただきます。」



◇◆◇



この世界には、人間の王国と、魔物の皇国が一つづつ存在する。

その勢力は均衡していたが、最近、人間側に一つの呪いが掛けられた。


それは、王国内の戦士は全て、町からでると衰弱してしまうという呪い。

これにより、王国の騎士団は防衛でしか運用できなくなってしまった。


このチャンスに、魔物陣営は総攻撃をかけようとしたが、人間側も呪いのカウンターを返す。

両国の境に、魔法的な多重の障壁をはり、その進軍を阻んだのである。


しかし、障壁は永久に保てるものではなく、また低級な魔物は障壁のほつれを抜けて侵入できるという、問題があった。


そこで王国の宮廷魔術師は、一つの禁呪に手を染める。


―それが、異世界人の召喚。

王国の戦士が使えないのなら、『余所から』連れてくればいい。


「それが勇者様…、という設定です。」

「………」


なにその、ロールプレイングゲーム。


「世界観は、21世紀に流行したあるゲームの設定を、そのまま流用したそうです。」

「それで…、えっとあのなんか恥ずかしい名前の…」

「エンジェルシードシステムですね。本当はすぐお話したかったのですが、世界観が前提となっているもので。」

「ふむ。」

「エンジェルシード…天使の種とは、この世界の守護者たる『天使』の力を借りる為に必要な…、えーと…何か魔法的なものです。」

「魔法って言葉、便利だね。」

「万能ですよね。そして、この『天使』の力を行使すれば、あらゆる『奇跡』を起こすことができます。」

「つまり、それで僕は…。」

「はい。エンジェルシードを溜め、『天使』の力を行使することで、勇者様は刑を免れることができます。ゲーム的にいえば、『ゲームクリア』となります。」

「その…、種っていうのは、どうすれば手に入るの?」

「『天使』の祝福に値する行為を実行すると、手に入るそうです。実は私も、『種』の取得方法に関しては、教えられていないのです。」

「ふむ…。」


だんだんわかってきた。

わかってきたけど…


ぐいっと、ほほをつねってみる。

「また、古典的なことをされますね、勇者様。」

「あれ?痛くない…。」

じゃあやっぱこれは、夢か?


「この世界での自傷行為は禁止とされています。というよりも、負のダメージがHPにも脳にも影響を及ぼさないというべきですが。」

「HP?」

「ヒットポイントです。」

「いや、それはわかってるんだけど…。」

「ダメージに、どこまで耐えられるかという数値です。魔物の攻撃を受けたりすると、減ります。」

「それが0になると?」

「…あれ?そういえばその結果を、教えられていません。」

「………。」


「いきなりゲーム終了というはないと思うんですが…。」

「マスターに問い合わせることは?」

「NAからの通信は、ロックされています。」

「………。」


なにか、胸の辺りが、重くなっている。

僕はどこかで、この見慣れない状況に浮かれていたのだろうか?


そうだ、レジスタンスに参加した時もそうだった。

どこか現実味にかけ、それこそゲームをしているようなふあふあとした感覚で、

だから―、こんなことになった。


「シードがたまらずに、ゲームが終了したら…。」

「おそらく、リアルで刑が執行されるでしょう。」

「………。」


「落ち込まないでください、勇者様。」

「そんなこと言われても…、どうすればいいんだ…。」

「目標は明確です。シードを溜めるしかないんです。『禁則事項』でない限りは、私も全力でサポートさせていただきますよ!」

「…ありがとう。というか、き…クレアは、」

「はい?」

「…あ、うん。なんでもない…。」

妙に人間くさいアンドロイドだね、と言おうとして、止めた。

うちにいたアンドロイドは、もっと他人行儀だった気がしたのだけど…。


「ご質問があるなら、お早目にされた方がいいですよ?そろそろ『プライベートルーム』が閉じられる時間です。」

「プライベートルーム?」

「『勇者様だけ』に、用意された領域のことです。さすがにこの最初のチュートリアルを、5万の方が一度に受けるというのは、無理がありますので。」

「…つまり、僕以外に『実験体』が、5万人いると…。」

「はい。そしてその5万の方々全てが、勇者様の競争相手です。」

「………。」


「『プライベートルーム』は、あと3分で閉じられます。他にご質問はないでしょうか。むろん『プライベートルーム』が閉じた後も、私は勇者様と共におりますので、のちほど質問されても問題ありませんが。」

「……そうだね。」

頭に浮かんだのは、悲しげにうつむく黒髪の少女。


「他の『勇者』の情報というのは、教えてもらえるのかい?」

「…すいません。それは、教えられておりません。」


「…うん。」

大丈夫だ。

彼女は、別のアジトにいた。こんなところには、いない。


「ふう……。」

息を吐く。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫。」

全然大丈夫じゃないけど、大丈夫。


『―イチヤは、大丈夫だよ。』

心で、あの人の言葉をトレースする。


「他に、質問はない、よ。」

とにかく見てやる―。この先を。

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