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Second Real/Virtual  作者:
8/72

第7話-惨敗!完敗!超連敗トキ!-

 次の日――

 翌朝






 …

 ...

 ……硬い?


 トキは妙な感触を頭の横に感じて飛び起きた。


 頭の隣に何か硬く、冷たいものが……



「………」



 起きてそれを確認したまでは良かった。

 しかし、何で“ソレ”なのか理解できなかった。



(――はい?)



 まだ、日の姿が見えない早朝。

 それでもうっすらと空は明るみだしていた。


 どうリアクションをとればいいのかわからないまま、ソレを手に取る。

 ある程度常識を持ち合わせているトキからすれば……

 やはり、これは有り得ないとしか言いようがない。



「銃?」



 しかも複数。


 ハンドガンが2つ。 明らかにハンドガンじゃないのが1つ。こちらは茶色い紙に包まれている。



(俺に何しろって言いたいんだ?)



 バ○○○ワイヤル?

 ――まさかな。

 どこの誰と戦れってんだよ?


 冷静さを取り戻しつつ、触れてみる。

 まず、一番手近にあるハンドガン。



(キム――ベェアァー?

 コム……コンパクト)



 正式:キンバー(Kimber)コンパクト(Compact)ピストル。

 朝一の事態ということもあり、読解力が著しく低いトキであった。


 銃本体からマガジンを取り出し、



(本物、か?)



 見ただけで納得できないトキは、


 マガジンをセット。


 そして――スライド。

 チャンバーに弾丸装填。


 ますます本物っぽい……

 だが、ここは日本。

 それにクリスマスでもないのに、さもプレゼントのように置かれた“これら”はあまりにも不自然。


 おそらく、芹真さんかボルトあたりの仕業だろうと思いつつ……

 試しに壁へと銃口を向けてみる。


 ふと、昨日のリボルバーの反動を思い出した。

 強烈な反動。

 目に痛いマズルフラッシュ。

 鼓膜を破らんばかりの銃声。


 あれを朝から体験するのは辛い。



(まぁ、本物のはずないし)



 あくまでモデルガンだと思い込んでいるトキ。

 ――ってなわけで、


 銃撃!


 本物の轟音!

 その銃撃で、何よりもトキの五感を刺激したのは強烈なマズルフラッシュだった。



「っっ!!」



 闇を照した一瞬の閃光。


 薄暗い部屋の中、トキは反動で後ろに転がり、背中から落ちる。

 薬莢の乾いた落下音がどこか小気味よかった。


 何事かと真っ先に駆けつけたのは芹真。

 次に藍。


 ボルトは静かに眠り続けていた。






 数時間後


 AM 06:00


 台所に立つ藍とトキ。


 藍はトキに同情した。

 確かに、戸惑うだろう。

 起きた瞬間得体の知れないモノが自分のすぐ真横にあるのなら。


 想像してみればいい。

 もし、何の前触れもなく自分の枕元に○○が置かれていたら――というシチュエーションを。



「でもそれは孫さんのミスだし」



 トキは無言で藍の調理を手伝った。

 手は動いているものの、虚ろげな目である。



(さっきの発砲の事かしら?)



 かなり動揺しているらしい。

 常識を持った人間ならこう……


 ――訂正。

 小心者か、法を律儀に守る者なら誰でもこうなる可能性はある。

 藍の脳裏に浮かぶ、昨日のアヌビスと対峙した時のトキのビビりっぷり。

 正直、先が思いやられる。



「大丈夫よ。捕まりはしないわ」



 そう言われ初めてトキは反応した。

 銃刀法違反で捕まらないかと本当に……かなりビビッていたらしい。



「どうしてそんなこと言い切れるんだ?」


「協会よ」



 そのワードでトキは黙り込んだ。

 表情は固まったままである。



「この街の警察にも協会の手の者が複数いるから、簡単に情報操作されるの」


「じゃあ、協会が黙っていないんじゃ……?」


「心配ないわよ。彼らは下手に手を出してこない。

 手を出してくるとしたら、昨日のアヌビスみたいに自分たちに有利な環境を整えてから来るはずだから」



 納得しなければいけないのか?

