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SF作家のアキバ事件簿236 萌えQnプリンセス

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第236話「ミユリのブログ 萌えQnプリンセス」。さて、今回も萌え始めた頃の秋葉原が舞台。ヒロインが萌えプリンセスに選ばれます。


萌えプリンセス特典は、理想のトップヲタクとのブラインドデート。主人公や元TO達をヤキモキさせながらデートは順調に進みますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 萌えQn(キュン)プリンセス


御屋敷(メイドバー)のオープン前。メイド達はグラスを磨きフロアにモップをかけ、忙しく開店準備を進めている。


ヲーナーの僕は…バストランペットの練習w


「テリィたん、邪魔。カウンターからどいて。あとウルサイんだけど」

「スピア。明後日のオーディション、ビシッとキメたいんだ。合格すれば金曜日に地下アイドル"おんぱ組"のライブで前座を務められルンだ」

「地下アイドルの前座って、もぉスーパー地下って感じ?ソレにテリィたんのバンドじゃないンでしょ?えっとバンドの名前、何だっけ?」


モップ掛けしながら難癖つけるスピア。


「"おんぱ組"さ。全員メイドのガールズバンド」

「何ソレ?ムダに鼻の下ノバしてバカみたい」

「お。ポッドキャストが始まるぞ」


僕はスマホをスピーカーにスル。


"…GOOOOOOOD evening, AKIHABARA!さぁ!みんなのリクエストの中から、当選者1名に理想の相手と夢のようにロマンティックなデートへご招待スルわょ!さらにオーディションで選ばれた謎の地下アイドルのライブもプレゼントしちゃえー」


コレは後に巨大メディアに化ける"ワラッタ"が未だヲタク相手のミニコミ誌を出していた頃の話だ。


「ずいぶんバカバカしい企画ね。弱小ミニコミ誌が選んだ人が自分のTO(トップヲタク)だナンてマッピラだわ」

「え。ミユリ姉様、ロマンチックじゃない?」

「いいえ。私はゴメンょ」


僕の推しミユリさんは毅然としてる。別れたとはいえ何とも頼もしい。推しの鏡だ。何で別れたのかw


"…さぁ当選者にティアラを授けるため、私達が来たのは、あの有名な御屋敷トラベラーズビクスの前です。さぁ、今年の"萌えQn(キュン)プリンセス"は…"


ココで、何と御屋敷のドアがバタンと開きDJと思しき女子とカメラクルーその他一式が乱入して来るw


「トラベラーズビクスのメイド長、ミユリさん!」

「きゃーうっそぉ!姉様、すごーい!」

「待って。私、応募してないんだけど!」


スピアが片目ウィンク。


「姉様、私が出しておいたの!」

「COOOOOONGRATULATIONS!萌えQnプリンセスになった貴女には、貴女が探し求める理想のTOを探し出して、さぁティアラをどーぞ。今の喜びの声を聞かせてもらえますか?」

「えっと、実は先日、失恋したばかりで…」


第2章 おんぱんまん音頭


「おかげでアキバの笑いモノょ!」


サングラスにキャップ。芸能人並みに顔を隠して歩くミユリさん。クスクス笑って傍らを逝くスピア。


「でも、姉様。理想のTOに会えるカモょ。普通のヲタクと出逢えるチャンスじゃない」

「何言ってるの、スピア。とんでもなく恥ずかしいし、屈辱だし、傷つくし…もぉ何とかしてょ」

「だ・か・ら!1度ぐらいパンピーとデートしてみたら?姉様はテリィたんに捨てられたんだよ。気持ちを切り替えるチャンス…」


フト町会の掲示板に目を止めるミユリさん。


「あら?"おんぱ組"がボーカル募集ですって。確かテリィ様がホンセクやってるバンドょね」

「ボーカルの子が元カレに風邪をもらって扁桃腺を腫らしたって聞いたけど」

「そんな…ヲーディションは明日ょ?仮歌シンガーを見つけないと、テリィ様のホンセクもパーだわ」


と逝いながらナゼか不敵に微笑むミユリさん。


「"おんぱ組"って、確か神田リバー沿いの廃ガレージでリハしてるガールズバンドだっけ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その後、顔を出した"マチガイダ・サンドウィッチズ"でメイド長仲間の質問攻めに遭うミユリさん。


「ミユリ姉様、スゴいじゃない!萌えQnプリンセスに選ばれたんだって?」

「もうビックリょ」

「ねぇねぇ!いつ応募したの?自薦?他薦?」


休憩中のメイド仲間にグルリと囲まれる。


「だ・か・ら!スピアが勝手に応募しちゃったのよ。自薦のハズがナイでしょ!」

「エッヘン!私の推薦ょ。だって、ミユリ姉様ったらテリィたんにフラれた後も全然TOを作ろうとしないんだモノ」

「ねぇねぇ!ミユリ姉様は、テリィたんの次はどんなTOが良いの?」


盛り上がる。何なんだ?


