第60話-Flash,the GOLDEN Times-
「皆、済まない」
ボルトの光撃開始と同時、吸血鬼ニルチェルト・エンデバーは海上の残骸に身を隠し、終わりの瞬間がやってくるのを静かに待っていた。
「あれからは、誰であろうと逃げ切れん。そういう光だ」
倒壊した協会本部中央レーダー塔の上空に光る魔法使い。
その姿に神々しさを覚えるものも居れば、悪夢を見て絶望に打ちひしがれる者もいて、ニルチェルトは後者であった。
光刀無形。
ボルトが持つ、最大級の虐殺魔法。それは結界でもなく、詠唱魔法でもない、自然世界の歪曲そのものである。もっとも、数百年前の魔女狩りと呼ばれる事件の最後は、この術の発動に失敗して自らを歪め、ボルトという魔女は取り返しのつかない隙を晒し、幾重もの夢想結界に封じられてしまったのだが。
(マヌエラ、先生がまた一つの術を習得したみたいだ……)
AM 06:59.46 -海上:四凶軍-
黒煙に太陽光を遮られていたはずの艦隊が、目も眩むほどの光に照らされていた。
多くが思考のクラッシュに見舞われる最中に誰かが叫んだ。
「日影に逃げろ!
光が襲って――」
血煙が陽光の中を赤く彩る。あまりにも突然過ぎる事態に誰もが首を傾げ、そして次の瞬間には大抵死ぬのだった。
「コウトウムケイ!?
魔女狩りの――あの時の攻撃か!」
それは文字通り“形を持たない光の剣”だった。
ある者は、対戦車銃の望遠画面とそこにデジタル表記される風向と距離を読んで狙撃の為に微調整を行なっている最中だった。最初にその者が失ったものは両腕。意識が負傷を捉えるよりも早く、次の瞬間には何かが新たな損失を刻んでいる。バランスが崩れているのは何故だろう。それに温かい。また、次の瞬間には高熱と寒気を、やっと激痛を胴体に覚わせる。間断なく、足首が体から離れ、眼球が音もなく斬れ飛び、引き金に掛かった指が、潮風に冷めたライフルが、何一つ理解することも抵抗することも出来ず、細切れの破片に化けていく。
ある者は、狙撃手の怪死を傍らで目撃し、上空のイカロス部隊を見上げた。頭上からの攻撃かと予測しての警戒行動だったが、銃口を空に向けた瞬間に男は頸動脈を両側、音も感触もなしに命を切断された。
また、ある者は前者二人の死を目撃してしまったが故に、只ならぬ恐怖に心を締め付けられていた。“何か”が起こっている。必要最低限と思える理解には到るものの、甲板の上に身を隠す場所などろくにないし、そもそも銃撃なのか斬撃なのか、或いは超能力や幻覚によるものなのか判別できない。踵を返して走り出そうとした瞬間に足首、バランスを崩して転び、直後に膝。足場に手が着くと同時に両腕が肩から斬り外された。生命としての最後の瞬間には首を飛ばされる。硬直を残して崩れる最後の瞬間、自分の回りで見えない何かによる大虐殺が行われている光景を目視して絶望に気付く。自分は地獄に居たのかと。
「一体、どうなってるんだ!?」
誰かの叫びであった。
“影へと逃げろ”
それを実践しようと走り出そうとした者達や、殺戮を目の当たりに思考麻痺した者たち、その他大勢が無差別に殺されてゆく。見つからない攻撃、理解できぬ何かによって。
「これは協会の攻撃なのか!?」
大量殺戮に、大量破壊が混じり始める。
無数の破片に細断された金属と人だったものが、飛沫を立てて海中に没してゆく。
赤と黒、白と青。
「敵の飛ぶ斬撃とも違うようです!
いまレインヤードを見ましたか!? 駆逐艦が一瞬で細切 で ッ!?」
叫び声さえも切り裂く。
一般人も、軍人も、洗脳の有無を問わずに四凶の軍勢は怯んだ。
「たった、一人の魔女に……!」
残虐を目の当たりにキュウキは汗を流した。協会の秘密書庫で目を通した協会の過去の“損害”、その中で最も甚大な被害を被った事件がボルト・パルダンの協会攻撃であった。その時に使われた最大の破壊魔法は、文献として残された僅かなものであり、あらゆる角度から集めた情報で完全に予測することしかができなかったが、たった今それを目の当たりにしてなるほどと、異質で凶悪な光撃だと現状を理解した。
-協会本部:非武装派、小規模集団、無所属-
四凶軍と同時に協会本部までもが攻撃されている事態に僅かな戸惑いを覚えた。人工島の住宅街で移動速度を緩めていた哭き鬼姉妹も、無差別攻撃が行われていることに気付いて戦慄を覚える。
「司令部が!」
「スミレ、急ぐぞ――!」
「駄目です! 今すぐ暗がりへ避難してください!」
南部戦線に選定されたSR達が、直ちに撤退ないし防御を始める。
各戦線が本格的に混乱を始めたのはそのあたりからだった。
皆が共通して何か得体のしれないモノの攻撃を受けているということだけを理解し、あまりにも不規則に発現するその攻撃に多くの者が対応に迷った。
そんな逡巡が死へと直結する状況下、理不尽な光撃に晒されながらも生存し続ける者達は共通して行動に迷いがなかった。
「全員屋内へ退避するのだ! 四凶の軍勢も急いで隠れたまえ!」
「リデア、厚い雲を呼び寄せろ! 俺が雨雲に変える!」
AM 07:00
南部戦線の高速対応に倣って他戦線でも防衛の陣が組まれるのと同時、東部エリアではディマが、南部ではリデア達が、それぞれボルトが始めた光刀無形に対して生存の意思で構えを取った。
「オオオオオオオオォォォッッ!!」
光の刃が人々を襲っている――それを理解しながら四凶軍を蹂躙し続ける獣がいた。
「芹真! 戻れ、戻るんだ!」
朝日と閃光を乱反射させ、銀色の体毛を放つ人狼が咆哮を上げて城砦艦へと突撃する。
銀狼と化した芹真の雄叫びに体を震わせながら、光撃に囲まれながらも抵抗する四凶軍の健気な姿勢に、協会の同方面部隊の誰もが止めに入りたい衝動に駆られた。光撃さえなければ、どこからやってくるかも分からない斬撃さえなければ。
『ジャンヌ司令、ミギス司令の生存を確認しました!』
『ついでに北部四凶軍のインスタントSRの数が激減! 無謀だが、芹真のおかげと言うほかありませんよ!』
特別に異様な熱を放つ北部エリア。
血粉野原に黄金と銀色が煌めく。
誰もが止めようと銀狼を睨むも、誰もが殺戮光の中で無事を保証できない。
「見ろ、芹真が……!」
2メートルもの巨体に光が集まる。
注目を集める殺戮銀狼に、無差別にも光は当然のように襲いかかった。
朝日に隠れて見分けることの出来なかった攻撃を、芹真に注目していた協会員らは辛うじて目撃し、それが光撃であることを初めて確信した。
(銀色の体毛に、光の方が跳ね返されている!?)
