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Second Real/Virtual  作者:
26/72

第25話-お前ら学こ……!嵐の前の学生宴会!-

 誰かが頷いた。


 私が将来、SRにおける世界のバランスを崩しかねないと。

 そして、誰もが納得した。



『そんな……そんなことはしない!

 有り得ないっ!

 僕が……て、テロリスト?』


『それが、君の運命だ。

 多くの人を殺める』


『僕はそんなことをしない!

 だから、ねぇ!

 見捨てないでくれぇえ!』



 いま思えばいい思い出だった。

 あの日、“僕”は死んだ。


 その思い出が最初の殺人だったことを男は覚えている。

 こうなることも運命だったと、そう開き直ってしまえば絶望していた自分が哀れに思えた。



「今夜会いに行くぜ、トキ」



 独りで笑いながら、男は空港を後にする。




 目蓋が閉じてから数秒。

 実際は数時間だが、眠りについたトキからすれば数秒程度の感覚だった。



「は?」



 突拍子も無い夢を見た。気が付くとトキは空にいたのだ。

 それが夢の中だと頭の隅で認識しつつも、この状況は理解できない。

 ここに居る理由がわからない。



(もしや、黒羽商会……?)



 思い当たるものといったら、それ位だった。


 夜空に浮かぶ飛行艇。

 その中で、芹真事務所と黒羽商会は戦闘を繰り広げた。

 火炎、銃撃、コンテナ……あらゆる危険要素を伴ったアウェイ。 結果は、芹真事務所の飛行艇制圧に終わった。



(でも……)



 トキは飛行艇の中から飛び降りている。

 夏の夜空。

 輝く星と淡く彩る雲の競演。



(何だ?

 ここは、あの時の空とは違う……)



 夜空ではなかった。

 周囲の風景こそ空ではあるが、決定的に色が違う。いまトキを囲む空の色はオレンジ。

 更に大きな違いとして、トキはしっかりと地面を踏んでいること。

 高い場所なのに、しっかりとした足場がある。



「ハハッ、招待状を見せて貰おうか!」



 顔を正面に戻すと、ソイツがいた。

 見覚えがない顔。

 しかし、トキの中では警鐘が鳴る。



「招待状?」


「トウコツに渡されたはずだ。

 返して貰おう」



 口だけ笑いながら睨むその男。



「持ってない」


「ははっ!

 冗談は抜きにしてくれ。

 これは種の保存の為なんだ。

 素直に渡してくれれば、君の保存も約束しよう」


(種の……保存?)



 あまりにも唐突な話だった。

 見知らぬ男。だが、避けられない誰かであると直感が告げている。

 いずれは出会う男。



(一体……ん?)



 夢が終わる間際、トキは男の背後にある巨大な“何か”の存在に気付いた。










 Second Real/Virtual


  -第25話-


 ―お前ら学こ……!

  (COUNT:1)

  嵐の前の学生宴会!-










 覚めた目に飛び込む天井。

 見慣れた自分の部屋。



(昨日帰ってきた時よりは楽だけど……)



 重い体をベッドから降ろし、1階へ降りていく。

 今朝見た夢について考えながら身支度した。


 朝食をとりながら、テレビのニュースにも少しだけ意識を傾ける。

 当たり前だが、昨日の飛行艇のことなど一切出てこない。

 年金問題や、株価の変動、事故・事件に、闇金、スポーツ、内閣、領土問題に難民や不法入国者の話題。

 後片付けを済ませ、制服に袖を通す。

 鞄を取りに2階の部屋へ戻り、ついで、わずかな雲しか見られない空を確認する。窓を開けていくのはやめよう。


 一呼吸おいて時間を確認。

 AM 07:08

 遅刻することが難しいほど早い時間帯である。


 昨日の戦いの所為か、いつもより体が重い。

 だが、昨日の戦いには悔いがなかった。

 牛人の片目を撃ち抜いたことは、罪悪感こそあれどその後しっかり元通りに治したし、牛人本人も自分の失態だと断言している。

 商品として扱われてた少女も、今は警察病院で安静にしているだろう。



(あとでお見舞いに行……)



 トキの思考が途中で停止する。

 それは靴の紐を結わえている最中のことだった。

 目の前で、玄関の鍵がひとりでに動いている。


 誰かが、外側から鍵を開けようとしていた。



(泥棒?)



 こんな微妙な時間に忍び込もうとする泥棒が、果たして存在するのだろうか?


 疑問を浮かべつつ、トキは身動きひとつ取らず、それを静観していた。

 やがてドアは開錠し……



「ほら見ろ。

 お前の刃物がなくとも鍵は開けられた」


「分かったからとっとと入れ!」



 聞き覚えのある声が2色。

 こっそりと扉を開けたつもりの2人と目が合った。



「あれ?

 トキ起きてるじゃん」


「あっそ。それならそれで好都合。

 おはようトキ。

 話があって来た」


「……おはよう、奈倉さん。

 それに、高城先輩」



 2人はトキを両脇から抱え、玄関からリビングへ運んだ。



「え?

 ちょっ……!」


「火急だ。大人しくしろ」



 高城に言われ、トキは抵抗をやめる。



「鍵を掛けてくる」



 リビングに下ろされ、眼前に奈倉さんが腰を下ろす。

 そして、



「今日から一週間、学校をサボれ」



 僅かな怒気を含ませながら言った。



「はい?」


「トキ、あんたは狙われてる。

 だから、今日から一歩も外に出るな」


「他の侵入経路がないか確かめてくる」


「頼む」


「え?