「やめてょ。そんなのまるで興味ナイわ」

「やっぱり姉様には一般人(パンピー)が良いと思うな。IT長者に身染められたらどうするの?」

「もう!みんな他人事だと思って…」


誰かがボソッとつぶやく。


「他人事だから楽しいんじゃない」


ドッと湧く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


盛り上がるマチガイダの片隅でポテチを摘む僕。


「テリィたん。ショックだろうな」


カレルが声をかけて来る。ミユリさんの元TOだ。


「いや。別にショックじゃナイょ」

「無理しなくても俺にはワカル。俺も彼女にフラれた口だろ?お前に推し変されて傷ついたさ」

「おいおい。何の話だ?コレは推し変でもハガシでもナイんだ」


ハガシはTOの座から引きずり下ろされるコトw


「わかってる。でも、今から俺に隠さなくたって良いだろう」

「だ・か・ら!ミユリさんとは、別に付き合ってたワケじゃないンだってば」

「つまり弄ばれただけだ。ミユリはTOを食い物にしてノシ上がる女だ。次のTOも可哀想にな」


何と僕の肩を優しく叩く。


「どうせ利用スルだけ利用されて、捨てられるだけだ。じゃあなテリィ。お前も頑張れよ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田リバー沿いの廃ガレージ。


「なかなかイケてるじゃない?終盤でテンポがちょっちズレたけど。ベースのチョークもウルサいわ」

「あら、誰かと思ったら萌えQnサマ?今日のリハはホンセク抜きだからテリィたんはいないわょ?」

「誰ソレ?貴女達、オーディションに受かるには、局のお偉方も知ってる昭和な曲をやらなきゃ」


おんぱ組のリーダーはフリンちゃんだ。


「あのね。アタシ達がやってるのはオルタナティブなアニソンなの。ソレ専門なんだよ」

「ソンなコダワリ、この際捨てなきゃ。全てメジャーに逝くためよ」

「…アンタ。そもそも歌えるの?」


マイクを手にするミユリさん。


「E♭をお願い」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


トラベラーズビクスの壁一面に"blind dream date"の文字がpopに踊ってる。


お気に入りのカウンター席にはDJブースが出来て、ソコにはヘッドホンをつけたDJとエンジニアが我が物顔で居座ってる。僕は、ボックス席に退避中だw


「テリィたん!トンネル公園にあった渦巻きヒエログリフは時空を超える天体儀なのカモ」

「でも、その確証はナイんだろ?」

「うーん。でも、ただの推測じゃないわ。だって、夢の中でハッキリ見たんだモノ」


マリレの要領を得ない主張w


「メイドの夢ナンてアテにならないょ」

「ひどーい」

「テリィたん、どーしたの?今日は何か変よ」


メイド仲間のエアリ。彼女は、実は妖精でメイド服の下にはキレイに折りたたんだ羽根を隠している。


「あんまり無駄なコトには、エネルギーを注ぎたくないだけだ」

「あ。また、ミユリ姉様の方を見てる。もう姉様とは別れたんでしょ?テイクダウンショーの時の姉様のエロい敗北シーンは脳内消去して」

「え(ムリでしょアレは)…そんなコトじゃなくて"トラベラー"のコトを気にしてルンだ。彼女は、連続殺人鬼(シリアルキラー)カモしれないンだぞ」


直ちに反論するマリレ。


「"トラベラー"は殺人鬼じゃないわ。仲間ょ」

「トラベラーハンターだったハブルの話を覚えてるだろ?エアリ、マリレを説得してくれょ」

「え。私にフらないで」


視線を落とすエアリ。


「OK!テリィたん達2人はココでのんびり恋バナでもしてて。私は1人で"トラベラー"を探しに行くから。じゃね!」

「マリレ、待って…テリィたん、あんな言い方ないわ。マリレを追いかけて」

「おい、マリレ。シリアルキラーを追いかけてどーする…」


エアリは呆れる。


「テリィたん。まだシリアルキラーと決まったワケじゃない。マリレは望みをつなごうとしてるだけ」

「…ソレも所詮はエアリの推測だろ?」

「私も"トラベラー"と同じ。私達妖精は、地球が冷え固まって以来ズッと1人ポッチだった。確かに話ぐらいは誰かに聞いてもらいたいわ」


僕が反論しようとスルとエアリは制する。


「テリィたん。人の発言を何でもかんでも否定する、そのスタンス。何とかならないの?」


エアリも席を立つ。取り残される僕。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「GOOOOOOOD morning,AKIHABARA!」


僕のお気に入りのカウンターに陣取る暴言DJ(ショックジョック)の能天気なベシャリ。ココ、ベトナム?今は戦時中かょw


「ヲタクのみんな、生きてる?今宵は、あの有名な御屋敷トラベラーズビクスからお届けょ!今回は萌えQnプリンセスに理想の萌えQnプリンスのタイプを直撃しちゃうから!」


傍らにモジモジしてるミユリさん。ハッパかけ係としてスピアが控える。突然のqueにスピアも驚くw


「嫌だ!もう本番ょ。ちょっと待って。未だヘアのセットが…」

「何言ってんの?ポッドキャストなんだけど」

「もう…悪い夢でも見ているみたいだわ」


嘆くミユリさん。


「ポッドキャストをお聴きの私の愛するリスナーのみなさん!声だけしかお届け出来ないのが残念ょ。今、アンテナ付きカチューシャにメイド服の萌えQnプリンセス様が私の前に降臨!…貴女、綺麗ね」

「ありがと」

「なのに彼氏(プリンス)は不在なワケ?」


思い切り地雷を踏みつける暴言 DJ(ショックジョック)