「そういや、日本の人狼に魔法や呪法を跳ね返す特異体質な連中がいるって聞いたが、まさか……!」
魔女の光撃さえものともしない狼が四凶軍艦隊へ飛び込む。
甲板上の殺戮は、船内まで伝わっていなかった。無傷の兵士達が艦内には無数に控えている。
が、芹真の鼻はそれを捉えており、それらを踏まえて突撃したのであった。そんな芹真の行動に、大部分のSRは驚いた。何故ならこの瞬間、芹真は協会の海岸に着岸した城砦艦と、その後方に続こうとしていた艦隊を一っ飛びに、しかも高速で飛び移っているのだ。最初に蹴ったのは城砦艦に搭載された50cm砲の身。頑丈なそれを丁度の良い足場として約2キロメートルもの距離を一瞬にして縮める。
目立ち過ぎる跳躍は、注目と攻撃を一気に集める心構え。だが、ボルトの光撃があることを芹真は前提としており、それは現実に集中砲火を受けずに目論見通りの跳躍と成る。辛うじて高射砲、甲板に駆け込んだ兵士達の弾幕だが、数秒でボルトの光刀無形と芹真のアンチマテリアル・ハンドガンの圧倒的破壊力の前に掻き消え、発射点は消滅か崩壊の結末だけを迎える。
「ウゥゥゥオオオオオオオオオッッ!!」
艦隊を蹴って、城砦艦に突進する。
覗く牙が熱を砕く。
横っ腹にはアンチマテリアルハンドガンの魔弾が大穴を、銀狼最大の武器である銀爪が砲身を深く抉る。
銀色の体毛で光刀無形を防ぎながら城砦艦の甲板を蓮根へと変え、艦内へと侵入。狭い艦内で銃撃と打撃と斬撃を織り交ぜながら殺戮を尽くし、自動追尾してくる光刀無形を艦内に伝播させる。金属の内装を切り裂き、吹き飛ばし、再び光と水飛沫の世界へ。
(ボルトが目覚めたか!
タイミングとしては予想外だが、違う意味で最適だ。光撃の威力も想定範囲内!
この中で、藍もトキも戦っていることは分かる。この匂いに間違いはない!)
微かな匂いを乗せた風の中を跳び回る。
城砦艦から海面に浮かぶ残骸(一度の射撃)、そこから防衛海岸(逃げまどう四凶軍に高速大振りの斬撃一閃を喰らわせ)、小型高速艇(着地してエンジンへ魔弾を一発)、爆発を背後に後方艦隊のミサイル巡洋艦(足場として蹴ってミサイルを誘爆させ)、跳躍と殺戮を繰り返しながら北部海岸エリアに戻る。
(藍も、ボルトも、トキも、それぞれの理由で戦いに臨んでいる。
唯一関連性を持たない俺が、この戦争に参加する“言い訳/理由”は“獣”だという一点のみ!
だが、それしかないからこそ、それが絶対で、俺の本質なんだろう!
言葉など要らない、欲する破壊を己の為の身に行えばいい!)
誰もが芹真の高速戦闘に自分の戦争を忘れた。例外はあっても、それは視界にないという視野的問題であり、動体視力云々の問題ではない。別々の意味としての光が、戦場全体を明るみに晒した。光刀無形が見えない恐怖なら、芹真の爪痕が人々に思わすものは圧倒と、そこから広がる希望の夢想。或いは悪夢。高速で四凶軍を削っていく銀色の狼はまさしく聖剣の輝きではないのかと、撤退した味方に裏返しの恐怖を与えていた。
しかし、一秒に3~6人のペースで戦闘を続ける芹真が、実の所落ち込んでいると誰が想像できようか。
そもそも、芹真はこの戦争への参加に否定的だった。
四凶軍を止めると言う共通認識さえなければ、粛清しようとした巨大組織と組む必要はなかったのだ。四凶軍に対し、協会の戦力は全員がSRという条件を除いても、前提根源として人間対人間であり、そこに文化的要素が無数に絡み合った場合、数的不利が絶対の協会に勝ち目は薄い。ハッキリと言うなら、協会長の気分次第といった曖昧なところ。
数で不利と傍目に見ても分かる現状に、ナイトメア非武装派のように勢力の垣根を越えて手を差し伸べるSRも界隈的に見れば決して少なくはなかった。誰もが四凶軍を見過ごせぬと、立派な大義名分を掲げている。芹真としても、四凶の支配する世界は協会長のコントロールする世界よりも醜悪なものになると見越せるという、そういう点では他のグループと同様ではあった。
空しさのような、怒りのような感情は拭いきれないが。
「ノォォォォオッ!」
それでは此処にいるのは、友人が協会所属だからか?
或いは、事務所の部下たちに負けたくないからだろうか?
銀狼の咆哮が阿鼻叫喚の戦場に一際強く、大きく、反響のし過ぎで味方にまで意識不明者を出す芹真の叫びには、ハッキリと苛立ちの色が混じっていた。
それを最初に聴き分けたのは、協会の誇る最高戦力であると同時に、SR部隊司令官であり協会長の秘書、また私的好奇心からSRの詳細に明るいジャンヌであった。北部エリアから轟き届く止めどない疑問を乗せた咆哮は、赤き芳香の中で彷徨に喉を震わせるまさしく獣の咆哮である。
(……銀狼が珍しく八つ当たり?
いや、むしろここまで大人しく無理をしてくれていたことの方が異常だったと捉えるべきね。どんなに戦闘センスが秀でた彼であろうと、好まぬ戦闘や求めぬ殺戮は、人の心に孤独と似た空しさを呼び起こす。
もし、芹真の四凶が“トウコツ”なら、彼のモチベーションをどうにか取り返して上げないと、いずれは自ら死地に飛び込んでいく! どんなに強く、人脈が豊富で、状況判断力が奇跡掛かっていようと、彼は数百年を生きた我々のような老人ではない!)
光撃を躱しつつトウコツの走り去って行った方向を惜しげに見やるジャンヌは、芹真を立て直す方法に頭を回した。
トウコツの場合は直接、若干ながらも懇願気味に言って、褒美を言葉でもゴミでも用意してやれば喜んで実行してくれるが、同じ四凶属性を持つかもしれない芹真にそれらは必ずしも同じ効果は期待できず、むしろ逆効果につながる可能性の方が高い。逆上を誘うという意味では間違いないだろうが、現状以上の反感を売りたくはない。そもそも、ジャンヌ個人としてはボルト・パルダンに並んで敵に回したくない人物でもあるのだ。あらゆる組織集団の枠を超えて人脈を有する彼は、その気にさえなれば四凶軍よりも少数だろうと、それでも確実な精鋭を揃えて協会に刃向う事だってできるはずだ。有象無象などとは到底言えない集団の長ともなって。
(しかし、これまでの監視の中で芹真が見せた趣味と言えば……!)
ジャンヌの頭に浮かぶ報告書の内容は、豆、豆、豆。
彼が熱心な愛好家である――報告者によってはファナティストという場合も――という情報がジャンヌには強烈過ぎて他に何かなかったものかと、頭の回転数と、体勢を回避から退避へと切り替え光撃を避けつつ芹真の援護に最適な方法を探す。頭の片隅では何かが引っ掛かっていた。彼に関する、豆に次いで強烈だったはずの、何か。
僅かな混乱があることを認めながらジャンヌは思い出そうと必死に駆ける。芹真には“何か”あったはず。
程なくして、何度目かの大咆哮が戦場の悲鳴を上回った時、ジャンヌの通信機に連絡が入った。
『北部エリアの避難完了しました!
