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第二話 恋と陰謀の舞踏会

 あの後、いろいろあった。


 まず、この体の持ち主—— アベレス王国の女王、アイリス姫 について。


 数年前から不治の病で寝たきり。で、私が死んだタイミングで彼女も死んで—— なぜか私の魂が女王の体にIN した、と。


「死んだ女王の代わり、ねぇ……」


 壮大すぎてついていけない。


 ガチャッ!

 

「まったく、あなたのせいで散々でしたよ!」


 ドアを勢いよく開けて入ってきたのは——


「ヘンリル!?」


「そうですよヘンリルですよ! 誘拐犯にされかけた男ですよ!」


「え、そうなの?」


「 あなたを抱えて逃げた時点で、誰もあなたが本物の王女だなんて思ってなかったんですから!」


「あー……」


 確かに、あの時の私は ただの“謎の美少女(中身は私)” だったわけで。

 そりゃ、捕まるわ。

 なんだか悪いことしちゃった。


「あれ、てゆうかなんで急に敬語使うの?」


「まぁ今日から私、あなたの執事になりますからね」

 

「は!?どゆうこと」


「いやまぁちょっと最近大変なイタズラをしてしまってクビになりかけましたけど、アイリス様がちょうど私とぶつかったおかげで私が女王を救った英雄執事ってことでクビは逃れて感謝です」


「それ、適当なこと言ったでしょ」


「なんのことですか?」


 いや、絶対なんか適当なこと言ったなコイツ。

 やばい、こんなイタズラ好きが私の執事だなんて……絶対ロクなことにならない。


「あの、別に執事なんてやらなくても——」


 言いかけた瞬間、ヘンリルがニヤリと笑い、すっと指を立てる。


「イケメンと付き合わせてあげますよ?」


「イ、イケメン!?」


 ごくり……。


「ど、どうやって?」


「言ったじゃないですか、私はこう見えて“国指定”の一流執事だって。」


 ヘンリルは指を下ろし、得意げに微笑む。


「もしここで私を執事にしたなら、一生イケメンに囲まれて生きていけますよ?」


 ……こ、これはもう、仕方ないよね!?


「お、お願いします!!」

 背に腹はかえられない。イケメンハーレムのためなら、イタズラ執事とも手を組んでみせる!

 

 ※※※


 広い会場に華やかな音楽が響く。私は今、女王復活パーティに参加していた。

 

 人々は楽しげに杯を交わし、貴族たちは優雅にダンスを踊っている。

 

 ——ただし、私だけは落ち着かなかった。


「ねぇヘンリル。こう?」


「はい、はい、よくできていますよ。」


 ヘンリルは満足そうに頷く。

 今、私は舞踏会の基本マナーを学んでいるのだが……どうにもヘンリルの説明には違和感がある。


「ねえ、本当にこの国の正式な挨拶はこれなの?」


「もちろんですとも! 貴族同士の親しみを示す大切な儀式です!」


 そう言われれば、そうなのかもしれない。貴族の文化はよく分からないし……。


「じゃあ、やってみるね!」


 目の前にいたイケメン貴族に向かって、私は自信満々に歩み寄る。

 そして、両手でそっと彼の頬を包み込み——


「あなたの美しさは、月の輝きにも勝ります!」


 会場が静まり返った。


 イケメン貴族は目を見開いたまま固まっている。周囲の貴族たちも目を丸くし、何やらヒソヒソと囁き合っている。


 えっ、なにこれ、何か間違えた!?


 慌ててヘンリルの方を見ると——

 めちゃくちゃ笑いをこらえてる。


(やられたーーーッ!!)


 これは絶対、デタラメを教えられたやつだ!


 ……しかも、イケメン貴族が 「あ、ありがとう…?」 って赤くなってる!!

 私の面食いレーダーが「これは美味しい展開なのでは!?」と警鐘を鳴らすが、それよりも羞恥心が爆発しそうだった。


「ヘンリル!!! あんた、絶対適当なこと言ったでしょ!!!」


 叫ぶ私に、ヘンリルは肩をすくめてニヤリと笑う。


「いやぁ、王女様の挨拶、なかなか斬新でしたね?」


「この執事、あとで覚えてなさいよ!!!」

 

 そんなたわいもない会話をしていた直後ー

 

 

 

 バンッ!

 

 


 会場の扉が勢いよく開いた。

 

 ピタリと止まる空気。みんなの視線が一点に集まる。


 そこに立っていたのは、小柄な美少年。だけどその佇まいは堂々としていて、王の風格すらあった。

 

 その後ろには、ブカブカのスーツを着た少年と、長い緑髪の美しい女性が控えている。


「皆さん、こんばんは。レイス・シンボルです」


 静かな声でそう挨拶すると、会場は一気にざわめき始めた。


「なっ……」

「う、美しい……」

「あれがレイス・シンボル!?」


 黒髪に宝石のような瞳。優雅な立ち振る舞い。

 まるで、絵本から飛び出してきた王子様みたい——


(え、なにこの2.5次元の奇跡……!!)