 トキには無理だ。


 一番多くダメージを受けていた藍が言うと、どこか説得力に欠けた。



「それに、もしSRセカンドリアルが関わる事件が起きたとしても、協会は自分たちだけで事を処理をしようとする。

 もちろん、警察は関われない」



 じゃあ、どうして協会の人間――SRが警察に?

 そう聞くよりも早く、



「藍、ちょっと」



 呼ばれた藍は、にんじんの皮むきをトキに託して芹真の元へ。


 この日……

 この後、トキにまともに質問が許される時間が来ることはなかった。



「これ、届けてくれないか?」



 そう言って渡されたものは、今朝トキの隣に置いてあったあの紙に包まれた物。

 重く、長い。



「エントリーガンだ」


「……14inchバレル?

 じゃあ、ワルクスの?」



 ご名答。

 藍はそれを手渡すことを承知した。


 ―――

 ………


 同時だった。

 2人が――

 面識のないトキがワルクスもSRだったと知れば、どんなリアクションを見せるのか

 ――と考えたのは。


 頭の隅で考えつつ、藍は台所へ、芹真はコーヒーへと意識を戻した。


 事務所の窓や扉のガラス越しに差し込む日の光。

 本日は快晴――

 のち雷雨だけど。



「朝はいい……」



 天気予報も“快晴のち雷雨”を告げる。



(嵐の前の静けさ、とでも言うか〜)



 そんなことをのんきに考えつつ芹真はコーヒーカップを傾けた。



(あぁ〜、ねみぃ…)



 それから、いつも通りの日常が展開され……

 展開されたのはたった1人。

 朝の1件を除き、特筆すべきことが何もなかったのは芹真だけだったという。


 つまり、いつも通りの日常だが、それぞれ何らかの出来事が起こったり、運がなかったりということだ。

 散々な1日になる。











 Second Real/Virtual


  -第7話-


 -惨敗!完敗!

 超連敗トキ!-











 2年3組というプレートのかかった教室。


 時間が進むごとに喧騒を増し、昼休みにはクラス内抗争、あるいは内戦まで発展するという。更に半学級崩壊・授業占領テロという必ず何かが起こる超問題クラス。


 しかし、進路の決定率・テストの成績・実用性の面では他のクラスと比べ物にならないレベルの高さを実現しているというのも現実。


 クラスメイト同士、仲が良かったり悪かったり……


 ――なのに抗争やら内戦が起こるのはなぜ?

 どうでも良さそうで、実は放っておけない問題なのだが、いまでは解明しようとする者など1人もいない。


 2年3組のクラス担任は、超実践主義者で元傭兵という噂(本当にそうらしい)つきの女性。

 他の教職員の方も手出しできないらしい。


 そんな問題だらけのクラスの1人がトキだった。



「おい、トキ。

 お前だけだぞ?進路調査票出していないの」



 登校してクラスの扉をくぐり、すぐのことだった。

 待ち構えていたようにたたずむ委員長:ミツル


 ヤクザの息子でありながら委員長なんだぜ?

 逆らえねぇって……



「いつまでに出せばいいんだ?」


「2日後だ。

 じゃなきゃ俺が借金取りヨロシク。

 回収に乗り出す」



 それは嫌だ。

 よって、トキは素直に――



「わかったよ」


「委員長命令だからな?」



 最後に念を押して睨むミツル。クラスを出て行こうとした、



「へぇ〜」



 その時――声がかかった。

 ミツルは一人の女性の声に止めた。


 その女子とミツルが向き合う。



「何か用事なのか?

