第30話-ClearSpace/Starting 2nd-
“地獄を見ている時は、そのまま進み続けろ”
――ウィンストン・チャーチル
その言葉に対して、彼女は思う。
(私は地獄か天国にいるのか、地獄を装った天国、天国を装った地獄のどちらかにいるのでしょうか?)
今は亡き人よ、教えて欲しい。
ここは何処なのか。
天国か、それとも地獄か……
今、夢の中に落ちて行く彼女は尋ねた。
答え無き質問。
それなのに、出会ってしまった言葉に答えを求める自分。
風間 小羽という人間は、生きていていると断言していいのだろうか?
あらゆる病を内に取り込み、自分自身を死に追い詰めている現実。
逃げ出せない力の呪縛。
それでも辛うじて繋がれている命。
選択肢を持たない者は生きているのか、死んでいるのか……
いままで幾度となくその答えが浮かび、浮かんではその都度消えていった。
答えが頭から消えてしまう理由を、彼女は考えたことが無い。
理不尽なミドルキックを食らったトキは、顔を抑えて男を見上げる。
ベッドの真横に背の高い金髪の男性が立って向いていた。
面識の無い初対面の人間。
それにも関わらず、流血を誘うほど強烈な蹴りを放った男。
「やっと起きたなこの野郎!何ヶ月待ったと思ってんだ!?
どんだけ殺るの我慢したか分かってんのか?
まっ、関係無いだろうけどな!
さぁ、とにかく退院祝いだ! 飲んで喰って踊りまくんぞテ――!」
男の後頭部に平手が叩き込まれる。
初対面にも関わらず怒鳴りまくる外国人。当然、呆然とするトキ。
祝ってくれているのか、喧嘩を売っているのか判断しにくい男から視線を外すと、トキは馴染みあるメンバーに顔を向ける。
そこで初めて自分が病院にいるということを自覚した。
見上げるトキに芹真が会釈し、藍は軽く笑みを浮かべていた。その隣でハンズが鼻を鳴らす。パイロンが芹真同様に軽く会釈。ディマは無言でトキを観察し、ボルトは間髪入れず、また、容赦なく抱きついた。
「あの……誰ですか?」
飛びつくボルトを躱わそうとするが間に合わない。
組み付いたボルトの腕を解こうともがくが、逆に泥沼化。抵抗するほどボルトの拘束は強まり、それを悟ったトキはボルトを無視して質問した。
対象はこの場にいくつかある見覚えの無い顔。今日初めて出会う人々。
そんなトキの質問に答えるため――芹真やディマを押しのけ――1人の女性が元気よくトキの前に姿を現した。
「初めましてトキ君!
ボルトちゃんから聞いていないかな?
これから君の訓練相手を務めるからのが私達、第3特殊空師団:クリアスペースのアタッカー! そういうことでよろしく〜!
と、言っても私はクリアスペースのメンバーじゃないけど!」
爆発的的元気な長髪外国人。
初見の彼女に対するトキの第一印象がそれであった。爆発的無邪気さはボルトをも上回るのではないかという不安も同時に生まれた。
その流されそうな元気と共に放たれた言葉の意味を真剣に受け止めて考え、トキは部屋のそこかしこから送られる視線を逆に辿る。そうして見知らぬ顔を一つずつ見回していく。
ミドルキックを放った金髪の若い男。
目が合った瞬間にウインクする赤髪の女性。
立派な髭を蓄えた褐色の肌の男性。
金髪のポニーテールで、立って寝ている白人女性。
壁際から無表情で窺う黒髪の男性。
軽い困惑に陥ったトキを見て、ボルトはトキから離れて紹介を始める。
「トキ、この人たちが訓練相手!」
窓側から順番に指差し、トキの目がそれを追う。
一度、ボルトに目を向けてから再び5人に目を戻す。
「で〜、これが私の友達!」
次に、嬉々とした表情でボルトが指差したのは爆発的な笑みを振り撒いている長髪の女性。間髪入れずにボ指名された彼女が自ら名乗り始める。
「フィルナ・ナインで〜す!」
「色世時……です」
差し出された手を握り返し、トキは他のメンバーに顔を向けた。
「何だよ?
