表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイン_ウオーカー  作者: サブロー
クローズドβテスト
1/6

『まったく、趣味の悪い仕事だ。』

「ほんの…で、出来ごころ…だったん、です。」

言葉を確認するような、少年の声。


「だ、で、ですから―」

少年の前には、無情に立つ、軍服の男


「ですから―、撃たないで…。」

その眼前に、ベレッタの銃口が向けられる。


「―――。」

泣く直前のような、笑いかけのような、そんな中途半端な表情で、少年の顔がこわばる。


「まあ、まあ 加藤さん。」

私は、仲裁に入る


「相手は子供ですよ?あまり脅してやらんで下さいよ。」

「…テロリストに、子供も大人もありませんよ、世良(せら)『教授』。」

軍服の男 - 加藤は、声だけをこちらに投げ、視線は少年からそらさない。


「まあ、そうですが、こう怯えられては、『適正』を見るのに悪影響がありましてね。」

「適正…?」

加藤の声が、歪む。


「こんなガキを、あそこに放り込むというのですか、あなたは。」

「はは…。IPはむしろ、子供の方がよいのですよ、加藤隊長。」

「………。」


テロリストもそうじゃないですか、という言葉は、飲み込む。

不要な話だ。


「さて…、内藤、イチヤ君?」

しゃがみこみ、少年と目線を合わせようとしたが、少し見下ろす形となる。

歳は確か、16か。

その年頃としては、小柄なほうである。


「君が、僕たちの言うことをちゃんと聞いてくれれば…、助けてあげられるかも、しれない。」

「―――。」


こわばった顔の、笑いの領域が増える。


「よし、いい子だ」

少年に笑いかけながら、淡い落胆を覚える。

あまり、期待はできないようだ。


狭山(さやま)君。『銀茶碗』、こっちに1台まわしてくれる?」

後ろで作業に追われている助手に、声をかける。


「すいません、今、全台つかってるので、少々お待ちを。」

「むっ…。」

「あっ、一台今進捗98%なので、もうすぐあきます。」

「了解。ちゃっちゃといかないとね、狭山君。治安維持隊の方々も、さっさと帰りたいでしょ。」

「99…、100。終わりました!」

「結果は?」

「適正、85です。」

「ふむ…、レジスタンスならもうちょっといくかと…。」


「…テロリストです、世良教授。」

わざわざ、加藤が指摘してくる。

こいつ…、長生きしないタイプだな。


「あー、そうですね、失礼。でっ、狭山君。Nの方は?」

「Nは15です。」

「…そこだけは、期待を裏切らないんだね。了解。その人の処分は、隊員さんにまかせちゃって。」

「不採用ですか。」

「100を超えないと、不採用。」


「なっ、おい!不採用って…、おい!」

適正85のレジスタンスがなにやら騒いでいるが、無視だ。


「あっと、ですね…」

「狭山君、ちゃっちゃと!ちゃっちゃと!」

「はい!」


狭山ががちゃがちゃと、『銀茶碗』をレジスタンスの頭からはずし、持ってくる。


―『銀茶碗』

この、IP適正を測る装置の外見は、その名の通り銀色の茶碗である。

それを対象の頭に乗せ、脳情報をスキャンする。


「さて、内藤君。」

狭山が持ってきた『銀茶碗』を指しながら、少年に告げる。


「これを使って、今から『テスト』をする。ああ、テストだからって堅くなることはないよ。時間もかからないしね…。」


「……れで」

「んっ?」

「俺の、命が、決まるんですか?」


「―――。」

顔はひきつったままに、少年のトーンが変わる。


「――そうだよ。」


「そん、なの!」

「でもね…。」


ガチャりと―、

少年が牙を上げる前に、銃口がその額に押しつけられる。


「―――――――。」

少年の顔は一瞬で青ざめ、凍結する。


「反抗しようとは、思わない方がいい。治安維持隊の方々は、少々身体をいじっていてね。反応速度が常人の数倍もあるんだ。だから…」


「この状況で君のできる選択に、『反撃』は、ない。」

「………。」


少年の顔は、青白んだまま、全体としては泣き顔を形成しつつ、目は怒り、かた頬は笑いを浮かべ、口、鼻、目からは体液が滴り落ちている。


―ひどい顔だ。


そして、そんな顔をさせている犯人が、私なのである


―まったく、趣味の悪い仕事だ。


「狭山君、ちゃっちゃとやってちょうだい。」

「はい!」

『銀茶碗』を狭山に押しつけると、彼は手際よく準備に入る。


準備といっても、大してやることはない。


「設置OK。」

「周波、189AF1265A456BBFAC4893A型。同調OK。」

「開始します。予想完了時間は、5分です。」


「………。」

「………。」

「………。」


「あと、2分です。」


少年を見続けるのに疲れた私は、視線を周囲に移す。


ここ - レジスタンスの拠点だった場所は、2世紀前に立てられた、大きな倉庫である。

といっても、壁も屋根も老朽化のすえ朽ち果てた、いわゆる『廃墟』だ。

レジスタンスは、その廃墟の下にあった地下施設をねぐらとしていたらしい。

その地下施設で捕えたレジスタンスを、順番に地上へつり上げ、『適正』を測っているのが今の状況だ。


時刻は、AM4時半。

夏の気の早い太陽が、そろそろ顔を出す時間である。


「この、共栄主義の犬どもが!!」

見れば、地上へつり上げられた男が一人、吠えている。


「それでも日本男児か、貴様ら!いいか、俺は…!」


――トォーン。

1発の銃声。

それで、終わり。


「――!!」

びくりと、壊れかけていた少年の顔に、反応がでる。


加藤に視線を送ると、


「うちのやつらは、手が早いんですよ。」

―教授のおっしゃる通りね、っと、皮肉気に肩をすくめる。


「………。」

「………。」


「…99、…100%。審査、完了です。」


「結果は?」

「…適正、92。Nが、98です。」


「―――。」

表現しづらい顔で、少年がこちらを見上げている。


「………。」

残念ながら、答えは『NO』だ。


「ですが…、」

狭山の報告が続く。


「一瞬だけ、120を超えました。」

「んっ?」

「最大、122です。」

「ふむ…。」


ふと、朽ちた屋根越しの空を見上げる。

昇ってきた太陽の光を受け、夜の黒は、紫へと、その色を変えていく。


「………。」

審査が100%ということは、ない。


「内藤、イチヤ君。」

視線を、地上に戻す。


「おめでとう。君は、テストプレイヤーとして選ばれた。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