ただ“ デストロイマーチ ”が四凶軍を未だに攻撃中、っていうかもう一方的な虐殺ですよジャンヌ司令!
いくら四凶軍が相手とは言え、やり過ぎだと思います!』
「あっ……それです!」
報告で得た内容に、ジャンヌは目を大きく開いて納得した。
それだ。
二つ名や通り名という概念を嫌うジャンヌがすっかり忘れていた彼の通り名――デストロイ・マーチ。十四人の銀狼で展開される、アヌビス部隊さえ圧倒する“戦慄/旋律”戦法。
「セントラルプール聞こえていますか!
ジャンヌですが、北部の外部スピーカーを最大音量にして音楽を流して下さい! なるべく激しく、変調的な楽曲で!」
そうインカムに叫ぶジャンヌの姿を目撃し、且つ芹真の事情を知らない者たちは、かつてない程理解不能なジャンヌの判断に不安を覚えるのであった。
Second Real/Virtal
-第60話-
-Flash, the GOLDEN Times-
南西部エリアの更地では、未だに二人のSRが衝突を繰り広げていた。
誰の為でもなく己の為に、しかし、夢中になることは出来なくなっていた二人は、互いに鏡映しの姿で戦い続けた。低速世界を同時に展開することによって互いの攻撃と外部からの光撃を躱し、雌雄の決着を望み臨んだ。
そんな二人を新たに目撃した男が居た。
(トキが、二人!?)
目深に被った帽子で顔を隠すその男の名前はフィング・ブリジスタス。ホート・クリーニング店の幽霊店員でありながら、協会に一応所属のSRであり、ネクロフィリアであるという印象を周囲に植え付けた致命的な男である。
撤退を完了した南部南西エリアの広大な更地で、周囲の惨劇が目に付かんとばかりに戦い続ける二人のトキを眺めつつ、フィングはとある理解に及んだ。
(そうか、あの二人は“低速世界”を展開することでこの光撃の中でも戦いを続けられているのか。
一度離れ離れになれば二度と戦わないかもしれないのに、二人は何故決着に固執している?
なんか確執でもあるのか?)
再生のSRであるフィングも、かつて一度だけ使用した色世時の姿を再生し、ある意味で戦争体現を忠実に行っている二人を止める為に駆けだす。確かに戦場は間違いなく、正確に、有るべき混沌を具現化していたと言っても過言でない程の渦に飲まれていた。人間同士の殺し合いを、力同士の衝突を、圧倒・逆転の転換で彩っていた戦場を――その戦場が――光撃は一変させた。
戦争さえも破壊するボルトの攻撃力は見事と言う外ないが、光撃に囲まれながらも白を求めて戦い続ける二人も見事と言える。
(あの二人にここでの戦争はまるで関係ない! 戦争を口実に私怨に駆られたケンカをしているに過ぎない!
やめさせな――!)
色世トキの姿を借りたフィングは、突如として襲いかかって来た頭痛の大波に他人の顔を歪ませた。
初夏の朝日があるとはいえ、まだ汗が自然と浮いてくる時間でもない。死臭が混じってはいるものの潮風もある。それでも額を大粒の体液が濡らしているのは、SR解放に伴う痛みが尋常でないからである。鼻の頭が熱くなり、耳の裏に何かが響く。押し寄せる痛みの波が脳にまで異常な熱を発生させ、フィングの身体に変化を現した。
(トキの低速世界なら、俺でもボルトの光撃を回避することが出来る!)
両手に拾ったサブマシンガンを強く握りしめて走る。
顔面を切り飛ばそうとする光撃を屈み、足元の死体と発生する光を飛び込んで躱す。前転して直ぐに次の光撃から、背中への袈裟切りを傾倒全速疾走で逃げ切り、サブマシンガンの射程圏内に二人を捉える。
――ところで、どっちが本物のトキだ?
全く同じ攻撃を繰り出しては互いに弾き合い、避け合う。武器まで同じだ。二振りの同剣が衝突によって折れようと、次の瞬間には折れたはずの黄金剣が復活している。
SRでの変身時間に制限があるフィングにとって、この状況では逡巡さえ惜しまれ、低速世界の展開能力を失うことは即座に死因ともなり得る。
(……トキなら、銃弾くらい避けられる)
決断は二人を目掛けての発砲、厳密には乱射である。
足元から側頭部まで弾丸が散らばるよう、走りながらUZIを持った腕を安定させずに引き金を絞り続けた。
もし、この戦場が正常だったらフィングの撒き散らす銃声は特筆すべき騒音とはならなかっただろう。だが、阿鼻叫喚さえ光刀無形の刻印に消えた現戦場でサブマシンガンの銃声は非常に目立った。撤退した協会の防衛部隊が引き返して双眼鏡で慌てて覗くほどに。
『!?』
全く同じ表情で介入が発生したことに気付くトキとトキ。
銃撃を差し込んでも真贋の区別がつかないことにフィングは舌打ちし、右手にナイフ、左手にジェリコを握って近接戦闘に入ろうとした。が、そんなフィングの近接介入が始まるよりも早く、二人は衝突を再開。フィングのボルテージを煽った。マシンガンの弾幕も、その後の攻撃の有無もなんのその。本当に二人は互いしか見つめ合わずに、盲目に殺し合いを続けていた。
(クッ……トキはここまで苛烈に戦いを求める子供だったのか!?)
ハンドガンとナイフを装備しているとはいえ、低速世界を高速に動き回る二人のトキに近付けないフィングは、光撃の隙間を縫って二人の隙を探った。
二人が星黄の刃を寝せて峰打ちを放つその時、フィングは二人の中間地点目掛け銃口を向けつつ足を上げる。
甲高い音が響く。
刀身を寝かせて衝突した二本の剣。
その交差点にフィングの銃弾は届いた。
(トキの、最近会得したらしい技さえ使えれば、トキが正常かどうか調べられる!)
フィングが最も懸念しているのは、二人の戦いが自我に因るものではないという事態。何者かが遠方から二人の闘争心を煽ることによって、二人を戦力的に分散、或いは固定し、一部の戦局をプロデュースしているという、一種の策。
(心への扇動は気付き難いが、俺なら判断は容易だ!)