名乗れってか?」
目が合った瞬間に不服をこぼす金髪男。
金髪男を背後から、しかも思い切り殴りつける赤髪の女性。
その傍らで髭の男性が時計と窓の外を確認し、壁際の男はトキを観察し続ける。
ポニーテールの女性は立ったまま寝息を立て続けていた。
「えぇと、窓際からカリヴァン、カーチス、インスタイル、ホムラ、クロードだったよね?」
「うん。当ったりぃ〜!」
ボルトはナインに確認を兼ねて聞いた。
窓から外を覗いている髭の男性がカリヴァン。
壁際の男がカーチス。
立って寝ているのがインスタイル。
赤髪の女性がホムラ。
そして、金髪の男がクロード。
(5人……か)
「本当はあと3人いるんだけど、連れてこられなかったんだ」
「えっと、ジムと、シャなんとかと……ミナだっけ?」
必死に記憶検索をかけるボルトにナインが笑い、クロードが笑う。そしてカリヴァンの動きが一瞬だけ止まったのを芹真とディマは見逃さなかった。
「ジムしか当ってねぇじゃん!」
大声で笑うクロードを押さえるホムラ。
それと同時に、藍の一言がトキとボルトの意表を突いた。
「シャティとミーナよ」
「よく覚えていたわね」
ボルトが思い出せなかった名前が鬼の口から出た。
その名前を聞いて芹真も思い出し、ボルトは納得。 クリアスペースの面々は各人個別の反応を見せ、ナインは覚えていた藍を誉め、トキはそんな藍に質問した。
「藍は、知っているのか?」
「少しはね。私はあなたより少しだけ長く事務所にいるのよ?
この人たちは前にも来たことがあって、その時は8人だった」
トキの目が再び5人――金髪、赤髪、ポニーテール、顎髭、黒髪の東洋人――これから訓練相手を務めてくれる面々を捉え、僅かに思考してから頭を下げた。
これからの訓練、よろしくお願いします、と。
そんなトキの傍ら、ベッドの空いた場所に赤髪の女性が腰を据えてグローブを填めた手を差し出した。
「こっちこそ。よろしくな。
出来る限り手加減がするが、正直、普段からそんなことしないから出来るかどうか不安なんだよ。
間違って殺したらゴメンな」
「え……?」
固まるトキに笑顔が向けられる。
「おい、脅すなよホムラ」
「……なんて。
安心しろ。最初はカーチスとカリヴァンが面倒見てくれる」
背中に指摘を受けたホムラが肩をすくめて指を差す。
顎鬚の男性:カリヴァンと、壁際の男性:カーチス。
少し間を置いてから今度は金髪の男:クロードと、ポニーテールの女性:インスタイル。
それから赤髪の自分を指差し、
「インやクロード、それに私は人にモノを教えるのが苦手だからさ、お前の腕がある程度上がってからじゃなきゃ相手できないんだよ。
冗談抜きに間違って殺しかねない」
「そ……そうなんですか」
「だから、脅すなって」
軽く相槌を打つトキの目が、ブラインドの間から差し込む暗い光にひかれ、再び室内を見回して全員の服装に注目し――年中特攻服のハンズを除いて――冬服であることに気付く。
どれだけの時間が経っているのか。
思い返してみれば、ここにいる理由は何だ。
最後に覚えているものは――コントン――、一体何だ?
視線をホムラから外して芹真へと向けて聞く。
「芹真さん。
俺はどれだけ眠っていたんですか?」
「約半年だ」
トキの質問を予想していた芹真は即答で応えた。その回答に思わず月数を呟き、トキは視覚的に窓の外と内を遮る物に手を伸ばそうとした。
ブラインドの向こう――窓の外の世界はどうなっているのか。
桜色の雪が降ったことが昨日のように思え、トキは乾燥した空気や晴れ渡った夏の空を必死に連想した。
しかし、その一瞬後、ブラインドに手が届く前にトキの体がベッドから落ちる。
(何だ!?
足が、おかしい!)
下半身に起こった異変。
あまりにも突然すぎる異変。中途半端に自由の利かない体に初めて気づいたトキは、支えとなる物を必死に探した。
しかし、一瞬の出来事。 人の意識を有する行動よりも自然落下の方が早い。
右手が虚空を切り、無情にも床が迫る。トキに余裕は残されていなかった。
「やっぱり足に問題有か〜」
ベッドから落ちるトキを見たボルトの感想がそれで、そんな呑気なボルトの言葉に芹真やディマは頷き、藍とパイロンは焦った。
そんな中でナインは笑う。
「寝起きなのに凄い元気だね」
同時、床との激突に目を瞑ったトキの体に異変が起こる。
すぐには意識できない。 一瞬後の衝撃を覚悟したトキであったが、予想された衝撃が伝わらない。
数秒目をつむっていたトキだったが、衝突までの不可解な間隔と、衝撃はおろか微塵も伝わらない床の感触・接触に、トキは目を開いた。
「え?」
痛みが伝わるまでの、床に接触するまでの時間の長さ。
停止した光景。
ボルトたちの声。
時間が止まったわけではないが、時間は止まっていた。
直感で理解する。
(助けられた)
そして、改めて視認する。
ベッドから上半身だけ落ちた状態。 しかし、体は床上十数センチという所で完全にストップしている。
呆気に取られているうちにトキの体が持ち上がり、ベッドの上に戻る。
「まだ無茶しない方が良いね」
「やっぱり最初はカーチスからだな」
「鬼教官じゃついていけないだろうしね」
「ってことは、俺らまた当分ヒマ!?」
「誰が鬼だ」
顎鬚のカリヴァンに睨まれ、金と赤の男女が黙り込む。
「今のうちに言っておくけど、最初にどれだけ動けるのかテストさせてもらうわね。
それから近接戦闘とか射撃とか教えていくから〜。
さて、今日はこの辺で帰りましょう。一応トキ君は病み上がりなんだし、騒げば迷惑だし、っていうか、もう大分迷惑かけてるし」
「特にクロードがな」
トキの体に自由が戻るのと同時、退室を宣言したナインが踵を返し、その後に5人が続くボルトはナインを中心としたメンバーの見送るため共に部屋を出た。
7人が退出すると、それまで黙り込んでいた面々が一斉に口を開き出し――
「何なんですか芹真さん!