 奈倉さん、俺が狙われているってのはどういうこと?」


「トキ、何か食い物ないか?」



 トキは渋々立ち上がり、朝食の残り物を冷蔵庫から取り出す。

 振り返って同じ質問しようとするが、



「吸っていいか?」



 彼女の指に挟まれたタバコが左右に揺れる。

 どうぞ、お好きに。

 ジェスチャーでそう伝えると、彼女は早速タバコに火をつけた。


 少し冷めた料理をレンジに入れ、軽く温める。

 レンジから取り出した時、高城先輩が戻ってきた。

 まず、何が目的なのか聞かなければならない。



「どうして学校に行っちゃダメなんだ?」


「まぁ、まず落ち着いて話そう」


「座らせてもらうぞ、トキ」


「どうぞ。適当に掛けてください」



 高城がソファの上に腰を落とす。

 しかし、奈倉は立ったまま切り出した。



「もしかしたら、四凶がお前を狙っている」


「四凶……トウコツが?」



 真っ先にトキの頭に浮かんだのがあの男だ。

 人間離れしたスピードとパワーで戦闘を楽しむ凶。



「いや、その可能性は低い」


「低いって……高城先輩は、トウコツを知っているんですか?」


「俺はこれでも協会所属のSRだ。

 しかも四凶反対派のな」



 反対派……

 初めて聞く言葉に僅かな疑問を抱いたが、今はそれが主旨ではない。

 高城は説明を続けた。



「トウコツは現在、ナイトメア討伐作戦の舞台裏である主要人物の護衛を命じられている。

 指示を下しているのはヒーローズの契約英雄、ジャンヌ。

 ここで肝心なのは“トウコツは彼女に逆らえない”ってことだ」


「つまり、トウコツにはトキを狙えないってことよ」


「じゃあ、誰が?」


「可能性があるとしたら、キュウキ。

 最悪の場合は、コントン」


「でも、どうして?

 協会なんじゃないんですか?」


「一応な」



 高城から溜息が漏れる。

 その隣で、彼女も溜息にタバコの煙を乗せていた。



「協会に所属しているにも関わらず問題を起こす。

 それが四凶だ」


「どうして狙われなきゃならないんですか?」


「お前がSRだからに決まってるだろ」



 質問するトキに高城が冷たく返す。

 窓から差し込む夏の日差しだけが味方のような気がした。



「ただ、それだけで?」


「それだけ――じゃないだろ。

 お前は自分のSRがどれだけ稀少なものか分からないのか?」


「トキ。

 時間を操れるSRなんて、滅多にいないんだよ?」



 言われて、納得せざるを得なかった。

 時間の流れを緩め、また止める。更に時間を奪い、与える。


 それがトキのSR:タイムリーダーとクロノセプター。



「勧誘、誘拐してまで手に入れる価値は大いにある。

 使いこなせば強力なんだからな」


「強力?

 そんなモンじゃない。

 軍隊だろうと易々壊滅させられる力だよ」



 トキは頷く。



「確かに協会は芹真事務所への積極的かつ、自主的接触をご法度としてナイトメア討伐作戦を展開しているが、四凶だけはどうしてもコントロール出来ない。それが、協会の現状だ」



 高城は自前のバッグから炭酸飲料を取り出し、口に運ぶ。



「トキも覚えておきな。

 四凶は協会の内部でも爪弾き者。命令を簡単に無視して動く連中なんだよ。

 私は身をもって体験しているから言っているんだ。これは脅しでもなんでもない、現実だ」



 数秒間の沈黙。

 高城が新たに話を切り出す。



「言っておくが、ナイトメアの連中もこの街を目指して集結しているらしい」



 トキと奈倉の顔が高城に向く。



「おい、そんな話初耳だぞ?」


「ナイトメアが集結……だって?」


「ああ。

 この街に滞在しているSRも妙な動きを見せている」


「うめ……

 うぜぇ〜」


「この街にナイトメアが居るんですか!?」



 奈倉さんはあからさま嫌そうな顔をしながらミートボールを口に運ぶ。

 トキの驚きざまを見て、高城は続けた。



「ああ。そのナイトメア2人は非武装派の準A級SR。

 しかも、この前俺たちの学校を襲った連中の生き残りでな」


「生き残り……また仕掛けてくるってことですか?」


「可能性はある」


「ちっ!

 四凶にナイトメアかよ!」



 学校に行けないのも頷けた。

 ナイトメアに狙われ、この間の二の舞になったら……

 また無関係のクラスメイトを含め、多くの一般人が巻き添えをくらう。



「まぁ、安心しろトキ。

 テメェの所為でダブったんだ。

 勉強は俺が教えてやる」



 THE 予想外。

 学生だから勉学に励むのは当然だが、まさか……



(まさか、高城先輩から教えられるとは)



 まさに、夢にも思わなかった、というヤツである。

 しかも笑顔の中に殺意が見え隠れしていたし。



「ついでだ、ケルベロス。

 テメェにも教えてやる」


「ご免被る。やりたきゃやってろ。

 私はパス。メシ食ってる」


「そんなんじゃ、進級もできねぇぞ」


「お前みたいにか?」


「あん?

 何だ、随分躾の悪い犬がいるな〜」


「お〜、怖。

 人様ん家で揉め事はよくないぜ?」


「ふん!

 犬みたいに吠えやがって」



 吐き捨てるように言い放ち、高城はバッグから教科書とノートを取り出す。

 その隣で奈倉はタバコを指に挟み……


 ペシッ


 指で弾く。

 という、些細な嫌がらせに走っていた。

 が、高城は飛来するタバコを2本指で受け止め、口に運ぶ。



「……不味い。

 もっと上等なの吸え」



 紫煙を味わう高城。

 吹かしながら教科書をめくり続ける。



「一時間目は数学だったな。

 今日はこの辺やる筈だ」


「タバコ返しやがれ……」



 噛み合わない2人に目を配らせながらトキはノートを教科書を鞄から取り出す。

 そして、ふと思いつく。



(間接……え〜と、キス?