その為にはトキの力が要る。
協会長から得た情報では、今のトキは他人の時間を読み取る力があり、それはマインドコントロールなども見破れる可能性を秘めているらしい。
この現状を解く鍵になるかもしれないその力を、フィングは何としてでも手に入れたかった。だが、その為にはコピープレイヤと戦っているトキ本人に直接触れる必要があった。
「援護するぞトキ!」
ただ、
「!……え!?」
進行形で光を避けながら戦っているトキの頭の中は、フィングが思っていたよりも冷静に欠いていた。
自分の姿を模したコピープレイヤと戦い、その最中に援護の漢字二文字に反応して目を向けた先には、またしても自分の姿をした別の誰かが居たのだ。
「?!」
「!!」
「!?」
徒手と剣と拳銃が交る。
トキ(本人)が変則体勢から繰り出す双剣撃がトキ(CP)の双剣と盛大に火花を散らし、同時に放った後ろ蹴りはトキ(フィング)の銃口を反らす。
二組の双剣は弾け合い、トキ(フィング)の銃口はトキ(CP)へ。
そんな状況にトキ(CP)の二刀流がトキ(フィング)の銃とぶつかって口を上げてしまう。
入れ替わり立ち代わり混乱は増す。
どれがトキ(本物)だろう。
収まらない混乱した戦況はトキ(フィング)が照準には迷う助けになった。
銃口がトキ(CP)に向くよう叩き過ぎたトキ(本人)が本物のトキか、それとも銃口を――偶然かもしれないが――胴体に向くよう叩き上げたトキ(実はCP)が本物か。
とりあえず割って入るトキ(フィング)。
新たに介入されたことに戸惑いを覚えるトキ(本人)、二人以上に混乱し、二振りの剣で両方に攻撃をかけ始めるトキ(CP)がそれぞれ絡み合い、見守る防衛隊員らに理解しがたい場面を公開した。
『ちょ、ねぇ、司令部!
南西エリアがヤバいかも! トキが3人居るんだけど!』
耐えきれずに報告する誰か。
どう返答すればいいかも分からず、司令部はおろかジャンヌでさえ返答に詰まった。たまらず呼びかけてきたアリス・アンダーグラウンドの方こそ、どうしてこの戦場に居るものかと、トキが3人居ることよりも気になって仕方がない。
「……アリス・アンダーグラウンド、あなたは直ちに四凶軍艦隊の様子を探って下さい!」
『って、聞いてない!?
あのさ、私は協会所属なんかじゃ……!』
「だからこそです! 貴女にしか出来ないことをお願いしたいのです、アリス・アンダーグラウンド!」
ボルトの超広範囲殲滅魔法:光刀無形。
3人のトキ。
無策とも思えるキュウキの采配。
だが、混極まった戦場に於いて尚、策の気配を新たに匂わせる四凶軍。
「四凶軍艦隊の中にテレポーターがいるはずです。可能な限り殺害して来て下さい!」
『な……!
私に人を殺せって言うんですか!?』
「殺害がベスト――ですが、貴女が望まないのなら殺害未遂でもいいので“牽制”でも構いません。言い方を変えれば、テレポーターとしての役割に集中できないようにプレッシャーを仕掛けて下さい。
それで大きな問題点がひとつ解消できます」
『殺さなくてもいいんなら……』
誰もが走る。
光から逃げる者も、この混乱に乗じて前に進もうとする者も、好敵手を見つけて衝突に臨む者も、誰もが何らかを懸けて足を止めずに走った。
そんな中で光撃を受けない数人の異例――その内に含まれるアリス――がこの戦場の中に存在し、しかし、ジャンヌによって知覚された今となっては敵か味方の一括りでしかない。
「色世境、あなたも居るのでしょう?
あなたの息子がいま、おそろしく強い敵と戦っています。
親として子供を助けるべきではないでしょうか? あなたが多くの人々から施しや助けを受けたように」
『なぜバレた……!
アリス、やっぱり来るべきじゃなかったんだ!』
鏡の中の世界を自由に行き来できるSR、色世境。その力に由来する名を鏡幻燦画と言う。もっとも、キョウ自身が根っからのチキンであるため宝の持ち腐れではある。
持ち腐れと分かってはいるものの、アリスとキョウの力と関係を把握するジャンヌにとってこの二人は貴重な戦力であった。ボルトの光刀無形が支配する戦場で自由が利く数少ない戦力。しかも、堂々たる暗殺に向いたペアである。
(本当はトキの偽物を片付けてほしかったけど)
ジャンヌの本音を殺したのはトウテツであった。
キメラ化したトウテツが建造物ごと丸飲みし、完璧と言って差し支えないレベルに均していった場所で、南西エリア平坦地帯のど真ん中で3人のトキは戦っているのだ。ちょうどアリス、キョウが能力の関係上近付くことの出来ない戦場である。
「あなた達に依頼したことは、キュウキ討伐に直接繋がることよ」
『……キュウキ?』
『どう繋がるんですか?』
曇り染まり始める空の下。
ジャンヌは痛みに悲鳴を上げる身体に鞭打って直立姿勢をとり、双肩の力を程よく抜いて深呼吸。
ボルトの光撃はまだ日陰に届いていない。時間の問題だが、微かな猶予は間違いなくある。幸いにもまだ日は上ったばかりで、真上に光源が無いだけ都合はいい。方角によって影はまだ長い。南西エリアの平坦地や北部エリアの演習エリアなどを除いて、多くの場所にはまだ影は残っている。
「四凶軍の頭脳を潰します。
そうすれば残るは雑兵に有象無象だけです。こんな、誰も望まないであろう戦争を早く終わらせるためにも、ご協力を願えないでしょうか?」
『その前に、トキを止めに行ってもいい?
それやったら協力するからさ』
『……帰ってもいいかな?』
戦争の決着は、キュウキの討伐にこそ掛かっているというのがジャンヌの考えだった。
キュウキに到るまでの壁が厚いのも当然。しかし、無数の兵士よりもキュウキが繰り出す策の方が遥かに厄介であることも事実。個人の生死レベルではなく、戦局の優劣を左右する手腕を持つ彼女は間違いなく油断できない敵であった。下手をすれば一撃で優劣を覆される可能性もあり得る。
『キョウ! トキの為だよ!?
自分の子供にカッコいい所を見せてあげようよ!』
『でも、戦う事は……!』
「色世境、では貴方に特別報酬を約束しましょう。
テレポーター一人の排除・無力化、或いは牽制で250万。単位はあなたが決めて下さい。
それに加えて色世家の監視レベルを最低限にまで引き下げ、緊急事態発生時に於ける優先度をワンランク格上げします。
“ついで”に、あなたが抱える奨学金やローン、借金の類を全て協会で負担し、色世トキの学費を全額引き受けましょう。どうですか?」
『いやだ!
戦争は嫌いだ! 無理!
死ぬ! 死にたくない!』
『大丈夫よキョウ、死なないわ!
私が一緒にいるんだし、それにトキを解放出来れば死にかけてもすぐ治してもらえるじゃん!』
とりあえず、グダグダと泣きごとを大人げなく大放出した色世境が――大金目当てに輝いているアリスに――説得されたことを悟る。
後は彼が実際にどれだけの活躍を果たすかによってキュウキ討伐作戦の成功率が変わる。僅かでも上がればよし、現状から難易度を簡単に上げられはしないだろう。成功率が下がらなければ何でもいい。強いて言うならキョウとアリスは最適要因――では、あるのだがトキを助けてからというのが気になる。
『こちらセントラルプール!