あの怖い人たちは!?」
これがパイロン。続いて、
「まるで隙が無かった」
珍しく弱気に呟くハンズ。
そして、ディマはひとり納得して頷いていた。
「話に聞くと見るのでは大違いね。
特に壁際と金髪の男。
芹真。前に会ったことがあるのなら、彼らが何のSRかわかるわよね?」
芹真は肩を竦め、藍がため息をつき芹真の代わりに説明を始める。
「確かに彼らは特殊能力者ではあるけど、SRじゃない」
「じゃあ、生身の人間か?」
「必ずしもそうとは言い切れない」
藍の答えにパイロンが疑問を浮かべる。
SRでなく、しかし人間とも言い難い。
真横で寝ていた白人からSRという力の波動らしきものや、人外の匂いは一切漂ってこなかった。
普通の人間となんら変わらない彼ら。 しかし、藍は違うと言う。是非とも疑問を晴らしたいハンズは説明を求めた。
「大きな事件で体の作りが私達の常識にある人間よりも格段に丈夫になっているの」
「肉体強化か」
「と、いうことになるらしいわね。
でも、厄介なのはそれぞれが持つ特別な力……私達が言うところのSRについて言うと、彼らはその力を持つ者のことを“コントローラー”と呼んでいる」
コントローラー。
トキとハンズは家庭用ゲーム機を連想し、ディマはテレビのチャンネル、パイロンは何故か漁船を連想した。
「さっきの赤い髪の人も?」
ハンズに続こうとトキが質問を投げる。その質問で我に返る3人。
藍は体の向きを変えて答える。
「三広ね。
名前はホムラ。金髪の男と窓の近くにいた東洋人とチームを組んでいる人よ」
「……へぇ。殺人鬼と殺し屋ねぇ」
ディマの読心術が藍の持つ情報を読み上げ、その両脇でパイロンとハンズが同じ場所に目を向けた。
藍の説明が続く。
金髪の男の名をクロード・ハーツ。
元の世界で数百人余りを殺めた殺人鬼。近接戦を得意とするが、銃撃も拳銃からロケットまで使いこなす。
壁に寄りかかっていた男はトニー・カーチス。
やり方は二流だが、任務の成功率90%の殺し屋。遠近ともにこなし、どんな時でも冷静さを欠かない男。
顎鬚のアラブ人がカリヴァン。
本名不明。銃の知識に長け、独自の銃器開発を行っている元々テロリスト、元軍人。
寝ていた金髪ポニーテールの女性の名前はインスタイル・フィーラー。
仲間内では寝起きの最悪さで有名であり、戦闘に於いては『暴脚』と呼ばれる女傑。足癖の悪い完全独学主義者である。
「興味ありますね」
「よし、ちょっと挑んでくるか!」
好奇心に突き動かされる男2人。
ディマもその後に続いたが、
「……子守に行ってくるわ」
その表情は至極嫌そうな顔をしていた。
Second Real/Virtual
-第30話-
-ClearSpace/Starting 2nd-
部屋に残された芹真と藍は揃ってトキの方に顔を向ける。
ベッドの上でトキは僅かに青ざめ、俯いて脱力していた。
「もしかしてビビッたか?」
「無理もないわ。
目覚めていきなりこれじゃあ……」
顔面を襲った蹴り。唐突な人物紹介。眠り続けていたという事実。自由の利かない体。
困惑に至るだけの要素はいくらでもある。
やり切れない思いが沸くものが多々ある状況の中、あらゆる事が唐突に、しかも連続し過ぎた。
「トキ。
ボルトが戻って来たら、まず足を治そう。
それまで何か聞きたいことがあったら聞いてくれ」
トキの顔が上がる。
しかし、その目は芹真に向いておらず、藍に向いていた。
聞きたいことは山ほどあったが、今一番に気になることは、これからの訓練相手について。 その詳細である。
「さっき、ベッドから落ちた俺を止めたのは誰?
