第一話 目が覚めたら美少女になってました。
「……ん? ここは……?」
目を覚ますと、目の前には見たこともない豪華な天井があった。天井画とかあるし、シャンデリアまでぶら下がってる。
「あれ、私死んだはずじゃ… 」
トラックに轢かれた感触はしっかり覚えているのに、こうして意識がある。
「……もしかして、ここって天国?」
そう思って周りを見渡すと、そこには金ピカな装飾品 や ふかふかのソファ が並ぶゴージャス空間が広がっていた。
「何この成金みたいな部屋」
何の功績も残してないのに、こんなリッチな部屋を与えられるとか、天国の待遇が良すぎるのでは……?
「えーっと……とりあえず状況確認?」
布団からそろりと抜け出し、ふわふわのカーペットの上に立つ。違和感がないか確かめるように手を動かし――
「ん?」
あれ、私の手ってこんなに白くて、細くて、すべすべしてたっけ?
「……なんか、やたら綺麗だな?」
じっくり見ようと、近くの大きな鏡の前へと歩く。
そして――
「え……誰これ?」
鏡に映っていたのは、思わず見惚れてしまうほど美しい少女。長いまつ毛に透き通るような肌、バラのように華やかな顔立ち。
しかも、ふわふわのピンクのドレスまで着ている。
「え、ちょっと待って、、これ私?」
恐る恐る頬をつねる。
ぷにっ
「……やわらかっ!!?」
おかしい、いつものガサガサ肌はどこ!? 手触りがまるでホイップクリームなんですけど!?
目を見開きながら、再び鏡の中の少女をまじまじと見つめる。
こんな完璧美少女 に心当たりはない。
でも――これは確かに、自分の動きと完全にシンクロしている。
知らない部屋に、知らない服。
そして、鏡の中の知らない顔。
――しかも、めちゃくちゃ美人。
混乱しながらも、脳内で必死に状況を整理する。
「……もしかして、これって……」
「異世界転生ってやつなの……!?」
※※※
「転生?」
よく聞く話だけど、いざ自分がなるとこんな感じなの? いや、思ってたのと違うんですけど。
それにしても——
「誰が私を転生させたの!?」
普通、こういうのって神様とか女神様が出てきて、「お前を異世界に召喚した」とか説明してくれるものでしょ? なのにこの放置プレイって何!? ちょっと、不親切すぎない!?
……いや、待て待て。ここで焦ったら負けよ、私。冷静になって、まずは状況を整理しないと。
「もしかしたらこの建物のどこかに私を召喚したイケメンがいるかも」
そうと決まればまずは建物探検ね!
私は深く息を吸い込み、扉に手をかけた。
「さぁ、行きましょう……イケメン探しの旅へ!」
——じゃなくて、情報収集の旅へ。
扉を開けると、目の前には息をのむような光景が広がっていた。
「……すごい」
どこまでも続く豪奢な廊下。壁には金や銀の装飾が施され、天井には見事なシャンデリアが輝いている。並ぶ扉の数々——まるで、お城みたい。
その壮麗さに見惚れながら歩いていると——
ドンッ!!
「きゃっ!」
何か硬いものにぶつかり、バランスを崩した。
「おっと、大丈夫?」
ガシッ——強い腕が私を支える。
「……え?」
驚いて顔を上げると、そこには黒髪の青年がいた。深みのある茶色の瞳、低く心地よい声、大人びた雰囲気の中に微かに残るあどけなさ。
美しい——。
こんな人と、こんなシチュエーションでぶつかるなんて。この人って……もしかして……
「運命のひと……?」
はっ。やばい! 声に出ちゃった!?どうしよう!聞かれちゃったかな?
青年が眉をひそめ、首を傾げる。
「ん? 何か言った?」
「あっ、いや、何でも……!」
その時——
「ヘンリル! まてー!?」
遠くから誰かの怒鳴り声が響いた。
青年――ヘンリルはちらりと廊下の奥を見て、呟く。
「……やば」
次の瞬間、ふわっと私の腰に腕が回る。
「えっ……ちょ、ちょっと!? なにして……!」
「悪いけど、ちょっとだけ我慢してて」
そのまま、私の体は宙に浮いた。
「きゃあっ!?」
気がつけば、彼にお姫様抱っこされていた。
……軽々と。まるで羽のように。
彼の腕の中は、驚くほど温かくて、しっかりしていて。
目の前にあるのは、まっすぐに伸びた黒髪と、横顔のライン。
耳元には、かすかに息がかかる距離。
「少し揺れるから、しっかりつかまって」
その声は、想像していたよりも優しくて——
胸の奥が、なんだか変な風にざわめいた。
「ちょ、ちょっと! なにこれ!?」
「逃げるんだよ。」
そう言うや否や、彼は軽やかに駆け出す。
「え、なんで私までー」
風が頬を撫で、景色が流れていく。
きらめくシャンデリアの下、豪奢な廊下を駆け抜ける足音が、やけに静かに響いていた。
私は、彼の胸元にしがみつきながら、ふと思った。
――まるで、おとぎ話のワンシーンみたいだなって。
「ちょ、どこに行くのよ!? 本当に大丈夫なの!? ていうか重くない!?」
「全然。思ってたより軽いし、抱き心地は悪くない」
「へ、変なこと言わないでよ!!」
真っ赤になって叫ぶ私をよそに、彼は笑って、少しだけ顔を見下ろす。
その瞳が、きらりと笑った。
「大丈夫、ちゃんと運ぶから」
「……っ」
ほんの一瞬、言葉が喉の奥で止まった。
別に……ドキッとしたわけじゃない。たぶん。
(ただ、あれよ……慣れてないだけ。非日常すぎて、ちょっと心臓がバグってるだけ!)