 ってやつか)



 数秒してから奈倉さんもそれに気付いたらしく、



「そんなに私のタバコが吸いたかったのか?

 思ったより変態だったんだな」


「げふぉっ!」



 高城先輩も気付いたらしい。

 むせてから、タバコを握り潰す。



「だ、ゲホッ! 誰だってブレイクに酒やタバコをたしなむだろ!

 俺はお前と違って協会の仕事とか忙しいんだよ!」


「はいはい」


(ブレイクに酒とタバコか……)



 何となく重複してみる。

 言い争いは切のいいような悪いようなところで幕を閉じ、高城は気を取り直して授業の準備を整えた。


 勉強はしっかりと時間を決められて行われた。

 散々文句を言っていた奈倉さんも参加。留年しているものの高城先輩はやはり先輩だ。

 1年前にも同じような場所を勉強しているだけあって、こちらの質問に滞りなく答えてくれる。



(これだけ出きるのに、どうして留年したんだろ?)



 答えは簡単、協会のSRだから。

 トキを観察するために抜擢、強制留年させられたのだ。


 休憩時間。

 トキは飲み物のオーダーを取った。

 学校の時間に合わせた休み時間だ。買い出しに行く暇などなく、まして、2人はトキに外出させないために来ている。

 その為、適当にある物で間に合わせた。



「ん?」



 3時間目の終わり間際。

 奈倉さんの顔が窓の外へと向く。



「誰か来たか?」


「この臭いは裏委員長たちだな」


「なるほど。

 トキを引きずりに来たわけか」



 高城が納得している間、奈倉は鼻を働かせた。



「裏委員長に崎島、エロティカ、コウボウ、お嬢

 ぅわ……女王様まで来やがった」


「え?

 何で6人も来るんだ?」



 さすがのトキも驚いた。

 意外な面子による突然の訪問。


 程なくして呼び鈴が鳴る。



『トキ〜、居るか〜?

 居たら鍵開けてくれ〜』



 コウボウの間延びした声がリビングまで届く。

 立ち上がるトキを奈倉さんが引き止める。



夏山かやまのアホが来てるから開けんな!」



 小声で私情を説明。

 そういえばこの2人、滅茶苦茶といって過言でないくらい仲が悪いんだよな……



『面倒臭ぇ、蹴破って入っちまおうぜ』

『夏山さん。

 それじゃあ不法侵入ですよ?』

『器物破損』

『トキは本当にココいるの?』

『うむ!

 私の欲望レーダーがここだと告げている!』



 どんなレーダーだ……



『ならば仕方ない!

 ここは1つ、私に任せたまえ!』


「奈倉さん、とりあえず、翼が変なことやらかす前にドア開けたいんですけど……」


「ダメ」


「いや、そんな即答しな……」



 直後、開錠音が耳に届いた。



「はい?」



 奈倉さんの制止が無駄に終わった瞬間である。



「勝手に上がるぞトキ」

「お邪魔します」

「うはっ!

 思ってた以上に広ぇ〜!」

「スッゲェお邪魔しま〜す」

「超マジで邪魔しま〜す」

「失礼します」



 六者六様。

 申し訳程度かつ適当な口上を述べ、勝手に上がりこんできた。



「むむっ!

 そこに居るのは奈倉愛院(なぐら あいん)高城播夜(たかじょう はりや)ではないか!」


「え?

 愛院さんも居るの?」


「ホントだ。

 しかも先輩まで……」



 これがエロティカ、コウボウ、裏委員長の反応。



「……へぇ」


「中々広いリビングですわね」


「はぁ!?

 何でアインがココに居んだよ!

 聞いてねぇぞ! 不愉快だ、帰れ!」



 崎島さん、何に感心しているの?

 お嬢……人の家を評価しに来たの?

 夏山さん、いきなり喧嘩腰にならないで!



「はぁ!?

 テメェのおかげでこっちも不愉快してんだよ!

 お前こそとっとと帰れ!」



 奈倉さんも喧嘩を買わないで!



「ふむ……

 不良女子vs超ドS女子。そこから発展して三角木馬で……」



 エロティカ、貴様もかっ!