壁のところにいた人か? それとも赤い髪の人か?」
トキの予測について、藍の首は横に振られた。
止めたのは5人ではないと前置きし、僅かの間を置いてから答える。
「ナインよ」
ボルトのような明るさを振り撒いていた長髪の女性。
トキは質問を重ねる。
「あの人たちは、本当に異世界から来た人たちなのか?」
「それは断言できる」
言い切る芹真の言葉を飲み込み、トキは自分の体を見回した。
自分の体に異常が無いことを確認し、次いで芹真と藍の姿を改めて確認するが、いつかのように性別が反転していることはなかった。
(あれ?)
「もしかして、ボルトが言っていた事って本当なのか?」
逆に芹真がトキに聞く。
トキが眠っている間に聞かされた性別が反転した時の話し。
頷くトキに芹真はフリーズし、今度は藍は自分の体を見回した。
「本当だったのか……」
肩を落す芹真に向け、トキは第3の質問を放つ。
「今は、何月ですか?」
数分前からトキの体に温感が戻っていた。
それ故に、暖房の温かさと部屋中に漂う空気の乾燥具合、窓際から漂う肌寒さを初めて実感したのだ。
窓の外から差し込む光の暗さと、室内であるにもかかわらず冷たいと感じられる空気が、トキの脳裏に冬を連想させた。決定打となる、確信へと繋がる最大の理由はやはり服装であり――
その時、藍がブラインドを上げた。
「2月10日よ」
トキは俄かに現実を疑った。
楼塔病院で起こっていることはすぐさま彼らに伝わった。
『愛院だけどさ、トキが目を覚ましたぞ!』
『本当か!?』
電話の向こうから自動車の発する騒音に負けじと叫ぶ愛院に、ハンズフリーにしたまま放置された家電をめがけ、数人が押しかけた。
その後、お見舞いという名目で10名近くがトキの病室を訪れることになる。
「つまり、いつかはあの殺人鬼の人や殺し屋とも戦わなくちゃいけないと?」
「ああ。
彼らは能力者ではあるが、人間であることに変わりない。
俺や藍みたいに狼や鬼になれるわけじゃない」
「でも、彼らの戦闘能力は私達と同じかそれ以上だから注意が必要よ」
「同じって……嘘、だろ?」
ベッドの上で両足を伸ばしながら光に包まれた膝から下を見守り、トキは聞く。
藍と芹真はトキの質問に答え、時折ボルトも話に加わった。
「嘘じゃないわ。
3、4年前だけど私や芹真も戦ったんだから」
「いや、俺はやって――」
「それでね〜、藍ちゃん3人まで勝ったんだけど、4人目で負けちゃったんだ〜」
トキの両足を癒しつつ、ボルトが解説する。
前回の藍の戦績。
1人目のカリヴァンを寸止めで降伏させ、2人目は今回来ていないシャティという少女で、これも寸止めで勝利を収めた。
3人目に出てきたのは立ったまま寝ていた彼女、インスタイルであった。
人外としか思いようがない馬鹿げた脚力の前に苦戦しながらも、辛うじて当て身が成功し、勝利。
「4人目は?」
「三広 炎よ」
自ら語る藍は、その日のことを鮮明に思い出していた。
哭き鬼と赤髪の戦士。
2人の戦闘は壮絶を極めた。
圧倒的火力の哭き鬼に対し、光速に近い移動速度で撹乱・一撃離脱戦法を多用するホムラ。
しかも、お互いが遠距離・近距離用の攻撃手段を持っていた。 華創実誕幻とSMG&クナイ型榴弾。 理壊双焔破界と両刃の大剣。
更に鉄壁に等しい防御手段まで両者は持っていたのだ。
勝負は長時間・広範囲に及び、死闘の末、藍はホムラに僅差で敗れた。
「生身の人間が藍ちゃんに勝ったんだ。
それだけでもすごいのに、芹真さんまで負かしちゃったんだよ〜」
「芹真さん負けたのっ!?」
「…………」
「生身の人だから、ということで3対1を申し込んだのよ。
それを受け入れたのはクロードとカーチスのペア。+ホムラ」
芹真には高速移動があった。
ホムラ程度の速度なら、離されることはあろうとも視界から失うことはない。
そういった自信と若さ故の勝気があり、結果的にそれが敗因へと繋がった。
「言い訳のようだが、1人は触れないし、1人は見えないんだぜ? そんな2人相手に3人目を相手にする余裕があるか。
しかも隙がない。
おそらく、あの3人なら一個中隊だって相手に出来るさ。協会のヒーローズも出来るだろう」
「ホントに言い訳だ〜♪」
トキのベッドの横にイスを持ってきて座っていた芹真の額に青筋が浮かび、一瞬後には何かが切れる音がトキと藍の耳に届いた。
「藍、今晩の飯はボルトの分少なくしろよ」
ボルトにとっては衝撃的な台詞だった。
頬を膨らますボルトに、笑う藍。
藍にとっても、芹真にとっても彼らとの戦闘は有意義なものだった。
だから、是非ともトキにも戦ってもらいたい。
「もし、だ。
トキがこの3人組を倒せる程の実力つけたのなら、協会のSRの大半には勝てる。確実に」
聞きながらトキは自分の足が回復に向かっていることを実感していた。
指先に灯る感覚。熱。体温。
「えと……3人組って?」
「ホムラ、クロード、カーチスの3人だ。どこ聞いていた?
