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ブレイン_ウオーカー  作者: サブロー
クローズドβテスト
3/6

『おう。イスファークの大地で、また会おう!』

歯医者の診察台を、想像してほしい。


それに酷似したものが、10台、10列並んだ、真っ白なフロア。

そこに俺は、お仕着せの真っ白な入院服を着て、立っている。


通称、『テストルーム』と呼ばれるこの部屋は、VRの試験場である。


VR(バーチャルリアル)技術。

電子の世界で構成された疑似空間と脳を直結させ、仮想の『生』を体験する技術。


21世紀末に現れた、ある天才脳医学者がこの技術に関する論文を発表して以来、世界中の研究者が探究し、そして挫折してきた。


この研究の最大の障害は、当然のごとく『人命』と『尊厳』である。


脳情報を扱う以上、一歩間違えば被験者は廃人となる。

そしてそれ以上に、人の脳、いや人の人格に科学が踏み込むことが許されるのかと、多くの健全な有識者達はその活動に反対してきた。


だが、もう遅かったのだ。


人は『りんご』を食べてしまった。

その可能性を知ってしまった。


ゆえに1世紀に渡り研究は進められ、10年前、国営企業『アマツ』が、そのプロトタイプの開発に成功したのである。


その後プロトタイプは多くのテストを経て改良され、その完成の95%まで達した。

そして、残り5%を埋める為のテストが、これから始められる。


『えーーー。あー、うん。』

テストルームに、放送が入る。


『テスト開始15分前となりました。テスターの皆さまは、VRシートにお座りください。また、テスト内容の最終確認をさせていただきます。』


『VR内の時間は、現実の7倍の速度で進みます。つまり、VR内の1週間が現実の1日となります。』


『みなさんに課せられた毎日の報告は、VR内時間での1日ですので、ご注意ください。』


『報告は、VR内インベントリに置かれた、『日記』に記してください。日記の内容は他者には見えない仕様となっている為、必要以上に慎重になる必要はありません。』


『また、4台のサーバ間は自由に移動できますが、その場合は一度ログアウトし、再度の接続となります。』


『サーバ間でLV、装備は共有されます。ただし、著しい矛盾が発生する場合は調整が入る可能性がありますので、よめご理解ください。』


『プレイヤーに『鴉』であることを気づかれた場合、強制的にログアウトの上、『無期懲役』の厳罰が下ります。情報収集を焦るあまりの、軽率な行動はご控えください。』


『また、接続障害による記憶の欠損、性格の豹変、人格崩壊などが起こる可能性がございますが、当局は一切保障いたしません。もしご心配のようでしたら、ぜひこの機会にブレインバンクをご利用ください。』


「よう、烏羽あ。」

「吉田か。ひさしぶりだな。」


見事に頭頂部が禿げ上がった、アラサーの男が挨拶をしてくる。

吉田 (たくみ)。共に『鴉』を仕事とする、同業者だ。


「いやあ、楽しみだなあ、烏羽あ。400万だぞ!100万都市だ!それだけいれば、どれだけの物語が産まれると思う?」

「それ…」

「ああ!苦しみの涙、喜びの笑み、怒号、罵声!人の数だけの感情が産まれ、人生がある。人生とはすなわち何だと思う?」

「……」

「そう、物語だ。人の数だけ物語がある。100万の語られざる人生を記す。それが俺達、『鴉』てわけだ。」


―独壇場である。


「だから今回も頼むぞお、烏羽あ。俺とお前が組めば、明かせない真実も、拾えないゴシップもない!」

「…お前がもうちょっと俺の話を…。」

「そういや、他の奴らをみかけないが、別施設か?」

「聞けよ、おい・・。」


「はははっ、なんだよ。聞いてるって。」

「猶更タチが悪いわ…。」


「でっ、他の連中から連絡はいってないか?あいつら俺には連絡よこさないからなあ。」

「ドンタコスと紀伊国屋から、連絡がきた。二人は関西のテストルームだそうだ。あと…」

「あと?」

「デスシザースから、脅迫メールが来た…。」

「おお、ご愁傷様。あいつもいい加減しつこいな。」

「あの粘性が、あいつの強みだからな・・。」


『後10分でテストを開始します。席についていないそこのお二人、早くご着席ください。』


「ご指名だぜ、烏羽あ。」

「おっと。また後でな。」

「おう。イスファークの大地で、また会おう!」


ビシッっと、似合わない敬礼をして自分のシートに向かう、吉田。

相変わらず疲れる奴だが、今回もあいつの協力が必要になるだろう。


「さて…。」

また、仕事が始まる。


くそったれで、醜く、なのにまぶしいあの世界へ…。


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