「ヤニ臭いわね」


「ふぅ……」



 いや、木田村委員長、止めて。色々止めて。

 崎島さんも溜息ばかりついていないでさ。ヘルプ……



「お前ら何しに来たんだ?」



 まともな人間発見。SRだけど。

 言い始めたのは高城先輩だった。

 たったその一声で場が――まぁ、一部例外を除いて――沈静化したのだ。



「あなた達はここで何をやっているの?」


「トキがやばいのに捕まったからそれなりの対処法を教えていたんだ」


「はぁ?」


「やばいのって?」


「あれだ、詐欺ってやつ」



 訪れたクラスメイトの間にざわめきが起こった。



「ご愁傷様」

「マジ……なのか?」



 息を呑み、コウボウが聞く。



「だからオレ達が相談に乗っているんだよ」


「切迫しているの?」


「ああ、聞いた限りじゃ相当ヤバイぜ委員長」



 話が進むにつれて1人、また1人と腰を下ろしていく。

 ついには全員がイスまたはソファ、或いは床に腰を落ち着けた。



「なるほど、つまり携帯サイトから始まって、理不尽請求が押しかけるようになったわけか」


「まぁ……」



 話を合わせる度に罪悪感が募った。

 全員と親しいわけではないが、クラスメイトに嘘をつくことで居心地が悪くる。

 詐欺なんて遭ってない。

 この場を凌ぐための作り話以外の何物でもない。



「どんなサイトに入ったんだよ?」

「18禁サイト?」

「いや、それは無い」



 エロティカが断言する。

 それに関してはトキも頷いた。

 アダルトサイトに関してはエロティカから飽きるほど警告されている。

 そもそも、トキはその手のサイトに興味がない。



「じゃあ、どんなサイトだ?」


「孤児救済掲示板……だ」



 咄嗟にトキの頭に浮かんだ単語がそれだった。



「は?」

「孤児?」


「まぁ……」


「そういや最近話題になってるもんなぁ……」



 今朝のニュースでやっていた所から思いついただけである。

 そんなものが実在するのかどうか、甚だ疑問だ。



「そういうことは真っ先に警察に相談しなさいよ」


「裏委員長に?」


「私じゃ不満?」


「いや、いくら親が警察だといっても、委員長自身はまだ学生だし……」


「まぁ、正委員長よりは頼りになることは確かだが……」



 言い淀み、トキの眼が横へ向く。

 そこでは裏委員長も卒倒しかねない法律違反、



「――!!!!」

「――!!!!」



 真剣な顔で、壮絶なタバコの吸い比べが行われていた。

 どちらが先にタバコを吸いきるかという、果てしなくくだらない対決。

 また迷惑この上ない。


 静かな私闘ではあるが、やはり、迷惑以外の何モノでもなかった。



「あなたたちっ!」



 そして、裏委員長の喝が入った。

 真横にいたコウボウがこっそり後退る。



「私闘は禁止!

 どうしても白黒付けたいのなら、もっと他人への迷惑を考えて争いなさい!」

「いや、喧嘩しないように言えよ」

「ならば、ボディコンなど……」



 女子一同による鉄拳――1人は凶器攻撃だが――制裁。

 エロティカの美形が鮮血で飾られる。



「それくらいだったら、飲み比べとか料理の腕競ったりする方がマシじゃないか?」

「ほう!

 では、北島君!

 君は彼女たちの裸体に興味が無いと、そう言いたいのか!?」

「いや、興味云々の前に、常識考えて見れるはず無いじゃん?」

「そうそう」



 もの惜しげに頷く高城先輩。

 話が大きくなっていく最中、トキは混乱していた。


 これは、何の集いだ?



「なら、飲み比べだ!」

「用意しましょうか?」



 早速お嬢が携帯電話を取り出す。

 そういうのは早いんだね。



「未成年の飲酒は禁止!」



 すかさず裏委員長が――



「マイコ。

 お前、去年のクリスマスパーティーで1番飲んでいたって知っているか?

 というか、覚えているか?」



 打ち砕かれ、沈黙。

 高城先輩が“やっぱり”とつぶやいた。



「どの種類にします?」



 そしていつの間にか、電話でお嬢が話を進めていた。

 困惑・沈黙・興奮する諸々を差し置き、渦中の2人は声を揃えて告げる。



『カクテルだ!』



 夏。

 ひとつ屋根の下で、2人の飲み比べが始まった。






 AM 11:27


 帽子を用意しておくべきだったと、リデアは後悔していた。

 炎天下。

 頭上から降り注ぐ太陽光線に耐えながら注文したコーヒーを待っていた。



「だから帽子を買ってくださいと言ったじゃないですか……」


「うむ、ケイノス君。

 私もいま後悔したところだ」


「……後の祭り、というモノを知っていますか?」


「いや。

 どこの国の祭りだ?」


「諺です……手遅れって言う意味の」



 ため息をつき、ケイノスはサイダーでノドを潤した。同時に、なぜ隊長は目先のことしか考えられないのかを考えた。



「それはそうとケイノス君。

 君はとんでもないメンバーに声を掛けていたな」


「ええ、まぁ。

 あの人の頼みですから」


「正直、私はあまり快く思わないぞ」


「同意します」


「レッドキャップには嫌気がさすし、ステビアの悪女なんか最悪だ。

 それに何より、マスターピース殿がくると無様な作戦が立てられないではないか」


(あ、作戦が無様なのは認めているんだ……)



 わかっているなら実行しないで下さい――なんて、一度は言ってみたい。



「マスター殿が来られるという事は、芹真事務所が相手だな」


「どうしてです?

 まぁ、間違いではないですけど」


「この街でマスター殿を手を煩わせるSRがいるか?」


「芹真事務所とその周辺くらいしか」


「実に単純明快だろ?」


「マスターなら光の魔女に勝てるんですかね?

 隊長も覚えているでしょ、あの圧倒的な力を」


「忘れはせんよ。

 しかし、ケイノス君。我々はチームで戦うのだ。

 騎士道を尊ぶことも重要だが、いまはあの方の立てたプランに従うのだ」


「ああ。

 そうしてもらえれば助かるよ。

 それから、遅れてスマナイ」



 炎天下、その男は突如として姿を現した。



「これだけの条件が揃っていれば失敗は無理だ」



 イスからを腰を浮かせ、2人は男に顔を見せた。



「どうも、Mr.シーズン」



 最初に挨拶を投げつけたのはケイノスだった。






 AM 12:51


 真昼。

 昼食時、トキの登校が決まる。



「じゃあ、こういうのはどうでしょう?」



 提案したのはお嬢こと、冬谷紗月(とうたに さつき)

 一同の顔がお嬢へと向いた。



「私の車で皆様とトキを一緒に送り届けるのです。

 これなら、頼れる委員長とも一緒ですし、相手も下手に手出しできません」

「甘いぜ、お嬢。

 借金取りは手段選らばねぇ。それに全員が巻き込まれたら収拾つかなくなるかもよ?」

「ビビってる夏山は無視してやれ、カワイソーに」

「…………」



 口論飛び交う中、トキも考えた。


 誰かに狙われているのは事実だが、借金取りというレベルではない。

 奪われるものが金銭ならまだ安い。

 根本的に次元が違うのだ。

 下手をすれば命が消えてしまう。そういう事態の最中にトキ自身がいる。



(でも、奈倉さんや高城先輩も一緒に居るのなら協会のSRは手を出せな……いや、出せるか)



 もう一度頭の中に敵の属性が浮かび上がる。

 協会所属、四凶のSR。

 協会の爪弾き者、協会に属しながら絶対服従しない者たち。



「車に全員乗れるの?」

「もちろん」

「おい、トキ!