ちなみにこの3人は協会のSR数名を行方不明にしたことが――」
「現在も行方はわかっていない、って事になっているんだ〜」
トキが固まる。
ため息が芹真から漏れ、藍の眉がつり上がる。笑顔のままボルトは説明を続け、
「一晩のうちにヒーローズ含めた7名が行方不明になっちゃって大騒ぎだったよね。
しかも誰の仕業かも分かっていないし〜」
(それが厄介なんだよ、ボルト)
(本当に晩御飯を減らしたい……)
「え、じゃあ、芹真事務所イコール殺人もやっちゃってるんですか?」
3人の顔が一斉に向き、トキは戸惑った。
ボルトの顔から笑顔が消え、惚けるような表情が浮かび、
「え? 今更ぁ?」
当然、とばかりの口調に頬が引きつる。
目線をボルトから逸らしても、
「今の7人の話は俺達がやったわけじゃないからな。その辺誤解するなよ。
それに、この前トキだって黒羽商会の連中と戦っただろ」
「いや、そうじゃなくて……
なんか、こう、匿っているみたいなのがなんか――」
「トキはそういうの嫌い?」
ボルトが顔を覗き込む。
芹真と藍はトキの態度に同情した。
正直、ボルトの連れてきたメンバーが問題を起こし、その後始末を任されているのだ。 自分たちの知らぬ所で問題を起こされ、それを隠し通すため必死に手を回し、隠蔽し続けてきた。
芹真は素直に事実を伝えるべきだと考えたが、ワルクスや藍がそれを止めた。
絶対に仕返しが来る、と。
相手が悪かったのだ。
「あんまり好きじゃないな。素直に申し出た方がいいんじゃないか?」
「無理だよ」
即答するボルトを見て、藍はため息をついた。
トキの意見に賛成だが、ボルトの意見も間違いでないとわかっている故、何とも言いようがないのだ。
「だって、その人たちを殺り始めたのがクロードだし〜
勝手に訓練相手、ってことで他の世界の人連れてきちゃっているんだし〜
違法に違法を重ねた上に違法を犯しているんだから、申し出るなんて出来るわけないじゃん」
「……というわけなんだ、トキ。
諦めてくれ。俺は諦めてる」
そして芹真は、再びこちらの世界にやってきた殺人鬼が問題を起こさないことを全力で祈っていた。
ただでさえ大事な時期に余計な問題を抱えたくない。
無言で頷くトキの足を包む光が次第に明るさを失っていき、最終的に完全消明する。
「はい、終わり〜」
ぺちぺち、掌で叩きながらボルトが告げた。
言われてすぐにトキは両足をベッドの上で動かしてみせ、次にベッドから足を下ろして床に着ける。
藍がすぐにでも支えられるように備え、自力で立とうとするトキを見守った。
トキが復活したことを悟り、ナインは歩きながら1人頷いた。
その背後で金髪が暴れ、赤髪と黒髪が必死にそれを押さえ、ポニーテールは呆れ、同じく顎鬚も呆れていた。そしてため息の連続である。
「殺らせろぉぉぉ!
暇だぁあ!
ヤリテぇェ!」
「いい加減にしろ!
さっき殺りかけてただろテメェ!」
「声がでかいぞクロード!
少しは抑えろ!」
露骨過ぎるクロードに振り向きながらナインは、
「ほい♪」
この騒音公害マシーンを沈黙させるべく、クロードを視界に捉えた。
手首を軽く返すと同時、左右から押さえられたクロードの首が――寸分の狂いもなく100度――右に曲がる。 それも一瞬で。
ほどなくして静寂が訪れた。
「さぁ、とっとと帰って温まろぅ〜」
気の抜けた調子で同意を求めるナイン。
頷く2人に、クロードを脇から支える2人。
しかし、わずか数秒の静寂を破ってクロードは目覚めた。
「――っと!
やる気発見!」
両脇を抑えつつ支える2人の腕からから抜け、クロードは背後に体を向けた。
ホムラとカーチスが再びクロードを抑えようとするが、寸での所で取り逃がしてしまう。
その原因らしき人物数名を背後に見つけ、ホムラたちの足が止まる。
(あの3人、さっき病室に居た……)
全員の視界に特攻服と中華服の男と、全身を黒で包んだ1人の女性が映った。
「何でココにいるんだ?」
「……まさか」
「俺たちと遊びたいらしいが、どうする?