 え?マイコ」


「いえ。

 最近、委員長がどうも命令口調ばかりで、悪印象しか残していない気がして観察していたのよ」



 ミツルを止めたのは通称:裏委員長 の麻衣子マイコだ。

 女子生徒でありながら頭脳良し、運動抜群、人間の完成度高く、喧嘩もできるという2年3組の女傑だ。


 いつもミツルとは真っ向から気が合わないらしいが――

 その理由が2人の家系にある。


 ミツルの家系は代々やくざ。

 マイコの方は昔から警察職。


 家系そのものが社会的対立関係にある2人であった。



「トキ君。

 どうしても進路が決まらないようなら、私でも相談に乗りますよ。

 気軽に声をかけてください」


「あ、はぁ」



 あまり会話したことないので返事がぎこちない。


 逆にミツルは話し慣れ……

 というか、脅され慣れているため、



「くだらねぇ。

 男なら自分の進路(人生)くらいテメぇで決めるもんだろ?」



 マイコの意見を否定。



(つうか、俺をきっかけに喧嘩するのやめてくれ〜!!)



 とことん巻き込まれることだけは避けたいのに……

 この後、トキは後ろから来たコウボウによって何とか着席へといたった。


 朝のホームルームが終わり、クラスの全員が一時間目の科目『体育』に備える。


 一時間目から体育って……

 とか、最初の頃はそう思った者がほとんどだ。

 トキもその1人だったし。


 引き篭もってブランクがあるとは言え、もう慣れている。


 一時間目から体育?

 ――仕方ない。やるか――程度のやる気しか起こらないが。



「トキ、元気ないな」



 突然、横に現れたのは友樹だった。

 後ろからトキの俯き具合を心配して見ていたらしい。



「朝ちょっとしたアクシデントがあってさ」



 トキの頭に今朝の光景が……

 そういや、まだ耳が少し痛い。



「他校の奴らにケンカ売られたとか?」


「いや、そういう殺伐とした内容じゃないんだ……」



 本物とは知らずに拳銃の引き金を軽い気持ちで引いただけ。

 引いただけなのに、精神的ダメージは計り知れないほど大きかった。


 やっぱり殺伐とした内容なのか悩んだりした。

 警察とかに捕まったりしないよな?



「そんな朝から落ち込むなって。

 体動かせば悩みも吹き飛ぶださ。な?」



 そんなアドバイスを受け――


 一時間目開始から10分。

 種目バスケットボールにて、色世 時の後頭部にキラーパスが直撃。


 ――THE 脳震盪。


 保険委員にエスコートされ、早々に退場。



「散々だったね。

 そういえば、次の数学で“テスト前テスト”やるみたいだよ?」



 休み時間中の会話。

 話し相手はクラス内の中立派で2人しかいない女子の1人、智明ちあきさん。

 トキは必死でアドバイスを聞いた。

 次の時間まで10分も無いという切羽詰まった状況。


 そして、テストは開始。

 授業時間の前半で回答、後半で答え合わせという方式だ。


 テスト終了。


 結果――36点。



「…………」



 あんぐり。

 解答欄に空白は無い。


 が、答えがズレている。

 原因は2問目と3問目。



(同じ答え書いてるし……)



 そこから1問ずつずれているが、途中で直っている。

 最初と最後に点を取って何とか合格ギリギリライン。



「いや、誰だってミスあるじゃん?

 オレもホラ、勉強した割りに50点代だぞ?」



 中立派リーダー、コウボウはトキを励しにやってきた。

 中立派でコウボウとトキが60点アンダー。

 崎島さんと友樹は80点オーバー。

 トキはまだ知らないが、智明さんは100点だったりする。



「結構堪えるな……

 余裕でへこめるよ……」


「大丈夫だって。

 美味いモンでも喰えば、満腹感と一緒に幸福感も湧いてくるもんだからさ」



 時計を確認。

 まだ二時間目が終わったばかりだし?


 つうか、やっぱり……

 ある程度自信がある範囲内のテストでこれだけ酷い点数を取ってしまったんだ。


 健全な精神の持ち主なら誰だってへこむさ。



「あれ?

 トキ忘れてんのか?」


「何を?」


「次、家庭科実習だぞ?」



 ――完全忘却!


