第1話 異世界転生とリンゴ
前世のことなんて思い出したくない。
でも時々思い出すのは美しい春の景色。
風に舞うピンク色の花びら。
桜が満開の春。
「しゃくら!」
私の口から言葉が出た。
だけど「さくら」と言えていない。
仕方のないことだ。
私は転生して赤ん坊から人生をやり直しているのだ。
私の声を聞いて、父と母が驚く。
「あなた! キャリーが何か話したわ!」
「本当かい!?」
ここは異世界の農村。
新貴族である父の開拓地だ。
新貴族というのが何なのか私にはわからない。
父と母の会話を聞いていたら新貴族だとわかったのだ。
不思議なのは、父と母は貴族なのに毎日畑へ出ている。
新貴族とはランクの低い貴族なのかもしれない。
父はアラン。
子煩悩らしくしょっちゅう私に話しかけ抱き上げる。
赤茶の髪と赤い瞳の優男。
なかなかのイケメンだ。
母はマリー。
青緑の髪に緑色の瞳。色白美人。
母に抱いてもらうと良い匂いがする。
私は母の匂いが大好きだ。
私はキャリー。日本からの転生者。まだ、一歳の女の子。
自分の顔を見たことはないけど、父と母の会話によれば、私は金髪に金色の瞳らしい。
私はがんばって口を動かして母と父を呼ぶ。
「かーたま、とーたま」
父と母は大喜びした。
初めて言葉を話した私を散々撫で回してから、いつもの籠に戻す。
畑のそばに立つ大きな木の根元に置かれた柔らかい布を敷き詰めたベージュ色の籠が私の定位置だ。
今日は晴れている。
春の日差しがぽかぽか暖かい。
木漏れ日にそよ風。
小麦畑は春蒔きの小麦が収穫シーズンで、金色の穂が風に揺れている。
ウトウトしながら私は考える。
ここは私が元いた日本と違う。
異世界なのだ。
父と母は、ヨーロッパ人に似た顔つきをしている。
服装は質素だ。
そして農作業はクワや鎌を使っている。
トラクターはない。
あまり文明度が高い世界ではないようだ。
だが、父は外に出る時は必ず銃を担いでいる。
母が私を抱き、父が二丁の銃を担ぐのだ。
私は銃に詳しくないが、猟銃に似ている。
つまり、銃が存在する程度の文明度。
中世ヨーロッパより、かなり後の時代。
産業革命くらいの文明度だろうか……。
「ふう、ちょっと休もう」
「ええ。お茶を淹れましょう」
父と母が農作業を一休みして私のそばに腰を下ろす。
ああ、始まるな、と私は思う。
ワクワクして母の手元に注目する。
この世界には魔法が存在するのだ!
母が金属製のポットを手に取り、ポットの中に茶葉を入れる。
そして指の先からポットにお湯を注ぐ。
何度見ても不思議な光景だ。
父は右手を広げ手のひらの上に小さな火を起こすと、丸いパンを炙り始めた。
「ま、ほー! ま、ほー!」
私がたどたどしい口調で魔法と言うと、父と母は大喜びする。
「まあ! 今度は魔法と言ったわ!」
「キャリーは天才だな!」
親バカだ。
だが、心がぽかぽかと温かくなる。
父と母はお茶を飲み丸いパンのトーストをかじり、何やら話をしている。
「なかなか厳しいね」
「そうね……。小麦やジャガイモが採れるから何とか生活出来るけどけど……」
「もうちょっと贅沢というか……豊かな暮らしがしたいね……。ああ、王都での暮らしが懐かしい……。色々な物が食べられたな……」
「そうね。私はリンゴが食べたいわ。今ではリンゴですら贅沢品ね」
「ああ! 良いね! リンゴか~!」
若い父と母は、食べ物のことを話している。
どうやら最低限の暮らしのようだ。
私は目を『キラン!』と光らせた。
(父さまと母さまは、リンゴが食べたい……。ならばリンゴを出せば良いじゃないか!)
私は自分のスキルを思い浮かべる。
頭の中にモヤモヤと文字が浮かぶ。
■―― 神からのギフト ――■
変換スキル:物質を違う物質に変換する。魔力が必要。
レベル1:指定して下さい
―――――――――――――――
変換スキル。
私が異世界転生をする時に、神様からもらったスキルだ。
変換スキルを使って、父さまと母さまにリンゴを食べさせてあげよう。
私は心の中で変換スキルのレベル1を指定する。
(レベル1はリンゴ!)
■―― 神からのギフト ――■
変換スキル:物質を違う物質に変換する。魔力が必要。
レベル1:リンゴ
―――――――――――――――
うん、ばっちり。
変換スキルのレベル1にリンゴを指定出来た。
私は父さまと母さまに話しかける。
「とーたま、かーたま、リンゴ」
「うん? キャリーなんだい? リンゴ?」
「ふふ、キャリーもリンゴが食べたいの?」
父さまと母さまが優しい笑顔で私に応じる。
私は近くに生えている雑草をジッと見て意識を集中する。
スキルよ! 発動しろ! と強く念じて言葉を発する。
「へんかーん! リンゴ!」
私が見ていた雑草が光った!
父と母が驚く。
「うわっ! 何だ!?」
「えっ!? 魔力の光!?」
光ったのは、ほんの一瞬だ。
光が収まると直径一メートルほどの範囲で雑草が消え、リンゴが一つ現れた!
成功! 変換スキルが発動した!
私はおくるみの中で喜び、モゾモゾと手脚を動かす。
「とーたま、かーたま、リンゴ、食べゆ」
「ええ!? 何だこれは!? リンゴが現れた!?」
「これをキャリーが!? ウソでしょう!?」
父さまと母さまは信じられないという表情で、リンゴを見ていた。
ちょっと面白い。
私は楽しくなって、もう一度変換スキルを発動する。
「へんかーん! リンゴ!」
また、雑草が光り、直径一メートルほどの範囲で消えてなくなった。
そしてさらなるリンゴが出現した。
「おお! キャリー! また、リンゴが! 凄い魔法だ!」
「キャリーは魔法の天才ね!」
母さまが私を抱き上げ、父が頬ずりする。
私も嬉しくなりキャッキャと声を上げる。
「たべゆ、リンゴ」
私が促すと父さまと母さまはリンゴをナイフで切って食べ始めた。
「これはとても良いリンゴだわ! 甘くて美味しいわ!」
「ん~♪ 美味いな♪」
父と母がリンゴを食べて喜ぶ。
味も良いらしい。
良かった!
私はとても満足した。
これで食生活が少し改善した!