場所が悪いぞ。人が少ないとはいえ、街中だ。銃が使えない」
「剣もね」
「どこか良い場所ない?」
「ない」
闘志剥き出しの5人に即答するナイン。
「一銭の価値にもならないんだから、早く帰ろうよ〜」
ナインの口調と態度から、全員が空腹とアルコール切れを悟った。
その場に4人の輪が形成され、会議が始まる。
「カリヴァンとインスタイルはナインを連れて先に帰っててくれ。 こっちはクロードを何とかして――」
「それならカリヴァンは必須だろ?」
「私もナインより、クロードの野郎を相手にしている方が楽でいい」
「……ってことで、イン。ナイン任せられるか?」
「嫌よ!
ホムラこそどうなの!?」
「え? それは、何だ、ほら?
私はミーナほど、そう、ナインには気に入られていないからさ!」
『ここにいる4人全員そうだろ!』
話し合いの結果、ナインのお守りに選ばれたのは、
「改めてよろしく。フィルナ・ナインで〜す!」
「ヴィラ・ホート・ディマよ」
多大な疑問を抱きつつ、影の魔女は光の魔女が連れてきた異界の友人のお守りという仕事を遂行した。テンションの高さがボルトを連想させ、似たもの同士気が合うということを思い改めた。
あらゆる疑問が頭を掠める最中も、対峙するメンバー間に間断なく約束が取り付けられていく。
「一般人は巻き込まないこと」
ちなみに、ここは住宅街の真ん中である。
「人気の無いところでやろうぜ」
それにも関わらず、ほぼ全員が大声で、
「バラしてもばれない様な所でな!」
レクリエーションを兼ねた勝負を宣言した。
『勝った奴の勝ち!』
ハンズとクロードの低脳極まりない台詞に、元来保護者役の2人は溜息をつき、遠ざかりながら見守った。
ナインとディマのような溜息こそつかないものの、明らかに乗り気でない者もいる。
そんな奇妙なメンバーを、誰よりも遠くから双眼鏡越しに見守りつつ、現場の誰よりも青年は大きく溜息を吐いた。そう、誰よりも……
ふと、その時になって気付いた事があった。
トキは今一度病室を見回し、探しているモノが見つからないことに疑問を抱き、芹真へと顔を向ける。
「芹真さん。さっきの人たち、何の仕事しているんですか?」
「今は無職だ」
「じゃあ、前は?
クリア何とかって一体……」
芹真の目が藍に向き、藍の目がボルトに向く。
トキもつられてボルトに視線を注ぐ。
「ナインちゃんのお仕事は未来予知で、他のみんなはクリアスペースのアタッカーだよ」
「アタッカー?」
トキの思考が停止するまで残り数秒、というところで藍が詳細を伝える。
「第3特殊空師団:クリアスペース。
それが彼らの仕事場――って言っていいのかしら?」
「全員終身刑なんだよ〜」
「はい?」
「犯罪を処理するために集団化された元犯罪者たち。
彼らはその一部で、警察から軍人、はてはスパイ業務までこなす連中だ」
「それでね、交通整理とか警備員の代替もやるんだって!」
何がおかしいのかトキは理解できないが、職業人であることは分かった。
「つまり、警備から戦争まで出来るっていう……」
「うん! できるできる!」
「そうらしいわね。特に彼らの場合、荒事が中心らしいわ」
「タンカーを制圧したり、研究所を爆破したり、戦争したり、核壊したり〜」
トキの頭には十数分前からの情報が整理され、整頓されていった。
約半年の睡眠。 訓練相手。 クリアスペース。 能力者。
そこから、些細な疑問が湧き上がる。
窓の外の景色に目を向けながらトキは質問の準備を整えた。
(第3特殊空師団。クリアスペース。
戦争屋……いや、戦闘屋みたいなものか。
全員で8人。
ホムラ、クロード……イン何とかと、アラブ人、壁に寄りかかっていた人。
それで、今回来ていないのが3人)
唐突過ぎる事態ではあったが、トキの探している名前がその8人の中にないことを改めて確認し、窓の外からボルトへと顔の向きを変える。
「なぁ」
「ムガ?