四凶軍が前進を再開! 艦隊ごと突っ込んできます!』
ジャンヌの剣が光を集め始める。
舌打ちのひとつでも零したいのが本音だが、行動を起こさなければ変わらない現状で一秒たりとも無駄にしたくない故、あえて毒を堪えて右手に解放した力の半分以上を集中させる。
「セントラル、南西海岸の後退状況を教えて下さい」
『了解、南部エリアの後退は約80%が完了。西部もほぼ同じです。ただ、中間地点の南西部で敵SRと交戦中の色世トキを後退支援するか判断に迷っている部隊がいくつかあります』
「今すぐ後退するように伝達!
ミギス司令との連絡は?」
『伝達了解』
『ミギス・ギガント現司令との連絡は未だ回復しておりません!』
「通信が回復したら対艦隊戦メンバーを至急追加するように。
各海岸に四凶軍は確実に何らかの策を持って突撃しています。あらゆる事態に対応できるようにこちらは柔軟性で迎撃します。幸いにもボルトの光撃で僅かな時間が確保できていますので、その間に準備を急がせて下さい!
それからレッ……! レーザー照射砲の機能を緊急停止。ボルトの光刀無形を助長することだけは避けて下さい。必ずです!」
『了解!』
『緊急停止、了解!』
必要最低限の指示を出した後にジャンヌは戦線へと踵を返す。
3人のトキと言う状況がどうしても気になる。1人が本物だと仮定して残り2人の内、確実に1人は四凶軍のSR。3人目がどちらの所属か、或いはどちらにも所属しないSRなのかでも戦いへの介入方法や止め方は変わってくる。
(早く撤退しないと、人数で劣る私たちの被害が拡大する速度は四凶軍の比ではない!)
ボルトの光撃が影の中に届かないうちに、影のある場所まで移動しなければ貴重な戦力を失う事になる。それだけは何としても避けたい。
右手に構えた剣を頭上に構える。
刀身に纏わせた光が、ボルトの光刀無形を、目で見難い光の刃を陽光の中に形成させずに飲み込んでゆく。
トゥーハンドソードを敵艦隊目掛けて横薙ぎに。そこへ収集した光を含め、SRとしての力を一気に解放する。
拡張斬撃。
ジャンヌが持つ広範囲斬撃技が、射線上に三人トキを巻き込んで飛んだ。
「色世時、避けて下さい!」
と、拡張斬撃を放ちながらジャンヌは警告する。
インカムで最初に反応するのが本物のトキだろうという目論みだったが、
『!?』
奇跡的レベルで三人は同時に反応し、同じタイミングでジャンヌに顔を向け、寸分違わぬ速さで拡張し始めた斬撃を回避する。
違う意味で色々と粉砕。
どうして三人一緒に反応したのか、ジャンヌは理解が追いつかなかった。誰かが気を引いたわけでもないし、遠巻きの観察ながらも三人が必ずしもインカムを付けていないということが判明した。片耳に装着した二人と、未装備の一人。最低一人は引っ掛かって欲しい呼びかけではあった。そもそも、三人が三人とも色世時本人であることを自覚しているというのはどういうことか? 今の反応はそういう次元の早さだった。
しかし、問題はそんな三人が全く同じ方法で拡張斬撃を斬りぬけ、更に戦場を一瞬にして変えてしまったことにある。
『三人がポイントを変えました!』
「何処へ!?」
ジャンヌは呼びかける。
視界の中から一瞬にして消えた三人が何処に消えたのか、銃弾さえ見切る目を持ちながらその兆候が全く分からず見当もつかなかった。予備動作もなしに三人が完全に消えたところを見ると、トキが持つタイムリーダーが同時に発動したのだろう。
しかし、オペレーターから告げられた真実は、トキがこれまでにない距離を低速移動していた。
トキだけのものではないという可能性の浮上。それはこの戦場での常識でもあるはずだが、一瞬でも忘れていたことにジャンヌは気付く。
「セントラルプール、直ちに対魔結界を最大出力で発動!」
『了解!』
『現在、色世時は“商店街”で戦闘継続中!』
海岸に払っていた注意を、振り返って建物群へと向ける。言われてみれば、喧騒の中に交って聞きなれた金属同士の衝突音が聞こえてくる。剣戟と銃撃の交差は聞き取りづらいが間違いなく反響しこだましている。
「聞こえますかトキ!」
無返答。
その理由は十分に理解できる。
『監視カメラでトキを発見!』
「映像を私の携帯電話に送ってください」
リアルタイム通信機能を追加した改造i■honを片手に、ジャンヌは戦線へ振り返って遠距離斬撃を連続で繰り出す。
片手に携帯、片手に聖剣、スーツの上に申し訳程度の革製防具。
映像の中のトキ三人は市街地近接戦闘を展開していた。
ジャンヌお気に入りのベーカリーの前。まだ日陰が多く支配する、石造りの建物と遊歩道が並ぶ裏路地風味の洋食通り。
まず、トキ(フィング)がトキ(CP)と戦うトキ(本物)に触れようと拳銃を右手に、もう片方の手で接触を試みようとしていた。が、トキ(CP)と戦うトキ(本人)は新たに現れたトキ(フィング)の、自分の顔ではあるがその必死な形相に味方というイメージを抱けずに抵抗していた。
「くっ!」
「……!」
「ハッ、ハッ!」
トキ(本物)を早く後退させたいがために、闘争心を煽られていないかチェックしたいため直に触れたいトキ(フィング)。
そんな彼の意思を無視して二人は戦い続ける。
誰に煽られたわけでもない、眼前の敵を屈服させたいがためにと意気込んで。
「おいトキ!」
呼びかけてくるトキに、トキは応える。
触れようと伸びる手を刃で牽制しつつ、もう一人の自分が繰り出す剣戟を防ぐ。
武器を変える。
トキ(CP)は双剣のうち一振りを拳銃に変え、トキ(フィング)は両手に双剣を握り、本物のトキは二振りの剣を体内に時間分解して吸収し、素手でコピープレイヤに挑みつつ光撃ともう一人のトキ(フィング)を回避する。
(これは……気のせいじゃない!)
(――!?)
(これは、以前のトキとは大違いだ!)
トキ(Copy Playah)の袈裟斬り、鋭利な刃を右手のクロノセプターで逆に断絶破壊し、左手で拳銃を掴んでソレ全体から時間を奪う。
強度を奪われたまま発砲し、その反動に自己崩壊するベレッタ。
二人の間に割り込むトキ(フィング)の双剣だが、二人の攻防に弾き出され、光撃によって連撃仲介の機会をなかなか得られない。
「変わってる」
小声でつぶやく。
トキ(本物)は気付いた。
それまで全く同じ、鏡映しのような攻撃ばかりを繰り出していたトキ(CP)が、三人目の介入によって全く別種の攻撃を繰り出すようになっていた。介入前までは武装やタイミングまで殆ど同じだった行動が今では動きからタイミング、攻撃の種類どころか武器や表情まで異なる。
確信があった。
敵は自分のコピープレイヤーではない。
(俺の姿をしている“だけ”の他人だ!)