「動揺が顔に出てますよ、アイリス様」


「えっ!? ホント!!」


 私の慌てっぷりに、ヘンリルは肩をすくめた。

 でも、それどころじゃない。


(え、ちょっと待って……レイス様、今こっち見た!待ってしかもこっちにきてない!?)


 そして、次の瞬間


「アイリス様。初めまして、レイス・シンボルです」


 彼は私の目の前で、ひざまずいた。

 優雅に、そして自然に。


(ちょ、ちょっと!? 距離近い!!)


「アイリス様。また顔が…」


「っは!!」


「大丈夫ですか? アイリス王女」


「あ、はいっ! 元気です!!」


 ギリギリで理性セーフ。あぶない、イケメン恐るべし……。


「ご無事で何よりです。」


 ふと、レイスが私を見て、ニッコリと笑った。


「……え、なに?」


「やっぱり。噂に違わず、美しい方ですね」


 そう言って、彼は私の手を取った。

 柔らかくて、あたたかくて、優しくて——

 


「アイリス様。僕と結婚しませんか?」


 


 え?

 今、なんて?

 え、え、ええええええ!?!?

 

 レイスは私の反応に微動だにせず、笑顔を通し続けた。


「けけけ、結婚!???」


「あわわわわわ……」


 ドサッ。


 私はそのまま、崩れるように倒れた。

 

 ※※※

 

 「ん……」


 まぶたを開けると、見慣れた黒髪が目に入った。


「やっと目が覚めましたか、アイリス様」


 呆れ顔のヘンリルが、腕を組んで立っていた。


「ヘンリル……? え、ちょっと待って。なんで私、ベッドに?」


 状況が飲み込めず、慌てて体を起こすと——


「いやいや、あんな派手に倒れておいて記憶ないんですか」


 ヘンリルが深くため息をついたその時だった。


「ふふ、ようやく目覚めましたか」


 横から聞き覚えのある、柔らかく上品な声が。


 顔を向けると、あの美少年・レイスが微笑みながらこちらに近づいてきていた。


「僕が手を握った瞬間に気絶されて、さすがに驚きましたよ。お怪我はありませんか?」


「あ……えっと、全然! 怪我は、してないですっ!」


(うわっ、思い出した! 私、レイス様の美しさにやられて気絶したんだった……!!)


「それは良かった」


 レイスは穏やかに微笑む。その笑顔がまぶしすぎて、思わず目をそらしてしまった。


(直視できない……イケメン強すぎる……)


「そういえば、レイス様。どうして私に……?」

 (ダメだ気絶する前の記憶が全然ない。)


 レイスは少しだけ間を置いてから、魔性の微笑みでこちらを見つめた。


「女王様。では改めて言います。どうか僕と結婚していただけませんか?」


「……け、結婚!?」


 思わず声が裏返る。けど、それ以上に心臓がバクバクして止まらない。


(え、私、今プロポーズされてる!? しかもこの世の奇跡みたいなイケメンに!?)


「こんなに急で驚かせてしまったかもしれません。でも……」


 レイスは一歩、私に近づく。


「僕は、今あなたに夢中なんです」


「わ、私に……?」


(夢中……!? この超絶イケメンが、私に!? 初対面なのに!?)


「もちろん、今すぐ答えを出す必要はありません。ゆっくりでいいんです」


 そう言って、レイスはそっと私の手を取った。


「続きは——来月やる祝賀パーティで、いかがでしょう?」


 その瞬間、彼の瞳がキラリと輝く。


(やばい……この人、完全に心を撃ち抜いてくるタイプだ……)


「それでは、またお会いしましょう」


 レイスは深々とお辞儀をすると、背後の二人の執事を従え、静かに部屋を後にした。

 

「すっごいイケメン…」

 

 ※※※

 

「それにしても……やっぱり演技、お上手ですねぇ、レイス様〜」


 ブカブカのスーツを着た少年・ルイスが、声を潜めて囁く。


「ふふ、当然だろう?」


 レイスは余裕たっぷりに口角を上げた。


「オレはこの国の“王”になる男だからね」


 その瞳に宿るのは、さっきまでの柔らかな微笑みとはまるで別物——冷たく、鋭く光る野望。


「ですが、レイス様。彼女のそばには、あの執事がいます」


 緑髪の美女・レアンが静かに口を挟む。


「あぁ、知っているよ。あの男——ヘンリル、だったかな?」


 レイスはくるりと振り返り、背後の二人に静かに告げた。


「だからまずは、王女ではなく“あの厄介な執事”から排除しようじゃないか」


 その瞬間、少年の顔に浮かんだのは、まるで仮面を剥いだかのような——


 冷酷な、王の笑みだった。


 靴音だけが、長い廊下に響く。


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