「今は…不在ょ。フラれたばかり」

「もし貴女をフッた元彼がいるとしたら、ソヤツは金曜日にメッチャ後悔スルわ。じゃ理想のタイプを聞くわね。金髪と黒髪はどちらが良い?」

「黒っぽい方」


ため息をつきながら僕をチラ見スル。


「ヲタクと一般人(パンピー)ではどっちが好き? 」

「モチロン、ヲタク…わ!何なのスピア?」

「パンピー!次は絶対パンピーが良いです!」


話に割り込み勝手に答えるスピア。何だか面白そうと質問の矛先をスピアに変えるショックジョックw


「OK!貴女は萌えQnプリンセスの広報なのね?じゃあけっぴろげなタイプと静かなタイプとでは?」

「物静かな人!はい、次!」

「物静かで髪の黒い謎めいた男を秋葉原以外の街から連れて来るわ。その彼も、この放送を何処かで聞いてるカモね」


呆れて席を立つミユリさん。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ガールズバンド"おんぱ組"、オーディション中。


「…どうですか?」

「え?終わったの?今の曲名、何だったかしら?」

「"ホラーマジック"です」


全力演奏して尋ねると、退屈した審査員が塩対応。


「ソレ、最初にやった曲ょね?」

「最初にやったのは"マジックホラー"です」

「…えっと、あとボーカルがいるって聞いたけど」


慌てるリーダーのフリンちゃん。


「ソレが…もうすぐ来る頃ナンですけど、その彼女が未だナンです…良かったら!ソレまでにもう1曲聞いてもらえますか?!」

「ヤメて!あと2組待ってるのよ」

「お待たせしてスミマセン!前の現場が推して…」


飛び込んで来たのは…メイド姿のミユリさんだw


「ミユリです。で、コレが私のバンド"おんぱ組.inc"。リードギターのマリレ。ベースのエアリ」

「あら?貴女は確か国民的SF作家テリィたんの推しの…うん。面白そうね。聞いてみよっか?」

「ごめんなさい。すぐ始めますから…」


ステージに上がる3人。呆気にとられるフリンちゃん率いる"おんぱ組"の面々。ステージを降りるw


「じゃみんな。昨日やった曲で逝くわょ…名刺代わりの1曲です。"おんぱんまん音頭"GO!」


ミユリさん、ウィンクしてカウント。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


当時のトラベラーズビクスは、パーツ通り裏の雑居ビルの2Fに入ってたンだが、見下ろす裏通りには…


「ミユリ姉様、何見てるの?」

「スピア、驚かせないで。てっきり"あの人達"が侵入して来たのかと思ったわ」

「"あの人達"って?」


ブラインドを閉め溜め息つくミユリさん。


「自称"黒っぽい髪の神秘的な男の子"達。外に1ダースはいるわ。もぉどーしたら良いの?」

「電話番号もらっとけば?」

「真面目に考えて。萌えQnプリンセスのせいで、TO気取りのヲタク達に追いかけられて…」


ミユリさんの唇を1本指を当てるスピア。


「で、姉様。今日はテリィたんのコトを考えた?」

「そんなモン考えるヒマなんか…あ!」

「作戦成功でしょ?この萌えQn騒ぎも今宵限り。せいぜいテリィたんを忘れて楽しめば?」


元カノ同士の妙な連帯が生まれる。ソコへ…


「ミユリ姉様!アンタ、一体どーゆーつもり?」


"おんぱ組"のフリンちゃんが怒鳴り込んで来るw


「姉様の連れて来たメイドバンドって何なの?私の"おんぱ組"はお払い箱ってコト?」

「フリンちゃん…高松からワザワザ出て来たのに悪いけど、姉様が歌わナイ限りメジャーは無理ょ」

「ぐ…だったら、今宵で"おんぱ組"は解散ょ。私達はオーディションを辞退します!」


お給仕中なのにスタスタ出て逝く吉川フリン。


「スピア…"おんぱ組"改め"おんぱ組.inc"のデビュー前夜にモメ事はゴメンょ?」

「ミユリ姉様。コレは地下からメジャーに行くには避けて通れない道なの。私に任せて」

「モフクさん気取り?…とにかく!全アキバが見守る中でシンTOとデートするのに比べれば楽勝ね」


第3章 フルーティフルドロワを脱ぎながら


休憩中マチガイダでスマホをいじってるエアリ。マリレが騒々しく駆け込んで来る。2人共メイド服。


「マリレ、何なの?」

「天体儀の使い方がわかった。来て!」

「でも、今宵はミユリ姉様のバックバンドをやる約束でしょ?」

「バックバンドと私達が"覚醒"したルーツを知るのと、どちらが大事なの?」


おんぱ組が.incになって初ステージだが…


「とにかく、姉様に相談してみないと」

「必要ナイ。本番前に戻って来れば大丈夫。ソレに姉様はテリィたんの気を引くのに夢中だし」

「そーゆー言い方、良くないわ。姉様はスーパーヒロインの行く末を心配してるのょ」


エアリの逝い分はもっともだ。マリレは奥の手を出す。


「ねぇ私達のリアルママが待ってるカモしれないの。今しかナイわ。どーする?エアリ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


レトロなラジカセから流れるポッドキャスト。


「今宵の主役、萌えQnプリンセスは今、最後のデート準備に余念がありません…」


メイド長個室でミユリさんは…確かに余念が無い。黒シックの肩出し紐ドレス。髪はUPで顔面勝負w


しかし、プリンセスは憂鬱。溜め息をつく。


その時、唐突に窓の外に現れる…僕。自分が原因で男がモメるの大歓迎な女の性でパッと顔を輝かす。


「…テリィ様。ソコで何をしてるの?」

「ミユリ。他の男とデートするのはヤメてくれ。愛してるよ。永遠に(always)