 学校行くのかよ!?」



 奈倉さんが止めようとする。

 けど、もう決めたことだ。

 奈倉さんを納得させるため、これだけは言っておこう。



「ヤバそうな時は全力で学校から逃げるからさ」



 小声で話すトキと奈倉に委員長が注意する。

 全員で会議している時はなるべく密談をするな。それが裏委員長ルールだ。



「出来るのか?」


「大丈夫だよ」



 彼女が頷くまであまり時間はかからなかった。



「では、車を呼びますので」



 トキと奈倉の了承を確認し、お嬢は車を呼んだ。

 数分後に姿を見せたのはリムジン。


 白州唯高校のメンバーは――お嬢を抜いて――唖然とした。



「え?

 これに乗るの?」



 全員が躊躇った。






 AM 12:53


 どうして躊躇ったか?


 理由は明確である。

 協会のSRが介入者に依頼をしたからだ。



「それだけで、ここに?」



 オープン喫茶の一角。

 リデアは戸惑った。



「私も快くは思っていない。

 だが、ヤツには借りがある」


「でも、協会に協力するのは御免です」



 不貞腐れたケイノスが言った。



「何で、協会のSRの為にそこまでする必要があるんですか?」


「ああ……」


「Mrはそれをわかっていたのですか!?」


「わかっていて受けた。

 協会の四凶に頼まれること自体面白くないが、結果的には面白いものが見れそうだ」


「面白いもの?」


「おそらく、今日が反乱の序章になる」



 2人の魔法使いは顔を合わせた。

 反乱。

 四凶。

 協会。

 先にシーズンの意図に気付いたのはリデアだった。






 午後の学校は非常に危険な状態だった。

 協会とか、ナイトメアとか、SRとか、そういう意味でもかなり危なかったが……


 トキは、今日何度目かの混乱に見舞われていた。



(何で俺がこんなところに居るんだ?)



 状況を整理しようとしても、恐怖心と羞恥心が混乱を深めるばかりで、つまり、余裕がない。



「トキに2500円!」


「バ〜カ!

 それは絶対無いね。ジェイソンに1000だ!」


「俺も」


「じゃあ、500円で」



 5時間目と6時間目の間、10分の休み時間。

 トキは教室の中央に立っていた。

 それが意味するものは決闘。何でもアリの1対1。



(何でこうなったんだっけ!?)



 必死に記憶検索をかけた。

 深呼吸して、学校に到着した辺りからの記憶を想起する。


 リムジンで校門前に到着。昼休み終わり間際だ。

 玄関を通過し、委員長と崎島さんとエロティカ同伴で奈倉さん、高城先輩と職員室へ直行。

 レンガ先生に罰則を言い渡され、きっかり1分の説教。

 職員室を後にする。

 トイレに寄ってから教室を目指す。

 午後からの授業参加にみんなの視線が痛い。軽く謝罪してから机を目指す。


 プラスチックの砕ける音が響く。


 注がれる視線から逃れるよう、足早に自分の席へ。

 そして5時間目が終わる。 


 トキの頭に浮かぶつい数秒前の記憶。

 5時間目終了と同時、不意を突いて彼が来た。



「おい」



 トキは伏せていた顔を上げると同時、両手で机を固定した。

 自分の机を蹴る彼。

 衝撃が掌に伝わる。

 クラス全員の顔が2人に向けられた。



「な、何だよ、佐野代……」


「お前こそ何だ?

 どうして“午後”から来るんだ?」


「それは――事情があって……」



 言い淀むトキの言葉を遮り、佐野代の手がトキの襟元に伸びた。



「中途半端に出てきてんじゃねぇ」



 怒りに震えた佐野代。

 それを読み取ってか、彼の仲間が机を寄せていく。


 次の授業はレンガ先生。


 授業中に堂々と決闘が行われる時間だ。

 決闘の準備が整う。

 机は寄せられ、窓には紙が張られ、教室の中央が円形に開けられる。



(何で怒ってんだ!?)



 思い出し、考えているうちに決闘が始まった。

 理不尽なまま、特に思い当たる理由も見つからないうちにトキは決闘の場に立ったのだ。


 何の合図もなしに佐野代が仕掛けてくる。


 初弾。左肩に貰う。

 スピードの乗ったジャブ。



(俺は何もしていないのに!?)



 トキは後退する。

 佐野代は追撃をかけ、常にトキを自分の射程内に置いた。



「おら、トキもやりかえせよ!」



 野次馬の声に反応し、僅かな隙を作ってしまう。

 佐野代はそれを見逃さず打ち込んできた。

 3発。

 左肩に2発、胸に1発。



「俺が、何をしたんだよ!」


「ルールを破っただろ!」



 左のローキック。

 膝を打たれ、トキの速度が落ち、更に打ち込まれる。



「へっ、授業サボるからそうなるんだよ」

「来るのか来ないのかハッキリしろっての」



 ボディに一撃を見舞われ、トキは足を止めた。



(俺が……授業をサボったから?)



 再びボディ。

 昨晩の牛人に比べ、1発の攻撃にそれほどの威力は無い。

 だが、連打の速度は佐野代の方が早かった。



「みんな一生懸命取り組んでいる」



 トキはクロノセプターを思い出した。



「ただでさえ、他のクラスの連中より劣っているだの、欠けているだの言われているのに……」



 さすがに限界だった。


 ――やってしまおうか?