 もちろん、三角巾も前掛けも持ってきていないトキは先生の指導を受けた。


 指導を受けた生徒は3人。

 トキ、岩井、なださん。

 特にトキはこっ酷く言われた。

 3人は罰として、先生の誰かに渡してもいいことを条件に、必ず三人分を作るように言われた。


 3人分――も作るのか……


 原則自分で食べる分以上の物を作ってはいけないという、変なルールがあるこの学校。

 嬉しいような………やっぱり、嬉しくない。



「参った」



 説教から帰ってきたトキは、大きな溜息をついた。



「すごい条件出されたな」



 友樹がおかしそうに言ってくる。

 面白くないし、笑えないって……



「他人に助けを求めちゃダメって言っていなかったから、私達も手伝えばいいじゃない」



 落ち込むトキに助け舟を出してくれたのは崎島さんだった。

 その崎島さんに呼応するように、



「もちろんそのつもりだよ」



 コウボウ。



「つうか助けない奴はいないって」



 友樹。



「料理は得意だから」



 智明。



「大して支障は無いもの」



 藍。


 ちなみに、この時間のグループ分けの基準は、“息の合ったもの同士”

 当然、孤立した奴が出てくる。

 自分から群れようとしない岩井なんていい例だ。


 そんなアバウトな基準で編成された今回のグループ。

 いつもの中立派グループ+藍、の6人編成。



「ところで藍さん料理得意なの?」



 崎島さんからの質問に藍は頷く。

 トキは今朝も手伝ったからその腕を知っている。


 かなり上手だよ、藍は。



「今回作るモノって?」



 説教でメニューを聞き損ねたトキ。



「丼物だって」



 コウボウが答えてくれた。

 どうでもいいが、家庭科実習で丼物って……



「なに丼つくんの?」


「和風カレー丼は?」


「いいね」


「何入ったっけ?」


「うっ……」



 なんて会話の隅でトキは手を洗い始めた。

 当たり前のことだが、衛生第一。料理作りの基本だ。



「バリエーションで攻める?」



 5人の会話が軽く路線を外れた。

 一体、何を攻めるんだよ……ったく。



「じゃあ、3種類、二人一組でやろうか?」


「あくまで“二人一組で一品がベース”ということでね」



 コウボウの提案に崎島さんが補足する。

 そして決まったペアとメニューが次の通りだ


 1.コウボウ&藍:和風カレー丼

 2.崎島さん&友樹:焼肉丼

 3.トキ&智明:山菜から揚げ丼


 である。

 正直、焼肉丼はナシだろうとトキは思った。


 ――焼いて、乗せるだけだぜ?

 どんな料理下手な奴でも作れるじゃん……



「山菜から揚げって、キノコとかでいいのかな?」



 ちなみに、山菜から揚げ丼というネタを提供したのは智明だった。

 トキはそんな料理自体知ない。



「うん。まぁ、野菜中心。

 真ん中に鳥の唐揚げとあんかけをちょこん、っと乗せれば完――……」



 その時――



 ゴッ――



 智明はその音で説明を中断。

 何かが顔面横を高速で横切ったのだ。



 ――ッワン!



「あーっ!!」



 悲鳴――じゃなく、叫び声。

 その声の主はクラスナンバーワン熱血(?)不曲の宮原。

 智明は呆気にとられた。



「避けるな岩井!」



 彼女の背後で何かが起こっていた。


 “何”が起こったか簡潔に言うとこうなる。

 宮原と岩井は同じグループとなり、早速いさかいを起こした。

 宮原の凶器攻撃。


 喰らえ、ステンレスボール!


 岩井はあっさりとそれを回避。

 勢いよく飛んでいったボールは智明の耳元をかすり――



 トキの顔面を捕らえた。



「災難だったなぁ」



 昼休み兼昼食時間。

 場所はいつもの溜り場、人気のない特別棟の階段。


 いつもの段に腰掛けてそれぞれ昼食をとるいつもの5人。



「もう帰りてぇ……」



 鼻血で汚れた制服を気にしつつ、トキは昼食をとる。

 午前中に2度もボールという呼称のものからダウンを奪われたトキ。


 今朝から耳と目が痛くなる思いをし、学校に来て脅迫じみたことに遭ったり、喧嘩の促進剤にされそうだったり、一時間目から保健室のお世話になったり……


 そして、さっきのステンレスボールの顔面直撃。



「なぁ、久々にゲーセン行かないか?」



 唐突に友樹が提案した。

 コウボウがそれにあっさりとOKを出す。

 人の話を聞いているんですか?