「そうなの?」


途端にトロけるような表情になるミユリさん。僕のkissを受けて、やがて積極的に唇を(むさぼ)ってくるw


突然クラクション。妄想から醒めるミユリさん。窓の下はスゴい人だかりだ。マスコミも推しかけるw


「姉様!理想のTOがお待ちかねょ降りて来て!」


階下からスピアの呼ぶ声。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「さぁ!いよいよ萌えQnプリンセスの夢がかないます。理想のTOに選ばれたのはダグゥ・シェロ!」


モーゼの前の紅海のように野次馬の海が2つに割れてジャケットのシワをのばしてるダグゥが現れる。


母性本能くすぐり型だょコレは手強いw


「ダグゥはアキバ工科大学の1年生で、将来は超古代文明の解明を目指す考古学者を目指してるの!」

「え。超古代文明(テリィ様のお好きな奴だわ)?」

「YES。ミユリさん、彼と一緒に世界中の失われた文明を探す旅に出かけるのょ!」


ソレがテリィ様とだったら…


「ソレに加えて、貴女好みの豊かな黒髪はどーよ?さ、遠慮しないで。彼の髪に触れてあげて!」

「そんな。いきなり…」

「大丈夫。噛み付いたりしないから」


ハニカミながらダグゥの髪に触れるミユリさん。固唾を飲んで待ってた野次馬が一斉に歓声をあげる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"…さぁ理想のカップル誕生よ!今から2人は秋葉原1のお洒落なイタリアン"ザイセリア"でロマンチックなディナーを楽しんでもらうわ…"


マチガイダのBOXシートでポッドキャストを聞いてた僕は流石に居た堪れなくなってスマホをカット。


ソコへ…


「おぉテリィたん!黄昏てるな?ザマーミロ」

カレル(ミユリさんの元TO)か?」

「よぉ!今宵はアフリカ好きなお前のためにサハリアーナで来てやったぞ!」


サハリアーナはイタリア軍の長距離偵察車だ。北アフリカやウクライナ戦線で大活躍。うぅ乗りたいw


「テリィたん。俺は酔ってルンだ」

「カレル!ここで騒ぐと万世橋(アキバポリス)に通報されるぞ」

「ほらな?テリィたんは警察の目から逃れるのが上手いんだ。何しろ警部が元カノだからな」


連れの酔っ払い達は歓声をあげる。下卑た笑い声。


「サハリアーナに乗れるのか?」

「モチロンだ!首都高をトバそうぜ!そして、ミユリが行く地下アイドルライブに乗り込むんだ!」

「え。おんぱ組か?ソッチは余計だな」


すると、チケットをトランプ持ちして煽ぐカレル。


「でも、お前だってミユリの新しいTOを見てみたいだろ?」

「そりゃまぁ…でも、お前達は酔ってるょな?運転出来るのか?」

「全自動運転の特別仕様だから気にスルな。ソレよりサハリアーナだぞ、サハリアーナ」


うぅ乗りたい…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


最高級イタリアン"ザイセリア"。2人は局が頼んだアラカルトを無理矢理コースにして食べているw


「メニューで1番高い、このオーストラリア工場製牛100%ハンバーグ、美味しいょ。君の黒墨は?」

「美味しいわ。とても真っ黒で」

「イカ墨パスタが黒いンだって!」


すかさずコメントを入れる暴言DJ。店の中はカメラの砲列にマスコミ、外には野次馬ギッシリだ。


溜め息をつくミユリさん。


「お塩を取っていただけます?」

「でも、どーやら味は薄かったみたいよ!」

「…余り話さない方が良いみたいだね。ゴメン。僕は普通のデートがしたかったんだけど…」


声を落として喋るダグゥ。意外に良い奴説w


「え。そーなの?」

「何やら小声で話してる!ムッチャ良いムード!」

「超考古学部の女子も素敵な子が多いけど、何か真面目過ぎてね。ヲタク丸出しで近づき難いンだ」


まるで我がコトのように共感するミユリさん。


「そうなの?なんとなくわかるわ」

「でも…君は違う。僕は君といるとホッとスル」

「そうなの?ありがとう。うれしいわ。実は、私も普通のデートがしたかった」


ありゃミユリさん、口説きにノッてるなw


「じゃ今から、普通のデートにしないか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「…さぁ萌えQnプリンセスのカップルディナーもいよいよ甘いデザートを残すだけょ!」


暴言DJの煽りに冷やかしの声が上がる。野次馬に紛れ僕とカレルもザイセリアの外から中を覗き込む。

 

「チクショー。もうラブラブマークが飛び交ってるぜ。激ヤバだ!」

「カレル…僕はココから歩いてカレル、じゃなかった、帰るょ」

「待てょ。何も本番前に帰るコトはナイだろう。これからが面白いンだぞ」


カレルは、腕組みして興味津々って感じだ。


「さて!普通、キスってファーストデートの最後の別れ際にしちゃうけど、今宵は特別に今、この場でキスとかしてもらっちゃいましょ!さぁダグゥ、リハーサル通りにやってくれちゃって!」


無責任な暴言。すると、今まで大人しかったダグゥは羊の仮面を捨ててミユリさんの首に手を回す!