彼は、おなか減ったから帰るって言ってたよ〜」
夢の中で会い、おそらく最も謝礼を述べるべきだろう人物はすでにこの場を去っていた。
トキは肩を落し、僅かに息を漏らす。
あまり言葉を交わしたことがなくとも、現実の側に誘導してくれたのは彼だ。
次の機会があることを祈りつつ、自分の横たわっていたベッドに目線を送る。
「じゃあ、帰るか。トキ」
「いいんですか?」
「ああ。まだ眠いか?」
「いえ、何ていうか、勝手に出て行っていいんですかね?」
「足はもう治ったろ?」
「はい」
「撃たれた所も治してもらったし、別に問題ないだろ?」
言われて初めてトキは自分の体をまさぐる。
その様子を見て芹真は続けた。
「じゃあ、ココにいる理由はない」
「ここね〜、協会が持っている病院なんだ〜。
だから私達は一刻も早くここを出たいんだ〜」
笑顔の内側に殺意のようなものが見え隠れしているボルトを無視しつつ、藍の方に顔を向けるとそこにも殺意を内に秘めた無表情があったことにトキは驚いた。
「なるべく借りを作りたくないからさ」
「そう……ですか」
軽い圧力に押されるのと同時――
彼らはやって来た。
廊下からざわめきを立てて、やがて室内へに押し寄せる。
その勢いは怒涛とは言えずとも波濤ほどの勢いは有していた。
「元気かぁ、トキ!」
「起きてるかぁ?」
「あなたたち、静かに――!」
「温かいな。やっぱ」
「……」
「こんばんわ」
「居た居た居た!」
「起きてるね」
お見舞い+厄介+騒がしい+訪問理由が不明、等々の見慣れた顔の者達により構成された大所帯を目の当たりにし、今度こそトキの思考はフリーズした。
「ちょっと電話しに行くか」
トキと一緒にフリーズしたボルトの肩を叩き、芹真はボルトと一緒に病室を出た。 元々トキにSRの素質があったとはいえ、SR同士が争いあっている世界に引き込んだのは自分達である。その自覚があったからこそ、芹真は病室を去った。
トキが眠っている間に得た様々な情報から、四凶や武装派のSRたちが激動を始めるのはこの先、早くても半年から2年以内という予測が立っているのだ。ワルクスを通して協会の上層部と非公式な会合を開いた末に辿り着いた予測ではあるが、可能性は非常に大高かった。
全面戦争が始まれば、国境など関係ない。
あらゆる国、様々な場所、無差別な時間帯に戦闘が発生する。
仮に日本でそうした戦闘が発生した場合、芹真事務所は国外への移住を考えていた。藍とボルトはその考えに賛同しているが、トキの意見がまだ揃っていない。断るかもしれないし、受け入れるかもしれない。
だから、いつ友人達と別れることになるか分からない状況故、芹真はトキに普通の学生生活を満喫して欲しいと願っていた。今しか味わえないものの一つだ。
「って、何かもう立ってるし!」
「……大丈夫なの?」
トキに押しかける4人。
そんな4人を見守る3人。
この時、初めてトキは芹真が病室を去ったことに気付いた。
「だからあなたは来る必要なかったのよ?」
「委員長として声掛けに来たんだが、何か問題でも?」
「あら、票稼ぎかと思っていたわ」
場所をわきまえずに対立を始める委員長(表vs裏)。
もしここに芹真が居たのなら、是非とも止めてもらいたかった。ボルトでもいい。
「それで、委員長2人はここに喧嘩しに来たの?」
口論を開始した2人を見て、藍が間に割って入った。
智明やコウボウが胸を撫で下ろし、我関せずと言わんばかりにエロティカがトキに絡み、藍は2大委員長の返答を待った。
弁解の語を口にする委員長と、そこから荒を探しては突く裏委員長と、そこを更に原点回帰や道徳的理由を以て粉砕する藍。時々外から間違った言を訂正する崎島。
厄介な2人+藍が説教を続けている間にトキに離しかける面々。
トキが眠っている間に出された罰則レポート。 蓮雅先生引率による京都旅行。 学校の改築や留学生。
トキの家の管理や、トキの家の使用や、トキの家に勝手に住み込んでいることをありのまま話す岩井。体調を気にする崎島と智明。いつから復学できるのか、ということを気にし続けているエロティカ。何はともあれとトキの肩を両側から叩くコウボウと友樹。無言でミネラルウォーターを差し出す灘仁美。他のベッドに寝ている人を見つけて黙り込む春蘭穂。
「とりあえず、今日は帰っても大丈夫みたいだし」
芹真が高城、奈倉を率いて戻った頃、トキは完全に冬服へと着替え、手作りのマフラーを装着して帰宅準備を完了していた。それからトキを中心に、芹真事務所やクラスメイトは病室、病院を後にしって、それぞれの帰路についた。
藍とボルトは芹真事務所へ向かい、トキは友人に囲まれて自宅を目指す。トキを囲むクラスメイトたちは、トキが寝ている間に起こったことを次々と口にし、時には事細かに説明し、時には針小棒大に加筆修正し、時には捏造して事実を歪め、また時には根も葉もない噂に尾ひれをつけ加えて事態の悪化を謀りつつ伝えた。