 タイムリーダーを使えば攻撃は簡単に躱すことが出来、クロノセプターを使えば佐野代から時間を奪える。

 だが、大きな抵抗があった。



「欠陥扱いされないために、みんなでルールを守っている!」



 それは、正しいことなのか、間違ったことなのか。

 欠陥として扱われたくない。

 そのために努力する。

 悪くは無い。

 だが、欠陥扱いされようがされまいが、努力をするもしないも、全て人の勝手――選択――である。


 トキは佐野代の懐に突っ込んだ。



「てっ……!」



 体勢を崩し、佐野代が地面を背にする。

 トキのマウントポジション。



「……悪かった」


「何?」


「佐野代の言うとおりだ。

 事情があったとはいえ、その、意欲を削ぐようなことをして……」



 直後、トキの顔面に拳が叩き込まれる。

 更に、佐野代はトキの襟元を掴んで引き、頭突きを見舞した。

 トキが佐野代の上から転がり落ちる。

 鼻血が床に滴る。


 いつの間にか、罵詈雑言や戯言を吐いていた野次馬や、賭博に興じていた生徒たちが静かに2人を見守っていた。


 一方的な現実こうげきがクラスの中央で展開されていた……






 上空4500メートル。



「あそこの雲が積乱。 反対側の向こう、低い位置に乱層雲。 そして我々の足元にあるのが高層雲です」


「結構。来る時にも見上げてみたが、見事だ」



 雲の上――正確には雲の上を走る風に乗って――3人は雲の様子を確認していた。



「では、カフェで話したとおり操作してくれよ」


「ぬかりません」



 リデアとの確認が終わると、シーズンの顔がケイノスへと向く。



「衛星の方はしっかり騙せているか?」


「もちろんですよ」


「すまんな、ベクター。

 この作戦、お前なくして実行は不可能だった。

 協会の連中にこの流れが見つかってしまうからな」


「わかってますよ。

 確認のためもう一度言っておきますが、この操作を行っている間、僕は戦闘に参加できません」


「心得ている。

 これだけの大規模な操作をしているんだ。

 他には何も追求しない」



 確認を終え、3人は降下を始めた。

 風の流れに乗り地上まで滑り降りていく。


 その最中、シーズンの目が上空へと向いた。



(まさか、本当に直径500kmもの空間偽造を行えるとは……)



 白州唯に雲をかける。


 この作戦の最大の問題点は、不自然な雲の量と配置にあった。

 シーズン自身に気流を操作する能力はなく、また、どうにか雲を作り出せたとしても協会に見つかり処分・処罰されてしまう。

 その為に、シーズンはこの2人に頼んだ。自分ひとりでは揃えきれない量の雲をリデアが集め、集めた雲が協会に見つからないようケイノスが高高度に偽装を施す。

 偽装の仕組みは実に簡単だ。別の地域の雲の流れ(スクリーン)を見せて不自然に集まった雲を覆い隠す。言ってみれば、雲の上にスクリーンを被せて隠すということだ。



(ここまで成長しているとは)



 それほど仲のいい関係ではないが、何故か彼の成長が嬉しく思えた。






 AM 17:59 色世家


 リビングにトキを中心として何人かが輪を作っていた。

 友樹の手が肩に置かれる。



「引きこもっていたのに、前よりタフになっていたじゃん!」

「そうそう。前みたいに1発で張り倒されなくなっただけでも進歩じゃないか!」



 コウボウも頷いていた。

 更に智明が続く。



「それに、ほら、ちゃんと誤ったんだからトキは悪くないよ」

「今回は佐野代のやり過ぎだ」



 岩井も頷く。

 黙々と手の甲の傷を確かめていた崎島さんも、



「ほとんど無抵抗だったのにね。

 あれだと、ただの弱い者いじめ」



 思い切り踏みつけられた右手の指に痛みが走る。



「外れかけているんじゃねぇか?」



 横から奈倉さんが言った。

 その後ろではエロティカが無言でこちらに目を配っている。



「いえ。外れてはいないわ」


「徹底的にやりやがったからな……」


「指の方は大丈夫みたい」



 帰宅時、エロティカ、コウボウ、友樹、奈倉さん、高城先輩は手伝ってくれた。

 鼻血で汚れた制服の代わりにコウボウから借りたジャージを着て、おぼつかない足を見て友樹が肩を貸してくれる。


 まだ、安心できない。


 今日はそういう日だ。

 対SR戦のことを考えて体力を温存しておくつもりだったが、無為に終わった。

 佐野代に殴られたダメージは予想以上に大きく、すぐにでも寝てしまいたいほど。

 だが、



「こうなりゃ飲むしかないだろ!」



 友樹が酒瓶片手に組み付いてくる。



「うむ!

 酒は百薬の長とも言うしな!」

「ちょっと……!」


「頼むよマイコ委員長。今日くらいさ」



 許しを請うコウボウ。

 その背後ではすでに、奈倉と夏山の飲み比べが再開されていた。



「ストレス発散が学習効率の向上に繋がるかもしれないよ?」

「いい実験台ね」


「ほら、崎島は認めちゃっているんだし」



 トキを励ます為に集まった者が5名。それが中立派メンバー+エロティカである。

 事後処理等に委員長、お嬢、春蘭穂(はる らんほ)

 付き添いやら私怨やら何やらでついてきたのが岩井、夏山さん、ダーティこと隅田(すだ)の3人。



「飲んでもいいの?」



 こうして、トキを励ますという口実で飲み会が決行された。


 でも、騒がしいとは思わない。思えない。 

 嫌なことを忘れることができるなら、気を紛らせることができるなら、独りでいるより誰かという方が楽だった。



「ありがとう……みんな」



 突如こぼしたトキの言葉に一瞬静まる。



「ウハッ!