「久々だからいいわよ」



 崎島さんもOK。

 その横で智明もうなずいている。


 気晴らしに行こうというハラだろう。



「おごってやるからさ、トキも行かないか?」


(ゲーセンかぁ〜…)


「いや、強制連行だろ?」



 byコウボウ。


 って、何ですとっ!?



「はい決定〜」


(む〜……

 ……ま、いっかな?)



 どうにでもなれ!

 という自暴自棄までは行かないが、トキの中である程度の諦めがついていることは間違いない。






 5、6時間目ともに何事もなく終わりを迎えることのできたトキ。

 そして、放課後がやってきた。






「はい?」



 ある人物によるある一言でトキの顔は引きつった。



「ちょっとツラ貸せ」



 その人物こそ、クラスで最も腕が立ち、かつ絶対敵にまわしたくない男。

 キリングマシーン岩井。

 岩井は玄関でトキを待っていたのだ。



「あの、さ……

 俺、ちょっと用事あるんだけど――」


「俺もお前に用事がある」



 そう言われてトキは連行されていった。



(カツアゲ?

 サンドバック?

 いや、両方か!?)



 もちろん、ビビりまくりのトキ。


 今すぐセカンドリアルの力を使って逃げ出したい!

 でも、いま逃げ出したところで後が面倒になるだけだし……


 岩井はトキの首に腕を回して逃げないように抑えていた。

 最寄りのトイレに連れ込まれ、トキは覚悟する。


 都合よく人気が無く、助けは呼べない……



(耐えろ!オレ!!)



 トイレ、外から見えない。

 犯罪現場(?)

 うってつけ。

 やっぱり恐喝?


 さまざまな思考がトキの頭を駆け巡った。



「ちょっと聞きたいんだが………」


(財布の中身か!?)


「他人に言うなよ」



 ドスの利いた声で脅すように言ってくる岩井。


 嗚呼、恐喝か……


 それを覚悟した瞬間。

 ツイているのかツイていないのかわからないが、トキの予想は外れることになった。



「秋森って、彼氏いる?」


「――………智明?」


「おう。

 秋森智明……さんに」



 岩井は小声でそれを聞いた。

 初めて見る岩井の赤面。



(マジか?岩井が――)



 一息飲んで、試しに聞いてみる。



「ほ……惚れてんのか?」



 殴られてもおかしくない質問だったが、トキは聞いた。

 意外以外の何者でもない。



「ぉぅ」



 超小声。



「で、いるのか?」


「いや、居ないはず……!」



 意外な一面にトキまで赤面してきた。

 つうか、何でオレに聞くんだ?という本音を口にしてみる。もちろん、半ば敬語で。



「お前が一番聞きやすいから」



 その後岩井は、聞いといて失礼だと思うが。

 と付け足した。






 トキは、ゲーセンまでの道の半分のところでコウボウたち(中立派メンバー+藍)に追いついた。



「おっ!

 無事で帰ってきたよ」


「何だよ……無傷じゃ悪いのか?」



 友樹や崎島さんは心配していたらしい。

 持つべきものは『友』、とはよく言うが――

 トキは今ならその言葉に納得できる。



「で、結局藍も一緒に行くんだな?」


「悪い?」


「いや、別に」



 トキから見てもわかるように、今の藍はものすごい上機嫌だ。

 と、友樹が奇襲。



「そういや、お前ら一緒に住んでいるんだって?」



 にやけながらの質問。

 コイツ……どこでそんな情報手に入れたんだ?