つまり仮装だ。
両掌で一人のコピープレイヤーを武装解除したトキ(本物)が、もう一人の自分へと奪取時間をぶつける。
フィングの望む後退案が、反してトキを二対一の現状へ変えてゆく。
対決は、トキが望み臨むもの。
それを助長するのは間違いなく、対抗意識をオーラとして纏うコピープレイヤ。
今あるズレを取り返させないために攻勢の気を締める。
装備を失ったコピープレイヤが今の姿を捨て“芹真の姿”を装備。
右手でのクロノセプトから逃れるために飛び退き、空振りで体勢を崩したトキへすぐさま跳びかかる。
飛迫した芹真(CP)は空中で身を回転させ、鋭い銀爪で斬りかかってきた。
右腕でそれを受ける。
銀色の爪が、右手の奪取領域に触れて甲高い音を発する。
クロノセプターで削りきれない。
思い出してみればコピープレイヤは他人の能力をコピーできる。だから、タイムリーダーを使われて簡単に倒せないで今こうしているのだ。芹真というSRをコピーし、そのSR最大の武器である銀爪もオリジナルと何ら変わらないから削りきれないのだろうと気付く。
対人対魔・対装甲用の爪に右手が弾かれる。
頭上を飛び越えたコピープレイヤに背後を取られまいと、真下を屈んで潜り抜ける。
入れ替わる二人の立ち位置。間に割って入ろうとしたトキ(フィング)がまたしてもボルトの光撃に阻まれていた。
右手、と見せかけて左手で芹真の手首を取る。
直後にコピープレイヤが変装し、藍に変わって鬼の力を手にした。
利き手でもない左手の握力で藍の腕力に敵うはずはないが、そんな不利をクロノセプターでイーブンにまで持っていくことは出来る。
しかし、実行速度は残念ながら藍の方が速い。
低速世界がちょうど切れたこともあって、時間を奪うよりも先に左手を操られて投げ飛ばされる。
低速世界を展開。
背中からベーカリーの石壁に激突し、破片と共に地面に着地する。
投げ飛ばされて直ぐに追いかけてくるトキ(フィング)を無視して横を擦りぬけ、真っ直ぐ投げ技を放った藍に突撃した。
腹部にダッシュパンチを一撃。
その直後に藍がまたしても同じ姿の強敵へと変わる。
後ろによろけながらも、初弾を食らったトキ(CP)が対抗して両手にサブマシンガンを創造し、至近距離で照準皆無の乱れ射ちを繰り出す。
石造りの中に銃声が木霊する。
全弾肉を捉えず硬質を抉り、散として乱舞する塵粉も時間に捕まっては、輪郭の有を失い一時の無へ止まる。
トキ(CP)の銃撃を、トキ(本人)はクロノセプターとコンパクト・クローズドクロノで直撃弾だけを阻止。そこへトキ(フィング)が低速世界の展開し、壁面を利用した三角飛びで光撃を回避しつつ、双剣でUZIサブマシンガン二挺を左、右と順に斬り落とす。
コピープレイヤが藍に変わる。
トキ(フィング)の右手にもつ刃の返しが鬼の上げた左腕の筋肉によって止められる。金属疲労回復のために新造したマチェットククリの強度にも問題はあったが、問題はその行為で藍(CP)の破壊標的として認められたことが深刻だった。光撃を避けることでかなり神経を使っている現状で、行わなければいけない項目が増えるというのは余裕欠落の増大につながる。
多大な危機の最中、眼前に鬼の金棒が迫った。
間一髪、そこへトキ(本人)のクロノセプター。金棒から奪った時間で背中の痛みを中和する。
リーチを半分ほどにまで削られた理壊双焔破界がトキ(フィング)の前髪を風圧で揺らす。直撃していたら頭部を打ち砕かれていただろう。或いは叩かれた瞬間に砕かれながら焼かれていたかもしれない。
(チッ、こうなったら!)
余裕を見失う直前のフィングは一か八か、トキの姿を一瞬だけ解除した。
「トキ、受け取れ!」
低速世界の展開と、それは同時だった。
(え……フィングさん、だったの!?)
一瞬だけ姿を晒すもう一人のコピープレイヤーはフィング・ブリジスタス。決して知らない人物ではなかった。芹真事務所と協定を結んだクリーニング店の幽霊店員にして、最近は全くと言っていいほど見かけないし、話しかけることもないハンズ・ブリジスタスの兄である。こんな顔だったか、という疑問をとりあえず今は押し殺しておく。
フィングの一声と共に空中に放たれる星黄畏天の二振り。
コピープレイヤが藍に化けている今なら、低速世界に入り込んでくる心配はないだろう。
好機。
同じ容姿、同じ行動、同じ能力を持ったコピープレイヤとの進展しない戦いが、今では恐ろしいほどに変移している。
「……っ!」
しかし、あくまで低速。
完全に静止した世界を展開しなかったトキは、言ってしまえば高速で動いているだけであって時間の流れから外れているワケではない。
それに気付いた藍(CP)は、攻撃時に生じる一瞬の隙を窺うため、全神経をトキ本人だけに向けて尖らせた。
もし、もう一人のトキだった男が双剣を本物に投げ渡さなかったら、この好機は有り得なかっただろう。双剣を投げ渡したからこそ生まれた隙と言っても過言ではない。
トキの動きが読める。
再びトキの姿を装う三人目。そいつが投げた二つの得物を、トキは真っすぐに目掛けて動いている。
鬼に変身したことで、筋力に任せた高速戦闘を臨めないだろうと諦めかけていたが、しかし現実は鬼の動体視力もなかなかレベルが高いことが分かった。トキが低速世界で切り返しや急制動したものなら一瞬だろうと生の目で捉えることが出来る。いまなら、ライフル弾だろうと問題はなく避けられる。
「間に合え、トキ!」
叫んだフィングが光撃に見舞われて弾き飛ばされる。
少し後悔していた。
トキの姿を一瞬でも解いたことで、鋭利且つ高熱の光撃を腹に受けてしまった。幸いだったのは、トキの姿を再装填することが僅かに早く、タイムリーダーで致命傷だけは辛くも避けられたことと、吹き飛ばされたおかげで室内の日陰に逃げ込めたことだ。
「…… サ セン 」
本物を殺すために、本物と同じ姿を装う――コピープレイヤは思った。色世トキが持つ時間展開、時間創造能力は非常に便利だし、使い方ひとつで必殺の威力を発揮する。それらを上手く使いこなすことが出来れば、オリジナルを超えることだって不可能じゃない。今日こそは、今度の相手こそ、名前と存在を、殺してからでも記憶ごと奪って完全な誰かを手に入れるんだ。その為にはトキを殺し、魔女を殺し、周りの邪魔者を全て片付ければいいんだ。
「あ――!」
フィングを信じて空中に放たれた剣を掴み、接敵の歩を二歩刻む。
その直後の、己の失態にトキは驚いた。
コピープレイヤが姿を一瞬で姿を変えた所を目撃し、視線を剣に戻し、敵が低速世界を展開する時。それに捕まりまいと相殺のタイムリーダーを発動……させたはいいが、その瞬間に突如としてバランスを崩して前のめりになった。
そう、トキは日常生活に於いて、自分がどうして毎日のように“何もない場所で躓く”のか、その原因を未だに究明できずに今日まで生きて来た(何度かソレが原因で死んではいるが)。
問題は、今日もその謎が絶好調に働いているということだ。
「お!」
「!?」
「あ!」
空中で掴んだ黒い刃の畏天が、コケたトキの右手に振り回されてトキ(CP)の顔面――左眉から左頬にかけて――に縦の斬り疵を与える。
掴み損ねて縦に回転を始めた黄金の星黄が――思わぬトキの前傾加速に虚を突かれ――完全に止まったコピープレイヤ・トキの頭上を通り越し、右アキレス腱へと綺麗に着地した。それはもうストン、と。
「さ……!」
その一瞬だけ、タイムリーダーの発動なしで世界が凍りついた気がした。
手に伝う肉を切り裂く感触、ずぶりと抜けた後ぶつかる熱持つ何か。
呆気なさが、トキの熱を冷ました。
自分が何をしていたのか。
今どんな状況にあるか理解できているか。
“ゲーム感覚”で行動して招いた結果は何か。
殺人である。
それを自らの手で、足で、身体で、確たる意思で実行したのだ。
(ここだ!)