そのままミユリさんに推し倒し、覆い被さるようにしてキス!されるがママのミユリさんw


もしやリハは2人でやってたのか?


「やったー!」

「ばんざーい!」

「ごめん。2つ数えたらバックドアから逃げよう」


一斉に歓声を上げる野次馬の中で僕は呆然と2人を見てる。同じく唇を離して呆然としてるミユリさんと目が合う。そのミユリさんの耳元で囁くダグゥ。


「1, 2…GO!」

「あ。いやん!」

「おい、逃げたぞ!追っかけろ!」


ダグゥはミユリさんの手を掴んでバックドアに消える。後を追い店内へと雪崩れ込む野次馬。大混乱w


溜め息をつき、2人+みんなと反対方向へと歩く僕。


「まぁ元気出せょテリィたん。コレ、飲んでさ」


銀色のスキットルが差し出される。カレルだ。


「要らないな」

「まぁそう言わずに試しに1口飲んでみろ。気持ち良くなるぞ。嫌なコトがパーっと全部消える」

「そんなモンかな」


渡されるママにスキットルから1口グビッと飲む。その瞬間…光の速さで酔いが回り意識が飛び去るw


「おい!テリィたん…大丈夫か?」


ダメだ。ムセる。目がトロンとして…色んなモノがダブって見え始める。地球が歌いながら回り出す。


「舌が、舌が重くて…」

「ロレツが回ってナイぞ!酒は初めてか?」

「いや、7才の時に親戚の結婚式で…」


愉快そうに笑うカレル。


「こんな瞬時に酔っ払った奴は初めてだ。マジ安上がりだな。今、どれだけ飲んだ?」


親指と人差し指を数ミリ開ける。


「全くだらしねぇ奴だな」

「僕もそう思う…今、僕のコトをだらしないと逝ったな?」

「あぁ確かに言った。言ったらどーする?」


僕は、カレルの首に手を回し巨神兵士みたいに前歯を出しヘラヘラと笑いながら男同士の勝負を迫る。


「あのポストまでかけっこで勝負だ!」

「エヘヘ。運動音痴のテリィたんとなら楽勝さ」

「良し!位置について…ドン!」


不意をついてダッシュ!