 大袈裟だよトキ!」

「どういたしまして、って言っていいのかな?」

「……気にしないで」


「気にすんなよ。俺たちそういう関係だろ?」



 これが中立派のリアクション。

 最初に言った友樹が組み付いてきた。左肩。

 最後に言ったコウボウも肩を組んだ。右側。

 そして気付いた。 酒臭ぇ……もう飲んでるし。




「ま、また……その、引き篭もられても困るから……よ!」

「イラつくからって、犯罪にだけは手を出すなよ?」


「初めて見たよ、色世君のそういう顔……」

「これからは護身用具の携帯をお勧めしますわ」

「学校に来なけりゃ、俺みたいにダブるんだぞ?」



 なぜか裏委員長が赤面。

 岩井が思い出したかのように注意し、春さんに至っては注目しているところが違う。

 お嬢も、たまにはすごい事言うんだな……

 そして、高城先輩。笑顔の中に殺意が見え隠れしていますが、気のせいでしょうか?



「次はコレだっ!」

「ふん!

 ん……っふ〜。

 この味は……エル・ディアボロ!」


「ちっ!」

「当たりだな。

 じゃあ、これはどうだ!」

「……嘗めてんのか?

 ライムに、ジンに、ソーダの匂いがプンプンするぜ。

 ジン・リッキー!」



 夏山さんと奈倉さんによるカクテル対決。

 もはや、何をしに来たのかさえわからない。

 そして、我ら関せずとばかりに2人揃って次のカクテルを作り始めた。



「苛立ってしょうがない時は気軽に声をかけたまえ。

 いい女性を紹介して……」



 奴なりに励まそうとしたのだろう。

 だが、励まし方がまずく、女性陣――春、夏山、秋森、冬谷――による春夏秋冬コンボで左ストレート、ボディブロー、ビンタ、金的がエロティカにクリーンヒット。


 思わずトキは笑った。

 このいる全員が笑う。一部まともではないが、それでもいい。



「おらぁっ、湿気しけてないで飲めぇぇえぃ!」



 たまに馬鹿騒ぎするのもいい。

 引きこもったことによって忘れかけていたモノ。

 疑心暗鬼になりすぎて、誰を信じて良いのかわからなくなった現実。


 人は1人でしかない。

 だが、独りでなくなることは出来る。



「ふはははっ!

 私と飲み比べるつもりか北島?

 言っておくが、私はアルコールに対する免疫が人並み外れて弱い!

 よって、御免とさせていただこう!」

「おい友樹!

 そいつはコザックだ!」



 各地でアルコールが進む。

 ……これは、ヤバくないか?



「私なんかよりトキ方がよっぽどアルコールに強いぞ?」

「本当か!?」



 気が付けば、トキはロックオンされていた。

 液体の揺れるグラスを両手にコウボウがにじり寄る。



「さぁ、嫌なことを忘れたけりゃ飲むんだ〜!」



 コウボウ、酔うの早ぇ……



「お酒は飲んでも、飲まれるな……」



 こうしてトキも参加し、飲み会は午後5時から始まり――



「トキの圧勝〜!」

「枝豆だぁ?

 俺はピーナッツ派だ!」

「何で私が正規委員長じゃないのよぉっ!」

「俺だって、色々あって進級できなかったんだ」

「ねぇ、信弥くん。私でも飲めるカクテルってあるかな?」

「チョコレートリキュールなら作れるけど……飲んでみる?」

「崎島……君は本当に格ゲーは初めてなのかね!?」

「……ええ」

「ほわぁ〜!

 拳心共にして明日に臨まず〜!知を伴って場を持ち、勇を持って下がり、力を兼ねてお*〜$ww@〜っc?!」

「エアコンMAXにしろ、MAXに!」

「ていうか、メイド忍者っていけそうでいけないよな〜」

「だから著作権が〜」

「お酒は二十歳になってから?」

「いや、疑問符つけるな……」

「アルコールの分だけ点数が増えればなぁ……」

「ふむ。無い乳も悪くはな――ぶぐぉっ!」

「つまり、はぐ○刑事vsコロ○ボみたいな?」



 ※今更だが、あらゆる意味で大変な事が怒っているので、音声のみでお楽しみ下さい。



「右から、

 フレンチコネクション!

 マルガリータ!

 スティンガー!

 ブラックルシアン!」

「こっちも右からだ!

 ポロネーズ!

 キング・アルフォンソ!

 バカルディ!

 アラウンド・ザ・ワールド!」


「ついでに、こっちのグラスの奴がギムレットで、こっちのオールド・ファッションド・グラスの中がゴッドマザー!」


「お前が必死こいて作ってたコレがバーボネラ!

 そんで、こっちがシンガポール・スリング!

 間違っちゃいねぇんだろ!?」



 ――6時間に渡って展開された。



「かっ○○びせん切れたぞぉぉぉぉぉっ!」

「やかましい!」

「俺に、命令するなぁっ!」

「いや、だからね……

 僕らは一生子供なのさ、ある意味では――」

「喰らえ!

 最強コンボ!」

「……遅い」

「プリン味のアイスってないよなぁ〜」

「そういや、明日って学校休みだっけ?」

「え?」

「え?」

「ぇ……?」

「うそぉ?」

「ん、何だって? 先輩……」

「今09分20時20日――明日って、創立記念日じゃん」

「……あれ?

 飲み放題?」


『ライジング・サン!

 ミカド!

 ハーベイ・ウォールバンガー!』


「じゃあ、トキ。

 泊めてくれ〜♪」

「いいよ」

『いいのかっ!?』

「私も泊まってみたいのですが、よろしくて?」

「よっしゃぁあ!