でも、どうしてだろう。
腕の中で感じる鼓動が、なんとなく心地よくて。
あの穏やかな声が、耳に残って離れなかった。
ヘンリルに手を引かれ、城を抜け出した私たちがたどり着いたのは、活気あふれる商店街だった。
「わぁ……すごい!」
「それはよかった」
「てゆうかなんで私まで逃げなきゃいけなかったの」
ヘンリルはニヤリと笑い、
「ちょっとしたイタズラさ」
無駄にイケメンね、コイツ
「それにしてもここやけに綺麗な街……」
「アベレス王国の中央市場。ここらじゃ一番賑やかな場所さ」
ヘンリルは得意げに微笑む。
「もしかして、君ここに来たばかり?」
「え、まぁ……そんな感じ?」
「じゃあ、この一流執事のヘンリル様がいろいろ教えてあげよう」
そう言って、彼はわざとらしく咳払いをし、ちょっと芝居がかった口調で続けた。
「まず、ここの市場を仕切っているのは——“国宝級のイケメン”と呼ばれるカリスマプリンス、レイス様!」
「……えっ!? 国宝級のイケメン!?」
思わず食いついてしまった私を見て、ヘンリルが吹き出す。
「君、面食い?」
「ふふ、まぁね。私は超がつくほどのイケメン好きで有名よ」
胸を張って言うと、ヘンリルはクスクス笑いながら、ふいに私の肩に手を置いた。
「だったら、君ならレイスも夢じゃないかもな」
「えっ……」
次の瞬間、すっと顔を近づけられて、心臓が跳ねる。
近い、近い、近い!!!
間近で見る彼の整った顔。涼やかな茶色の瞳がまっすぐこちらを見つめ、唇がふっと微笑む。
「ちょっ、近すぎるってば!!」
「あ〜ごめんごめん。君が面白いから、つい」
も〜、なんなのこの気分。こうなったら私だってからかってやる!
私は咳払いをし、何かを企んだような笑みを浮かべた。
そして、
「でも、さっきお姫様抱っこされた時少しドキッてしたかも」
よし決まった。この前乙女ゲームで美少女が言ってたセルフを言ってやったぞ。
けど、いざとなるとこのセリフ結構痛いな。
こんなの絶対変な反応されちゃ…
「えっ」
ヘンリルの顔は少し赤面していた。そして目が合った瞬間ヘンリルはとっさに後ろを向いた。
アレ、これ結構効いてるのでは、
まさかヘンリルって意外と押しに弱い…?
どれどれこうなったら確かめるしかないな。
「何後ろ向いてるの、もしかして照れて…」
そう言ってヘンリルの顔を覗き込もうとした瞬間ーー
「見つけたぞ、ヘンリルーーーッ!!」
突然、怒声が響き渡る。
振り返ると、そこには鬼の形相の男が立っていた。
「あっ、パーティ。どうしてここが……?」
「どうしてもこうしてもあるか! 今日という今日は許さんぞ!!」
ギラリと光る鋭い視線。何か相当な恨みを買っているらしい。
なんだ全然照れてないじゃんヘンリル、
……っていうか、この男の名前ってパーティなの? どんな由来?名前負けしてない?!
そんなことを考えていたら、パーティがふと私の方を見た。
そして、なぜか彼は固まった。
「……ん?」
彼の目が、ぐわっと見開かれた。口もポカンと開いたまま、動かない。
「ど、どうかしました?」
「じょ、じょ……女王様ぁぁぁぁ!?」
「……は?」
何それ、新しい冗談?
そう思ったのも束の間、周囲が突然ざわめき出した。
「おい、見ろ! 王女が帰ってきたぞ!!」
「えっ、王女!? どこどこ!?」
「ここだ!! ここにおられる!!」
人々の視線が一斉にこちらへ向かう。
え、え、何この流れ!?
隣のヘンリルが、じっと私を見つめる。
「……まさか、君……」
「ま、待って!? 何その意味深な間!? っていうか、王女!? 私が!?」
状況が全然つかめない。
私、ただの面食い女子だったんですけど!?
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