斬撃と同時に動揺を露わに停止したトキの背後に、トキ(フィング)の手が伸びる。
光撃を避けて到達したトキの背中に、元の姿に戻ったフィングがトキの技を“コピー”する。人間同士の時間経過によって蓄積された情報を交換できるというクロスセプター。それをコピーした所で再びトキの姿を借りてトキ本人の状態を確かめる。
(――――いた! やっぱり二人の戦いを扇動しているSRが、トキの戦意を操る敵が!)
「だ、大丈夫か……?」
躓いたトキ。
その拍子に双剣で顔を斬られ、そのまま顔面の高さから身体の高さに高度を落とした黒い刃に腹部を貫かれた――致命傷によって変身を強制解除された――コピープレイヤ。
戦いを止める為にトキに触れているフィング。
三者の頭上で複数の大きな爆発が起きる。
だが、三人ともそちらに目を向けるどころか、意すら介さず眼前の生命だけを見つめていた。
(クロノセプター、いますぐやれば間に合う!)
自分で明確な矛先を定めた敵に、事故的にダメージを与えてしまったことをトキは恐怖をした。
コピープレイヤの身体を貫いた双剣を時間分解する。
一種の錯乱でもあった。敵であるはずなのに死なれては困ると、その一念だけでクロノセプターの準備を始める。今すぐ時間を与えれば、コピープレイヤの被った傷も治せると、膝を追って頭を垂らし傷口を抑えてうずくまるコピープレイヤの両肩に手を置くトキ。
全く抵抗する素振りさえ見せないコピープレイヤは都合が良かった。損傷した臓器や、流れ出た血液を分解した双剣から、コピープレイヤの体内で創造・再構築する。
(……やっぱり、俺には無理だ!)
ここに来て確信する。
色世時という弱者に人は殺せない。
殺さないことが世の常と言う世界で育ったのだ。
あまりにも大き過ぎる抵抗に、僅かな経験と知識だけではその壁を超えることは出来ない。
偶然の殺人未遂さえ塗り替える力を持っている今だからこそ、過去の己と比較できぬ枷をそこに科しているのだろう。
破壊よりも創造のが気楽でいいと、恨まれるのは怖いし、眼前で誰かが死んで行くのは見るに堪えない。見たくなんかない。
(トキの強気が一瞬で弱気に反転した?
混乱しているのか?)
例え、この場では的でしかない命も、平時ならば尊ぶべき丁重に扱うべき価値を持つ。
この異常が終わってしまえば、終わることがあるのなら、全ての命は略奪の意義を失う。
「へい、トキ――!」
「うおらぁぁぁッ!」
お前は攻撃されている、とフィングがトキに伝えようとした時。
それは交通事故のように起こった。
いきなり横から現れた鬼の、陸橙谷カンナがコピープレイヤを蹴飛ばし、フィングの首根っこを掴んで協会中央部へと投げ飛ばし、気力を落としているトキの肩を力強く掴んだ。
「ギャアー!」
フェードアウトしてゆくフィングの悲鳴にトキは目を動かした。
視線をコピープレイヤのうずくまっていた場所に戻せば、いまは誰もいないし何もナシ。多分蹴り飛ばされた方角を見れば、何か米粒のようなものが空を舞っているのが見え、それは現在進行形で遠ざかり、最終的には海面へと消えた。
「おはよう! 下がるぞ!」
「!?」
いきなり現れて、いきなりコピープレイヤを海の彼方へと蹴り飛ばした彼女。
哭き鬼三姉妹の長女、藍の姉にして、妹二人とは似ても似つかない性格を持つ陸橙谷カンナ。
理解が追いつかないトキの頭では彼女の言葉すら許容しがたく、しかし、抵抗は出来なかった。なぜなら、掴まれている肩が今でも握り砕かれそうで、正直に言うと現在進行形で血が滲み始めているほど強くグリップされているものだから、涙が吹き飛ぶほどに痛いのなんの。
「あんt――何なんすか!
いま居た人を蹴り飛ばすなんて――!」
「そんな事より聞いてくれトキよ!」
肩を解放されると同時、強く握られた拳を見せられてトキはカンナの後ろを走ることを強要された。
どうしてか、タイムリーダーを使ってもこの人を倒せる気がしない。
「お前今、敵のことを思い遣っていただろ?」
「悪いんですか!」
「もう阿呆かと、馬鹿かと!
海を見てみろ、海!
向こう一面が命だらけだろ!
その全部を救う気もねぇクセに、戦って気になった奴だけ救おうなんざ不公平だろう、ボケが!」
ボルトの光刀無形が侵光のレベルを上げる。
「だから、やるなら全部やる気で……っ!
植木鉢ぃ!」
「うぇ!? 植木……って、ってー!?」
商店街を走る最中、カンナは手近に落ちていた植木鉢を拾って、その名を叫びながらトキに投げ付けた。
屈んで躱す。
何事かとタイムリーダーで頭上を見上げて青ざめた。
光刀無形が、警鐘を促さずに発生していたのである。カンナの投げた植木鉢が、数瞬前までトキの頭部があった空間で切断されている。二人が走っていた場所は完全に陽光を避けた日陰の中であったのだ。それまでは日陰の中に避難することでどうにか光撃の刃をやり過ごせていたが、侵光レベルがランクアップした現状では日陰さえ安全圏とは言えなくなっていた。陽光の中と違って、日陰の中では光刀無形の発現がハッキリと目視できるものの、その発生速度は銃撃のそれと大差がない。
「ボルトの魔法がどんどん侵食していってんだよ!」
「この光は、やっぱりボルトのものなのか!」
肯定を示すカンナと共に急ぐ。
ひたすら真っ直ぐ走る彼女の背中を追いながらトキは聞いた。
「止めに行くぞ、トキ!」
「あ――エッ!?」
何処となく無謀ではないかと聞きたくなるようなことを平然と言った女性が、鬼であることを思い出してトキは反論を飲み込んだ。
しかし、彼女が鬼でなくてもトキは言葉を失っていただろうことを自覚する。冷静を取り戻して視線を配ると、不落という印象を与えていた協会本部中央にそびえ立っていた司令塔が倒壊していた。
大勢の味方は無事なのだろうか。そもそもあそこには作戦司令室的なものがなかっただろうか。
「急がないと全部殺されっぞ!
