プロローグ たった一度のドッカンで!
私の名前は、佐藤美咲。
どこにでもいる、ごく普通の女子高生。……ただし、ちょっと面食いだ。
好きな言葉は「顔面偏差値」。
座右の銘は「内面より、外見」。
笑われても構わない。私は本気で、イケメンが大好きなのだ。
初めて“ときめき”というやつを知ったのは、幼稚園の頃。
テレビに映っていた、完璧な顔の俳優――木村◯哉(※仮名)を見た瞬間だった。
柔らかく笑うその顔に、私は心臓を撃ち抜かれた。
あの時の衝撃は、今でもはっきり覚えてる。
私の“好き”の基準は、きっとあの瞬間に決まったんだ。
……でも、どれだけ面食いでも。
どれだけ理想を語っても。
私には、現実の恋はずっと遠かった。
イケメンに話しかける勇気も、
恋をする自信も――ずっとなかった。
だから今日、私は人生で初めて、本気の行動に出た。
その名も――
「食パンくわえて、角でドッカン大作戦!」
そう。食パンをくわえた女子高生が、角でイケメンとぶつかって恋が始まる――
あの恋愛漫画の王道展開を、私がリアルで起こすのだ!
「ありきたりじゃん」って思ったそこのキミ。
甘い!甘い!甘すぎる!
私は何百もの少女漫画を読み、何十回もシミュレーションしてきた、
恋愛戦略のプロ・美咲様だ。バカにしてもらっちゃ困る。
これは計算され尽くした、私の恋の集大成。
さぁイケメンよ……来い。私が恋の迷宮に連れてってやる!
計画は完璧。
通学路の角、人通りの時間、天候、ベストなパンの厚さまで計算済み。
今日こそ私は出会うんだ。運命の――
世界一、顔のいい男に!
「よし……!」
パンをくわえ、角へと駆け出す。
胸は高鳴る。
こんなに緊張したの、初めてかもしれない。
今ならどの角からイケメンが来ても完璧にぶつかれる自信がある。完璧な布陣。
そして――来たっ!
曲がり角の向こうから、誰かの足音。
この軽やかで洗練されたリズム……間違いない。
イケメンの足音だッッ!!
「いっけな〜い、遅刻しちゃう!」
セリフも完璧。あとは角を曲がるだけ。
キッキー
「あれ…?」
その時私は気づいた。
あの角を曲がった先にいるのはイケメンではないと。
さっきまで聞こえていた音は足音でもなく革靴の軽やかなリズムでもない。
そう、
――それは、タイヤの軋む音だった。
「……え?」
カーブを曲がった先にいたのは、イケメンじゃない。
トラックだった。
「……あれ? イケメンは?」
……どこ?
え、まさか……私の運命の相手って……
トラック……?
目の前に迫る、白い鉄の塊。
私は恐怖する暇もなくトラックに衝突した。
ドン――。
音もなく、すべてが止まった。
視界が、白く染まった。
次の瞬間、重力も痛みも、全部消えた。
***
この日私はまだ知るよしもなかった。たった一度の“ドッカン”で人生が大きく変わることに。
そう、これはトラックにぶつかった少女が異世界で運命の恋に出会う物語である――。
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