「おい、ヨーイが抜けたぞ!ズルいな…」


心底感心した表情で(つぶや)くカレル。


「マジ、逃げ足は速いな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


妻恋坂の交差点を見下ろす図書館。


「待って!マリレ、待ってったら!」

「エアリ。あの天球儀がココを指したの。私の夢に出て来たパンダ座を調べてたら、バレンタインデーに図書館から見た天頂に占位するコトがわかったのょ!知ってた?」

「知らない。バレンタインデーって何?」


激しく首を振るマリレ。


「お願い!細かいコトは聞かないで」

「だけど…どうしてそんなコトがわかるの?」

「ノリょ」


元気良く答えるマリレ。


「ソレは…かなりマズいと思うわ」

「でも"トラベラー"は私達にシグナルを送って来た。私達は、ソレに答えるべきだと思わない?」

「思わない。だって、もし"トラベラー"が連続殺人鬼(シリアルキラー)だったら?」


アッケラカンと答えるマリレ。


「ソレは会って確かめるしかナイわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


サパークラブ。今ドキのボーイズバーじゃなく昭和な社交場の方だ。その最後の1軒が妻恋坂にアル。


「テリィたん!隠れてるのはわかってンだぞ。運動音痴だから遠くには行ってナイ。ホラ出ておいで」

「ココだょカレル。視座が高くなったぞ」

「お前…どうやってそんなトコロに登ったんだ?」


僕はネオンの乗った日差しの上に座って、足をブラブラさせている。夜の交差点を見下ろす絶景ポジ。


「ハシゴだょ。サパークラブなんだからハシゴで登ったに決まってるだろ」

「ハシゴ?お前マジかょ?ハシゴなんかナイぞ」

「さっきまであったんだょ」


ヘラヘラ笑う僕。気持ちE。


「ソコから降りろ。国民的SF作家に怪我されちゃ俺が困る。お前に酒を飲ませたのは失敗だった」

「いや。君は珍しく正しい」

「珍しく?」


排水管を伝って地面に降りる僕←


「ミユリさんのコトも君が言っていた通りだ。彼女は今まで自分の正体を隠してきた」

「テリィたん。アンタ、何言ってんだ?所詮、女は狐。良いンじゃないか?」

「でも、今夜こそミユリさんはカミングアウトするべきナンだ」


ポンと肩に手を置くとカレルはキョトン顔。


「まさか…ミユリは百合だとか?」

「カレル。君はなかなか面白いコトを逝うな。ボケが上手い。間抜けぶりも板についてる」

「おい!俺のコトを間抜けって言ったな?」


怒りながらも何処かウレしそうなカレル笑


「そうだ。君は間抜けだ。今までの口下手なテリィじゃない。何でも話す正直テリィだ。何でも聞いてくれ。ミユリさんのコトだって何でも話すぞ」

「よっしゃ!ソレでこそヲタクだ。正直にブチまけろ。お前とミユリはつきあってルンだょな?」

「え。知ってたのか?なかなか鋭いな」


真面目に驚く僕w


「ミユリのコトをソンなに好きだったのに、何でつきあわなかったンだ?」

「ソレは…恐らく僕が黒っぽい髪の神秘的な男だからだな、多分」

「ん?ソレはミユリの理想の男じゃナイか」


カレルに指差され笑い崩れる僕。


「だよなー。だ・か・ら!女ってめんどくせー」

「全くだ!とにかく、俺達は負け犬ってワケだ。わっはっは」

「いや。未だ負けたワケじゃないぞ」


またまた肩をポンと叩かれる。


「口答えスルな。俺達は負け犬、現にこーして2人でショゲ返ってパーツ通りを歩いてるじゃないか」

「待て。もう諦めるのか?」

「だって!お前もミユリがあんなスカした野郎とのキスでメロメロになったのを見てたろ?」


自分でも驚くが、僕はカレルの肩を激しく掴む。


「奪い返そう。奪還するンだ」

「はい?」

「思いを正直に伝えて、あのダグゥって奴からミユリさんを奪還スルんだ!」


カレルの両腕を掴み力強く揺さぶる。まるで僕が僕じゃ無いみたいだ。すると何とカレルは泣き出す。


「そーだ。そーだょな!良し、行こう!」


意味もなく走り出したカレルは、フト立ち止まる。


「でも、奪還後はどーするンだ?お前と俺とで、1週間交代でミユリのTO(トップヲタク)にしてもらうのか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


トラベラーズビクス。何とミユリさんとダグゥが入って来て見つめ合い微笑を交わす。最悪の展開だ。


今宵メイド長代理スピアも顔を(しか)める。


「ワラッタの連中も、まさかココにいるとは思わないだろうね」

「だって、恋人達が来るような店じゃありませんモノねウフフ」

「良かった。もうコレで気取らずに話せる。いつもの自分を見せ合おう」


何なんだ?このシンパシー、実にイヤな展開だ。


「だけど、このアキバに住んでいるだけで、もう普通とは逝えないのカモ」

「ソレで萌えQnプリンセスに応募したの?ココじゃ時空旅行者の彼氏しか出来ないとか?」

「その逆です…プリンセスはヲタ友が勝手に応募しちゃって」


ハニカむミユリさん。スピアが目を丸くしてる。


「で。この御屋敷のお勧めは何かな?可愛いメイド長の他に」

「あの、私、今宵のライブで歌わなきゃナンですけど。デビューなんです、地下だけど」

「良いょ。でも、未だ1時間ある。それまで歌姫を独り占めしたいんだ」


口説かれてる。満更なさゲなミユリさんw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


オーディション前の楽屋。


「テリィたん。萌えQnプリンセスのために"下り坂148"が歌うってマジ?」


どデカ指輪の指にマニキュアを塗るフリンちゃん。


「え。メジャーが来るのか?聞いてナイけど。ってか"下り坂"って、未だアルの?」

「何しろ148人もいるからね。年中誰かが不倫したり妊娠したり出産したりしてる…」

「テリィたん!紹介するわ。こちらレコード会社の腕利きスカウト、ウルデさんだ」


やたら爽やか女が登場。僕と握手。何で?


「君がミユリさんのジャーマネ?彼女の歌、スゴく楽しみにしてる。良く口説き落としたわね」

「ミユリさんの歌?口説いた?ダグゥのコト?」

「後で話そ。じゃ頑張って」


何なんだ?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

裏アキバ。"零貫森"の中。


「マリレ。コレは罪になるわょ。だって、ココは公共の場所だから」

「後で元通りにしておいて」

「…貴女、マジなのね?」


念を推すエアリ。


「こんなマジになったコト、今までにナイ」

「私はマリレが傷つくのを見たくないの」

「"トラベラー"は私達の仲間。大丈夫ょ」


何処か恨めしそうな顔のエアリ。


「…ミユリ姉様と私じゃダメなの?マリレが新しい仲間を見つけたら、秋葉原を出て行くカモ…」

「ソンなコト無いわ」

「どーだか」


マリレがエアリの肩に頭を載せる。マリレは、渦巻き状ヒエログリフの形に置いたロープに着火スル。


「大丈夫。コレで、絶対に"トラベラー"からリアクションがあるハズょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕がヲーナーの御屋敷トラベラーズビクスは2Fにメイド長の個室がアル。壁にハートマークを描く僕w


「カレル、僕は壁に愛の証を刻んだぞ!サヨナラしたミユリさんと、この場所でもう1回やり直す」

「おおっ!ハートマークかぁ…ヤルじゃないか。女子ってこーゆーの喜ぶからな」

「だろ?」


巨大なハートを惚れ惚れ見る僕。


「ソレでテリィたん。正直に答えろ。ミユリとは何処まで行ったンだ?」

「何処までって?奥までさ」

「奥までって…せめてキスとかさ。お前が言ったら俺も正直に言うぜ」


腕組みして自信満々なカレル。


「何処まで行ったンだ?」

「魂に触れ合った…君は?」

「タマが触れたのか?俺は二塁打ってトコロかな」


魂の触れ合いは、一塁打or三塁打?