「へぇ〜。どおりで朝一緒にいることが多いわけだ」



 コウボウは納得。

 まぁ、コウボウはこういう奴だし。

 面白い情報以外あまりリアクションを見せない。当たり前といったら当たり前な奴なんだが……



「どこで手に入れた情報なんだ?」


「私がそれらしい話を聞いたの」



 崎島さん自首……じゃなくて、挙手。



「そういえば、トキの家工事してたもんね」



 智明の台詞が終わると同時、目的のゲーセンが皆の視界に飛び込んだ。


 去年。

 クラス内の抗争から逃れてきた5人が偶然居合わせた場所。

 中立派成立の場所。

 それがこのゲーセンだった。


 店名:『バーテックス』






「うわぁ〜

 やっぱり配置変わっているよ」



 入店した6人。

 さっそくコウボウがそうこぼした。



「アレやんねぇか?」



 そう言って友樹がクレーンゲームの前に立った。

 女子三名は賛成。


 トキとコウボウだけが別のゲームに目が行っていることに気づいたのは、藍だけだった。



「シューティング行くか」


「行きますか〜」



 2人が選んだのはありきたりなシューティングゲーム。

 画面に向かって銃の形をしたコントローラーを向けるタイプのアレ。



「久々だなぁ〜」


「これの前作は糞だったな」


「いや、コウボウが下手なだけじゃん?」



 そんな会話を繰り広げつつ……

 トキ、第一ステージでゲームオーバー。



「いや、ほら。

 久々だしさ――」



 苦しい言い訳。



「まぁ、家庭で使えるコントローラーじゃないしな」


「格げーでも行っとく?」



 トキは次のゲームを指名。

 コウボウは肯定し、移動を始める。


 その途中、いまだクレーンゲームで快勝・快進撃を続ける友樹の姿が映った。



(あいつ、何個取ってんだ!?)



 見た感じ軽く10個オーバー。

 カバンに入らないのか、制服の後ろ襟にぬいぐるみを突っ込んでいやがる。



「あいつあんなにクレーンうまかったっけ?」


「……さぁ?」



 さすがのコウボウもこれには驚いていた。






「アレ?」



 藍と智明は完全ブルーになっているトキを目撃した。

 自販機の前のベンチに腰掛け、下を向いている。


 矢○○ョー……のコーナーリングでかの有名な台詞を吐いた時と同じ姿勢。



「どうしたの?」


「……全敗だ」


「うん?」



 つまり、どんなゲームをやっても全戦全敗のトキであった!


 鬱憤晴らしに来ているのに、逆にブルーになっているのだ。



「とことんついていない日ね」


「うわぁ〜」



 2人はトキに同情しつつ、次のコメントを考えた。



(飲み物でもおごった方がいいかなぁ?)


(何かのゲームに付き合うべきか……)


「トキ、D○Rやらねぇ?」



 第三者介入。

 奇襲が得意なのか、友樹という男はいつも突然割って入ってくるのだ。



「…………」



 無言で立ち上がり、トキは友樹についていった。

 トキの背中を見守る智明は、



「涙目だったよ?」



 とりあえず藍に報告した。






 D○R

 某社が開発した音にあわせてステップを踏む、あのゲームだ。



「これも久々だろ?

 だからさ、ライトレベルでいいよな?」


「――……」


「曲、なんにする?

 ほら、スネてないで選べって」



 精神的に疲弊しきったトキはジェスチャーで伝える。

 お任せします、と。


 そんなトキを見て……



(誘ったの失敗だったかな?)



 友樹は少し後悔した。






 だが、曲が終わるのと同時、トキは完全復活を遂げていた。






「ト、AAA……だと?」



 結果表示画面で友樹は唖然。

 このゲームには、判定というものがある。


 上からAAA、AA、A、B、C、D、E、F


 画面下から現れる矢印を、タイミングよく足で踏めばポイントが加算。曲が終わった時点でその総計が算出される。

 ポイントの加算は『ひとつの矢印をどれだけタイミングよく捉え、踏むことが出来るか』によって左右される。

 その基準は7段階。

 高得点がマーヴェラス、最悪の場合、つまり目で追いつけずに見逃した場合はミス。


 トキの総合判定:AAA

 それが、どれだけ難しいか友樹は知っていた。

 判定基準のうち、『マーベラス』か『パーフェクト』以外の判定を一つでも出してはいけない。


 それが、AAA判定を出すための絶対条件だった。



「まぁ、ライトレベルだし……」



 レベルを変更しつつ次を選曲。



「おしっ!