 今日は無礼講じゃぁあ!」

「どうして私が委員長じゃ……」

「いやはや、みん程よく酔っているではないか。

 ここで誰か、肉の杯でもやって…………」

「変〜態!

 オリャッ!」

「……人の顔って、潰れればそうなるんだ」

「マイクカモン!

 1発目はカテコロで行くぜ!」

「知らねぇーっ!」

「シャネ欲し〜」

「窓開けろぉい!」

「俺86ね!」

「モスキートがウゼェから開けるんな!」

「皆でmugenのトーナメやろうぜぇ〜」

「そろそろノンアルコール飲まないか?」

「変態撲滅宣言〜!」

「やべ!

 春が酔いギレしれやがる!」

「グハハッ……

 怒り上戸というヤ……ツ、か……」

『スクリュードライバー、マイアミ・ビーチ、ラム・コリンズ!』

「やっぱ、ファ○タはライチに決まりだろ?」

「いいや、塩さえあれば生きていける!」

「ほぼ皆泊まっていくんだ?」

「はい、つまみ切れぇ!」

「身長高いイコール、腕相撲が強い、なの!」

「ミニィベアはこうやって作るんだ」

「俺なんか赤点ばっかでさ〜♪」

「だから、食料庫はTNTでぶっ飛ばして――」

『X.Y.Z!』



 そう、6時間ノンストップで……

 買い溜めしておいた菓子やインスタント食料は綺麗さっぱり消費。そう、乾パンに至るまで。

 お嬢が提供してくれたアルコール各種、サイドメニュー、おやつも同様。

 飴玉1つ残っていないという有様。



「買い物行ってくるけど、何か希望はある?」



 立ち上がったトキは皆に聞こえるように言った。



「俺も一緒に行くぜ〜」

「ソーダ水頼む」

「保護者として同行するよ」

「スナック大量に頼む〜!」

「アイス、アイス!」

「車、車!」

「ベンチ、ベンチ!」

「ドライアイスお願いしま〜す!」



 酔っ払いをさて置き、同行メンバーは4人。

 奈倉さん、友樹、岩井&智明。


 コンビニでちょっと怪しい視線を受けながらも、無事買い物を済ませることはできた。

 補導員や警察にあわなかったことに少し安堵する。

 奈倉さんはそういうケースを想定してついてきたらしい。 免許証提示すれば〜どうのこうのと。



「エロティカ君といるのはちょっと、色んな意味で恐くて……」


「酔った拍子に襲われかねんからな」



 PM 11:30

 コンビニ帰りの路上で智明ちあきは本音を漏らした。

 それが理由でついて来たらしい。

 智明の意見に奈倉、岩井、友樹は激しく頷いた。



「でも、翼は観察するだけだから大丈夫だと思うぞ?」



 フォローするつもりは無いが、トキはそう言った。



「は?

 充分問題あるじゃん」


「いや、エロティカの目的は、自分の作品を作りたいからで、そこにあいつ自身は居ないんだよ」

「……トキ、それはどういう事だ?」

「岩井に同意。

 俺にもサッパリ。意味が分からん」



 一息おき、ビニールの取っ手を持ち直しながらトキは言った。



「アイツの夢はえ〜……

 AV監督だったか何だったか、だって言ってた」



 沈黙と同時、聞き手全員が納得した。

 適職ではなかろうか、と。



「俺の夢は運送屋だ」

「意外と地味なんだな友樹」


「お前はどうなんだ? 岩井」

「……お前より地味だ」

「何だよ?」

「言ったところで得が無いからやめとくよ」


「何だそりゃ?

 面白みのねぇ男だな」

「そういう奈倉は?」

「考えてねぇよ。

 ただ、海外に戻る可能性が高いかな?」

「戻る?

 何それ?

 実は海外で生まれてます、みたいなその物言いは何?」


「私は外国生まれだよ」


『マジか?』



 一同、驚愕。

 トキも初めて聞く話に動揺を隠せない。



「海外に戻るかも、ってのは一体?」


「……一緒に働かないかって、誘いがあったのさ」

「スッゲェじゃん!

 海外就職か〜、俺も海外で運送屋やろうかなぁ」

「英語が苦手な時点で無理だろ」

「トキに言われたくねぇ!」

「いや、トキって、意外と点数高いらしいじゃん?」


「うん。

 信弥君の言ったことは正しいよ。私、この前の小テストでトキに追い抜かれたし。

 ちなみに、私は信弥君と同じだよ」


『え!?』



 何故か、友樹と奈倉さんが驚いた。



「ねっ?」

「ぉ、おぅ……」



 岩井信弥本人、赤面中。



「あれ?

 いま、夏が暑さを増さなかった?」

「ああ。

 私もそれ感じた」


「海外かぁ……」



 トキは空を見上げ、海外に父親が居ることを改めて認識した。

 一度会いに行くべきなのか。

 母と死別した日以来、顔をあわせた記憶が無い父。



「あれ?」



 曇り空。

 夜空に星は輝かず、暗く黒い雲が頭上一杯に広がっていた。


 通り雨でも来るのではないかと、そう思った時だった。



「冷たっ!」



 友樹が首筋を抑える。



「何か落ちてきたか?」



 直後、全員の顔が夜の曇り空へと向き、全員が固まった。



「ゆ――えぇ!?」


(コレって……!)



 トキの顔が奈倉に向いた。

 酔いの回っていた頭が急激に冷めていく。


 空から降る、無数の桜色。

 現実に起こってはいけないことが起こっていた。



「雪、なのか?」



 この夜、白州唯は夏の吹雪に見舞われた。






 

 春と冬を与えられた雲を見上げ、シーズンはインカムに向けて言った。



「全ての配置は完了した。

 これより、作戦を開始する」



 ここに、ナイトメア非武装派の上位メンバーと創設メンバー17名による大規模作戦が展開された。




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