「じゃ僕の勝ちだな。そろそろ帰ろう」

「おい、待てよ。まだ済んでないぞ」

「住んでない?」


酔いが回ってヘラヘラ笑うカレル。


「ミユリのチェストがアル。ココは、ミユリ推しの聖地ナンだぞ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


階下のホールでは、当のミユリさんと、その理想のTO候補ダグゥとの推し活?デート?が進行中だ。


「…で、成績もクリア出来て、やっぱり超古代文明史が向いてるって思ったから、アキバ工科大学を受けることにしたのさ」

「あら、タイヘン!ワラッタのバンだわ。私の部屋に行きましょう。コッチょ」

「君、メイドカフェの2階に住んでるのか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「下着は1番上の引き出しって決まってるよな。見ちゃおっと…おぉ黒い下着だ!」


ほぼ同時刻。カレルはミユリさんのチェストの1番上の引き出しから黒いパンツを出して僕に見せる。


ソコへ…正しくほぼ同時刻w


「何してるの?カレル!…テリィ様も?」

「ミ、ミ、ミユリ!怒る前に聞いてくれ!テリィたんも俺もベロベロに酔っ払ってルンだ!」

「だから何だ?ミユリさん、こいつらは何者?」


上から順番にミユリさん、カレル、ダグゥ。僕は、もともと瞬発力ゼロなのでヘラヘラ笑ってるだけ。


「俺達2人は元カレだ。ミユリに捨てられた」

「だけど、ミユリさんは返してもらうぞ」

「そぉかそりゃまぁ」


元カレの登場に余裕で苦笑するダグゥ。事態を最も冷静に分析したミユリさんがカレルに詰め寄る。


「カレル!テリィ様に何を飲ませたの?!」

「おい、カレル。今宵僕が打ち明けた話は絶対的に内緒だぞ。特にミユリさんにはな」

「モチロンだ。男同士の秘密だからな!」


酔っ払い2人のゴムより薄い友情をソレを見たミユリさんの疑問は確信に変わりカレルを抑えにかかる。


「カレル、ねぇ聞いて。今宵テリィ様が貴方に何を話したかは知らないけれど、お願いだから全て信じちゃダメ。全部作り話だから」


僕を振り向く。


「テリィ様はいつも同じ。お酒を飲むと、いつもデタラメを言っちゃうの。そうですょね?テリィ様」

「ミユリさん、違うょ。だって、僕がお酒を飲んだのは7才の時以来で…」

「お・だ・ま・り!…みなさん!悪いけど、テリィ様と2人で話をさせてください!」


ウムを逝わせズ、僕を引っ立てて逝く。


「ミユリさん、待ってくれ」

「良いからお前は引っ込んでろ。どうしても行きたければ俺のロケットパンチをウケてみろ!」

「いてぇ!」


ミユリさんの後を追うダグゥ。立ち塞がるカレル。カレルが繰り出す猫パンチがヒットして、ペタンと尻餅をつくダグゥ。ヲタク同士のユルい修羅場w


「しっかりして、テリィ様。酔いが冷めるまで、何処か安全な場所にいてください」

「きっと酔いは冷めないよ」

「どうして?あ、あら…」


壁に描かれた大きなハートマークを見つけて、ウットリ眺めるミユリさん。明らかに満更でも無さゲ。


「どーだ!コレ、気に入っただろう?」

「えぇモチロン。点滅させても?」

「メイド長のご自由に」


ミユリさんが壁に描かれたハートマークに触れると途端にハートマークが点滅を始める。乙女発電機?


「おい!お前は大人しく座ってろって」

「何なんだ?良くも僕を殴ったな?」

「だから、あの2人を行かせてやれって言ってんだろ。もう限界だ」


一方カレルとダグゥはベッドに倒れ込む。すると、僕達と入れ違いに、暴言DJの1団が乱入して来る。


「早くもダグゥはベッドに誘い込んだみたいょ!でも…あら?相手は男ょ?コレは番組始まって以来の珍事件だわ。理想のTOダグゥは、男の子とベッドイン、一方、萌えQnプリンセスは、別の黒っぽい髪の謎の男に連れ去られてしまって…ねぇでも待って。何か壁に文字が描いてアルわ。どーやら、萌えQnプリンセスはTSというイニシャルの男が連れ去ったみたいよっ!」


第4章 ムーンライトセレナー伝説


「お願いです、テリィ様。お願いだから待って。どこまで逝くの?」

「ミユリさん。このママ2人、走り続けルンだ。何もかも捨て去ろう。君がダグゥのキスを受けてメロメロになるのを見て、やっと気づいた。ミユリさんさえいれば良い。誰も僕達を知らない街、そうだ、五反田へ逝こう!」

「(何で五反田?)テリィ様は酔ってるからそんなコトを逝ってるのよ。でも、ウレしい…」


ミユリさんが街灯の下でクルクル踊り出す。


「僕の今の気持ちにウソはナイょ。ミユリさんのコトを思うと世界が魔法にかかったようになるンだ」

「こんな風に?」

「え。」


路地裏に小さな光が反射し踊り出す。ミラーボールが回り始めたようだ。ミユリさんは微笑んでいる。


「ミユリさんに会えないとおかしくなりそうだ」

「テリィ様、ダメょ。一般人(パンピー)が見たら変だと思うカモ。でも、もっと逝って」←

「ミユリさんに夢中ナンだ。忘れられない」


ミユリさんの顔がパッと輝く。同時に路駐してた車のヘッドライトが一斉に点滅、警報ブザーが鳴る。


「私が本気にしたら、どうするの?」

「ハッピーエンドだ」

「…テリィ様、明日になってもそう言える?酔いが醒めて、いつものテリィ様に戻ったら、この夢も全部消えてしまうんでしょ?」


幸せ絶頂の表情からフト我に返るミユリさん。路地裏のミラーボールが止まり、クラクションが止む。

 