夏休み最大のイベントとなったレンガ先生引率の京都旅行。
上級生同士の交換留学で訪れたイギリス人女子。
授業の進み具合。
実践術部の合同実践講座。
内容自由なレポート課題という罰則。
これからのテストに関する話。
他にも選挙の結果や為替株価の話から国内外の犯罪等の情報。
お得な買い物情報。
安い店の話。
新たに発売されたゲームソフト。
ゲームセンター:バーテックスに入った新たなアーケードゲーム機。
クラス内の対立構造の微妙なスチューデンツバランスの変化。
興味あることないこと。
それから、
「トキは特別なテストを受けなきゃダメみたいだぞ」
コウボウに言われてトキは何故と聞き返したが、答えはシンプル且つ簡単で情報によって破裂しそうな頭にもすんなりと入ってきた。
夏休み明けのテストを受けていないから。 以上。
思考回路が停止するトキの肩に手を乗せる友樹。
帰路の半分を過ぎた辺りから集団の移動速度が低下する。
残り半分の帰路を使って裏委員長と崎島、高城による簡略路上授業が開講されたのだ。
そんなこともあって、トキが帰宅を果たしたのは夜中の12時を半ば過ぎてからだった。エロティカやコウボウが泊まると言い出し、それを委員長や裏委員長、崎島が阻止したお陰もあり、トキは独り静かに自室のベッドで天井を仰ぐまでに至った。
久々とは思えない我が家。 実感の湧かない空白。
冷静に観察してみると、家中のそこかしこに冬対策が施された跡があった。
電気カーペットに、ストーブ、コタツ。温かめに設定された空調。
ベットに入る前にトキは自分の部屋を探った。
物色した形跡アリ。
見覚えの無い物が増え、配置が少し変わっている。誰が物色したのか予想しながら探索を続ける。その結果、都合8ヶ所に異変が見られ――しかし、これといった害の無さから――トキは探索を中断した。
明日からはいつも通り学校に行くべきなのだろうか。
ベッドに入ってすぐに考えたことがそれだった。
約半年。
退学処分になっていないか不安があった。それだけ長い期間休んでいたのだ。クラスの皆とどれだけ学力差がついたのかわからない。
「あしたにでも中立派に聞いてみよう……」
明日取るべき行動を考えつつ、トキは久しぶりに自分から眠りについた。
5時間というコントンの強制睡眠とは違う夢の中で、トキはいつか見た夢を見た。
高い高い場所で四凶と向かい合うトキ。
冷たい風に、オレンジの空。
「招待状を見せて貰おうか」
「コントン……」
冷たく強い風が吹き付ける。風の音に掻き消されまいと声のボリュームを上げる2人。
鳴り続ける警鐘。
次第に鮮明になってゆく景色。
「トウコツに渡されたはずだ。返してもらおう」
「持っていない」
口元だけが笑うコントン。黒ずむ背景。落ち着いた自分が信じられないトキ。
冗談をよせとコントンは言った。
どうしてか、トキにはその言葉が予測できていた。ここが夢の中というのが原因かもしれない。
(前にも、一度あった?)
改めて自分が置かれた状況を確認しようと周囲に目を配る。が、目に見える範囲で特徴的なのはオレンジ色の空、風の強さから上空であるということ、コントン、コントンの背後だけが黒いということだけ。
いつか見たものとほとんど同じだった。
僅かに違うものといえば、コントンの背後にある何か。
「これは“種の保存の為”なんだ」
四凶の保存。
そこまで言われたトキの頭にコントンの要求が浮かぶ。
同時に背後の黒いソレが一部の輪郭を顕わにした。
――黒い樹のような、プラスチックのような、あまり大きくない物。 それを探して持って来い。
背後の黒が特徴の一つと合致し、コントンの顔の横に僅かな窪みが見られた。
情報の合致。持って行くべき場所。
夢の背景を見たトキは、一体全体、コントンの背景にあるソレがどんなモノなのか見上げて確認をとろうとし――
夢は途切れた。
翌朝、トキが目を覚ますのと藍がインターフォンを押すのはほぼ同時だった。
寝惚け眼のまま階段を降り、玄関の扉を開錠してから訪問者を確認し、急いで着替える。
部屋の中までついて来た藍は登校に関する事とこれからの予定を話していき、トキはできる限り急いで身支度を整えながらその話しに耳を傾けた。
本日の登校は不可。
早くても明日、またはそれ以降の登校になる。
「それで今日1日は、クリアスペースの人たちと訓練よ」
AM06:01
朝方に降った雪の上を2人は並んで歩き、芹真事務所を目指す。
遠方から響く車の音。弱々しく差す太陽光。吹き付ける冷風。
歩きながらトキは、自分の軽装に後悔した。
「今日は初日だから、手始めにナインが計測する」
トキが後悔する傍ら、藍はこれからの訓練についての説明を始める。
最初に行われるのが計測。
そこから弱点につながるものを見つけて強化計画をたてる。訓練が始まるのはそこからだ。
「どうやって計測するんだ?」
「すぐ終わるわ」
トキがその言葉を理解するのは、実際にその計測を体験してからだった。