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第五話 先輩執事もイタズラ好き⁉︎

 カッカカカカ――。


 石畳の廊下を響かせながら、レイス・シンボルは険しい顔で早足に歩いていた。


「許せん……許せん……!」


 眉間に深いしわを寄せ、珍しく感情をあらわにしている。


「レイス様〜、そんなに怒ってどうしたんですか〜?」


「もしかして、あの女王に何かされたんですか?」


 後ろからついてくるのは、執事のレアンとルイス。


 レイスは足を止めることなく答えた。


「……このオレが、女一人に……くそっ!」


「ひ、人に惚れられることはあっても、自分が惚れるなんて……って顔ですね」


 レアンが小声でボソリと呟く。


「なにか言ったか?」


「い、いえっ! なんでもありません!」


「……それにしても、買い物から戻ってからずっとおかしいんだ。胸が、こう、ズキズキしてて」


「ズキズキ〜……?」


「まるで心臓が暴れてるみたいに……スープを“あーん”されたあたりから特に……!」


「スープから!?」


 ルイスが大げさにのけぞる。


「それ、毒なんじゃないですか!? ほら、毒って心臓にくるって言うし!」


「……いや、だとしたらもう倒れてる」


 レアンはじっとレイスを見つめ、内心で頭を抱えていた。


(あの人が“ドキドキする”なんて言うなんて……いや待って、スープ“あーん”で心臓バクバクって、それもう……)


 レイスが続ける。


「しかも、アイリスの笑顔が頭から離れない……あの時のドレス姿も……」


 その瞬間、レアンの中で何かが確信に変わった。


(やっぱり……これはもう、間違いない)


 レアンは足を止めて、じわじわと顔が青ざめていく。


「レアン? どうしたの、顔色悪いよ?」


 ルイスがのぞき込むが、レアンは返事をしない。


(……ふふ、これは面白くなってきた……!)


「レアン? お腹でも痛い?」


「……だ、大丈夫〜。ちょっと情報過多でね〜」


「少し休んだら?」


 まったく気づいていないルイスの言葉に、レアンは小さくため息をついた。


(……まったく〜、ルイスはなんて鈍いんだ)


 その後、何も知らないレイスが自室に入っていったのを見送りながら、レアンはひとりごちた。


「これは……いじりがいがありそうだな」


 そうとは知らず、ルイスは隣でのんきにねこを撫でている。


「ネコ可愛い」


 レアンは無言で、そっとルイスの頭を撫でた。

「なんでもないさ〜ルイス、」

(この子にはまだ、知らなくていい世界だ)

「あれ、どこ行くの?レアン」

「ちょっと、遊びに」

 ※※※

「はぁ、やっと終わった〜!」


「お疲れ様です」


 長かった課題がようやく終了。これでやっと自由の時間が手に入る!よし、まずは手始めに、イケメンハーレム妄想でも——


「わっ!?」


 肩にふいに手が置かれる。振り返ると、そこにはヘンリルの呆れ顔。


「アイリス様、まだこちらに別の課題がありますよ」


「またぁ!? もうイヤだ〜!」


 せっかく異世界に来たのに、なんでこんなに課題漬けなのよ……


「まったく……アイリス様、自分が女王だという自覚が足りませんね」


 ヘンリルはため息をつく。


「だって、女王様になるなんて初めてなんだもん」


「そんなやる気じゃ、イケメンにも振り向いてもらえませんよ?」


「……えっ!? イケメンが!? それは困る〜!」


「でしたら、しっかり勉強してください」


「は、はいぃ……」


(ヘンリルの言う通りだ……ここは素直に勉強しとこ)


 ——その時。


 ガチャッ!


「ヘンリル、大変だ!」


 勢いよくドアを開けて、パーティが飛び込んできた。


「シンボル家の執事が来たぞ!」


「またシンボル家ですか……ほんと、しつこいですね。それで、執事とは一体どなたです?」


「それが……レアン様でして……」


「げっ、レアン!? よりによって、なんでアイツが……」


 ヘンリルは明らかに嫌そうな顔をした。


「レアンって……レイス様の執事だよね?」


「はい。奴は、私がこれまで会ってきた中でダントツに面倒な執事です」


「面倒? それってどういうこと——」


「面倒とは失礼ですよ〜? こっちだって用があって来たんですから〜」


 突然、パーティの口調が変わる。


「……まさか、その喋り方……!」


「ふふふ〜」


 パーティはニヤリと笑い、肩のマントをバサッと脱ぎ捨てる。


「ヤッホ〜! ヘンリル君〜、久しぶり〜! レアンですよ〜!」


 そこに現れたのは、レイス・シンボルの側近執事、レアン・ラウルだった——!