ほれ、そこ見ろ! 逃げ遅れの結果だ!」
首が赤い死体、胴体が上下で別離した死人、頭部だけ何処かに消失した死骸。
それら、防衛チームの死因は全てボルトの光撃である。
視界の端で新たに光撃の餌食となる防衛隊員を見る。
(アレも死体、これも死体……どこを見ても死体だらけか!)
「商店街のどっかに協会内へ入る入口がどうのこうの聞いたけど……!」
走りながら、カンナは言った。
「何ぉぉ処ぉぉぉぉだあぁぁぁぁぁぁああぁッ!!」
遠まわしに迷子だと。
光刀無形は避けるくせに、直線状の建造物は可能な限り破壊して突き進む。そんな掘削マシーンの如く走るカンナにトキは憐みを覚えた。同時、二人を監視カメラで追っていたセントラルプールのオペーレーターらは絶句していた。“この非常時に本部の設備を無駄に破壊するのはやめてくれ”と、誰もが絞り出せなかった言葉だが、目的の出入り口の真横を通過した二人を目撃したジャンヌがさすがに叱咤した。
インカムで怒られたことを伝えたトキの視界に、
(アレも死体――――って、動いた!?)
目を凝らして見ると額から流血している誰かが、カンナに投げ飛ばされた知り合いであったことに気付く。死体が動いたかと心拍を跳ねあがらせてしまったが、その正体が投げ飛ばされて協会シェルターの外壁に激突し、数秒ほど気を失った後、自力で立ち上がることになんとか成功したフィングであることに安堵した。
「フィングさん大丈夫ですか!」
「なんとか、な」
激しい痛みが尾を引く頭を押さえながら、鬼とトキに従って再生のSRも走り出す。
屋外では否応なしに光の相手を努めなくてはいけなくなる。その前に屋内へ逃げ込めれば……
『全員、結束しろ!』
光が影の中でも殺戮を初めて間もない時だった。
誰もが生死すら確かめられないだろうと諦めていた、ミギス・ギガントの声が戦場の協会に与する全ての人間に届いた。
『ジャンヌ、四凶は次の手を打って来たぞ!
こちらでの対抗策は、リデア……君だ! 風で、上を……!』
通信でなく生命として途切れかけている男の声に、光刀無形に怯え戸惑うばかりだった防衛隊員たちの目の色が変わる。トキや藍はミギスの言葉に視線を上空へと向け、そこに僅か違和感を覚わす光以外の輝く何かを見つけた。
(なんだ、あのキラキラは?)
(粉みたいなモノが降ってくる。あそこでへりか何か爆発したようね)
『よく聞いてくれ、ジャンヌ司令。
敵の次策はあの粉だ。大量に、輸送機に搭載して、俺たちの頭上でばら撒きやがった。
この戦場全域に、全ての死者にあの粉が届くように、だ』
「まさか!
まだ――!」
トキ達の背中を見送り、逃げ遅れた防衛隊員を護衛していたジャンヌはソレの正体に思い当たった。
ミギス・ギガントが見抜いた四凶軍の策とは――これまでの無謀とも言える、数に任せた突撃も全てはこの為の布石と捉えるべきだった――完全に想定外だった。死体を大量生産することが目的だった作戦は、死体の数は多ければ多いほど四凶軍の有利に働く。
現状で、ボルトが暴走にも似た状態にある以上、四凶軍のそれを防ぐ明確な防御力は協会に残っていない。
『四凶は、隠し持っていたみたいだ。
全部焼却したつもりだった“魔薬:ゾンビパウダー”を!』
しかし、それらが降り注ぐ戦場で、視線を走り去るトキの背中に向けると、どうしてかジャンヌの中から絶望のビジョンは消え去った。
その前を走るカンナを見れば、不安と同時に大きな疑問が浮き上がった。
――あれ?
――彼女命令聞いてないの?
――どうしてこっちのエリアにいるの?
逆に、こちらの方面に来るよう指示した筈の哭き鬼姉妹の次女が何処にも見当たらない。
光撃が商店街を大きく焼き切る。
瓦礫が吹き飛ぶほどの圧力を有した光が巨大な爪痕を刻んだ。
そんな時だった。
『ジャンヌ司令、少しお話したいことがあります』
陸橙谷の姉妹について疑問を抱いていたジャンヌに、長兄アサが通信を割り込んできた。
晴天を仰ぎながら痛みにもがく男がいた。倒壊した建物の残骸に下半身を圧迫されて身動きができず、全身に負った傷を抑えることすらままならない。
ジャンヌに代わり、指揮を執ろうなどと言うおこがましい行動の結果がこれなら、不満はないと男:ミギス・ギガントは必死に冷静を逃さんと努めた。
「ご機嫌如何か、ミギス・ギガント」
快晴の空に一人の男が現れる。
頭上を見上げたまま、光の魔女に目を向けたまま語りかけてくる男をミギスは知っていた。
「結晶……いや、コルスレイ。
この様を見て、平気だろうと、君はそう思うか?」
「思わないからこそ提案しようじゃないか」
直後、ミギスの下半身から自由を奪っていた大きな瓦礫が破砕した。そうしたのは魔法使い――コルスレイの使役する“侵食結晶”である。
「先生の光撃を抑えてみせよう。
代わりにだ、誰のものでも構わないからSRの死体が欲しい」
「それは、エリスの……蘇生を行うつもりか?
協会が黙ってはいないぞ?」
「知らん」
破砕の震動が傷に響く。
すでに恩を受けているこの状況でコルスレイを跳ね返すことは不可能だった。
「ボルトの光撃を止められるのか?」
「止められるワケないだろう。ただ、反らすことは出来るが」
光の魔女を見上げ、最後の弟子だった男は掌に黄金の結晶を創り出した。
それはコルスレイの通りの名のひとつでもある、能力である。
(黄金侵食?)
「まず、四凶軍を潰そうじゃないか。
これだけの死人がいれば、欲望には困るまい!」
自分よりも遥かに若造りな老人を見上げ、辛うじて上体を起こす。
その瞬間に魔法使いコルスレイの結晶が戦場全体に発生した。しかも同時多発で、その内数か所ではボルトの光刀無形に匹敵する攻撃となっていた。
巨大な黄金に船底を貫かれた戦艦が数隻沈む。
「光撃は俺が集める。お前たちは四凶軍を砕け」
風が吹き抜ける。
ゾンビパウダーを死人の少ないエリアに流そうと、風使いのリデアが生んだ南風がミギスの冷静を仰ぎ助けた。
(芹真事務所も、サーカスも、クリーニング店も、誰もが望む決着……確かに、今ならいける!)
千里眼が光る。
暗殺者が四凶軍艦隊の中を走る。
戦線を押し返そうとする部隊が居る。
防御設備を復活させんとする者達が願う。
それらを共に叶えんと、ミギス・ギガントは亡き指導者の誇りに誓い、立ち上がる。
「ナイトメア非武装派のミギスは、これより敵の策を射抜く!
各隊! 温かい死者の侵攻を全力で阻止せよ!
そいつらが止まるのも時間の問題だ!」
逆転の時を見た者たちの雄叫びが、熱が、人数で圧倒しているはずの四凶軍を上回る瞬間であった。