骨の海
朝、目が覚めると、骨が音を立てていた。
関節と関節のあいだを、小さな波が通り抜けている。
潮の匂いがする。
どうやら私は、骨の中に海を飼っていたらしい。
指先を動かすと、潮がひとすじ溢れた。
掌に泡が浮かび、泡の中で魚が泳いでいた。
透明で、心臓のような形をしている。
それは、昨日失った言葉のかけらに似ていた。
夜は潮が満ちていた。
骨の奥で潮がうねり、肋骨の隙間をゆっくりと通り抜けていく。
そのたびに私は、ひとつずつ、あなたの名を忘れていった。
忘れるたびに、波は高くなった。
血管を通って潮がめぐり、心臓の鼓動を模倣しはじめた。
打つたびに、あなたの声が泡になって弾けた。
泡はすぐに消える。
けれど消える直前の、あの白さだけが、骨の内側に焼きついて離れない。
気づけば、海の底に私は立っていた。
見上げると、水の向こうに白い月があった。
波にゆられて、輪郭が絶えず崩れては、また結ばれる。
足もとは珊瑚のように脆く、触れるたびに砕けた。
その砕けた音が、かつてのあなたの笑い声に似ていて、
私は笑いながら沈んでいった。
潮の流れが変わる。
遠くで、ひとつの貝が世界をひらく音がした。
あれは、あなたのまばたきの音。
眠りの形をした死。
死の形をした安らぎ。
私はあなたの骨を探した。
けれど、どこにもなかった。
あるのは私自身の骨ばかりで、
触れるたびに波が立ち、
波が立つたびに、私の中のあなたが目を覚ます。
海は静かに私を食べていく。
皮膚をほどき、血を薄め、
やがて骨だけを残していく。
それは恐ろしいことではなかった。
むしろ、そのとき私はようやく、あなたのいる深さに届ける気がした。
骨と骨がふれあい、音を立てる。
それは潮騒にも似て、
あるいは祈りのようでもあった。
私はもう言葉を失っていた。
けれど、海が話してくれた。
あなたが沈んだ夜のこと、
私が泣いた朝のこと、
世界がひとりで回っていく音のことを。