「せ、先輩!? なんでここに……!」


 ヘンリルは珍しく動揺した様子で、声を上げた。


「なんでって? そんなの簡単さ〜」


 レアンはにやりと意味深な笑みを浮かべると、ひょいとヘンリルの肩に手を置いた。そして、ひょいっと耳元に顔を近づけて囁く。


「君のご主人様が、レイス様の“お嫁さん候補”にふさわしいかどうか〜……見に来ただけだよ〜」


 その言葉に、ヘンリルはさらに顔をしかめた。


 そんなヘンリルをよそに、レアンはスキップでもしそうな軽い足取りでアイリスの前に立つと、手を取ってにっこり微笑む。


「こんにちは〜。僕の名前はレアンっていいます。よろしくね〜」


「あ、ど、どうも……よろしく……?」


 アイリスは戸惑いながらも、笑顔で挨拶を返した。


 するとレアンは突然、顔をぐいっと近づけてきた。


「それでさ〜、いきなりだけど聞いちゃうよ? 君ってレイス様のこと……好き〜?」


「えっ!?」


 アイリスは頬を赤らめて言葉を失う。


「どうなの〜? ね、ね〜?」


 レアンは不思議なテンションで、どんどん距離を詰めてくる。


 そこへ、たまらずヘンリルが割って入った。


「ちょっと! 先輩、何してるんですか! さすがにそれは行き過ぎですよ!」


「も〜、ヘンリル君は相変わらず堅いな〜。だからイジり甲斐があるんだけど〜」


「イジらなくて結構です! 僕はアイリス様の執事ですからね。今だって本来は課題の時間で――」


「そのことだけど〜」


 レアンは指をひらひら振って、さらりと言った。


「今日だけアイリス様には、僕がつくことになったんだよ〜。代わりに、ね?」


「……はぁっ!?!?!?」


「えぇっ!?!?!?」


 二人の驚きが、ぴったり重なった。

「り、理解できません。じゃあ私は一体、何をすれば……」


 困惑するアイリスに、レアンがニヤリと笑って口を開いた。


「ヘンリルく〜ん、まさか君、聞いてないの〜?」


「……何のことです?」


「今日、君には“休暇命令”が出てるんだよ〜」


「休暇命令?」


「うんうん。日頃から君、真面目に働きすぎじゃない? だからね、僕がわざわざ、特別に休みを取ってあげたの〜」


「……誰がそんなこと頼みましたか?」


「頼まれてないよ〜? でもこれは僕の、優し〜い気遣いってやつ」


 レアンは悪びれる様子もなく、ニコニコしながらアイリスへと話を振る。


「ねえ、君も思うでしょ? ヘンリルには、たまには休んでほしいって」


「え、でも……私、まだ課題が……」


 すると、レアンがふわりと耳元に顔を寄せ、甘く囁いた。


「僕が執事をするなら、今日だけは課題もなしで、ぜ〜んぶ自由にできるよ?」


「じ、自由!?」


 アイリスの目がキラッと光った。


「そ、そうねヘンリル、今日はお休みして。たまにはいいじゃない」


「アイリス様! その男の言うことは全部デタラメです、騙されてはいけません!」


「も〜、自分がそばにいたいからって言い訳しちゃって〜。素直じゃないな〜ヘンリルくんは」

  レアンはふわりとヘンリルの肩を抱いて、ひそひそと囁いた。


「ほら〜、ここで無理に拒否したら、アイリス様の“自由タイム”がパーになっちゃうよ?」


「……あいかわらず強引ですね、先輩」


「だってさ、君がいなくなると、僕がアイリス様と仲良くできるんだよ〜? それって、良いことじゃない?」


「ちっとも良くありません!」


「だよね〜! だから君は、黙って大人しく休んでてね〜?」


「……っ!」


 ヘンリルが何か言い返そうとしたその瞬間、レアンがニッコリ微笑みながら、背後からヘンリルの腰をポンと押した。


「ささっ、休憩室へどうぞ〜♪ 特製ハーブティーでも用意させようか〜?」


「ちょ、ちょっと待っ——」


 気づけばレアンの巧みな誘導で、ヘンリルは扉の向こうへ消えていた。


「……さて、アイリス様。今日一日、僕があなたのお世話をするからね〜?」


 レアンは嬉しそうに微笑んで、アイリスの前で優雅に一礼した。


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