 次、“パラ○イア”だ!」



 張り切って宣言する友樹。

 実は少し悔しがっているのだ。


 なぜ、引きこもっていたトキは息ひとつ切らしていないんだ?

 かつAAAだし……


 そして、気付けばトキはレベルを上げていた。

 『楽』から『激』へ。

 一気に2ランク上げた。



「パラ○イアって?」



 ギャラリーとなっているコウボウへの質問。



「D○Rのボス曲のひとつだよ。

 ていうか、初代ボス曲?

 シリーズも意外と多くあるんだ」



 解説の途中で音楽がスタート。

 結果から言えば、曲が終了する前に勝敗はハッキリとしていた。

 トキの圧勝。

 パラ○イアは、トキの得意曲でもあったので無理もない。



「強ぇ……な」



 信じがたい光景に直面した友樹は、半ば放心状態に陥っていた。

 少なくとも、このゲームで敗れまいという自信はあったし、今も自己記録を上回る記録を出したというのに……

 それでも、トキは友樹の上を行った。



「オレはまたUFOやってくるよ」



 友樹とコウボウで選手交代。



「うわぁ、やべぇ久々!

 クリアできっかなオレ?」



 僅かなギャラリーが、ゲーム機の周辺に集まった。

 他人に見られているからか、妙にコウボウのテンションが高い。



「じゃあ、“S○○URA”で!」



 いきなりボス曲を選択するコウボウ。

 見知らぬギャラリーが聞く。



「S○○URAって?」



 そして見知らぬギャラリーが応える。



「和風ボスだよ」



 そんなボス曲に挑んだトキとコウボウの結果は

 トキ、AA(激)

 コウボウ、B(踊)

 また、トキの勝ち。



「スゲェな!調子いいじゃん?」



 コウボウ1曲終わっただけなのに完全燃焼。

 額に水玉浮かべさせつつ、満面の笑顔。



「バーサス、いいかしら?」



 いきなり乱入。

 トキは名も知らぬ女性との対戦を承諾。


 その頃、藍はクレーンゲームで惨敗を喫していた。



(何故取れない?)



 更に2度挑戦し、結局一つも景品を手にすることができず、諦めてトキらに合流しようと店内を探し歩いた。






 トキと見知らぬ女性は接戦を繰り広げていた。


 お互い一勝一敗。

 期せずして3本勝負。



「時間ないからラストはコレね」



 女性の方から指定。



(MA○30○

 よし、得意曲!)



 意気込むまでは良かった。


 D〇Rの正統派ボス!

 それが今から二人が挑む曲だ。


 結果……



(嘘だろ!?)



 トキ、AA(激)

 見知らぬ女性、AAA(激)

 トキの完敗である。

 その時、藍はギャラリーに囲まれているトキを見つけた。



(盛り上がっ――え?)


「君うまいのね」


「どうも」



 少し拗ねた風に答えたトキに、見知らぬ女性は笑顔で言った。



「それじゃあ、これで。

 また後で戦いましょ」



 もう2度とやらねぇ……

 ――そう決意するトキだった。


 得意曲での敗北。

 再びブルーになる精神面。

 必死に上げようとしたが、無理だ。



(疲れた〜)



 体力の限界、精神的な限界。


 いますぐにでも寝たい気分――不貞寝する奴の気持ちがわかるというものだ。

 人はこうして不貞寝をするのかと考えつつ、トキはベンチへ向かった。



(あれ?藍)



 ベンチに座り込んだトキの目に、藍の背中が飛び込んだ。

 ゲームセンターの出入り口を出て、左右に首を振っている。



(珍しいな)



 普段、藍は1人で行動を起こすことはしない。

 芹真に“トキを見守れ”と言われていることを知らないトキだが、薄々気付いていた。



(藍はオレを監視……

 いや、初めて会ったときボルトも言っていた通り、護衛していた)



 だが、その藍が単独で行動を起こした。



(もしかして、ただごとじゃないのか?)