「この気持ちは消えないよ」

「でも、こんなの普通じゃないわ」

「…普通じゃないとダメかな」


僕のメイド長は首を振る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


渦巻き型の焼け跡の前にたたずむメイド2人。


「エアリ。消して」


エアリが手をかざすと焼け跡の渦巻きが芝生にw


「私のコトをバカだと思ってるでしょ?」

「そんなコトないわ」

「"トラベラー"は来てくれなかったわ」


マリレは落ち込んでる。


「コレからカモ」

「いいえ。誰も来ない。きっと永遠に誰も来ないのょ私達のためには」

「でも、私はずっといるわ。ずっとそばにいる」


マリレが背を向け歩き出す。エアリが追いかけ後ろから腕を組む。2人ともメイド服。何しろココは…


「…行きましょ?姉様が待ってる」

「えぇ。そうね」

「おんぱ組.incのデビューだモンね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミユリさんはスマホ中。


「えぇ。Uperさん、お願いします。あ、テリィ様。そこにいてね」

「YES。ココにいるょメイド長」

「あぁココですか?確かパーツ通りの…」


その時、通りに躍り出る僕。


「おーい!僕達はココだぞ。乗せてってくれぇ」


指笛を鳴らし、両手を上げて車を停める。後の"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"の業務車を。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「お待たぁ!萌えQnプリンセスのブラインドデート、いよいよ大詰め!理想のTOダグゥに加え、今宵はプリンセスの元カレ達も飛び入り参加よっ!」


暴言DJが無責任な大声を張り上げる。ステージにズラリ並ばされたのはダグゥ、カレル、そして僕だ。


「お前、その髪、変な色だな」

「ウルセェ触るな!」

「テリィ様ったら、すっかり酔っ払っちゃって手に負えナイわ。誰か助けて…」


プリンセスのティアラをつけたミユリさんの横で、ダグゥにチョッカイを出すカレル。僕はニヤニヤ。


「おっと。プリンセスは未だ帰さないわょ。コレから大事な選択をしてもらわなくちゃいけないの。貴女のために、この3人の男子が集まってくれた。この中から誰を選ぶか、ココでハッキリしてもらおうじゃないの。この3人の中で、貴女が自分のTOに選びたいのは誰?」


盛り上がるアリーナ。冷やかし。歓声。大騒ぎ。


「さぁ運命のルーレットが回るわ。番組が選んできた理想のTOダグゥか元カレの蛙か?」

「蛙じゃねぇ。カレルだっ!」

「…そして、突然プリンセスの部屋に潜入して、貴女をさらって行ったテリィたんか?最後のキュアキュアタイムょ!男子達、何か言いたいコトは!」


ブッキラボーにキメるダグゥ。


「プリンセス。君とは普通のデートがしたかった」

「あれ?なんで僕はココにいるのかな?ハハハハ。何か吐きそうだ…」

「あぁ蛙、吐くならトイレで…最後にテリィたん」


僕は、鼻先に突きつけられたマイクを払いのけると突然ミユリさんにキス。キスを受けるミユリさん。

熱烈にキスに応えながら…ボロボロと涙をコボす。


「どうやら、プリンセスのTOが決まったわ!」


アリーナを包む大歓声と拍手の中でフト我に返るミユリさん…と同時に、実は僕も急に酔いが醒める。


「僕は一体何を…」


目の前に天使のように微笑むミユリさん。何だ?僕は…すると、ミユリさんの笑顔も急に冷めて逝く。


「テリィ様。どうしたの?」

「ごめん!ミユリさん、ごめん!」

「テリィ様!」


パニクった僕はステージから降りアリーナの人混みに姿を消そうと…追って来たミユリさんに捕まる。


「ねぇ待って!テリィ様、さっき私に逝って下さったコト、アレはホンキだったの?」

「…ごめん。覚えてないんだ。僕は何て逝った?」

「そんな…」


ミユリさん、絶句。目を伏せる。


「プリンセスのブラインドデートを台無しにしてしまった。ごめんね」

「no problem」

「ミユリさん!大ピンチょ!出演予定だった"下り坂148"だけど、過半数の83人が空港で逮捕されて出演キャンセルになった。今宵の地下ライブ、貴女の"おんぱ組.inc"だけが頼りよっ!」


僕を追っかけて来たミユリさんを、さらに追いかけて来たレコード会社女子が絶望の余り大声で叫ぶ。


「歌います。私」


僕にクルリと背を向けステージに戻るミユリさん。

悲しいバラードを歌う。息を呑み酔いしれる聴衆。


その曲の名は"ムーンライトセレナー伝説"。


悲しみの歌声が腐女子の胸を撃つ。1人また1人とメイド服になり静かに揺れる。後に148がマネて"恋するフォーチュンクッカー"で大ブレイクした"推し芸"、そして"秋葉原の溜め息"誕生の瞬間だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻の"零貫森"。芝生の上を歩くスティレットヒール。彼女が手を(かざ)すと渦巻き型に焔が上がる。


その焔を踏んで、ヒールは夜の闇に消える。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"ブラインドデート"をテーマに、未だ失恋中の主人公とヒロインのスレ違いを描きました。舞台は、やっと萌え始めたミレニアムの頃の秋葉原。ちょうど中年なりに多感多情な頃を思い出しながら、勝手に甘酸っぱい気持ちになって描きました笑。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並み、田舎町のロズウェルを、もはやインバウンド無しでは都市経済が回らなくなった秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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