 追いかけようかと一瞬悩み――

 無理です。疲労で動きたくありません。

 脳の“命令/本能”に従い、ベンチに座り続けるトキだった。






「で、藍さんがどこに言ったのかさえ聞かなかったわけ?」



 詰問調で聞く崎島さんに、小さくなっているトキ。

 再びブルーになってしまったトキを励まそうとする智明。

 コウボウは面白そうに会話を聞き、友樹はハラハラドキドキ右往左往。



「全く……

 もし何か問題に巻き込まれていたら大変でしょ?」



 崎島さんの説教に何も言い返せないトキは、自分の薄情さにもショックを受けた。

 自分の事ばかり考え、他人に対してぞんざいになっている。



(でも、アイツは1人でも大丈夫だろ)



 芹真事務所のSR。


 たしかフィングは、鬼の姫とも言っていた。

 鬼のように強いという意味か?


 そのまんま鬼のSRなのか?



(そういや、金棒持っていたしなぁ)



 鬼のSRなのだろう。


 もし事件に巻き込まれたら?

 それでも彼女は生還するだろうという予感がした。

 根拠は無いが。



「人が社会を作るのは、人は単独では何もすることが出来ないからなのよ?」


(おぉ、説教が始まった)

(止めなきゃ……)

(説教始めちゃったよ〜)

(うわぁ、これ以上聞きたくないって時に)



「どんなに頭が良くても、1人じゃ何も出来ない。

 どんなに強くても、集団や社会に勝てるはずが無い。

 天才も達人も、結局独りだと勝つことは出来ないのよ」


「だから、みんなと一緒に居たほうがいいってのか?」



 友樹の反論。

 トキは第三者と同じ立場程度に耳を傾けた。



「ええ。

 どんなに個人的な局面の回避方法が上手でも、相手が集団となった場合に勝ち目は無いの。

 そもそも、勝ち負けとかの問題じゃないけど」


「それじゃあ、人類皆なかよしこよしで固まってろって言っているようなモンじゃないか?」


「――それが、無難なのよ」


「でも、それは偏見じゃないのかな?」



 友樹と崎島さんの会話に智明が加わった。



「偏見?」


「うん。

 恵理ちゃんもさ、1人にして欲しい時ってない?」


「ない――

 ……と、言ったら嘘になるけど」


「ね。ほら、誰にでも事情ってあるしさ」


「……確かに」



 トキも口を開いた。


 事情。


 自分は相手の事情を真剣に考えたことはあるのか?

 それを考慮してやったことはあるのか?

 考慮してから話してるか?



(いつか、藍がオレに刀を付きつけたな……)


「――考えてなかった」



 同じ事務所に住みながら、トキは藍のことを全然知らない。



(それなのに軽口ばかり叩くから……)



 いまにして思う。

 付きつけられた日本刀。


 あの時、非は完全に自分の方にあった。



「オレ、藍を探してくるよ。

 確か学校方面に走っていくのだけは見た……気がするからさ」


「おう。気をつけろよ」



 心の中で“もう終わりかよ”とか思いつつ――

 コウボウはあっさりとトキを見送る態度を見せた。


 友樹と智明が同時に時間を確認。



「じゃあ、悪いが俺らもここらで帰んないと」


「私はついていくわ。

 ちょうど3人ずつの集団下校になるわね」



 言い切った以上、それなりの面子もあるし……



「ふぅん。確かに」


「気をつけてね。

 それじゃあ、また」



 遠ざかる3人をトキと崎島さんは見送り、藍を探すために移動を開始した。

 何か、悪い予感がする……





後、降水確率100%

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